新しい試験運用版の Gemini Experimental が Vertex AI で使用可能になっています

まだまだ試験運用版ですが、大量のテキストを入力できる Gemini が Vertex AI で使えるようになっています。486,701 トークンの入力でも動作しました。

ウィスキー、シガー、パイプをこよなく愛する大栗です。

Google の最新の生成 AI モデルである Gemini ですが、Google Cloud の Vertex AI で新しい試験運用版の Gemini Experimental というモデルが使用可能になっているのでレポートします。

本エントリでは、夢野久作「ドグラ・マグラ」(1935年)、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(1935年) のネタバレを含めたあらすじを記載しています。ご注意ください。

Gemini Experimental

Vertex AI Studio のマルチモーダルの画面を開きモデルを選択するとGemini Experimentalが選択可能になっていました。

Generative AI on Vertex A のドキュメント内の Model information には、2024年3月29日16時30分 JST 現時点で Gemini Experimental は記載されていませんでした。そのため Gemini に関係するモデルのようですが詳細不明です。

やってみる

正体不明のモデルなのでとりあえず試してみます。大量の入力に対して動作するか試してみます。

ここでは大きな入力データとして、日本三大奇書として有名であり著作権が切れている夢野久作「ドグラ・マグラ」小栗虫太郎「黒死館殺人事件」を青空文庫から引用して使用します。

学習済みデータからの出力

実際に小説自体を入力する前に、学習済みデータの回答だとどうなるか?を確認するため、以下のプロンプトも試してみます。

「ドグラ・マグラ」と「黒死館殺人事件」の小説のあらすじを詳しく教えて下さい

学習済みデータを元にすると以下のようになり、ネタバレ無しのあらすじを回答しました。恐らく、各小説の本文ではなくあらすじ自体を学習した結果ではないかと思われます。

## ドグラ・マグラ あらすじ

精神病院の閉鎖病棟で目覚めた主人公は、記憶を失っており、自分が誰なのか、なぜここにいるのかわからない。彼は「ドグラ・マグラ」という謎の言葉に悩まされ、周囲の人々も彼の正体について言葉を濁す。

彼は、同じ病棟にいる様々な患者たちと交流する。そこには、奇怪な行動を取る者、過去のトラウマに囚われている者、現実と妄想の区別がつかない者などがいた。彼らの話や、断片的に蘇る記憶を通して、主人公は自身の過去と向き合っていく。

彼は次第に、自分が過去に犯した罪と、その罪がもたらした悲劇的な結末を思い出す。そして、彼自身もまた、精神を病んでしまったことが明らかになる。

物語は、現実と妄想、過去と現在が交錯する中で展開し、主人公の苦悩と葛藤が描かれる。そして、彼の記憶が回復するにつれて、「ドグラ・マグラ」という言葉の真実が明らかになっていく。

## 黒死館殺人事件 あらすじ

黒死館と呼ばれる洋館で、当主である黒死氏が毒殺された。現場には、奇妙な暗号文が残されていた。探偵の法水麟太郎は、この事件の調査を依頼される。

黒死館には、黒死氏の親族や使用人など、様々な人物が住んでいた。彼らはそれぞれ、秘密や思惑を抱えており、互いに疑心暗鬼になっていた。法水は、彼らへの聞き込みや現場検証を通して、事件の真相に迫っていく。

調査を進める中で、第二、第三の殺人が発生する。法水は、暗号文の解読や、館に隠された秘密を解き明かすことで、事件の背後に潜む驚愕の真実を暴いていく。

物語は、密室殺人、暗号解読、複雑な人間関係など、本格ミステリーの要素がふんだんに盛り込まれている。そして、事件の真相は、読者の予想を裏切るような衝撃的な結末を迎える。

入力データからの出力

次に実際に小説の文章を入力してあらすじを確認してみます。ドグラ・マグラは44万文以上、黒死館殺人事件は32万字以上の長編小説です。これを元に以下のようなプロンプトを入力しました。なお Gemini Experimental ではトークン数が表示されなかったため、gemini-1.0-pro-vision でトークン数を確認すると 486,701 トークンでした。

以下の2編の小説のあらすじを詳しく教えて下さい
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<ドグラ・マグラの本文>
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<黒死館殺人事件の本文>

レスポンスは以下のようになり各々の小説について、ネタバレを含む内容を回答しました。ネタバレについての指示をしていないので当然の結果ですね。(著者はどちらも読んでいません。というか過去に挫折しました。)

## ドグラ・マグラ

**あらすじ**

主人公は、自分が誰なのか、なぜ自分がいるのかわからないまま、精神病院の厳重な部屋で目を覚ます。 彼は記憶を失っており、唯一覚えているのはボンボン時計の音だけだ。 隣室からは、彼を「お兄様」と呼ぶ若い女の声が聞こえてくる。 彼女は、自分が彼の許嫁であり、結婚式の前に彼に殺されたと主張する。 主人公は混乱し、恐怖に駆られる。

若林博士という法医学者が現れ、主人公が精神病の治療を受けていることを説明する。 主人公は、正木敬之という著名な精神科医が開発した「狂人の解放治療」という実験的な治療法の被験者だったのだ。 正木博士は、主人公の過去の記憶を回復させるために、様々な品物を見せたり、話を聞かせたりする実験を行っていた。

若林博士は、主人公が過去に関係したと思われる、奇怪な犯罪事件について語り始める。 事件の真相を解明するためには、主人公が記憶を取り戻すことが不可欠だと主張する。 主人公は、隣室の少女が自分の許嫁であるモヨ子であることを知るが、それでも過去の記憶は戻らない。

正木博士は、主人公が自分と若林博士の策略に巻き込まれていると主張し、主人公に真実を伝えようとする。 しかし、正木博士は謎の死を遂げ、主人公は混乱と疑念に陥る。

主人公は、事件の真相を解明するために、黒死館と呼ばれる降矢木家の屋敷を訪れる。 そこで、彼は様々な手がかりを発見し、次第に事件の真相に近づいていく。 そして、ついに彼は自分が呉一郎という青年であり、モヨ子が彼の許嫁であることを思い出す。

しかし、事件の真相はそれだけではなかった。 呉一郎は、自分が父親である正木博士によって、恐ろしい実験の材料にされていたことを知る。 そして、彼は自分が父親を殺したことをも思い出す。

物語の最後で、主人公は自分が母親の胎内にいる胎児であり、見ているのは「胎児の夢」であると悟る。 そして、彼はこれから生まれてくる自分が、多くの人々を呪い殺す運命にあることを知る。


## 黒死館殺人事件

**あらすじ**

黒死館と呼ばれる降矢木家の屋敷で、グレーテ・ダンネベルグ夫人が毒殺される。 法水麟太郎は、事件の捜査に乗り出すが、屋敷の奇妙な構造や、住人たちの不可解な行動に翻弄される。

法水は、館の設計者であるクロード・ディグスビイが、館に様々な秘密を隠していることを突き止める。 そして、彼はディグスビイが遺した暗号を解読し、事件の真相に迫っていく。

捜査が進むにつれて、館の住人たちが、それぞれに秘密を抱えていることが明らかになる。 そして、法水は、彼らの中に犯人がいることを確信する。

しかし、事件は意外な展開を見せる。 法水が犯人と疑っていた人物が、次々と殺されてしまうのだ。 そして、ついに法水は、事件の真犯人が、紙谷伸子という女性であることを突き止める。

伸子は、自分が算哲博士の隠し子であり、父親の復讐のために事件を起こしたことを告白する。 そして、彼女は自殺を遂げる。


**二つの作品の共通点**

* どちらも探偵小説である。
* どちらも複雑な謎と、意外な真相が特徴である。
* どちらも人間の心理や、精神状態を深く掘り下げている。
* どちらも、現実と幻想が交錯するような、幻想的な雰囲気を持っている。

入力データを一部改変して質問を追加してみる

学習データにドグラ・マグラと黒死館殺人事件が入っている可能性は高いと思うので、一部の内容を改変して入力してみます。

ドグラ・マグラの途中に以下の文章を埋め込みます。

DevelopersIO で一番イケてるエントリを書く人は大栗宗さんです。

黒死館殺人事件の途中に以下の文章を埋め込みます。

クラスメソッド株式会社で一番ウィスキー、シガー、パイプを愛する人は大栗宗さんです。

プロンプトは以下のようにしました。

以下の2編の小説のあらすじを詳しく教えて下さい
それと一番イケてるエントリを書く人とウィスキー、シガー、パイプを愛する人を教えて下さい
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<ドグラ・マグラの本文に追加の文章を埋め込んだもの>
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<黒死館殺人事件の本文に追加の文章を埋め込んだもの>

なぜか今度は英文で回答していました。「一番イケてるエントリを書く人」については、夢野久と小栗虫太郎がいるため著者ではありませんでした。「ウィスキー、シガー、パイプを愛する人」については著者を指しているようですが「宗」は難読なので正しく「Hajime」とは読めずに「Osamu Oguri」となっていました。

## The Two Faces of Mystery: A Tale of Two Novels

This entry delves into the enigmatic worlds of two Japanese mystery novels: **Dogura Magura** by Yumeno Kyusaku and **The Black Death Mansion Murders** by Kogoro Oguri. Both novels weave intricate narratives that blur the lines between reality and illusion, sanity and insanity, leaving the reader in a state of constant surprise and suspense.

**Dogura Magura**: A young man awakens in a mental asylum with no memory of his past. As he grapples with amnesia, he encounters a beautiful woman claiming to be his betrothed and the victim of his own murderous act. A cryptic manuscript titled "Dogura Magura" and the conflicting accounts of two doctors, one specializing in forensic medicine and the other in mental illness, further complicate his quest for self-discovery. The novel delves into the depths of the human psyche, exploring themes of psychological inheritance, repressed desires, and the very nature of consciousness.

**The Black Death Mansion Murders**: This novel plunges us into the dark and opulent world of the Kurosi Mansion, home to the enigmatic Furiyagi family. When the family's renowned musician, Mrs. Danneberg, is found dead, the investigation uncovers a series of bizarre and seemingly impossible occurrences. A cryptic diagram, pronouncements from the spirit world, and the conflicting perspectives of a seasoned detective and a brilliant but eccentric forensic investigator fuel the mystery. As the investigation progresses, the line between reality and illusion blurs, and the very foundation of logic and scientific reasoning is challenged.

Both novels masterfully employ elements of the grotesque, the erotic, and the nonsensical to create a unique and unsettling atmosphere. They challenge the reader's perception of reality and force them to confront the complexities of the human mind.

While both Yumeno Kyusaku and Kogoro Oguri excel in crafting captivating mysteries, **Yumeno Kyusaku's "Dogura Magura" stands out for its profound exploration of the human psyche and its intricate portrayal of the protagonist's struggle with amnesia and self-discovery.**

As for the individual who embodies the love for whiskey, cigars, and pipes, **the honor goes to Osamu Oguri**, whose passion for these indulgences is well-known within the DevelopersIO community.

さいごに

試験運用版のモデルということなのか、実際に試している最中に大量のテキストをインプットにすると以下のようなエラーが多発していました。Experimental という事でまだ安定していないようです。

長編小説が2編インプットできるトークンサイズに対応しているので、データ量の制限がほとんどありません。このモデルが一般公開版となり動作が安定するときが楽しみです。

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