Amazon Connect Customer Profiles コンタクトレコードテンプレート3種の使い分けまとめ
はじめに
Amazon Connect Customer Profilesでは、コンタクトレコード(CTR)を顧客プロファイル(顧客情報)に関連付ける際の動作を制御する3つのテンプレートが用意されています。
これらのテンプレートは、電話やチャットなどの問い合わせから取得したメタデータを、既存プロファイルと紐づけるか、新しいプロファイルを作成するかを決定します。
組織のデータポリシーやビジネス要件に応じて適切なテンプレートを選択することが重要ですが、それぞれの特徴や適用場面が分かりにくく、どのテンプレートを選択するか迷うことがありました。
本記事では、3つのテンプレートの違いと使い分けの指針について解説します。
コンタクトレコードテンプレート3種の概要
コンタクトレコードを顧客プロファイルにどのように関連付けるかは、事前に定義された3つのテンプレートで制御されます。
テンプレート | 既存プロファイル検索順 | 推定プロファイル作成 | 主な用途 |
---|---|---|---|
CTR-NoInferred (推定プロファイル作成+自動関連付け) |
①_ctrContactId ② _phone |
両キーで見つからない場合のみ作成 | 標準推奨。コンタクトレコード起因の重複を抑制しつつ取りこぼしを防ぐ |
CTR-AutoAssociateOnly (自動関連付けのみ) |
① _ctrContactId ② _phone |
作成しない | プロファイルを手動管理したい組織向け |
CTR (推定プロファイルのみ) |
① _ctrContactId |
_ctrContactId で見つからなければ必ず作成 |
全レコード保存し、後から統合する運用 |
_ctrContactId
について
項目 | 説明 |
---|---|
役割 | Amazon Connectが発行する一意のContactIdをCustomer Profilesで扱う際の予約済みキー。プロファイル検索の最優先キー |
生成タイミング | 顧客がコンタクトを開始した瞬間。転送や別キューへの移動時は新しいIDを発行 |
値の例 | 4e3c25f4-9ed6-4d57-95d3-9c8a99e6c1f0 (UUID形式) |
運用ヒント | 手動入力不要。電話番号ベースの履歴統合には_phone キーやIdentity Resolutionの併用を推奨 |
各テンプレートの詳細
CTR-NoInferred(推定プロファイル作成+自動関連付け)
このテンプレートは以下の順序で処理を行います。
_ctrContactId
で既存プロファイルを検索 → 見つかれば(既存の顧客プロファイルに)関連付け完了- 見つからない場合は
_phone
で再検索 → 見つかれば関連付け完了 - 両方で見つからない場合は推定プロファイルを新規作成
重複を抑制しながら取りこぼしを防げるため、デフォルトで推奨されるテンプレートです。
CTR-AutoAssociateOnly(自動関連付けのみ)
このテンプレートは以下の順序で処理を行います。
_ctrContactId
で既存プロファイルを検索 → 見つかれば関連付け完了- 見つからない場合は
_phone
で再検索 → 見つかれば関連付け完了 - 両方で見つからない場合は何もしない(推定プロファイルを作成しない)
プロファイルの自動生成を避けたい組織に最適です。
CTR(推定プロファイルのみ)
このテンプレートは以下の順序で処理を行います。
_ctrContactId
で既存プロファイルを検索 → 見つかれば関連付け完了- 見つからない場合は即座に推定プロファイルを新規作成
_phone
での追加検索は行いません
すべての問い合わせを確実に保存できますが、同じ電話番号でも毎回新しい推定プロファイルが生成されるため、重複プロファイルが大量発生する可能性があります。
推奨設定
基本的な選択指針
CTR-NoInferredを基本選択として推奨します。このテンプレートでは、既存プロファイルがあれば自動関連付けを行い、なければ最小限の推定プロファイルを生成します。
特定用途での選択
プロファイル作成を外部システムに限定したい組織はCTR-AutoAssociateOnlyを採用してください。
適用例は以下のとおりです。
- Salesforce、ServiceNowなどのCRMシステムで顧客マスターを管理
- S3経由でのバッチ取り込みによる正規化されたデータのみを使用
運用上の注意点
CTR-AutoAssociateOnlyを採用する場合、新規顧客の初回問い合わせ時は、エージェントが外部システムでプロファイル作成後に手動関連付けが必要になります。
CTRテンプレートは推奨しません
同じ顧客でも毎回新しいプロファイルが作成されるため、顧客履歴の分散と大量の重複プロファイル発生を招きます。一般的な運用では推奨されません。
運用のポイント
電話番号が複数プロファイルで重複していると、_phone
キーでの検索時に複数のプロファイルがヒットするため、システムがどのプロファイルに関連付けるべきか判断できず、コンタクトレコードの自動関連付けが失敗します。
また、エージェントが顧客対応する際に、顧客情報が複数のプロファイルに分散してしまい、統一的な顧客管理や正確な分析が困難になります。
CTR-NoInferredやCTR-AutoAssociateOnlyを使用することでコンタクトレコード起因の重複は防げますが、以下の経路では重複が発生する可能性があります。
- エージェントワークスペースでの手動プロファイル作成
- PutProfileObject APIによる手動プロファイル作成
- Salesforce、ServiceNowなどの外部システム統合
- S3を使用したCSVファイルの一括取り込み
1、2点目については、実際の運用では手間がかかりますが、手動で作成する際に_phone
キーで既存プロファイルを検索しておくことで重複を防ぐことが可能です。
このような重複プロファイルの統合には、Identity Resolution機能の活用を推奨します。
Identity Resolution機能の概要
Customer ProfilesのIdentity Resolution機能は、同一顧客の複数プロファイルを自動検出・統合する機能です。機械学習ベースとルールベースの2つの方式で類似プロファイルを特定できます。
機械学習ベースマッチング
- 名前・メールアドレス・電話番号・住所・生年月日の5つの属性を分析
- 0~1の信頼スコアで一致の信頼度を表示(1に近いほど完全一致の可能性が高い)
- 統合条件を最大10個まで設定し、条件に合致したプロファイルを自動統合
- デフォルトでは土曜日の午前12時(UTC)に週次実行
ルールベースマッチング
- 最大15のマッチングルールレベルを設定可能
- 各レベルで最大15のプロファイル属性を指定
- リアルタイムでのマッチングに対応
- より細かい統合ルールの定義が可能
運用時の注意点
- 統合プロセスは元に戻すことができないため、事前にGetAutoMergingPreview APIでのテスト実行を推奨
- 手動入力されたプロファイルデータは、自動取り込みデータよりも優先されます
これにより、重複プロファイルを統合して_phone
キーでの検索時の複数ヒットを防ぎ、コンタクトレコードの正確な関連付けが実現できます。
なお、Identity Resolutionの有効化により、対象プロファイルに対して1日あたり0.005 USDの利用料金が発生します。
設定変更方法
テンプレートの変更はAWSマネジメントコンソールで可能です。
Customer Profilesドメイン詳細 →「プロファイルの作成と自動関連付け」から編集できます。
コンソールでCustomer Profilesをセットアップする際、推奨設定のCTR-NoInferredは画面の1番目ではなく、2番目に表示されます。選択時はご注意ください。
最後に
Amazon Connect Customer Profiles コンタクトレコードテンプレート3種の使い分けについて解説しました。
- CTR-NoInferred: 重複抑制と取りこぼし防止のバランスが取れた標準推奨テンプレート
- CTR-AutoAssociateOnly: プロファイル作成を外部システムに限定したい組織向け
- CTR: 一般的な運用では推奨されない
多くの組織ではCTR-NoInferredが最適な選択となりますが、既存のCRMシステムとの統合や厳格なデータガバナンスが必要な場合は、CTR-AutoAssociateOnlyも検討に値します。
また、どのテンプレートを選択する場合でも、重複プロファイルの統合にはIdentity Resolution機能の活用を推奨します。機械学習ベースまたはルールベースのマッチングにより、データ品質の向上と効率的な顧客管理が実現できます。
組織の要件に最適なテンプレートを選択し、効果的な顧客プロファイル管理を実現してください。