論文用のグラフィカルアブストラクトの叩き台を Gemini でサクッと作る

論文用のグラフィカルアブストラクトの叩き台を Gemini でサクッと作る

2025.12.26

はじめに

論文にグラフィカルアブストラクトを添える際、こんな悩みはありませんか。

  • 頭の中にイメージはあるけど、絵を書くのが苦手
  • どのように図解すると効果的か悩ましい
  • 時間がない

最近、図解に Gemini の Nano Banana Pro を活用しています。ある日、生成した図を研究者の方に見せたところ、「これはグラフィカルアブストラクトのたたき台に使えるのでは」という声をいただきました。そこでグラフィカルアブストラクト用のプロンプトを作成して試してみました。

たとえば、以下のような図が数十秒で生成されます。

unnamed (1).jpg

筆者は論文を書く側の人間ではないため、生成された図が学術的に最適かどうかの判断はできません。プロンプトの作成過程を紹介することで、読者の皆さんが自分の研究に合わせてカスタマイズできるように配慮しました。その検証結果とプロンプトを共有します。

前提条件

Gemini の Nano Banana Pro を使用します。Nano Banana Pro は Gemini の画像生成機能です。Gemini のチャットウィンドウからテキストプロンプトを入力することで、高品質な画像を生成できます。

利用には Google アカウントが必要です。Gemini のウェブサイトからアクセスできます。

グラフィカルアブストラクトとは

グラフィカルアブストラクトは、論文の趣旨を視覚的に示した図です。通常は Illustrator や PowerPoint などの画像編集ソフトで作成する必要がありました。ただ、デザインスキルや、そもそも時間がない場合は図を作成するのが大変です。

生成 AI を使うと複数のデザインパターンを生成できます。たたき台を短時間で複数用意でき、どの方向性が最適か検討に役立つのではないかと今回は試してみました。

作成したプロンプトと使用方法

プロンプトがどのように作成されたかは、後述の「プロンプトの作成過程」で説明します。まずは使い方と実際の生成結果を見てみましょう。

使い方

  1. Gemini のチャットウィンドウで画像の作成を選択
  2. 以下のプロンプトをコピーして、貼り付けて送信
  3. アブストラクト本文の入力を求められたら、後続のメッセージとしてあなたの論文のアブストラクトを貼り付けて送信
  4. 画像が生成されます

サンプルプロンプト

You are an expert in creating scientific graphical abstracts. Based on the research abstract I will provide, create a professional graphical abstract suitable for publication.

**Instructions**:
1. Analyze the abstract and identify:
   - Main research theme and key message (take-home message)
   - Key biological/chemical entities (cells, molecules, organisms, etc.)
   - Research methodology or approach
   - Main findings or conclusions
   - Comparisons or contrasts (if any)

2. Design a graphical abstract with:
   - **Layout**: Choose the most appropriate layout (parallel comparison, flow chart, branching tree, or single panel) based on the research structure
   - **Visual elements**: Include recognizable icons/illustrations for:
     * Experimental subjects (mice, cells, tissues, organs, etc.)
     * Key molecules or structures
     * Processes or mechanisms
     * Results or effects
   - **Color scheme**: Use a professional scientific color palette with:
     * Main color (70%): Choose based on research field
     * Accent color (25%): Complementary or analogous to main color
     * Highlight color (5%): For emphasis
   - **Text**: Minimal text labels in sans-serif font, focusing on key terms only
   - **Flow**: Clear visual flow (left-to-right, top-to-bottom, or center-to-periphery)

3. Style requirements:
   - Clean, professional scientific illustration style
   - NOT photorealistic, but clear schematic representations
   - High contrast between elements and background
   - Balanced composition with clear visual hierarchy
   - Suitable for publication in academic journals

4. Generate a single, comprehensive graphical abstract image that:
   - Communicates the main research finding at a glance
   - Can be understood by researchers in related fields
   - Is visually appealing and professional
   - Uses standard scientific visual conventions

**Please provide your research abstract now, and I will create the graphical abstract for you.**

使用例

テスト用アブストラクト

プロンプトの実行結果を検証するため、仮想の論文のアブストラクトを用意しました。オホーツク海産ホタテガイの養殖方式と呈味成分に関する内容を生成 AI に作成してもらいました。私が食べて育ったホタテのことを Gemini3 さんに熱く伝えたところ、それっぽい内容に仕上がったのでこちらを使用します。

日本語版

Title:
地撒き方式で生育されたオホーツク海産ホタテガイの呈味成分および食感特性に関する研究

Abstract
ホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)の養殖方式による生化学成分の違いについては先行研究で報告されているものの、呈味成分と食感特性を官能評価と組み合わせて検証した研究は十分ではないことが問題となっている。そこで本研究では、砂地に稚貝を放流して生育させる地撒き方式が、ホタテガイの呈味成分および食感特性に与える影響を明らかにすることを目的とした。その達成のために、オホーツク海において 3〜4 年間生育した地撒き方式群と垂下式養殖群の貝柱について、遊離アミノ酸組成およびグリコーゲン含量を HPLC 法により定量し、テクスチャーアナライザーを用いた破断強度試験と訓練されたパネリストによる官能評価を実施した。その結果、地撒き方式群では旨味に寄与するグルタミン酸含量が垂下式群と比較して 1.3 倍、甘味成分であるグリコーゲン含量が 1.4 倍高い値を示した。また、貝柱の破断強度は地撒き方式群で有意に高く、官能評価においても「身の締まり」「旨味の濃厚さ」の項目で高いスコアを獲得した。これらの成果は、砂地での自然遊泳による運動負荷が筋繊維の発達を促進し、長期生育によるオホーツク海の豊富な栄養塩の蓄積が呈味成分の増加に寄与することを示唆しており、高品質ホタテの生産における養殖手法選択に科学的根拠を提供するという点で重要である。

英訳版

実際の作成環境を考えると英語が良かったので、これまた生成 AI で翻訳しました。テストにはこちらの英訳版を使用します。

Although previous studies have reported differences in biochemical components of the Yesso scallop (Mizuhopecten yessoensis) depending on cultivation methods, research combining flavor component analysis and texture properties with sensory evaluation remains insufficient. Therefore, this study aimed to elucidate the effects of the wild-release cultivation method, in which juvenile scallops are seeded onto sandy seabeds, on the flavor components and texture properties of the Yesso scallop. To achieve this objective, adductor muscles from scallops grown for 3–4 years in the Okhotsk Sea were compared between the wild-release (bottom culture) group and the suspended culture group. Free amino acid composition and glycogen content were quantified using HPLC, breaking strength tests were conducted using a texture analyzer, and sensory evaluation was performed by trained panelists. The results showed that glutamic acid content, which contributes to umami taste, was 1.3 times higher in the wild-release group compared to the suspended culture group, while glycogen content, responsible for sweetness, was 1.4 times higher. Furthermore, breaking strength of the adductor muscle was significantly higher in the wild-release group, and sensory evaluation revealed higher scores for "firmness" and "richness of umami" attributes. These findings suggest that the physical exercise load from natural swimming behavior on sandy bottoms promotes muscle fiber development, and that the extended cultivation period allows for greater accumulation of flavor components from the nutrient-rich Okhotsk Sea environment. This study provides scientific evidence for the selection of cultivation methods in high-quality scallop production.

画像生成結果

プロンプトを貼り付けた後に、英語版のアブストラクトも貼り付けて実行してみました。初回の画像生成では、ホタテガイの養殖方式の違いを視覚的に表現したグラフィカルアブストラクトが作成されました。

Google_Gemini.png

さらに他のパターンを 10 パターン要求してみました。

Notification_Center-3.png

案は出してくれますが、10 パターンを連続生成はできないため、案 1 から 1 つずつ生成を依頼していきました。少し手間ですが異なるデザインパターンを複数生成でき、比較検討が楽で良いですね。

案 2
unnamed (1).jpg

案 3
unnamed (2).jpg

案 4
unnamed (3).jpg

案 5
unnamed (4).jpg

案 6
unnamed (5).jpg

案 7
unnamed (6).jpg

これらの中から論文の内容にもっとも適したものをベースにしてデザインを決めると良いのではないでしょうか。

図をそのまま使いたい

図の内容が正しいか判断する必要があります。 一見正しそうな内容でも専門的な知識のある方が見れば不可解な説明になっていることもよくあります。自分の理解できる範囲内で使用することをオススメします。

イラストの素材として使いたい

特定のアイコンを単体で素材として欲しい場合は、その様に依頼すれば素材として手に入ります。

Google_Gemini.png

プロンプトの作成過程

まず、グラフィカルアブストラクトの定義を理解する必要がありました。Web で調べたところ、以下の資料がとくに参考になりました。

グラフィカルアブストラクト実践編

この資料の内容をプロンプトに落とし込めば、グラフィカルアブストラクトを生成できるのではないかと考えました。ここでも Gemini を活用し、人力で落とし込むのではなく、プロンプト作成用のプロンプトを使って自動化しました。

# グラフィカルアブストラクトの作成
## 目的
Nano Banana Proを使用して、グラフィカルアブストラクトのたたき台を作成するのが目的です。

## 生成ツール
- Nano Banana Pro
- Gemini のチャットウィンドから入力を想定

## 要件
1. 参考資料を確認して、グラフィカルアブストラクトに必要な要素を理解すること
1. 参考資料グラフィカルアブストラクトの作成に必要なプロンプトに落とし込むこと
1. プロンプトを作成(言語は英語)

### ユーザーの使用方法
1. 生成されたプロンプトを入力
2. その後に、アブストラクトを入力
3. 画像生成

## アウトプット
グラフィカルアブストラクト生成プロンプトをMarkdownのコードブロックで出力

## 参考資料
- 250715_grahpical-abstract_lecture_ASHBi_handout.pdf
- https://www.scrs.yamanashi.ac.jp/research/how_to_make_graphical_abstract/

当初、プロンプト自体は日本語で作成しましたが、生成される図の中に日本語が混じることも多かったです。そのため、生成するプロンプトも英語にしました。これで図の中のテキストも英語で生成されるように安定させられました。

出力結果

サンプルプロンプトで紹介した内容です。

まとめ

グラフィカルアブストラクト作成の悩みは、生成 AI 活用である程度時間短縮ははかれます。

内容の精査は必要になります。 そのため、生成された図をたたき台として、自分の研究に最適なグラフィカルアブストラクトを作成してください。

おわりに

以下の記事も参考にしました。Nano Banana Pro 登場以前の検証記事ですが興味深い内容でした。この記事がきっかけで、グラフィカルアブストラクトへの生成 AI 活用をまじめに検証してみようと思ったくらいには。

研究のポイントがわかる!グラフィカルアブストラクトとは?|山梨大学研究推進・社会連携機構

より良いプロンプトや活用方法が見つかれば、ぜひインターネットで公開して共有していただけると幸いです。

参考

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