【iOS 27】訪問看護の記録は、話した内容をどこまで下書きにできるか

【iOS 27】訪問看護の記録は、話した内容をどこまで下書きにできるか

訪問看護の記録業務は、看護師が毎日数十分を費やしています。個人情報保護の制約があるなか、iPhone内で動作するApple Intelligenceを使って、音声から記録の下書きまでを端末内で完結させる設計を、実装前の仮説として紹介します。
2026.09.26

こんにちは。リテールアプリ共創部で事業企画を担当しているかめだです。

訪問看護の記録には、心身の状態や実施した看護の内容、要した時間などの記載事項が制度で定められています。看護師は利用者宅で確認したことを、車の中や次の訪問先に向かう前、あるいは事務所に戻ってから記憶を頼りに様式へ打ち直しています。話せば1分で終わる内容でも、様式に沿って打つには数分かかります。

背景には、利用者の心身の状態や病状といった情報を、外部のAIサービスに送れないという事情があります。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスは、介護関係の記録に記載された身体状況や病状などが要配慮個人情報にあたると明記しています。

エンジニアではない私は、iOS 27で動くApple IntelligenceがiPhoneの中だけで推論を完結できる性質を、この下書きづくりに使えるのではないかと考えています。想定しているのは、売上が100億円規模で、複数の拠点と数千人の看護師を抱える訪問看護事業者です。記録が1件できあがるまでの設計を、こんな感じで考えてみました。本記事は活用シーンの仮説で、実装・実証はこれからです。

訪問した記録は、いつどこで書いているのか?

訪問看護の看護師は、事業所が支給したスマートフォンを持って利用者宅を訪問します。バイタルを測り、状態を確認し、看護を行ったあと、その内容を記録の様式に書きます。訪問先で書き切れず、車の中や次の訪問先に向かう前、あるいは事務所に戻ってから書いているという話を聞きます。

訪問看護業務支援システムの導入前後の書類作成時間を調べた学術誌の調査では、導入後でも書類作成に1日あたり71.4分かかっていたという報告があります(看護師84名対象、導入前は88.0分)。実際に、公益財団法人慈愛会の笹貫訪問看護ステーション愛の街では、2021年から職員一人に1台スマートフォンを配布し、車の中で音声入力しながら訪問記録を書く運用にしています。看護師はすでにスマートフォンを手に持ち、記録アプリを使っています。

なぜ、話した内容をクラウドのAIには送れないのか?

利用者の心身の状態や病状は要配慮個人情報にあたります。訪問看護の記録には、心身の状態や実施した看護の内容、要した時間などの記載事項が制度で定められています(厚生労働省「訪問看護療養費実態調査」)。この記載事項を含む話した内容を、外部のクラウドサービスに送って整えさせる設計は選べません。

確認して直す画面は、処理をどこで行っても必要な設計です。端末内を選ぶ理由に数えているのは、話した内容と、それを文字にした結果を、端末の外に出さないことだけです。

iPhoneの中のAIは、話した言葉をどこまで記録にできるのか?

声を文字にすること自体は、これまでもiPhoneの中でできました。iOSの音声認識は端末の中だけで動き、日本語もこれで文字にできます。変わったのは、文字にした話し言葉を、記録の様式の項目に振り分け、記録の文体まで整えた下書きにするところまで、端末内のAIで終えられることです。

Apple Intelligence でアプリづくりは何が変わるのか(AFM 3 の全体像)では、話し言葉を書き直すことと、内容を分類・判定することの両方が、端末内のモデルが得意とする範囲として紹介されています。訪問看護の記録づくりは、この二つを組み合わせた範囲にあたります。このモデルは計算をしません。体温や血圧の差分を計算させたり、話に出てこない数値を補わせたりする使い方はしません。

対応端末の比率が低い場合、試作で確認後に残る誤りの割合が求める水準に届かない場合、一度に渡す量の上限を超える情報を含む訪問の場合、既存のクラウドサービスで費用や個人情報の審査が問題になっていない場合は、端末内を選ばず、いまの運用を続けるか別の設計を検討します。

話した内容は、どの欄に振り分けるべきか?

さて、看護師が話す内容には、測定した値、状態の観察、実施した看護、本人や家族の発言、次回の予定が混ざって出てきます。AIは、この話し言葉を記録の文体に直し、様式の欄ごとに振り分けます。この振り分けはルールだけでは書けません。同じ内容でも看護師によって話す順番や言い回しが違うためです。

測定した値は、体温・血圧・脈拍・SpO2・血糖・体重をそれぞれ独立した欄に置き、話したとおりの数字をそのまま書かせます。欄を分けずに文章の中に混ぜると、数値だけが下書きから落ちることがあります。「体温36.8度、血圧132の78」と話せば、体温の欄に36.8、血圧の欄に132/78とそのまま書かせます。平均や前回との差はAIに計算させません。

話に出てこないことを、AIに足させないためにどうするか

なので、下書きに書かせるのは、看護師が実際に話した内容だけです。話に出てこない事実や数値を、AIが補って書き足す設計にはしません。前回の記録や、他の利用者の記録を渡して比較・推測させることもしません。

看護師が「昨日の夜はあまり眠れなかったって本人は言ってて」と話せば、本人の発言としてその内容だけを書きます。眠れなかった原因や体調への影響をAIに推測させて書き足すことはしません。原因や影響の評価は、これまでどおり看護師が行います。

観察でも処置でもない話は、どこに置くか?

訪問では、測定や看護以外の話も出ます。主治医への報告が必要な内容や、家族への助言も、その場で話に混ざります。様式にこの置き場を用意しないと、こうした話は下書きから落ちます。

「足のむくみは前回より少し引いてました」は状態の観察の欄に置きます。主治医への報告や家族への助言にあたる話は、助言や報告の欄に置きます。話した順番のとおりに書くのではなく、内容の性質で欄を分けます。

記録を確定するのは誰か?

下書きを確定するのは、訪問した看護師本人です。事務所に戻った看護師は、その日の訪問で作った下書きの一覧を開きます。画面には訪問先ごとに1件ずつ下書きが並び、各下書きには「話した内容(原文)」と「AIが振り分けた結果」を並べて表示します。看護師は欄ごとに内容を確認し、必要な箇所を直してから確定します。

一括で確定するボタンを置くかどうかは正直迷いましたが、確認は欄ごとに行う設計にしました。数値の欄と、本人・家族の発言の欄は性質が違う情報なので、まとめて一度に確定させると見落としが増えます。確定した記録には、確定した人の名前と時刻を残します。

この記載事項を満たしているかどうかを見るのも、確定する看護師の役目です。AIが作るのは下書きまでで、記録として成立させるのは看護師です。

対応端末・費用などの共通の前提は、iPhoneの中でAIが動くと、どの業界の何が変わるのか(Apple Intelligence 業界別活用マップ) の「どの業務にも共通する前提」にまとめています。

1人の看護師、1日分の記録だけで始める

では、まずは1人の看護師で、1日分の訪問記録だけを試してみます!様式の全項目を対象にせず、測定した値と状態の観察の欄に絞って、話した内容が正しく振り分けられるかどうかを見ます。本人・家族の発言や助言・報告の欄は2段階目とし、初回の試作には含めません。

継続するかどうかの基準は、試す前に決めておきます。

見るもの 進める 直してもう一度試す 見送る(いまの運用に戻す)
確認後に残った誤り(原文と下書きの一致率) 高い 低いが特定の欄でだけ誤りが集中している 欄を問わず誤りが多い
記録1件あたりの総作業時間(話す・確認・直すを含む) これまでの手入力より短い 同じくらい これまでの手入力より長い
看護師が直した割合 下がっていく 横ばい 上がる、または特定の欄でほぼ毎回直す
対応端末の比率(iPhone 15 Pro/Pro Max・iPhone 16以降) 十分にそろっている 少ないが入れ替えの見込みがある 少なく、入れ替えの見込みがない

この表は試す前に埋めておきます。結果を見てから基準を決めると、結果に合わせた基準になります。

用意するものは、対応端末(iPhone 15 Pro/Pro Max か iPhone 16 以降)がそろい、Apple Intelligenceをオンにできる状態、事業所の記録の様式、話した内容のお手本数十件、そして看護師が確認して確定する画面です。試作は自社の開発部門か開発会社に、話す、下書きにする、看護師が確認して確定する、という最小の画面を作ってもらうところから始めます。

よくある質問

利用者や家族の前でスマートフォンに話しかけるのを、看護師が避けたい場合は?

訪問中に話す必要はありません。車の中や次の訪問先に向かう前に話す運用でも、記録の下書きは作れます。話す場所を利用者宅に限定しない設計にしておきます。

看護師と介護職員で記録の様式が違うときは?

下書きの出力項目を、職種ごとの様式にあわせて設定しておきます。同じ訪問の記録でも、看護師が確認する項目と介護職員が確認する項目は一致しないことが多いためです。

情報量が多い訪問(初回アセスメントなど)はどうするか?

確認する項目も話す内容も普段より多い訪問は、iPhoneの中だけでは処理しきれない可能性があります。こうした訪問をどこまで対象にするかは、様式の項目数を基準に、事業所側であらかじめ決めておく必要があります。

参考

同じような記録業務の負担に心当たりがあれば、ぜひ一度この考え方を当てはめて考えてみてください!

では、おつかめ!

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