注目の記事

オンプレミスからAWSへ移行した後の『次の一歩』がよくわかる「AWSコスト最適化ガイドブック」

また1冊、この世に名著が生まれました。AWSを運用中のすべてのユーザー企業の方に読んでいただきたいです。
2023.04.02

この記事は公開されてから1年以上経過しています。情報が古い可能性がありますので、ご注意ください。

みなさん、こんにちは。

明るい笑顔がトレードマークの芦沢(@ashi_ssan)です。

『AWSコスト最適化ガイドブック』と題するもはやタイトルだけで万人が読みたくなりそうな本が出版されていたので、購入して即読了しました。

興奮のあまり勢いだけで書評を書いたので、購入を検討している方の参考になればと思いブログ化してみました。

書籍の概要と著者について

まずは出版元のKADOKAWAのWebサイトから概要を確認していきます。

利用費用の削減から体制整備・運用プロセス構築までAWSがすべて公開!

本書は、DXを効率的で持続可能にするためのクラウド最適化の勘所をお伝えすることを目的としています。AWSの個々のサービスの特徴やクラウド利用費用の削減アプローチ、AWS コスト管理に係るサービスの利用方法に留まらず、持続的な最適化を促進するための体制・運用プロセス整備まで踏み込んだ内容となっています。

まず、第1章では、クラウドサービスとはどのような特徴を持っているのかを述べながら、AWSの特徴、AWSへの移行戦略と移行後のコスト最適化を概観します。そして、第2章以降でクラウドを最適化するための具体的なステップを詳説していきます。

第2章ではクラウドの利用状況を計測しやすくするための仕組みづくりとして、可視化に焦点を当てて解説し、第3章ではアーキテクチャの変更などを伴わず比較的「クイック」に実施できる最適化手法について解説を行います。そして、第4章では、クラウドインフラストラクチャの検討をする際のネットワークならびにクラウドネイティブなアーキテクチャによって中長期的に取り組むアーキテクチャ最適化に関わる内容を解説します。

また、第5章では年度予算の策定に必要となるクラウド利用費用の予測・計画の考え方と、予測・予算管理に関するAWSのサービスを解説します。

最後に第6章では、前章までに述べたクラウド利用費用の可視化、最適化のための個々のアプローチの実施、的確な費用予測の持続的な最適化に必要な体制整備や運用プロセスの整備について解説しており、ITエンジニアのみならず財務部門、ビジネス部門の方にも参考となる内容です。

「利用費用の削減から体制整備・運用プロセス構築までAWSがすべて公開!」とあるように、コスト最適化の概念的な初歩から運用プロセスの具体的な構築手順まで網羅しています。読み進めていくにつれ、「あー、AWSのSAさんたちはこう言う観点でいつも支援しているんだろうな」と想像できました。


著者の方々はこちらの皆さんです(Amazonの製品ページから拝借しました)

・門畑 顕博:シニア事業開発マネージャー。通信ネットワークにおける数理最適化の研究開発に従事後、IT・クラウドコンサルタントを経て、AWS に入社。クラウドコスト最適化のためのCloud Financial Management(CFM)プログラムの立ち上げ、新規プログラムの開発・推進。

・仁戸 潤一郎:シニア事業開発マネージャー。商社系SIer でストレージ製品の開発、米国駐在、新製品の立ち上げに15 年間従事。その後仏系ストレージベンダーのSEを経てAWS に入社。AWS では利用者の利用状況の分析、利用料最適化のプログラム開発/推進を担当。

・柳 嘉起:ソリューションアーキテクト。前職で大規模ウェブサービスの開発と運用に携ってきた経験から、システム開発においては「開発フェーズにおける運用設計」や「運用フェーズにおける課題の解決」にこだわりを持っている。

・杉 達也:シニア事業開発マネージャー。以前から外資ソフトウェアベンダーでJava などのアプリケーション開発周りの製品の事業開発に従事し、AWS に入社後は、サーバーやインフラのことを気にしなくてよい、サーバーレスの事業開発を担当。

・小野 俊樹:シニアプロダクトマネージャー。インフラコストのみならず生産性・可用性・俊敏性・CO2排出削減効果をも可視化するクラウド移行による経済性評価プログラム・クラウドエコノミクスに事業開発担当として2022年末まで従事。その後同プログラムに関連したプロダクト開発のためAWSシアトルオフィスに異動し現職。

Cloud Financial Management(CFM)の生みの親の門畑さんを始めとした事業開発マネージャーの面々や普段お客様と接することが多いであろうソリューションアーキテクトの方や、コスト最適化と切っても切り離せない概念であるサーバレスの専門家の共著のようですね。

目次

  1. AWSコスト最適化戦略
    1. AWSの特徴
    2. AWSへの移行
    3. AWSへ移行後のコスト最適化戦略
  2. 可視化
    1. 可視化の目的
    2. アカウント分割
    3. タグ付け
    4. タグ付けに係るガバナンス
    5. 可視化のためのAWSサービス
  3. クイックウィン最適化
    1. インスタンス選定
    2. 不要リソース停止
    3. リソース調整
    4. ストレージ選定
    5. ライセンス最適化
    6. クイックウィン最適化のためのAWSサービス
  4. アーキテクチャ最適化
    1. ネットワーク
    2. クラウドネイティブアーキテクチャ
  5. 予測・計画
    1. クラウドの費用予測・予測方法
    2. クラウド予算管理
  6. クラウドFinOps
    1. FinOpsの概要
    2. 人材・体制
    3. 運用プロセス
    4. FinOps事例紹介

対象読者

私が本書を特に読んでほしい!と思う読者層は以下です。

  • システムをAWSへ移行して運用しているユーザー企業の「ビジネス層/財務部門の担当者/現場のエンジニア」
  • これからAWSへの移行を検討しているユーザー企業の「ビジネス層/財務部門の担当者/現場のエンジニア」
  • AWSパートナー企業の「エンジニア/営業」

一番読んでいただきたいのは、オンプレミスからAWSへシステムを移行して運用しているユーザー企業の方々です。

AWSへ移行したせいでコストが上がってしまったと感じるビジネス層の方、移行したシステムの財務管理に悩む財務部門の担当者の方、移行は終わったけど以前と変わっておらずAWSの良さがわからない現場のエンジニアの方。こんな方いらっしゃるかもしれません。

本書籍では、これらの疑問を解消するための『AWS移行後のネクストアクション』が詳しく解説されています。

既に運用中の企業の方だけでなく、7Rと呼ばれるAWSへの移行手法も多く触れられているので、これからシステムをAWSへ移行していく段階のユーザー企業の方にもオススメしたいです。移行後にどういった困りごとがあるのか?や移行戦略におけるいわゆる7Rについてキャッチアップできるはずです。

そして、最後に私を含むAWSパートナー企業の現場の営業やエンジニアの皆さんです。

歴戦の猛者の皆さんにとって、本書の内容に目新しいものはなく、当たり前のことばかりだと感じる内容かもしれません。ですがAWSJの方々が普段どのようにお客様のコスト最適化を支援しているのかについて触れる機会になります(私はあまりなかったです)し、本書をお客様にオススメしすれば商談のきっかけにもなりうる(コスト最適化に興味がないお客様はいない!)かもしれません。


本音を言うと、「対象読者はAWSを利用している/利用したいすべての方」と言いたいのですが、書籍の部類として入門書ではなく、AWS初学者の方などAWSサービスの基礎的な知識や移行・構築・運用経験がない方にとっては難易度が高い書籍だと思います。

特に2章〜4章については、登場するAWSサービスについての基礎的な解説は含まれていません。読んでいてピンとこなかった方は入門者向けの書籍での学習やトレーニング、AWS認定試験の取得などを経由して事前にキャッチアップしてから読み始めた方がいいかもしれません(AWS認定でいうとSAA相当の知識が必要そうだなと感じました)

対して、1章、5章、6章は具体的なクラウド利用経験や知識が必要ないため、ビジネス層の方や非エンジニア(財務部門)の方でも読みやすそうです。

ページ数も少ないので忙しい方は、クラウドの基礎的な考え方がわかる1章と組織的なAWS活用の重要性がまとめられている6章だけでも読んでいただきたいです。

全体の感想

書籍が見た第一印象は「分厚!」でした。380ページもあるため、私以外にもそう思った方は多いはずです。

ですが、目次を読んで全体を流し読みしてみると、全体の7割である300ページを第2章〜4章が占めていることがわかります。 これらの章はAWSサービス名を挙げたコスト最適化の具体的な設定手順が多く含まれています。 まずざっと一通り読んで理解したい方は、初回に関してはその辺りを読み飛ばしてしまってもいいかもしれません。 私自身、初回は全体をざっと流し読みして、そこから気になった順(2章→4章→3章)で詳しく読み深めていきました。

全体を通した感想ですが、ある程度のAWS知識、運用経験があれば悩むであろうポイントが押さえられていてとてもいい本だな、と思いました。 特に、『2章 可視化』のアカウント分割や『3章 クイックウィン最適化』の章については、普段の業務でお客様に案内したり、実際に支援している内容と重なる点が多かったです。

各項目についてやるべきことだとはちろん理解しているのですが、なぜやるかについては忘れがちなのでこの機会に復習できて良かったです。

お客様からコスト最適化について相談されたときに、本書をお客様が読んでいたらそれぞれの概念を共通言語として会話を進めやすくなりそうです。 現在担当しているお客様だけでなく、これから担当するお客様にも是非進めたい一冊だなと思います。

全体の感想はここまでとして、各章の感想については後述したいと思います。

章ごとの概要と感想

それぞれの章について、その概要と読んでいて個人的な推しポイントや勉強になった点をまとめていきます。

参考になれば幸いです。

第1章 AWSコスト最適化戦略

この章は以下の内容で構成されています。

  • AWSの特徴:いつでもオンデマンドに、スケーラブルなアーキテクチャを従量課金で利用開始できる
  • 経済性評価手法:AWS利用費だけでなくインフラ管理コスト削減や生産性向上による人件費の削減などを含めたTCO(Total Cost of Ownership)で評価するべき
  • AWS移行後のコスト最適化手法:AWSが提唱するクラウド利用費最適化フレームワークであるCloud Financial Management(CFM)フレームワークについて

本書全体の構成についての話になりますが、本書は上記に挙げたものの中でも特に「CFMフレームワーク」についてフォーカスしており、第2章〜6章で①可視化、②最適化(クイックウィン、アーキテクチャ)、③予測・計画、④FinOpsのステップに分けてコスト最適化の考え方や具体的な手法について解説しています。

本書の趣旨とは少し外れてしまうかもしれませんが、この中でも個人的に「TCOの理解」が特に重要なファクターなのでは、と思っています。

利用中のホスティングサービスやオンプレミス環境とAWSのコストを比較する際に、インフラ利用のために外部へ支払っている料金のみ(サーバー利用費など)とAWS利用費を比較してしまうと、AWS利用費の方が高くつくパターンは少なくありません。

現在ホスティングサービスやオンプレミスでサービスを運用している場合、インフラ利用費だけでなくサービスの維持保守に係る運用保守費用、障害発生時の緊急対応で発生する人件費やデータセンターの維持のために発生する諸経費など、多くのコストが発生していると思われます。

そういったコストがすべて無駄といっているのではなく、現在時点でどんな目的のために何にコストを支払っているか認識することが大切で、クラウド移行の検討の際に今一度見つめ直すことが大変重要なのです。

第2章 可視化

この章は以下の内容で構成されています。

  • アカウント分割:アカウント単位で環境を分割することでコスト管理や運用効率の観点でメリットがあり、ビジネスを円滑化させます
  • タグ付け戦略:タグの付与によりアカウント上のリソースを分類し可視化することで、コスト管理、運用、セキュリティ面デメリットがある
  • 可視化のためのAWSサービス:クラウド利用費や利用状況を可視化するAWS Cost 〜のサービス群の紹介

この章から具体的なAWSサービス名を挙げたAWSの活用方法が紹介されています。それらについて、説明の中でAWSマネジメントコンソールのスクリーンショットを交えた具体的な設定手順で紹介されているため、各サービスを利用したことがない方でも分かりやすそうです。

個人的に、特に重要だと思う項目はアカウント分割です。

環境ごとにアカウントを分割するマルチアカウント構成は現在のAWS利用におけるベストプラクティスですし、AWS OrganizationsやAWS Control Towerなど従来煩雑だったマルチアカウント運用を楽にできるサービスもアップデートによって少しずつ使いやすくなるように改善されています。

従来のAWS運用でよくある単一AWSアカウント内でのVPCによる環境分割でもタグ付け戦略などを駆使して運用していくことは可能ですが、タグの付与に対応していないサービスがあったり、AWSサービスの制限(クォータ)がAWSアカウント内で共有であるため、完全な環境の分離が難しく、不都合が生じてしまうかもしれません。

本章はどれも検討したい項目ですが、本文にも書かれているようにAWSパートナーであるリセラー経由でアカウントを契約している場合、注意すべき点があります。契約内容によって利用できるサービスが制限されている場合があるのです(例:AWS Organizationsなどのマルチアカウント管理系サービスやAWS Cost Explorerなどコスト管理系サービス)

気になる方は、お近くのAWSパートナーの営業やエンジニアにご相談ください。

第3章 クイックウィン最適化

クイックウィン最適化は、クイックとあるように文字通り即効性のあるコスト最適化手法です。

この章は以下のアプローチで構成されています。

  • インスタンス選定
  • 購入オプション選定
  • 不要リソース停止
  • スケジュール調整
  • ストレージ選定
  • ライセンス最適化

本章は、これらのアプローチについて全体40%ほどのページ数である150ページにわたって詳しく解説されています。

どれくらい詳しいかというと、インスタンス選定であれば、EC2、RDS、ElastiCache、Redshift、OpenSearch Serviceなどそれぞれのサービスごとの選定基準までサポートしています。

ストレージ選定の項目だと、EBS、EFS、FSx、S3単体の特徴だけでなく、選定に迷うサービスやオプション単位での比較までサポートされており、なかなかに詳しいです。

この中でも特に購入オプション選定は、費用対効果が高く検討されている方も多いでしょう。

本書の内容でも十分理解しやすいと思いますが、弊社ブログでもう少しこれらの概念を抽象化し理解しやすくした記事があります。こちらも合わせてご覧ください。

第4章 アーキテクチャ最適化

前半の「ネットワーク」の章は、ネットワーク関連の利用費用や最適化のポイントの解説です。

AWSとインターネット間の通信、AZ間通信、リージョン間通信、オンプレミスとの通信などそれぞれネットワークに関わる利用費の概要から、ネットワークアーキテクチャを利用する際の検討事項まで解説されています。

ネットワーク通信がAWS環境から外(インターネット、他AZ、他リージョン)への通信で利用料金が発生することが図を交えてわかりやすく書いてある点が良かったです。

他にも、IPアドレスに対する利用費という観点でEIPが多く取り上げられていたのですが、EIPのリマップ(再関連付け)は月に100回まで無料でそれ以上から課金されてしまうという新しい発見がありました。後でブログで検証してみようと思います。

後半の「クラウドネイティブアーキテクチャ」では、クラウドネイティブの特徴の解説から始まり、コンテナ・サーバレスといったクラウドネイティブ構成を支える技術に関する内容が記載されています。

個人的な推しポイントは、なぜコンテナを使うのか?という基本的なところやAWSにおけるコンテナサービス(ECS、EKS、Fargate、App Runner)についての選定基準やコスト面での優位性に関する解説です。

個人的に案件などでコンテナを始めとするモダンコンピューティング技術に触れたことがなかったため勉強になる箇所が多かったです。

第5章 予測・計画

オンプレミスとクラウドとの費用予測の比較や、AWSサービスを活用した利用費予測などの内容を扱った章です。

AWS Forecastという機会学習サービスを活用した予測手法が取り上げられており、設定手順も説明されているので誰でもすぐお試しできそうです。

第6章 クラウドFinOps

FinOpsとは、Financial(ビジネス/財務)とOperation(技術/運用)の組織が密に連携することで、財務健全化と運用の効率化を進めていくことを意味しています。

本書ではFinOpsの中でも、特に『人材・体制』と『運用プロセス』についてフォーカスしています。

『人材・体制』の項目では、いわゆるCloud Center Of Excellence(CCoE)と呼ばれる、組織の中にクラウド利用を推進していく、クラウドを利用する各部門に対しガバナンスを利かせる特別な部門の構築の重要性を説いています。

CCoEはビジネスサイドと協調して組織のクラウド利用ガイドラインの制定や運用プロセスを整備することでガバナンスを構築していきます。

弊社では、AWSを組織的に活用していくお客様向けに「Classmethod Cloud Guidebook」をメンバー限定で公開しています。

いくつかのコンテンツがありますが「AWSベースラインTips」や「AWS利用ガイドラインサンプル」は、これからCCoE組織を立ち上げていくフェーズのお客様におすすめのコンテンツです。

『運用プロセス』の項目では、RI/SPの購入戦略や未来の成功に対する先行指標であるNorth Star Metric(NSM)について触れられています。

RI/SPの購入戦略は、第2章で紹介された購入オプション選定で決めたRI/SPをいつ購入するか?に関する項目です。

NSMは事業やプロダクトのビジョンによって変化する、売上に直接関わる項目だけでなく、顧客体験の向上させる項目を設定する指標です。

RI/SPは身近な存在なのですが、普段の業務ではお客様のNSMがなんなのかまで意識して支援できていなかったなと反省しつつも、こういった概念があると勉強になりました。

気になる方は...

こちらのリンクから購入してみてください!

最後に

興奮のあまり勢いで書いているので、いるかわからない!だけどいたら嬉しい! 本エントリがあなたのご参考になれば幸いです。

内容に不備があれば下記Twitterアカウントまでご連絡ください。

以上、芦沢(@ashi_ssan)でした。