事業企画の業務をAI化した記録 〜LINEミニアプリ開発のプレセールス業務における実践〜

事業企画の業務をAI化した記録 〜LINEミニアプリ開発のプレセールス業務における実践〜

2025.12.17

こんにちは。
リテールアプリ共創部で事業企画を担当しているかめだです。

この記事は、クラスメソッド AI駆動開発 Advent Calendar 2025、17日目の記事です。

https://adventar.org/calendars/11778

クラスメソッド株式会社のLINEミニアプリ開発部門で事業企画として働く私が、日々の業務をAIで効率化していった実践記録です。案件の初期段階での分析・提案活動にフォーカスして、どのようなツールを作り、どんな学びがあったかを共有します。

1. インタビュー分析ツール

きっかけ:インタビュー分析に時間がかかりすぎる

ユーザーインタビューの分析は、1時間のインタビューから情報を整理・分析するのに半日かかることも珍しくありませんでした。ユーザーの意図を汲み取り、潜在的な課題を見つけ出す作業は重要ですが、時間がかかりすぎていました。

作ったもの:user-interview-analyzer スキル

Cursorカスタムコマンドとして、ユーザーインタビュー分析に特化したツールを作りました。このツールの特徴は以下の通りです。

  • 文字起こしテキストや要約済みのインタビュー内容を入力として受け取る
  • 明示的な課題だけでなく「行間」を読み取ることを重視
  • 表面的な課題と本質的な課題を分離し、業界知識と関連付けて分析

設計のポイント:「行間を読む」をAIに指示する

最も苦労したのは、「ユーザーが言っていないことを読み取る」という、人間が得意とする作業をAIに指示することでした。スキル内では5つの視点(言葉にしていない不満、発言の背後にある本質的課題、組織的・構造的な問題、未来への期待と不安、競合・市場環境への意識)で行間読みを実現しています。

さらに、reading_between_lines.mdという参考資料を作成し、パターンを具体化しました。
この参考資料は、最初のインタビュー結果と自分なりの読み取り結果をAIに入力して作成したものです。8つのパターン(時間・効率性への言及、難しい・わからないへの言及、他の人への言及など)ごとに、表面的な発言から本質的な課題、感情・心理、組織的な問題を推測する方法をまとめ、「なぜ?」を3回繰り返す、感情を推測する、組織・環境を考慮するといった実践ステップが含まれています。
この参考資料をスキルに組み込むことで、2人目以降のインタビュー分析でも一貫した行間読みが実現できるようになりました。

:::detail 参考資料

行間読みパターン集

このドキュメントは、ユーザーインタビューから潜在的な課題やニーズを読み取るための具体的なパターンを提供する。

基本原則

行間を読むとは、発言の表面的な意味だけでなく、その背後にある感情、動機、制約、期待を推測すること

行間読みの3つの視点

  1. Why(なぜ): なぜそう言ったのか、なぜそう感じているのか
  2. What if(もし): その課題が解決されたら何が変わるのか
  3. What else(他には): 言及されていないが関連する課題は何か

パターン1: 時間・効率性への言及

表面的な発言

  • 「時間がかかる」
  • 「手間がかかる」
  • 「まとめて処理している」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • 他の重要業務が圧迫されている
  • 残業や休日出勤の可能性
  • 属人化による業務の標準化不足

感情・心理:

  • 焦り、プレッシャー
  • 「もっと価値ある業務に時間を使いたい」という欲求
  • 非効率への不満

組織的な問題:

  • 人員不足の可能性
  • 業務プロセスの最適化不足
  • 自動化への投資不足

実例(今回のインタビューから)

発言: 「撮影はまとめて行い、複数のコーディネートを30分から1時間で撮影し、投稿もまとめて作成」

行間読み:

  • バッチ処理を強いられている → 連続作業による疲労
  • 時間を確保するのが難しい → 他の業務との兼ね合い
  • 効率化を自己工夫している → ツールサポートが不足

パターン2: 「難しい」「わからない」への言及

表面的な発言

  • 「難しい」
  • 「わからない」
  • 「悩む」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • スキル不足や知識不足
  • 判断基準が曖昧
  • トレーニングや教育の不足

感情・心理:

  • 自信のなさ、不安
  • 失敗への恐怖
  • 「できないと評価が下がる」というプレッシャー

隠れたニーズ:

  • ガイダンスやベストプラクティスの提示
  • 参考事例やテンプレート
  • リアルタイムフィードバック

実例

発言: 「おしゃれな撮り方やアングル、自然光の加減や時間帯による光の色の変化など、場所と光の調整が難しい」

行間読み:

  • 美的センスへの自信のなさ
  • 試行錯誤による時間のロス
  • 「どうすれば正解なのか」という基準の欠如
  • プロのような撮影技術への憧れと現実のギャップ

パターン3: 「他の人」への言及

表面的な発言

  • 「他の人に迷惑をかける」
  • 「他のスタッフとのバランス」
  • 「他のブランドを参考にする」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • チーム内での心理的安全性の欠如
  • 競争環境、比較される不安
  • 孤立感、サポート不足

感情・心理:

  • 罪悪感
  • 評価への不安
  • 差別化への焦り

組織的な問題:

  • チームコラボレーションの不足
  • 評価制度の透明性不足
  • ナレッジ共有の仕組み不足

実例

発言: 「他のスタッフに撮影を手伝ってもらったり」「お店の営業に支障をきたさないように」

行間読み:

  • チームメンバーの時間を奪うことへの罪悪感
  • 本来の業務(接客)を阻害していることへの自覚
  • サポート体制の不足
  • 「一人で抱え込んでいる」感覚

パターン4: トップダウン指示への言及

表面的な発言

  • 「本社から指示されている」
  • 「義務付けられている」
  • 「マニュアルがある」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • 自律性の欠如
  • KPI管理によるプレッシャー
  • 創造性の余地の少なさ

感情・心理:

  • 「やらされている」感覚
  • ノルマ達成への焦り
  • 評価への不安

組織的な問題:

  • トップダウンの管理体制
  • 現場の声が反映されていない
  • 定量評価偏重

実例

発言: 「コーディネート投稿は本社からの業務として指示されており、週に4〜5回の投稿が義務付けられています」

行間読み:

  • 量的なKPIの存在(週4-5回という明確な数値)
  • 質よりも量を求められている可能性
  • 自発的ではなく義務として捉えている
  • 達成できない場合のプレッシャー

パターン5: 繰り返し・頻度への言及

表面的な発言

  • 「毎回〜している」
  • 「いつも〜」
  • 「〜し尽くした」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • マンネリ化、コンテンツ枯渇
  • ルーティンワークへの疲弊
  • 新鮮さの欠如

感情・心理:

  • 飽き、倦怠感
  • 創造性の限界を感じている
  • 「このままでいいのか」という不安

隠れたニーズ:

  • バリエーション増加のサポート
  • インスピレーションの提供
  • 自動化による負担軽減

実例

発言: 「商品を投稿し尽くした感があり、同じアイテムを異なる方法で見せる難しさ」

行間読み:

  • コンテンツ枯渇への深刻な悩み
  • アイデアの限界を感じている
  • 創造性が求められるが、そのリソースが枯渇
  • 「もうネタがない」という焦り

パターン6: 理想や希望の表現

表面的な発言

  • 「〜できればいいな」
  • 「理想的には〜」
  • 「〜になりたい」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • 現状では実現できていない
  • ギャップを強く認識している
  • 諦めや妥協がある

感情・心理:

  • 期待と現実のギャップ
  • 変化への渇望
  • 未来への希望(または諦め)

隠れたニーズ:

  • 現状の限界を突破する手段
  • キャリアアップへの支援
  • 承認や評価

実例

発言: 「投稿の質が向上し、より売上に繋がる文章を考えられるようになれば良い」「自身の得意な分野を分析したり、ブランディングに役立つ簡単なレポート機能があれば」

行間読み:

  • 売上貢献への強い意欲
  • 自己成長への意欲
  • 個人ブランド構築への意識
  • インフルエンサーとしての地位確立への願望
  • 数値で成果を証明したい欲求

パターン7: 参照・模倣への言及

表面的な発言

  • 「他のブランドを参考にしている」
  • 「〜を真似している」
  • 「マニュアルを見ている」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • 独自性の欠如
  • ベストプラクティス不明
  • オリジナリティへの不安

感情・心理:

  • 競合への焦り
  • 差別化への苦悩
  • 「このやり方で正しいのか」という不安

隠れたニーズ:

  • ベンチマーク情報
  • 成功パターンの提示
  • パーソナライズされたガイダンス

実例

発言: 「他ブランドの人気スタッフのInstagram投稿や、本社からのマニュアルやガイドを参考にしている」

行間読み:

  • 成功事例への強い関心
  • 「勝ちパターン」を知りたい
  • 自分のスタイル確立への模索
  • 競争環境での生き残り戦略

パターン8: 効果実感と不確実性

表面的な発言

  • 「効果があった」
  • 「たまに〜してくれる」
  • 「どれくらい効果があるか分からない」

行間の読み取り

本質的な課題:

  • 効果測定の困難さ
  • データドリブンな意思決定の不足
  • 偶発的な成功への依存

感情・心理:

  • 「このやり方で合っているのか」という不安
  • 成功体験による手応えと、不確実性の混在
  • 再現性への渇望

隠れたニーズ:

  • 効果測定・分析ツール
  • データに基づく改善提案
  • PDCAサイクルの支援

実例

発言: 「投稿を見た顧客が実際に来店し、声かけをしてくれる経験がある」

行間読み:

  • 効果を実感している(モチベーション源)
  • しかし、定量的な把握ができていない
  • 「もっと効果を最大化したい」という意欲
  • データで証明できれば評価されるという期待

実践ガイド: 行間を読むステップ

ステップ1: 発言をそのまま受け取る

まず、表面的な意味を正確に理解する。

ステップ2: 「なぜ?」を3回繰り返す

  • なぜそう言ったのか?
  • なぜそう感じているのか?
  • なぜその状況なのか?

ステップ3: 感情を推測する

  • その発言をした時、どんな気持ちだったか?
  • 不安? 焦り? 期待? 諦め?

ステップ4: 組織・環境を考慮する

  • その課題は個人的? 組織的? 市場環境的?
  • どんな制約や圧力があるか?

ステップ5: 解決後の世界を想像する

  • その課題が解決されたら、何が変わるか?
  • 本当に望んでいる状態は何か?

注意事項

✅ 良い行間読み

  • 発言と矛盾しない推論
  • 複数の発言から裏付けられる洞察
  • 具体的で実行可能な示唆

❌ 避けるべき行間読み

  • 根拠のない憶測
  • 発言を無視した決めつけ
  • ステレオタイプに基づく判断
  • 過度に悲観的・楽観的な解釈

バランスの取り方

  • 明示的な発言を60%、行間読みを40%の割合で
  • 推測には必ず「〜と考えられる」「〜の可能性がある」などの表現を使う
  • 複数の発言から裏付けを取る
    :::

気づき:構造化された出力の価値

このツールを使い始めて気づいたのは、AIの分析精度よりも「出力の構造化」が重要だということでした。実際にアパレル企業のスタッフインタビューを分析したところ、「コーディネート写真1投稿あたりに2時間かかる」という表面的な課題から「業務として認められていない構造的問題」という本質的課題を抽出し、企画としての提案レベルの分析が自動生成されました。

分析時間は半日から約10分に短縮されました。 しかも、以前は「課題の列挙」で終わっていたものが、今では「企画としての提案資料」として使えるレベルの分析が得られるようになりました。


2. プレセールス判断ツール

きっかけ:案件の見極め精度を上げたい

第1章のツールで成功体験を得た私は、次の課題に取り組むことにしました。それは「案件判断の属人化」問題です。LINEミニアプリ開発の引き合いは多いものの、すべての案件が受注に至るわけではありません。初期段階で判断する基準が人によってバラバラで、結果的に受注できない案件に時間をかけてしまうことがありました。

作ったもの:presales-judgment スキル

企業名と問い合わせ内容を入力すると、受注可能性を判定するレポートを生成するClaude Skillを開発しました。Web検索で企業の背景調査(事業内容、売上規模、中期経営計画の課題、LINE公式アカウント、会員基盤、ネイティブアプリなど)を自動実行し、過去の受注成功事例・失注事例との類似度を評価して、判定と詳細な根拠を出力します。

設計のポイント:過去データの構造化と埋め込み

このツールで重要だったのは、「過去の勝ちパターン/負けパターン」をどうスキルに埋め込むかでした。referencesフォルダ内に、過去の受注成功事例と失注事例を構造化して整理しました。成功要因は6つのカテゴリ(関係性・ネットワーク型、提案品質・専門性型、コミュニケーション・対応力型など)で分析し、失注要因も同様にカテゴリ化しました。

これにより、新規問い合わせの評価時に自動的にリスク要因を特定できるようになりました。特に、LINE公式アカウント、会員基盤、ネイティブアプリの3つは提案方向性に直結するため、必ず調査する項目として設定しています。

気づき:判断基準の言語化が組織資産になる

このツールを作る過程で、自分たちの「なんとなくの判断」を言語化する必要がありました。「なぜこの案件は受注できたのか」「なぜあの案件は失注したのか」を構造的に整理することで、チーム全体の判断精度が上がりました。

過去の失注事例を分析して、調査項目の優先順位を明確にしたことで、限られた時間(15-20分)で最も重要な情報を効率的に収集できるようになりました。

AIツールは単なる効率化ではなく、暗黙知を形式知に変える触媒になると実感しました。 このツールを使うことで、案件判断にかかる時間が大幅に短縮され、かつ判断の透明性と再現性が向上しました。

3. カスタムスキル vs Claude Skill:それぞれの特徴と使い分け

2つのツールを開発する中で、カスタムスキルとClaude Skillの特徴が明確になってきました。以下に、私が考えるそれぞれの良い点・悪い点をまとめます。

1. カスタムスキル(user-interview-analyzer)

良い点:

  • 確実な実行:カスタムコマンドとして直接指定するため、意図したスキルが確実に実行される(間違いがない)

悪い点:

  • 複雑なワークフローの手動実行が必要:複数のステップを組み合わせた処理を実装するには、手動で各ステップを実行する必要がある

2. Claude Skill(presales-judgment )

良い点:

  • 複雑なワークフローの実現:複数のステップ(情報収集→分析→判定→出力生成)を1つのスキル内で統合できる
  • 共有が容易:zipファイルとしてエクスポート・インポートできるため、チーム内での共有が簡単

悪い点:

  • スキル選択の不確実性:近しい名前や機能のスキルが複数ある場合、意図したスキルではない方が使われてしまうことがある
  • 詳細情報の読み取りによる提案のずれ:Referenceなどの詳細情報を読んでくれるのは良いが、大方針と異なる箇所の詳細情報を読むと、提案がずれてしまうおそれがある

使い分けの指針

カスタムスキルが適している場面:

  • 実行タイミングを自分で制御したい:特定のタイミングで明示的にタスクを実行したい場合
  • 確実に意図した処理を実行したい:間違いを避けたい場合(カスタムコマンドとして直接指定するため)
  • シンプルな処理や個人の作業効率化:単一のタスクに特化したツールを作りたい場合

Claude Skillが適している場面:

  • AIに判断を任せて自動実行させたい:AIが作業を進める中で、適切なタイミングで自動的にスキルを活用してほしい場合
  • 複数のステップを統合したワークフローを実現したい:情報収集→分析→判定→出力生成など、複数のステップを1つのスキル内で統合したい場合
  • チーム全体で統一されたワークフローを共有したい:zipファイルでの共有が容易で、チーム全体で標準化された手順を実装したい場合

実際の開発では、最初はカスタムスキルで単一タスクを効率化し、その成功体験を基に、Claude Skillでより統合的なツールを開発するという段階的なアプローチが効果的でした。


4. まとめ:学んだ設計原則

2つのツール開発を通じて、以下の3つの設計原則が見えてきました。

1. 出力の構造化を徹底する

AIの回答を「そのまま使える形」にすることが重要です。見出し、箇条書き、セクション分けなど、後続の作業(資料作成、共有、意思決定)を想定した出力設計が効率化の鍵でした。インタビュー分析ツールでは、単なる課題の列挙ではなく「企画としての提案資料」として使える構造で出力することで、分析時間を半日から10分に短縮できました。

2. ドメイン知識を言語化する

「なんとなく分かっている」ことを言語化するプロセスが、最も価値がありました。プレセールス判断ツールでは、勝ちパターン/負けパターン、業界知識、判断基準などを構造化して整理することで、チーム全体の知識レベルが底上げされました。暗黙知を形式知に変えることで、AIツールは単なる効率化ツールではなく、組織の資産を増やす触媒になるのです。

3. スキル作成にもAIを活用する

スキルの作成自体にもAIを活用しました。自分の頭の中にある知識や、部門のコンテキストをスキルとして構造化することで、その範囲内の質問に対してAIが詳細に理解した上で回答できるようになります。つまり、スキルを作ることで、AIに「自分たちの仕事の文脈」を教え込むことができるのです。これにより、一度作成したスキルは、チーム全体で共有・活用できる組織資産となります。

おわりに

この記事では、事業企画の業務をAI化する実践として、インタビュー分析ツールとプレセールス判断ツールの2つを紹介しました。重要なのは技術力ではなく、自分の頭の中にある知識や部門のコンテキストを言語化し、AIに整理してもらうことで、その業務専用のスキルを作ることです。そして、そのスキルを使って実際の業務と向き合いながら、少しずつ精緻化していくプロセスが、真の効率化につながります。

同じように「AIで業務を効率化したい」と考えているビジネス職の方々の参考になれば幸いです。小さく始めて、成功体験を積み重ねながら段階的に拡張していくアプローチが、モチベーション維持にもつながります。

おつかめ!

この記事をシェアする

FacebookHatena blogX

関連記事