【書評】強いチームになるための過程をストーリーで学ぼう「チーム・ジャーニー」

2020.04.20

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CX事業本部の阿部です。

私は、チームで働くことが好きです。 自分一人ではおよそ出すことのできないアウトプットを出し、その達成感を共有することができるチームでの開発経験は素晴らしいものだと思います。

ですが、チームになるための過程には様々な困難や逆境があります。 これらに対処していくことは、取り組むことに価値のある仕事ですが、開発とはまた違った難しさや面倒臭さに直面します。 多くの人がそれらに対して、足踏みしてしまう感情はよくわかります。 しかし、いつかはチーム全体で向き合う必要があることです。

今回紹介する「チーム・ジャーニー」はそんな時に読むべき本だと思います。

チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで

どんな本?

本書では以下の二つの過程をストーリー仕立てで描いています。

  1. 個人商店の集まりでしかなかったグループがチームとなり、アジャイルを導入して変化に強くなっていく過程
  2. より大きなビジネス課題に向かっていくために、チーム同士が連携して一つの大きなチームとして動き始めるまでの過程

各章は、シチュエーションとその解決に向けた動き、それに対する登場人物からの解説という形で構成されていて、全てが当事者の視点から描かれています。 また、各章のボリュームも段階的に小さな課題にフォーカスするようになっています。

シチュエーションは現場でよく見られる光景です。 そのため、解決策では現場に即した具体的な事例を、解説はその事例に対して「なぜそれをやるのか」という理由の面に着目して一つ抽象的なレイヤから説明しています。 ストーリーという実例があることで、解説で説明されるプラクティスの「なぜそれをやるのか」という部分がわかりやすくなっているのが特徴だと思います。

いいチーム、みたいな理想像はきっとほとんどの人が持っています。 ですが、そこに至る過程をイメージできる人はきっと少ない。 それはいいチームになっていく過程には、そのチーム独自のストーリーがあるからです。 自分のチームの問題に適用できず、理想の遠さだけが目立ってしまい、ため息をついてしまうことは私にも多々ありました。 この本には、ストーリだけでなく「なぜ」も書かれているため、理想が遠すぎて足を止めてしまう問題に対処するための本だと感じました。

また、本書のシチュエーションはプロダクト開発チームをベースに書かれていますが、そこで起きる問題はおそらく開発ではないミッションに取り組んでいるチームでも同様です。 開発に携わっているかどうかに関係なく、得られるものが多いと思います。

注意点

本書がストーリーを使っている、というのは一つ注意点です。

ストーリーのシチュエーションは書き手によってコントロールされています。 つまり、これらはテーマについて語るために段階的に作られた局面であるということを理解する必要があると思います。

現実では、局面はもっと難しいかもしれないし、段階的に踏まれていた局面をすっとばしてもっと困難な状況が先にくるかもしれない。 そのような理解で本書を読み、「なぜそれをやるのか」を起点にして自分で段階を設計していくことが、本書のゴールであると思います。

特に印象に残ったところ

以下では、私が読んでいて特に印象に残った部分について書いていきます。

現実を無視せずにチームを一歩進める

どんな良いチームでも、最初からその姿だったわけではありません。 様々な状況に対して、今の状況を正しく捉え、向かいたい方向に現実的な手を打ちながら積み重ねてきた結果が良いチームの姿です。 プロダクト開発や新しいことを世に出していく活動では、状況は常に不確実で打ち手が正解かどうかは事前にわかりません。 それでも、現状維持ではなく一歩状況を先に進めるために、アクションを起こした結果から学び、次のアクションに向かっていくことが必要になります。

本書では、そのために必要な者としてWhyを捉えることと、OODAサイクルをベースにしたミッション・ジャーニーを提示しています。

また、同じ理想を同じように理解し共有することは重要ですが、様々な状況によって理解度に差があることも事実です。 本書はその現実にも目を向けて、このような状況の中でもチームとして進めていける方法を模索しています。

チームは一人で作るものではない

また、チームの改革が始まった段階でよくある光景として、言い出しっぺがひたすら負けてしまう状況があります。 気づいた人しか行動を始めることができないのはその通りですが、推進はその人単独でやっても新しいボトルネックを生み出すだけです。 そのためにはチーム全体の視座をあげて、チームが同じ目的を見て行動できるようにする必要があります。 この時、何を基準にどこを見るのかを定めるものとしてもWhyが必要です。

その他所感

本書を読んでいて、我々は何をするために集まっているのか、を問いかけることが重要だと感じました。 正直手段を考えている方が楽です。 「なぜやるのか?」を問いかけることは、考えることも答えることもかなりのエネルギーを使うため、考えずに済むのならそうしたくないものだと感じます。 しかも、この問いには終わりがありません。 それでも、チームで何かを生み出す意義を感じたいのであれば、この問いを避けては通れないのだな、とも感じました。

誰かと一緒にことをなしたい、グループからチームになりたい、と思う人は本書を手に取ってみるといろんなヒントがあると思います。

なお、余談ですが、このストーリーのタイムラインが最後にあれば、もっと参考になったかも、と思います。 こういうチームを変えていく活動は、終わりが見えないと感じる局面があって、それで心が折れてしまう人もかなりの数いると思うので、参考程度でも、このストーリーのチームがどのくらいの時間をかけてここにたどり着いたのか、が一目でわかる線表があったら何がしかの支えになったかも、と。