AWSタイランドリージョンのメリットと注意点 (シンガポールリージョンとの比較)

AWSタイランドリージョンのメリットと注意点 (シンガポールリージョンとの比較)

2024年1月に開設されたAWSタイランドリージョンの主要な3つのメリット(高速なレイテンシー、約10%のコスト削減、PDPAへの対応)と注意点について、シンガポールリージョンとの比較を交えて解説します。
Clock Icon2025.01.12

タイオフィスの三並です。

AWSタイランドリージョン(ap-southeast-7)が始まりました。さっそく数日使ってみたので、感想などを交えながら、タイランドリージョンの利点と注意点をまとめてみました。

概要

2024年1月8日、AWSはタイにリージョンを開設しました。これまでタイでAWSを使うユーザーの多くは、地理的に近いシンガポールリージョンを利用してきました。新たな選択肢としてタイランドリージョンが加わりました。

タイランドリージョンは、レイテンシー、コスト、コンプライアンスの面で、タイのユーザーにとって魅力的な特徴を持っています。一方で、新しいリージョンならではの制限事項もあります。

タイランドリージョンの3つの主要なメリットと注意点について、シンガポールリージョンとの比較を交えながら解説します。タイでAWSを利用している方、これから利用を検討している方の参考になれば幸いです。

メリット1:タイ国内からのアクセスが高速

タイランドリージョンの最大のメリットは、タイ国内からのアクセス速度です。データセンターがタイ国内にあることで、シンガポールリージョンと比較して大幅なレイテンシーの改善が期待できます。

私が実際に使用してみた感じとしては、シンガポールリージョンに比べて、レスポンスでその違いを体感できました。具体的には、EC2インスタンスへのSSH接続や、リモートでEC2上でVSCodeを動かしているのですが、この際のレスポンスがよくなり、日常的な作業でのストレスが軽減されました。

以下のようなタイ国内のエンドユーザーに向けたサービスを提供している場合、ユーザー体験の向上にも直接的につながると思います。

  • インタラクティブなWebアプリケーション
  • ストリーミングサービス
  • オンラインゲーム

シンガポールリージョンと比較すると、タイランドリージョンではレイテンシーが大幅に改善され、より快適なサービス提供が可能になっています。

実際にPingを打ってみた結果は以下に記載しました。

https://dev.classmethod.jp/articles/ec2-on-thailand-region/#ec2%25E3%2581%25AE%25E8%25B5%25B7%25E5%258B%2595

メリット2:シンガポールリージョンより約10%安価

タイランドリージョンの2つ目のメリットは、コスト面です。

すべての価格を確認したわけではないですが、以下のような主要サービスで価格差がありました。

  • Amazon EC2インスタンス
  • Amazon S3ストレージ

見た限りでは、シンガポールリージョンと比較して約10%程度安価な料金設定となっています。
例えば、同じスペックのEC2インスタンスを利用する場合、タイランドリージョンを選択することで、月額コストを10%程度削減できます。

特に、以下のようなケースでコストメリットが大きくなります。

  • 大量のEC2インスタンスを利用するシステム
  • 大容量のS3ストレージを必要とするケース
  • 長期運用を予定しているプロジェクト

メリット3:タイのPDPA対応がしやすい

3つ目のメリットは、タイの個人情報保護法(Personal Data Protection Act、通称PDPA)への対応がしやすい点です。

PDPAでは、個人情報の国外移転に関して一定の制限があります。タイランドリージョンを利用することで、データを国内に保持できるため、コンプライアンス対応がよりシンプルになります。

RDS、S3、EC2(EBS)、EFSなどの主要なストレージに関するサービスがタイランドリージョンで利用可能になりましたので、タイ国内にすべてのデータを保存し、安全に運用することが可能になりました。

特に以下のようなPDPAを意識するケースではぜひ使用を検討するべきだと思います。

  • タイ国内のユーザーの個人情報を扱うシステム
  • 政府機関や金融機関との取引が必要なシステム
  • PDPAの厳格な遵守が求められるプロジェクト

注意点:新規リージョンならではの制限事項

タイランドリージョンは、立ち上がったばかりの新しいリージョンのため、いくつかの制限事項があります。システム設計時には以下の点に注意が必要です。

1. 利用可能なサービスの制限

  • 主要なAWSサービスは利用可能ですが、全てのサービスが提供されているわけではありません
  • 今後、新しいサービスは順次追加されると思います。

2025年1月時点でのシンガポールリージョンとタイリージョンのサービスの際は以下の通りです。

左がシンガポール、右がタイです。画像をクリックすると大きく表示できます。
singapore_thai_different

2. EC2インスタンスタイプの制限

  • 一部の古いインスタンスファミリーは利用できません
  • ただし、最新の主要なインスタンスファミリーは利用可能で、一般的な用途では問題ありません

具体的には、以下の様になっています。

2025年1月時点で見た限りでは以下のような状況でした。

タイランドリージョンで使用できるインスタンスファミリー
・t3、t4gなどのバースト系
・m6g,m6i,c6g,c6i,r6g,r6iなどのIntelとGravitonの安価なCPU
・m7g,m7i,c7g,c7i,r7g,r7iなどのIntelとGravitonの最新のCPU
・i4i,i3en,m6idなどのローカルストレージ付き
・m7g.metal、m7i.metal、m6g.metal、m6i.metalなどのような専用サーバー

注意が必要なのは、以下のようなものはありませんでした。
・t3a,m6a,m7aなどのAMD系CPU
・m5, m4などの古いインスタンスファミリー
・GPUが載っているP系、G系など

最新情報は随時更新されるので、ぜひ以下の公式サイトでご確認ください。
https://aws.amazon.com/ec2/pricing/on-demand/

3. 各サービスの機能制限

  • 一部のサービスでは、細かい機能が制限されている場合があります
  • 利用前に、必要な機能が提供されているか確認することをお勧めします

これらの制限は、多くの場合、一般的なユースケースでは大きな問題とはなりませんが、システム設計時には考慮が必要です。また、今後のアップデートで順次解消されていくことが期待されます。

以下はシンガポールリージョンとタイランドリージョンのEventBridgeの左のメニューを比較した画像です。画像をクリックすると大きく表示できます。
eventbridge_singapore_thai
もちろんEventBridgeでの重要機能であるEventBusとRuleは使えるので、そんなに大きな問題はないのですが。

まとめ

タイランドリージョンには、以下の3つの大きなメリットがあります。

  1. 高速化(低レイテンシー)
  2. コスト削減
  3. PDPAコンプライアンス

新規リージョンならではの制限事項はありますが、一般的なユースケースでは十分に活用できる機能が提供されています。特にタイ国内向けのサービスを提供している場合、タイランドリージョンへの移行を検討する価値は十分にあるでしょう。

今後、利用可能なサービスや機能は順次拡充されていくことが期待されます。タイでAWSを利用している、または検討している方々にとって、タイランドリージョンは非常に魅力的な選択肢となるはずです。

Share this article

facebook logohatena logotwitter logo

© Classmethod, Inc. All rights reserved.