AWSタイランドリージョンのメリットと注意点 (シンガポールリージョンとの比較)
タイオフィスの三並です。
AWSタイランドリージョン(ap-southeast-7)が始まりました。さっそく数日使ってみたので、感想などを交えながら、タイランドリージョンの利点と注意点をまとめてみました。
概要
2024年1月8日、AWSはタイにリージョンを開設しました。これまでタイでAWSを使うユーザーの多くは、地理的に近いシンガポールリージョンを利用してきました。新たな選択肢としてタイランドリージョンが加わりました。
タイランドリージョンは、レイテンシー、コスト、コンプライアンスの面で、タイのユーザーにとって魅力的な特徴を持っています。一方で、新しいリージョンならではの制限事項もあります。
タイランドリージョンの3つの主要なメリットと注意点について、シンガポールリージョンとの比較を交えながら解説します。タイでAWSを利用している方、これから利用を検討している方の参考になれば幸いです。
メリット1:タイ国内からのアクセスが高速
タイランドリージョンの最大のメリットは、タイ国内からのアクセス速度です。データセンターがタイ国内にあることで、シンガポールリージョンと比較して大幅なレイテンシーの改善が期待できます。
私が実際に使用してみた感じとしては、シンガポールリージョンに比べて、レスポンスでその違いを体感できました。具体的には、EC2インスタンスへのSSH接続や、リモートでEC2上でVSCodeを動かしているのですが、この際のレスポンスがよくなり、日常的な作業でのストレスが軽減されました。
以下のようなタイ国内のエンドユーザーに向けたサービスを提供している場合、ユーザー体験の向上にも直接的につながると思います。
- インタラクティブなWebアプリケーション
- ストリーミングサービス
- オンラインゲーム
シンガポールリージョンと比較すると、タイランドリージョンではレイテンシーが大幅に改善され、より快適なサービス提供が可能になっています。
実際にPingを打ってみた結果は以下に記載しました。
メリット2:シンガポールリージョンより約10%安価
タイランドリージョンの2つ目のメリットは、コスト面です。
すべての価格を確認したわけではないですが、以下のような主要サービスで価格差がありました。
- Amazon EC2インスタンス
- Amazon S3ストレージ
見た限りでは、シンガポールリージョンと比較して約10%程度安価な料金設定となっています。
例えば、同じスペックのEC2インスタンスを利用する場合、タイランドリージョンを選択することで、月額コストを10%程度削減できます。
特に、以下のようなケースでコストメリットが大きくなります。
- 大量のEC2インスタンスを利用するシステム
- 大容量のS3ストレージを必要とするケース
- 長期運用を予定しているプロジェクト
メリット3:タイのPDPA対応がしやすい
3つ目のメリットは、タイの個人情報保護法(Personal Data Protection Act、通称PDPA)への対応がしやすい点です。
PDPAでは、個人情報の国外移転に関して一定の制限があります。タイランドリージョンを利用することで、データを国内に保持できるため、コンプライアンス対応がよりシンプルになります。
RDS、S3、EC2(EBS)、EFSなどの主要なストレージに関するサービスがタイランドリージョンで利用可能になりましたので、タイ国内にすべてのデータを保存し、安全に運用することが可能になりました。
特に以下のようなPDPAを意識するケースではぜひ使用を検討するべきだと思います。
- タイ国内のユーザーの個人情報を扱うシステム
- 政府機関や金融機関との取引が必要なシステム
- PDPAの厳格な遵守が求められるプロジェクト
注意点:新規リージョンならではの制限事項
タイランドリージョンは、立ち上がったばかりの新しいリージョンのため、いくつかの制限事項があります。システム設計時には以下の点に注意が必要です。
1. 利用可能なサービスの制限
- 主要なAWSサービスは利用可能ですが、全てのサービスが提供されているわけではありません
- 今後、新しいサービスは順次追加されると思います。
2025年1月時点でのシンガポールリージョンとタイリージョンのサービスの際は以下の通りです。
左がシンガポール、右がタイです。画像をクリックすると大きく表示できます。
2. EC2インスタンスタイプの制限
- 一部の古いインスタンスファミリーは利用できません
- ただし、最新の主要なインスタンスファミリーは利用可能で、一般的な用途では問題ありません
具体的には、以下の様になっています。
2025年1月時点で見た限りでは以下のような状況でした。
タイランドリージョンで使用できるインスタンスファミリー
・t3、t4gなどのバースト系
・m6g,m6i,c6g,c6i,r6g,r6iなどのIntelとGravitonの安価なCPU
・m7g,m7i,c7g,c7i,r7g,r7iなどのIntelとGravitonの最新のCPU
・i4i,i3en,m6idなどのローカルストレージ付き
・m7g.metal、m7i.metal、m6g.metal、m6i.metalなどのような専用サーバー
注意が必要なのは、以下のようなものはありませんでした。
・t3a,m6a,m7aなどのAMD系CPU
・m5, m4などの古いインスタンスファミリー
・GPUが載っているP系、G系など
最新情報は随時更新されるので、ぜひ以下の公式サイトでご確認ください。
3. 各サービスの機能制限
- 一部のサービスでは、細かい機能が制限されている場合があります
- 利用前に、必要な機能が提供されているか確認することをお勧めします
これらの制限は、多くの場合、一般的なユースケースでは大きな問題とはなりませんが、システム設計時には考慮が必要です。また、今後のアップデートで順次解消されていくことが期待されます。
以下はシンガポールリージョンとタイランドリージョンのEventBridgeの左のメニューを比較した画像です。画像をクリックすると大きく表示できます。
もちろんEventBridgeでの重要機能であるEventBusとRuleは使えるので、そんなに大きな問題はないのですが。
まとめ
タイランドリージョンには、以下の3つの大きなメリットがあります。
- 高速化(低レイテンシー)
- コスト削減
- PDPAコンプライアンス
新規リージョンならではの制限事項はありますが、一般的なユースケースでは十分に活用できる機能が提供されています。特にタイ国内向けのサービスを提供している場合、タイランドリージョンへの移行を検討する価値は十分にあるでしょう。
今後、利用可能なサービスや機能は順次拡充されていくことが期待されます。タイでAWSを利用している、または検討している方々にとって、タイランドリージョンは非常に魅力的な選択肢となるはずです。