
【登壇資料】 Midosuji Tech #8で「AI時代に考えるビギナーエンジニア×スキルトランスファーとの向き合い方」というタイトルで登壇しました!#midosuji_tech
こんにちは。クラウド事業本部の桑野です。
2026/02/04 に開催された クラメソおおさか IT 勉強会 Midosuji Tech #8 〜レベル300以上限定LT〜 で「AI時代に考えるビギナーエンジニア×スキルトランスファーとの向き合い方」というタイトルで登壇しました。
使用したスライドと登壇内容を本ブログにて共有します。
スライド
前提
私の経験を振り返る形で考察をしています。
今回の考え方を実践したわけではないことをご理解いただければと思います。
本編
冒頭
私から参加者の皆さんに「生成AIツール使っていますか?」と問いかけました。
私の予想は大多数の方が使っているだろうなという感覚でしたが、予想通りほぼ全員挙手という結果でした。
私ももちろん使っています。
使っていて、最近嬉しいと感じていることは、自分の考えや今陥っている状況を一言で説明できるような理論や言葉を聞いたら、それっぽいものをいくつか返してくれるところですね。
AIが出してくれる回答ってなんとなくいい感じがするのです。
その一方で、その回答をそのままに近い形で人に共有したり、人から共有されたものに対して自分の意見を伝えたりすると違和感を感じます。
自分から共有する際は、「自分の考えとして伝わっているのかな」、
人から共有されたものに対して、自分の意見を伝えたときに「ちゃんと届いているかな」という感じです。
そう思ったきっかけは他者の成果物をレビューした時のことです。
プルリクエストや仕様書であったりを確認しているのですが、以下の特徴がありました。
- ぱっと見は綺麗でいい感じに見える
- ところどころ他の人が手を加えたのかなという不自然さがある
- 記述内容が不正確なものが多数ある
- おそらく生成AIを活用している(後から聞くとやはり使っている)
どうすれば良くなるか、自分の経験や考えを交えて伝えるようにしていますが、なかなか伝わっている感じがしないなと悩んでいました。
今回のお話としては、生成AIツールの使用が世間の常識になりつつある中で、ビギナーエンジニアが効果的にスキルトランスファーに取り組むための方法について考えたことを共有するという内容です。
認識合わせ
このLTでは「ビギナー」、「スキルトランスファー」という言葉が頻出します。
それについて私の考える意味合いもあるため、そこの擦り合わせを行いました。
ビギナー
一般的には初級、初学者のことを指します。
私の解釈なのですが、「ある領域で自分の考えや自分以外の考えに対して良し悪しが十分に判断できない」という状態を指します。
また、経験年数はその判断ができる・できないに直結しないため、関係ないと考えています。
スキルトランスファー
一般的には、業務内容や技術を引き継ぎ、蓄積した技術や知識を他の人に伝えることを指します。
主体的に吸収しに行く「スキトラされる側」と吸収を補助する「スキトラする側」の2つの立場があると思っています。
重要なのが、単なる知識の受け渡しではなく、それらを活用するための判断基準を育てることだと考えています。
AIがスキトラを難しくしている?
ここから話を深掘りしていきます。
上の認識合わせで触れたスキトラをAIが難しくしているんじゃないかと考えました。
例えばこんなシーンがあります。
◯スキトラされる側
- 生成AIの回答がいい感じだったのでそのまま共有した
- フィードバックをもらったけどピンとこない
- 指摘されたので、その通り直したけど結果的に方向性がズレていた
◯スキトラする側
- いい感じな生成AIの回答を共有された
- それに対してフィードバックを考えて伝えたけど伝わっている感じがしない
- どうしてそのように考えたのかを聞いても、はっきりとした返答がない
- それが何回か続くと、その人ではない誰かとやり取りしている感覚になる
これは私の経験を抽象化した内容なのですが、両者の間で何かズレがあるなと考えました。
結論
今回は、先に結論を伝えてから、どうしてそのようになったのかを展開していこうと構成を考えました。
結論としては、「スキトラで効果を得たいなら、生成AIとの向き合い方を見直そう」です。
- スキトラされる側は自分の考えを持って受け答えできる状態にする
- スキトラする側は、スキトラされる側に問いかけ、考えを引き出す
- 物事の良し悪しに対する判断基準を養うことを共通のスキトラに取り組む上でのゴールとする
スキトラが難しくなる理由を考えてみた
そもそも、なんでAIの協力を受けた成果物にフィードバックをもらってピンとこなかったり、それにフィードバックを行なって伝わっている感じがしないということが起こるのかについて考えてみました。
私はあまり考えたり、時間をかけていない成果物に対する他者からのフィードバックというのは、そんなに響かないことがあるなというのをなんとなく思い浮かべました。
生成AIの力を借りて作成したものも似たような感覚があるなと思っていて、そこに共通的な部分を見出しました。
反対に、自分が手間暇かけて作ったコードやドキュメントに対するフィードバックについては、ものすごく敏感に反応します。
自分が労力をかけていないという共通項目があるため、人間は「労力をかけていないものに対して、責任感や愛着を感じない」のではないかと仮説を立てました。
そんな理論とか研究結果がないかとか調べていると、「IKEA効果」や「心理的オーナーシップ」という概念に出会いました。
内容については、ざっくりスライドに記載の通りです。
要するに生成AIを使うと、心理的オーナーシップが下がるのではないかと言えます。
2025年7月7日に発表された論文『Writing with AI Lowers Psychological Ownership, but Longer Prompts Can Help』(Nikhita Joshi, Daniel Vogel著)では、AIを使った文章作成と心理的オーナーシップの関係について研究されています。
※無料アクセス可能です。
実験内容はざっくり説明すると、被験者にAIを使って短編小説を作成してもらうというものです。
提示した3つの名詞を使ってプロンプトを作ってもらい、モデルにはGPT-3.5 Turboが採用されています。
結果を要約すると以下の通りだと私は捉えました。
- AIを使って文章を書くと心理的オーナーシップが下がる傾向にある
- ただし、長いプロンプトを書いた場合は心理的オーナーシップが上がる
労力の大きさが心理的オーナーシップを強くするということが言えそうですね。
それなら、人が生成AIを使いたくなる動機についても念のため調べておきたいなと私は考えます。
なんとなく人は楽をしたがる生き物だということを今までの人生で聞くことが何度かあったのと、「ファスト&スロー(ダニエル・カーネマン著)」という本を読んだことがあったため、人が楽をしたがるのはなんでかということを説明できるような理論とかがないか調べてみました。当書籍の「システム1」「システム2」が該当します。
他には「最小努力の法則」も似たような概念です。
要するに、人間は楽をしたがる生き物で、「楽に」「それっぽい答え」を出してくれる生成AIは人類の夢のツールというわけです。
楽をしたいので生成AIを使い、結果的に心理的オーナーシップが下がるということが繋がりそうです。
それではどうすればいいか
スキトラのゴールというのは認識合わせをした通り、知識の受け渡しだけでなく、それらを活用するための判断基準を育てるということでした。
受け渡しだけを考えていると、スキトラされる側は答えをもらって終わり、スキトラする側はアウトプットを評価して終わりとなります。
そうならないために両者でできることはないか考えました。
まずはスキトラされる側の観点で考えてみます。
自ら考えて、どうしてそう判断したのかを答えることができれば、スキトラする側も結論を出す過程を考慮したフィードバックを行いやすくなります。フィードバックの質が上がる可能性を大きくすることができるということです。
裏を返せば、そこが議論できないようだと成果物のみで判断し、フィードバックせざるを得なくなります。
ここで重要なのが、生成AIツール使用有無は関係がないということです。
あくまでもアウトプットを手助けする手段でしかないため、アウトプットに自らの考えが伴っていれば使用は問題ないと考えます。むしろ考えを整理するという部分に役立てることができれば非常に強力なツールとなるでしょう。
AIと壁打ちをひたすら繰り返すことで、思考や知識は洗練されていきます。
- 質問の仕方として「自分はこう考えたが、それ以外の見落としで〇〇が抜けている可能性はあるか?」
- 回答に対して「〇〇と解釈したが、その理解で間違っていないか?合っているのであれば△△の部分で××といった部分で新しい疑問が〜」
と言った形で仮説の確認と解釈の正誤を納得するまで繰り返すことが望ましいでしょう。
生成AIを使うことで、それが難しくなるのであれば、必要に応じて禁止することも選択肢の一つになりそうです。
以下、実際にやってみたご経験をまとめられた方の記事を拝見しました。
開発にAIを導入すれば自然と学ぶことができ、結果的にアウトプットの質が向上するであろうという理由から新人にCursorやClaude Codeを活用してもらっていたという背景があります。
そんな中、アウトプットの質にリスクを感じたというのがきっかけだと読み取りました。
この記事の筆者は「どのような理由で問題の箇所を実装したのか」を新人の方に問いかけるのですが、回答は「AI実装が正しいと思ったから」という内容でした。
この記事のケースでは「自分の頭で考えてもらう」ためにAIを禁止する選択が取られていました。
面白いため、詳細は記事を読んでいただければと思います。きっかけや考え、まとめと読んでいて非常に共感しました。
次にスキトラする側の視点で考えます。
単にアウトプットを評価するだけではフィードバックの質としては物足りません。考えるきっかけやヒントを展開していくということが大切だと考えました。
スキトラされる側に考えるきっかけを用意し、理解を整理する手助けを行うために4つスライドで紹介をしました。
4つ目で紹介したペアプロンプティングという言葉は当日参加いただいた方々に興味を持っていただきました。
ペアプロンプティングはペアプログラミングのような形式で2人ペアになってAIと対話を行うという取り組みです。
ペアプロンプティングはナビゲーターはドライバーに指示を出さず、AIへのプロンプトはドライバーが考えて入力します。
ナビゲーターはどうしてそのプロンプトを投げたのか、ドライバーに深掘りをします。
AIからの回答についてはお互いの解釈を共有し合います。この作業を繰り返し、思考の整理とアウトプットのブラッシュアップを行います。
ナビゲーターはプロンプトの上手な投げ方を示すというよりかは、AIへのインプットとAIからのアウトプットの2つからドライバーの考えを引き出したり、整理する力が求められるのではないかと想像しています。
このペアプロンプティングは何もないところから突然「こういう取り組み良さそう」と思いついたのですが、インターネット上で検索してみると約5件、言及したページを発見しました。
先駆者はすでにいました。
これから流行していきそうな予感がしますし、私自身も実践できる場を現在探しています。
まとめ
先にお伝えした結論につながります。
いかがだったでしょうか。あくまでも自分が感じた違和感を、今の私が納得するためにこのように考えを整理してみました。
これがレベル300に該当しないというご意見もありそうですが、経験に基づくお話ということでご容赦いただければと思います。
ビギナーの方にスキトラを行うのは感覚として非常に大変で難易度の高いことだと感じています。
考えた背景や理由がわかれば、より質の高いフィードバックを考えやすくなりますが、そうでない場合はフィードバックをしてもあまり伝わらないのではないかと邪推してしまいます。
反対に私がビギナーの領域でキャッチアップを行う際には、仮説と解釈の確認をなるべく意識的に行うようにしており、そこにスキトラしてくれる方がいるのであれば、単にアウトプットの評価だけでなく、思考の整理を手伝ってくれることを期待するかなと考えています。
今後スキトラをお手伝いする機会があれば、このような部分を意識してゴールを揃えられるようにしたいです。
もしもAIを活用したスキルトランスファーの実践話があればご共有いただけると嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
また、温かい雰囲気で聴いてくださったMidosuji Tech参加の皆様に深く感謝を申し上げます。ありがとうございました。








