【レポート】小売業での機械学習活用成功への3つのポイント – AI Experience 2019 Tokyo #aiexperiencetokyo
2019年11月20日(水)、ザ・プリンス パークタワー東京にてDataRobot, Inc.主催の「AI Experience 2019 Tokyo」が開催されました。
本エントリでは、DataRobot Japan 中野高文氏によるセッション「小売業での機械学習活用成功への3つのポイント」をレポートします。
目次
セッション概要
登壇者
- 中野高文(DataRobot Japan データサイエンティスト)
セッション概要
人手不足、在庫最適化、EC化などの小売の多くの課題の解決に機械学習は活用されています。この様なAIを活用できる人材の確保は難しいのが現状ですが、シチズンデータサイエンティストを育てることでこれらの課題を解決することができます。本セッションでは小売での機械学習の最新事例を紹介すると同時に、企業が機械学習を活用できる人材とAIドリブンな組織作りを成功させるポイントを紹介します。
セッションレポート
小売・流通業界の現状と課題
- オペレーションの自動化、効率化、省人化
- 人口の減少により、人手不足が発生している
- 顧客にカスタマイズされた購買体験
- 嗜好性は多様化しており、顧客一人一人にカスタマイズされた購買体験が求められる
- オンラインとリアル店舗の融合
- オンラインとリアル店舗の良いとこ取りをしたい
小売・流通業界で必要とされるAI技術
- 課題の原因となるものの一つに、小売業界は予測しなければならないことが非常に多いことが挙げられる
- 例:コンビニエンスストアの店長は数千SKU(最小管理単位)の商品を過去の売り上げを踏まえながら毎日発注数を考えている
- 例:CRM(顧客関係管理)において通常顧客や優良顧客などのセグメント分けを行うが、一つのセグメントの中でも様々な顧客がいるので一人一人がどのような人なのかを考慮する必要がある
- すべての要素を考慮した予測は人力では難しく、人間が予測を行うと、バイアスがかかってしまう可能性を捨てきれない。そして予測が得意なベテランの人に属人化してしまう。
- これらの課題を自動化、効率化、正確な予測によって解決するのがAI
小売・流通業界のデータ活用担当者の特徴とニーズ
- 小売・流通業界ではオペレーションを担う人の数が多く、AIやデータサイエンスに詳しい人は少ない
- 欠損値が多かったり、バラバラの場所に置いてあったりするためにデータがすぐに分析に使えるような状態になっていない
- 力が強い現場を納得してもらう必要がある
- 特に小売・流通業界でのユースケースにおいては長期間使える予測モデルを作成する必要がある
小売・流通業界のAIニーズを満たす技術
- オペレーション担当者が簡単にモデリングできる
- 現場の人に納得してもらえるような、説明可能なモデル
- システムに組み込めるような実装
- 例:Webに組み込む場合、予測に10秒かかるモデルではレスポンスが遅い
- 例:Webでトラフィックが増えたときに耐えられるような実装
- 長期間使っていくために安定して運用していけるモデル
予測モデルの生成の自動化からモデル管理〜監視までカバーしたend to endのAIプラットフォーム
- データ準備、モデル生成、モデル解釈、ビジネス運用、モデル管理・監視をDataRobotを使って実現可能
- これまではデータ準備やモデル生成に時間を費やしていたが、本来のビジネスに役立つプロセスではない
- データ準備やモデル生成にかかる時間を少なくして、課題の選定・モデル解釈・ビジネスに適用・モデルの管理監視に時間をかける
- ビジネスへAIを適用するためのプロセスに注力できるようになる
状況の変化に対応し、長期で安定して運用できるAI実装
- ビジネスで必要とされるのは、人が関与せずとも最新の状況に対応しながらシステムが自動でアップデートされること
- せっかくモデル生成してシステムを開発しても担当者が退職するなどで最新の状況にあわせたチューニングが行われず、ブラックボックス化してしまうことがある
小売・流通業におけるキーユースケース
小売・流通でよく活用される分析の分野は以下の通り。
リアル店舗であれば出店予測、オンラインECサイトでは不正購入検知などがよく使われている
- 数あるユースケースのうち、何から始めるべきか
- AI導入を成功させたいならまず着手すべきは、実現可能性が高い・ビジネスインパクト大のテーマ
- 2番目に着手するのは、実現可能性が高い・ビジネスインパクトが小さいテーマ
DataRobot適用事例の紹介
需要・売上予測
既存商品
- これまで経験に基づいて商品の補充量を予測していたものをDataRobotを使用してモデル化し、半年で必要な精度まで高め、20%精度があがった
- 予測すればいいというわけではなく、現場の人に納得してもらうためにDataRobotのインサイト機能を用いてモデルを説明も実施
- 実際の売り上げと予測結果を答え合わせをして精度を高める
新商品売上予測
- 新商品の発注数が不正確でシーズン中に商品を売り切れないケースがあったが、新商品が記載されたカタログなどのデータからDataRobotを使用してモデルを生成し、最終的に30%近く精度が改善した
出店予測
- これまでは過去に出店した経験をもとに担当者が現地調査し、その結果をもとに意思決定をしていた
- DataRobotで立地データや過去出店した店舗の売上データなどを元に予測モデルを生成
- 売上予測が低い場合は出店をとりやめ、そうでない場合は担当者が最終的に現地に赴いて意思決定をする
- 担当者の工数・不採算出店が減った
- 過去に出店した店舗のデータをDataRobotに読み込んでモデル生成をしたいが、全ての店舗に対して網羅的なデータを集めることは難しい
- インサイト機能を用いて重要な情報を判断し、フォーカスすべきデータを優先的に集める
出店カニバリ予測
- 近隣の既存店舗の売上への影響をふまえた上で新規店舗の出店の意思決定をするため、新規・既存店の商圏情報などを用いてモデル化した
- 誤差4%程度のモデルが生成でき、実際のオペレーションで使用できるようになった
ターゲティング
- これまでは人力でマーケティング担当者が顧客リストからターゲットリストを生成していた
- DataRobotを用いて反応率予測モデル・購入金額予測モデルを生成し、ターゲットリスト選定・商品リコメンドモデルによって個々の顧客にカスタマイズされたメールを送信
- 分析時間を減らして顧客反応率を上げることができた
- 外部に委託して生成したターゲティング機械学習モデルを使用していたが、臨機応変な対応を可能にするためDataRobotを導入
- モデルの内製化・より高精度なモデルの作成に成功
まとめ
- 小売・流通業界で機械学習を活用していくためには安定的に実装・運用できること・自動でアップデートされること・現場を納得させられるよう説明可能なモデルであることが必要
- DataRobotは実際にオペレーションで活用されているユースケースが多数あり、現場で活用可能なAI
最後に
小売・流通業界での機械学習活用のポイントについてのセッションレポートをお届けしました。個人的には出店カニバリ予測の事例を聞いて「そんなこともできるのか!」と大変興味深く感じました。そして、モデルを作って予測をしてそれで終わりではなく、生成したモデルが実際のビジネスで持続的に使ってもらえるようにする…というのが特に印象的でした。当たり前のことですが、高精度のモデルを作ることが目的ではなく、実際に課題を解決し、ビジネスを向上させることが目的であることを踏まえてデータ分析をしたいものです。