
AWS Summitライフサイエンスブースで塩野義製薬様の生成AI活用の取り組みについてお話を伺いました #AWSSummit
お疲れさまです。とーちです。
AWS Summit Japan 2025 ライフサイエンスブースに塩野義製薬様の生成AI活用の取り組みについての展示があったので、お話を聞かせて頂きました。
この記事ではその内容について共有したいと思います。
塩野義製薬の生成AI活用事例
まず製薬業界特有の事項として医療用医薬品が発売されるまでに長い年月と費用がかかるそうです。具体的には期間にして9年以上、費用にして約10億ドル以上がかかるとのこと。この話を聞いて、医療用医薬品の開発は大変なことだと実感できました。このサイクルをいかに早くするかが塩野義製薬としてのミッションとなるとのことでした
塩野義製薬様では様々な分野での生成AI活用にチャレンジされていて、その中の一つとして、医療用医薬品開発領域への生成AI活用を PoC として検証 されているとのことです。
医療用医薬品が発売されるまでには上記の通り長い年月がかかるわけですが、その中でも臨床試験というフェーズには特に時間がかかりこのフェーズだけで3~7年の時間がかかるとのことでした。
臨床試験では非常に多くの文書作成が必要で、その中でも以下の2つの文章が主要なものになるそうです。
プロトコール(治験実施計画書)
- 臨床試験の「設計図」となる最重要文書
- 患者の選択基準、治験薬の投与方法、評価項目、データ収集方法などを詳細に記載
- 関係者全員が遵守すべき「法律のような存在」
- 数百ページに及ぶ複雑な文書
- 参考:治験を支える設計図:プロトコル - 医療と健康の用語がよく分かる
CSR(Clinical Study Report/治験総括報告書)
- 臨床試験全体の結果をまとめた包括的な報告書
- プロトコールなどを基に作成
- 1から16章に及び、通常数百ページにわたる膨大な文書
- 開発の次の段階や申請に進むために必要な文書で、治験がGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施基準)に従って科学的に実施されていることや、結果の有効性・安全性等の観点で十分な根拠があることを示すために必要
- 参考:
生成AI活用プロジェクトの立ち上げ
生成AI活用プロジェクトの担当の方が、文書作成担当者(メディカルライターと呼ばれる)の部署にヒアリングしたところ、一つの文書の作成には「数十から数百時間かかる」とのヒアリング結果が得られたとのことでした。そこでまず上記の2つの文書の作成支援を生成AI活用のスコープとしたそうです。
メディカルライターの業務プロセス
メディカルライターが規制文書を作成する際の業務プロセスは概ね以下のような内容となっているそうです。
塩野義製薬様では、この中でも「初稿作成」の段階に焦点を当て、LLMによる文書作成・検索支援アプリケーションを開発することを決めたとのことでした。
ポイントは、レビューや品質保証のプロセス等に人によるチェックを残していることです。お話いただいた塩野義製薬の松野様は、生成AIで100点の文書ができるとはおもってないので人がチェックするプロセスはちゃんと残していると仰られていました。このあたりは私の業務でも思い当たる節があり、最近は設計書等の作成を生成AIに任せている部分がありますが、私は生成AIに書かせた文書は必ず全てチェックするようにしています。生成AIが書いた内容を自分が書くのと同じレベルで把握・説明でき、内容について自信を持って外部に提示できることが重要だと思っています。
LLMを活用した文書作成支援の具体的アプローチ
さて、では具体的にどのようにLLMに文書作成を支援させたかという部分ですが、これらの文書は厳しいガイドラインで書くべき内容が細かく決められているとのことでした。それは逆に考えれば書くことが決まっていると捉えることもできます。
治験総括報告書Clinical Study Report (CSR) | メディカリンガル株式会社 より画像引用
また、塩野義製薬様の社内には上記の文書を書くための社内テンプレートも存在していました。
そこで、社内テンプレートをAIに読み込ませ、各章ごとに正しい文章を作れるようなアプリケーションとしたとのことです。
アプリケーションの機能とUI
実際のアプリケーションは対話的に文書が作成できるようなものとなっており、画面イメージとしては、右側に生成された文書が表示される構成になっており、文章に納得がいかないときにはプロンプトの修正をすればその章だけを入れ替えできるようになっているとのことでした。
印象的だった部分として、全てを生成AIに作らせるのではなく、転記や文章のフォーマットなどはPython等で機械的に行われているという部分でした。私も最近、Claude Codeを使っていますが、定型的な作業については、生成AIに任せるよりも簡単なプログラムを生成AIに作ってもらい、そのプログラムに作業を実行させるほうが時間効率がいいなと感じていたところだったので共感しました。
システム構成
気になるシステム構成ですが、AWSクラウド上に展開されており以下のようになっています。(下記画像は塩野義製薬様より提供頂きました。ありがとうございます。)
ポイントとしては、BedrockでAnthropic の Claude 3.5 Sonnetを使っている部分です。
上記はBedrockのモデルアクセスの画面ですが、上記の通り東京リージョンではClaude 3.5 SonnetとClaude 3 Haikuのみが単独モデルとして利用できる形になっています。
Cross-region inferenceを使用する場合、東京リージョン以外のリージョンでLLMが使用される場合があります。塩野義製薬様では、現在のところ利用リージョンを限定されているため、ルーティング先のリージョンによってはエラーとなることがあります。将来的にはクロスリージョンの利用も検討されているとのことですが、現段階ではこのような事情からClaude 3.5 Sonnetを利用されています。
また、もう一つの特徴としてインターネットを介していないので、セキュアな設計となっていることを仰っていました。上記の点も踏まえ、かなりセキュリティには意識されてるのが伝わりますね。
また、工夫されている点として、医療医薬品開発の文書管理システムとは切り分けていることが挙げられていました。医療医薬品開発の文書は上記でも出てきたGCPに沿った監査対応が必要となります。この監査のスコープを狭めるためにこういった工夫をされてるとのことです。
成果と今後の展望
このアプリケーションにより、大幅な業務効率化が実現できるかもしれないとのことでした。ただ、メディカルライターからは改善要望もあるとのことで、実際の実務の中で検証・改善を繰り返しているとのことです。
この話を聞いて、走りながら改善することを体現されていてとても良いなと思いました。私も実務にガンガン生成AIを取り入れていこうと思いました。
また、システム観点での課題としては生成AIのオブザーバビリティを挙げられていました。AWS X-RayやLangfuseを活用しようとしてるとのことでプロアクティブな監視をすることで、品質とパフォーマンスの継続的改善につなげたいとのことです。
まとめ
以上、塩野義製薬様での生成AIの取り組みについてでした。実は弊社は塩野義製薬様とは少なからず関わりがあるのですが、AWSアカウントの迅速な払い出しなどの部分で助かっているとのお声を頂きとても嬉しく思いました。よりお役に立てるよう、生成AIの技術をいち早くキャッチアップするように一層励んでいこうという気持ちになりました。
以上、とーちでした。