
Claude Science ベータ版がリリースされたのでコーヒー好きがカフェインの構造と物性を調べてみた
はじめに
Claude Science(ベータ版)は、文献調査から解析コードの実行、図表、原稿の生成までをこなせる機能を 1 つのツールに統合した研究者向けの支援ツールです。Anthropic が 2026 年 6 月 30 日にベータ版を公開しました。コーヒーがないと仕事が進まない IT エンジニアを代表してカフェインの分子物性計算を試してみました。
Claude Science でうれしいこと
研究の現場では、文献検索、解析コードの記述、可視化、計算環境(HPC)がそれぞれ別のツールに分かれがちです。それは適材適所なので理にかなっているのですが、Claude Science はこれらを 1 つの環境に統合し研究を支援するツールです。
IT エンジニアの視点で利点だと感じたのは、Claude のスキルや、作業で必要になりがちな MCP サーバーが最初から組み込まれている 点です。普段なら 1 つずつ探して設定するものがはじめから使える状態になっています。Claude Code の科学版という位置づけで、コーディングの知識が浅くても解析の入口に立てたり、作業支援に使える可能性を感じました。研究者ではないので正確なことは言えないのですが、HPC クラスター環境での効率的な計算処理方法の検討など IT だったり、コンピュータサイエンス周り知識のフォローには充分に役立つのではないでしょうか。
確認結果
- Mac に DMG を導入するとローカル Web アプリ(
http://localhost:8765)として起動し、claude.ai アカウントのサインインだけで使えました(API キー不要) - カフェインの SMILES を渡すだけで、構造の描画から物性の計算まで対話だけで終わりました。
- 裏では RDKit のコードが自動生成、実行されていました
- 算出された物性値は、PubChem で確認した値と一致しました
- AI の結果を公式データで裏取りもできました
- ただ、ある値は PubChem のデータを採用し、別の値は自前で計算したものだと、AI が出どころまで自分から説明してくれました
- 3D 構造も生成でき、ブラウザ上の 3D ビューアでマウス操作により回転、ズームして確認もできました(便利)
前提条件
- 対応 OS は macOS 13 以降、または Linux x64(Windows 版はネイティブ未提供。公式に WSL 2 上での実行手順あり)
- 契約プランは claude.ai の Pro、Max、Team、Enterprise のいずれか(Team、Enterprise は管理者による有効化が必要)
インストールと初回セットアップ
macOS では製品ページの「Download now」から「Mac (Apple Silicon)」を選び、インストーラー(DMG)をダウンロードします。ダブルクリックで導入し、初回起動時はランタイムのセットアップに数分かかります。

Claude Science はローカルにサーバーを起動し、ブラウザで開く Web アプリとして動作します。起動すると http://localhost:8765 にアクセスした状態で開きます。claude.ai アカウントでサインインすると、セットアップウィザードが始まります。ウィザードでは利用するコネクタとスキル、Claude がアクセスしてよいフォルダやウェブサイトを順に設定します。


途中で「What do you work on?」と業務内容の入力を求められます。めんどくさいものはスキップしていきました。


セットアップが完了するとホーム画面が表示されます。設定は後からいつでも変更でき、データはすべて ~/.claude-science フォルダに保存されます。
プロジェクトを作成する
作業はプロジェクト単位で管理します。新しいプロジェクトを作成します。


プロジェクトを開くと、一見したところは通常の Claude のチャット画面と大きく変わりません。ここに自然言語で依頼していきます。モデルの選択肢は Haiku 4.5, Sonnet 5, Opus 4.8 の 3 つでした。Fable 5 は、バイオに関してはガードレールが厳しいので最初から選択肢にない状態でした。

カフェインの物性を計算してみる
カフェインの SMILES を渡して構造の描画と物性の計算を依頼します。SMILES は分子の構造を文字列で表す記法です。今回は PubChem のカフェインのページの SMILES 欄からコピーして使いました。
Caffeine | C8H10N4O2 | CID 2519 - PubChem
次の SMILES で表される分子(カフェイン)を描画し、分子式・分子量・XLogP・水素結合ドナー数・水素結合アクセプター数を計算してください。
SMILES: CN1C=NC2=C1C(=O)N(C(=O)N2C)C
依頼すると、エージェントは裏で RDKit のコードを自動生成、実行し、分子式、分子量、XLogP、水素結合ドナー/アクセプター数を計算がはじまりました。

実行結果です。2D の構造式も作成されました。入力した SMILES が PubChem 収載のカフェインと一致することも確認したとコメントがあり、私と同じく PubChem を参照しているオチでした。ここを勝手に推測せずに、まず間違いのない情報を確認しようと見に行ってくれるのは優秀。

PubChem の値と突き合わせてみる
AI が出した値をそのまま信じるのではなく、既知の正解情報と答え合わせします。カフェインは化合物データベース PubChem に CID 2519 として登録されています。Claude Science が計算した物性値を、PubChem の参照値と並べて確認します。
| 項目 | PubChem(CID 2519) | Claude Science の出力 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 分子式 | C8H10N4O2 | C8H10N4O2 | ○ |
| 分子量(g/mol) | 194.19 | 194.19 | ○ |
| 水素結合ドナー数 | 0 | 0 | ○ |
| 水素結合アクセプター数 | 3 | 3 | ○ |
| XLogP | -0.1(XLogP3) | -0.1(XLogP3 を採用) | ○ |
描画された構造式も、PubChem のカフェイン(CID 2519)のページに載っている構造図と見比べると同じ形でした。専門知識がなくても、公式データベースの図と並べて見比べれば、同じ分子が描けているかくらいは確認できます。
Caffeine | C8H10N4O2 | CID 2519 - PubChem

表のとおり数値はいずれも PubChem の参照値と一致し、AI の計算結果を一次情報で裏取りできたことになります。
個人的な勉強コーナー
休日に検証していることもあり少しは身になる勉強したい欲があります。logP についてのメモを書き残しておきます。
logP は「その分子が水と油のどちらに溶けやすいか」を表す指標で、今回計算した物性の 1 つです。ここでのポイントは、logP には計算方法が何種類かあり、方法が違うと値も少し変わることです。
Claude Science は、XLogP の欄には PubChem が公開している値(-0.1)をそのまま採用しました。一方、自前のライブラリ(RDKit)で計算すると -1.03 という別の値になりました。これは計算方法が違うためでどちらかが誤りというわけではありません。
ちなみに今回の値はどちらもマイナスで、カフェインは水に溶けやすい側でした(-0.1 は 0 に近く、ほぼ中間でわずかに水寄り)。お湯で淹れるコーヒーにカフェインが溶け出すのもこう考えると納得です。
感心したのは、AI がこの食い違いを自分から説明してくれた点です。-1.03 を「これが logP です」と黙って出すのではなく、「PubChem の値とは計算方法が異なり一致しない」ということ教えてくれました。計算が正しいのか?ソースはどこか?を気になる私としては安心して受け取れる挙動でした。
各値には、なぜその数になるのかという背景解説も添えられていました。化学の詳細は本記事では省きますが、値だけでなく理由まで返してくれる点は便利でした。
3D 構造も生成して見比べてみる
2D の構造で見た目を確認できたので、次は 3D 構造を作らせてみます。ここで 1 つ補足します。3D の座標は生成アルゴリズムしだいで変わるため、PubChem の 3D と数値レベルで一致させるものではありません。全体の形を目で見比べるくらいでの確認します。
3D 生成を依頼すると、Claude Science は RDKit で 3D 座標を生成しました。手順は、ETKDGv3 法で初期座標を作り MMFF94 力場で最適化するというものでした。再現性のために乱数シードを 42 に固定したことも説明されました。

生成物は caffeine_3d.pdb と caffeine_3d.sdf の 2 つのアーティファクトとして保存されました。ファイルは Claude Science 上でそのまま開けます。

開くとインタラクティブな 3D ビューア(Mol*)で表示され、マウスのドラッグで回転、ズームして確認できます。統合ツールというだけあって便利です。

生成された 3D を、PubChem のページにある 3D Conformer ビューと見比べてみました。
Caffeine | C8H10N4O2 | CID 2519 - PubChem
座標そのものは一致しませんが、全体の形はよく似ています。細かい化学的な妥当性までは私には判断できませんが、少なくとも見た目の形は公式データと大きく食い違っていませんでした。
まとめ
カフェインの SMILES を渡すだけで、Claude Science は 2D 描画、物性計算、3D 生成までを自然言語の指示だけで完了しました。算出された物性値は PubChem の参照値と一致し、AI による計算結果を一次情報で裏取りまでできました。
おわりに
専門知識のない私の様な IT エンジニアがはじめるには、結果を既知の正解と照合できる題材から始めるとよいです。土曜の朝からはじめ、なんやかんやしつつ最終的に書き終わったのが 23 時なのですが、書き終えるまでに必要だったコーヒーは 4 杯でした。カフェインの取り過ぎは否めないですが、疲れたのでよく眠れるはずです。





