【レポート】AWS で実現する信託プラットフォーム~三井住友信託銀行のデジタルへの挑戦~ #AWSSummit
こんにちは、CX事業本部の若槻です。
今回は、現在開催中のAWS Summit Onlineより、三井住友信託銀行によるセッションCUS-22:AWS で実現する信託プラットフォーム~三井住友信託銀行のデジタルへの挑戦~についてのレポートとなります。
セッション情報
タイトル
スピーカー
- 三井住友信託銀行株式会社 常務執行役員 上田 純也 氏
概要
三井住友信託銀行では、「信託ならでは」のデジタル戦略の推進を掲げ、2018 年以降 AWS サービスの活用を促進しています。本セッションでは三井住友信託銀行のデジタル戦略のご紹介に加え、これまで取り組んできたマイグレーションと今後のクラウド活用の高度化についてもご紹介します。
アジェンダ
- 三井住友信託銀行について
- 三井住友信託銀行らしいデジタル戦略
- 等身大のクラウドジャーニー
- クラウドジャーニーを振り返って(変わったこと、変わっていないこと)
1. 三井住友信託銀行について
三井住友信託銀行の概要とビジネス
- 出自は日本最古の信託会社
- 約100年の歴史をもつ信託銀行グループ
- 三井住友信託銀行を中核に多彩なビジネスを展開
- 銀行≠信託銀行(銀行業務?信託銀行の業務の一部です)
- 銀行ビジネスと多彩な信託関連ビジネスの融合、多彩なビジネス展開
- 特徴ある収益構造
- 多彩なビジネス展開=顧客も多彩
- 信託関連ビジネスにおける優位性
- 銀行ビジネスは大手銀行としての存在感を発揮
2. 三井住友信託銀行らしいデジタル戦略
黎明期から成長・発展期へ
三井住友信託銀行のデジタル戦略の歩みについて。
6領域のDX推進
前述の中期経営計画で現在取り組んでいる6領域のDX推進について。
6領域のうち①、②のプロジェクト「ロイヤルティの向上」「ドメインの拡大」について。
- RPA、AI、OCRの連動
- 信託らしい多様なデータの利活用、高度化・民主化
6領域のうち③、④のプロジェクト「新たな成長領域の確立」「新市場/新事業の開拓」について。
- 相続プラットフォーム
DX推進全体像のまとめ。
3. 等身大のクラウドジャーニー
上田氏がAWS Summit 2018で登壇した際に次のようなやり取りがあったとのこと。
"クラウドを推進する上での最大のバリア・障害はなんですか?(AWS)"
→"クラウド導入のバリア・障害は、経営やリスク管理部門でなくやりかたを変えたくない現場かもしれない(上田氏)"
クラウドへの取り組み方針
- 分散系システムの約70%をクラウド化の方針
信託ビジネスとクラウド
信託ビジネスには次のような特徴がある。
- 多様な事業領域・幅広い顧客基盤
- 専門性の高い多品種な商品・サービス
- 顧客ニーズに応じた「カスタマイズ」
つまり、
- 資産管理ビジネスを中心とした信託ビジネスはクラウドとの親和性が高い(機動的なサービス導入・拡大、状況に応じたIT・デジタル化)
当社のクラウドの歩み
仮想共通基盤にて採用したAWSの比率を、今後70%にまで高めていく方針とのこと。
今まではリフト中心であったが、これからはシフト中心に取り組んでいくとのこと。
コンテナ環境整備
アプリケーションフレームワーク「i-Bank2」の稼働環境を、オンプレ仮想サーバからAWS(Amazon EKS)に移行することにより(2021年夏頃リリース)、次のような課題の解消を図るとのこと。
- 課題
- 仮想サーバの構築、提供スピードに不満
- サーバ台数増加に伴う、管理コストの増加
- 利用しているオンプレサーバのハード老朽化が目前に
- 商用ミドルウェアの保守サポート費の増加
- 自前でKubernetesを使用したコンテナ実行環境構築の難易度が高く、運用コストも高い
- ポイント
- Amazon EKSやAWSのマネージドサービスを使用することで、コンテナ実行環境の構築は容易になったが、そのままでは社内で利用、運用することができない。
- 対応
- 当社の既存の統合運用機能(監視、本番ライブラリコピー、特権ID管理等)との連携
- コンテナ開発、コンテナ運用、それぞれの標準化の策定
- クラウド視点、コンテナ視点、それぞれのセキュリティ対策(ECRスキャン機能)
- 定期的なAmazon EKSのバージョンアップに対応する、Blue/Green Deployment環境の構築
- コンテナ利用を前提とした、ミドルウェアの見直し(OSS化)
- 工夫した点
- アプリケーションの構成や既存のルール(運用面)や役割分担は原則維持
- この前提を崩すと、いつまでたっても新しいものを導入できない。
- いきなり既存のアプリをマイクロサービス化なんてできない。変化を最小限にすることもある意味スモールスタート
- AWSクラウドサービスの恩恵を最大限享受するために自前での作りこみを最低限にし、標準的な構成にしていること
- AWS、コンテナに関するスキル、ノウハウを維持する為、自社(銀行、グループシステム会社)のメンバー中心で体制を構築(開発、技術(インフラ)、運営の参画)
- システム構成
- AWS東京リージョン上に構築(マルチAZ構成)
- Amazon EKS + EC2の構成で構築(Fargateについても利用可能)
- DBについてはオンプレのDBMS環境かRDSを利用する
- 開発環境、本番環境をそれぞれ構築、開発環境から本番環境にコンテナイメージファイルをコピーする仕組み(ライブラリコピー)を構築する
- VPCエンドポイントによるAWS構内NWに閉じた環境の構築
- リリース当初は社内システムの利用を想定
- 今後の展開
- 現状
- コンテナ実行環境構築中
- 2021年夏頃本番リリース予定
- リリース後
- 今後リリース予定の大阪リージョンへの構築(広域被災に対する対応)
- 利用アプリケーションの拡大、拡大に合わせた実行ノードのスケールアウト、新たなEKSクラスタの追加
- コンテナ関連の新規AWSサービス、サーバレスや他のAWSサービスとの連携・取り込み
- 中長期
- コンテナを活用した、マイクロサービスへの取り組み
- コンテナを活用した、DevOpsの推進
- クラウド、コンテナ等の新技術に精通した人材の育成、確保
- 現状
クラウド推進"マインドセットの変化のために"
クラウド分野に消極的であった三井住友信託銀行では、マインドセットを変えるために次のような取り組みを行った。
- 2019年度でのべ250名の研修受講を計画
- 新型コロナの影響でのべ160名の実績
- システム開発経験のない企画担当者(文官)も受講
- AWS認定資格の取得費用の会社負担(他の資格同様の取扱い)
これらの取り組みにより、
- クラウド知識習得や人材育成に加えて、「クラウドが当たり前の世界観の定着」
- さわってみることによる心理的バリアの排除
- 予算や計画担当者のクラウドへの理解
また、結果論ではあるが次の事柄も効果があったとのこと。
- 象徴的な案件での採用と効果の実現
- 投資マネージフロントシステム
- オンプレ比コスト、期間とも大幅削減でC/O
- 基盤クラウド移行によりユーザー部門の業務効率化が実現(概ね年間10,000時間程度の残業削減期待)
- 三井トラストアセットマネジメントの基盤での全面採用
- 三井住友信託銀行の運用機能を分割、三井住友トラストアセットマネジメントへの統合に合わせて機動的なクラウドベースのシステムインフラ更改を実施
- 投資マネージフロントシステム
これからのクラウドの歩み
共通フレームワーク標準化による社内PaaSを設けたり、SaaSやローコードプラットフォーム(LCP)を活用したりすることにより、システム開発部門やユーザー部門がビジネスロジックに集中できるようにしていきたいとのこと。
- クラウド利用/運用管理高度化(標準化)、クラウド機能をフル活用した開発へ
⇓ - とすると従来のシステム部門の組織建て(ITインフラセクション)の再定義が必要ではないか。
⇓ - 社内PaaSの企画・開発・運用組織へ転換
4. クラウドジャーニーを振り返って(変わったこと、変わっていないこと)
変わったこと
- 新しい技術へ取り組むマインドセット
- クラウドを前提とした「資源管理」「予算管理」
- 「資源管理」従来は資源不足監視中心 → 無駄の監視・効率的な資源利用
- 「予算管理」クラウドコストの管理会計上のコスト配布
- ハード調達などサンク「コスト・時間・人」は実際かなり大きい
(実は)変わっていないこと
- クラウドのリスクは根源的にはオンプレも変わらない
- =(イコール)システム開発・運営の本質的原理原則を守るということ
おわりに
AWS Summit Onlineより、三井住友信託銀行によるセッション「CUS-22:AWS で実現する信託プラットフォーム~三井住友信託銀行のデジタルへの挑戦~」についてのレポートでした。
三井住友信託銀行さんのような金融かつ大企業においても、既存システムのクラウドへの「リフト」だけに留まらず、Amazon EKSのようなクラウドネイティブな仕組みへの「シフト」まで行われているというのは、クラウドファーストの潮流がますます加速しているのを感じますね。
以上