【レポート】ML@Loft #8 「量子コンピュータ × 機械学習」#MLLoft
量子コンピュータ × 機械学習?
2019年11月20日(水)に勉強会「ML@Loft #8 量子コンピュータ × 機械学習」がAmazon Loftにて開催され、これに参加してきました。
https://ml-loft.connpass.com/event/153153/
量子コンピュータやそれに関わる機械学習の、アカデミックな研究者やベンチャー企業の方が発表者として参加された、かなりガチな勉強会でした。 この分野は(マジで)素人ゆえ、うーんわからん、という感じでしたが、少しでも雰囲気をお伝えできればと思いレポートします。
大変な盛況で、広いAmazon Loftがほぼ埋まるくらいの参加者がいました。受付の列が消化できず10分押しくらいで始まりました。飲み物や軽食が最初から提供されていました(ありがとうございます)。
オープニングの際に諸注意として、ツィートはOKだが、動画撮影やアップロードはNG。登壇者から指示がある場合は、それに従ってくださいとの指示がありました。 ハッシュタグは#mlloftです。
質問は、sli.doで受け付けて、ディスカッションの際に登壇者からコメントをもらう形式です。
https://app.sli.do/event/puq5jldy/live/questions
タイムテーブル
- LT10分x5
- パネルディスカッション50分
登壇者とタイトル
- 根来 誠 氏 (大阪大学先導的学際研究機構 量子情報・量子生命研究部門 特任准教授)「量子機械学習実装」
- 久保 健治 氏 (株式会社メルカリ mercari R4D Researcher)「量子機械学習アルゴリズム」
- 藤井 啓祐 氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻 教授)「量子コンピュータの現状と課題」
- 湊 雄一郎 氏 (MDR株式会社 CEO) 「量子コンピュータと世界のベンチャー企業」
- 後藤 隼人 氏 (東芝 研究開発センター) 「量子インスパイアド古典アルゴリズム」
LT1:「量子機械学習実装」(根来 誠 氏)
機械学習を量子コンピューターでどのように実装するかについて解説する。量子コンピューターの技術スタックについて説明し、様々な量子ビット方式を紹介する。私が研究する分子の核スピン方式での実装例について述べ、それぞれの方式の将来性を議論する。
- 最初のスライドから、最新で未出版の結果を紹介(撮影禁止!)
- 可愛い量子ビットがちゃんと分類した!
- やってること
- 量子機械学習、量子コンピュータ技術スタック
- 原子核や電子のスピンでやってる
- 今日は技術スタックを下から説明します
- 量子コンピュータのスタック
- アプリケーション
- アルゴリズム
- (量子符号化)
- 量子ゲート
- 量子制御パルス
- 古典情報処理
- デジタル信号処理
- アナログ信号処理
- 量子制御装置
- 量子ビット
- 量子ビット
- 分子のスピン。電子や陽子の磁気的な性質。
- IBMがshoreのアルゴリズムで最初にやった方法。
- 7個のスピン。重ね合わせ状態が次々と変化させて計算する。
- 量子ビットの集積化
- 原子が並んだ分子を使う
- 原子を電磁界で並べる:イオントラップ
- 人工的に量子ビットを並べる:UCSB+Google
- どの方式にもチャンスがある
- 量子ゲートの実装
- パルスを照射
- 原子核;500MHz,電子 18GHz,超伝導 8GHz
- 信号のON/OFFだけではなく、位相や振幅など波形を制御
- 量子アルゴリズムの実装:素因数分解
- 簡単に図で書いたもの
- ゲートに分解
- パルスのシーケンス
- FPGAやマイクロ波技術の発展が必要
- 量子機械学習
- 量子エクストリーム学習
- 様々なアルゴリズムが発表
- まとめ
- 実装技術には様々なレイヤーがある
- それぞれのレイヤーで様々な方式がある
- 指数組み合わせのチャンス
- ボトルネックがつぎつぎに移動
- レースは始まったばかり
LT2:「量子機械学習アルゴリズム」(久保 健治 氏)
量子機械学習アルゴリズムは機械学習タスクを量子コンピュータを用いて行うことにより、従来のコンピュータより高速に計算を行うという試みである。本公演では現在提案されている量子機械学習アルゴリズムの概要を紹介し,その性能と課題について議論したい。
- 「古典」という言葉の意味
- 古典 means 非量子, does not means 古い
- エラー訂正あり vs エラー訂正なし
- エラー訂正の実装はまだまだ難しいと言われている
- エラー訂正なしは、ビット数は多く取れない、ステップも取れない。でもエラー率を下げれば、スパコンを超える性能が得られる可能性あり。googleの発表はこちら
- エラー訂正あり:計算量が指数、多項式で減る
-
エラー訂正なし:計算量が減るかはわからない(難しい)
-
エラー訂正あり
- 逆行列計算が指数で速くなることが示されている
- 指数加速とは: N → log N
- 探索問題は2次の加速が得られる。
- 逆行列計算が指数で速くなることが示されている
- Support Vector Machine
- 主問題->双対問題
- 不等式制約を等式制約に変換
- 線形連立方程式に変換
- O(M^3) ←ここがボトルネック
- 指数加速が得られる
- エラー訂正がない場合
- 50量子ビット=古典16PBに相当する
- スパコンは1PB程度, MBPは16GB
- 50量子ビット=古典16PBに相当する
- ハイブリッド機械学習アルゴリズム
- 統計量が必要な場合は量子コンピュータ
- 計算や勾配は古典コンピュータ
- 量子回路学習:コスト関数
- 指数的に大きな特徴量空間を扱うことができる
- まとめ
- エラー訂正がないものは実用が近づいて来ている
- エラー訂正があれば、加速が得られることが示されている
- エラー訂正がなくても、性能の良い近似が得られる可能性がある
LT3:「量子コンピュータの現状と課題」(藤井 啓祐 氏)
量子コンピュータは、量子力学を計算原理として計算を行う次世代コンピュータである。まだ、小規模でありノイズも幾分含まれるものの特定のベンチマークにおいてその性能を従来コンピュータを用いて比較・検証する段階に至っている。本講演では、どういうベンチマークにおいてどれくらいのタスクができているのかを紹介し、現状の量子コンピュータの応用の可能性や課題について議論したい。
- 量子コンピュータの歴史
- 80年代 物理と計算機の距離が近づいた
- 90年代 素因数分解 ブームに。第1期のブーム
- 00年代 停滞期。つらい時代。
- D-wave 量子アニーラ
- 5量子ビットを実現 by UCSB ジョンマルチネス
- 2014 阪大に呼んでシンポジウム開催。その後googleに行った
- 量子版ムーアの法則?
- 50量子ビット:量子超越
- Googleの論文
- Financial Timesの報道
- ネイチャーで発表
- 論文の査読した
- 53量子ビット = 8x10^15次元に相当
- 二次元正方格子状でランダムな量子回路
- fidelity 0.00176
- 10^6回くらいサンプルすれば確認できる
- googleの量子超越性とは
- プログラム可能な物理系
- 定式化可能なタスク
- 従来コンピュータを凌駕
- スパコンでも難しいサイズで、古典ベストアルゴリズムに対してスケーリングの差がある
- 200秒 vs 10000年(IBMは 2.5 dayと主張)
- 意味のあるタスクではない
- 役に立つタスクが何かできるか?:まだまだできない
- 残念なお知らせ。役に立つ問題を解けるレベルではない。
- 理論的に証明されたアルゴリズムを動かせるほどにはなっていない。
- NISQ: 小中規模でノイズを含む量子コンピュータ
- 量子回路学習
- NISQのための量子機会学習アルゴリズム
- 論文が95回引用された
- 今日!本が発売になりました「驚異の量子コンピュータ」
LT4:「量子コンピュータと世界のベンチャー企業」(湊 雄一郎 氏)
量子コンピュータが注目されているが、基本的な原理と異なり、より最新のトピックに触れ、量子コンピュータを活用するための具体的なコンポーネントやアプリケーションなどについて最先端の技術を紹介したい。また、世界的なベンチャー企業との交流を経て、世界情勢や国内情勢のトレンドを紹介していきたい。量子コンピュータの簡単な数理から世界的なビジネストレンドまでを網羅的に紹介したい。
Googleの量子スプレマシー達成の発表があって、量子コンピュータについて書かれた本がかなり売れたとのことです。
- MDR株式会社 代表取締役
- 顧客は銀行や自動車会社
- 独自量子ビットを開発
- ビジネスモデルと収益化
- マーケティング
- Blueqat SDK の上に機械学習のフレームワーク
- 量子とCPU/GPUのhybridシステム
- 量子コンピュータコミュニティがある
- 参加者数千人
- 一度のイベントで300-400名の集客
- 量子コンピュータハードウェア
- イオントラップ ハネウェル IonQ
- 量子コンピュータとスパコン
- 検証を進めている。比較等
- alibaba/summit/富嶽
- GPUでもやってる
- 無料でシミュレータを利用可能
- NISQ市場で開発競争
- CG高速化ベンチャー
- 創薬
- スタートアップ
- Strange Works ←あとでデモします
- Amazon Sagemaker
- blueqat + Qgateの機械学習環境
- Qiitaに記事あります
- Generative Model
- マリオを解く
- 速く安く動く
- 今後:様々なフレームワークの統合
- TensorFlow/PyTorch
- デモ:Strange Works
- 日本語化を進めている。勉強会やってる。
- 簡単に走らせられる
LT5:「量子インスパイアド古典アルゴリズム」(後藤 隼人 氏)
私の専門は量子計算であるが、最近FPGAやGPUを用いた古典計算の研究開発にも力を入れている。それは、量子計算にインスパイアされて発見した独自の「シミュレーテッド分岐アルゴリズム」によって、古典計算の能力を高められることに気が付いたからである。本講演は、ここに至るまでの経緯とその性能について、量子超越性との関係にも触れながら説明する。また、最後に最近の成果として、応用事例についても紹介する。
- 量子 inspired 古典アルゴリズム
- 量子の話はたくさん聞いたと思うので古典の話をするとのこと
- イジングマシンと機械学習
- 様々な社会課題→組合せ最適化問題
- →イジング問題:エネルギー最小化
- イジングマシン
- 機械学習=最適化問題
- イジングマシンは機械学習に役立つはず
- AdaBoost -> QBoost
- 2013にgoogleがD-waveを購入。研究所を作った
- イジングマシンと量子コンピュータの関係
- 量子コンピュータ=ゲート方式/イジング方式
- ゲート方式=誤り耐性方式/NISQ
- イジング方式→古典イジングマシン
- 量子アニーラ
- コヒーレントイジングマシン(CIM)
- シミュレーテッド分岐マシン
- コヒーレントイジングマシンCIM
- 量子アニーラ(D-Wave)
- 全結合問題で圧倒的にCPUより速い
- これは量子超越性?
- 量子分岐マシンQbM
- CIMから損失を消し去ることで得られた量子コンピュータ
- 劇的な性能向上
- CIM:量子超越性は無い(私見)
- QbM:量子超越性がある(万能ゲートが実現可能)
- 古典分岐マシン(CbM)
- 大規模シミュレーションが可能
- シミュレーテッド分岐アルゴリズム
- 高い並列性があり、GPU/FPGAで高速なイジングマシンが実現可能
- 古典でもイジング問題を計算できる
- 漸化式を解くだけ
- 行列ベクトル積だけが重い。ここだけ並列に。
- FPGA版SBMはCIMより10倍高速。実用上圧倒的に優位
- 2000スピン全結合問題
- SBMは大規模な問題を解ける
- 量子イジングマシンでは扱えない問題を解ける
- 1000倍くらい高速
- AWSでクラウドサービス公開
- 10000スピンまで $3/h
- 金融向けPoC
- まとめ
- SBMは量子計算からうまれた古典計算機
- 古典であれば社会実装やりやすい
パネルディスカッション
小休憩のあと、場を転換してパネルディスカッションです。
sli.doで会場から出た質問についてパネラーからコメントが披露されました。
- Q: Googleの量子超越性について
- 根来:実験家からするとどんなことをせねばならないのかは想像できる。やれたことに勇気をもらった。すごい結果だったと思う。
- 久保:最近始めたのですごさがわからない。できてもらわないと困る。着実にできるようになっていることが嬉しい。
- 後藤:あれだけのエラーレートのマシンで全結合でやったことはすごい。ここ最近すごい進歩があって、スパコンに比肩する成果が出たことは夢のよう。ソフトウェアの観点からはまだまだ。
- 湊:あまりコメントしないようにしている。得した。D-waveが1億倍速いという発表。
- 藤井:理論家を実験で検証できる、本来あるべき物理学の姿に。
- Q: 東大の古澤先生が提案している量子コンピューターは大規模回路ができるみたいな報道がされている一方で、すぐに使える感じがしないのですが、どういうボトルネックがあると思われますか?
- 大規模回路
- 光方式
- 冬の時代も光をつらぬいた。
- ボトルネックはコメントなしでw
- Q: スケーラビリティという観点で実装方式の主流は?
- 根来:マルチネスいわく、1000qbitまでは考えている。冷凍機の大きさは秘密。イオントラップは70が出た。光を使って隣と結合させる。阪大に高橋先生。
- 藤井:量子ムーアの法則で、1000量子ビット以上に線を引かない。究極にせめるパスはたくさんあるけど、10000に至るものは一つしかない。
- MLと考え方がちかい?面白いアイデアがあれば。
- Q: 普通のプログラマが使えるようになる?
- 後藤:量子ゲートで書くのは専門家でないと難しい。非専門家が使える形で提供しないとひろまっていかない
- 久保:SDKやラッパーが充実してくれば使えるようになる。今はアセンブラに近い。
- 藤井:pythonで動くシミュレータcaraxを作って競ってる。simpyとか使って、collaboratory使ってやってる
- Q: 量子ベンチャーが少ない?
- 湊:cqcだと100名くらいいる。数十名はいるところはざら。資本金も100億とか。投資を受けるタイミングとしては悪くない。
- 藤井:qnasis CEOが会場に来てる。実装に力を入れている。大学では0->1をやる。社会実装はベンチャーで。
- 根来:海外ではトップサイエンティストが事業化に関わっている。
- Q: 求められる人材は?
- 藤井:量子コンピュータのいいところ。物理と情報の境界領域であること。応用的には化学
- 根来:FPGAエンジニアとか
- 後藤:会社でやるためのストーリー作り。基礎研究と両立できるような視点を持てると良い。まだまだ基礎研究。
- Q: 量子超越性は実証できていないという意見について
- 根来:面白い分野になりつつある
- 藤井:さきがけの研究会で直接議論したけど平行線。
- Q: アルゴリズム的ボトルネックは?
- 藤井:制約は多い。逆行列計算するのに行列がスパースじゃないといけないとか。実は古典でもできたとか。
- Q: 社会人学生の日常?
- 久保:私は少し特殊で、会社で基礎研究的なことをやる。論文出すとかが成果。東京にいて月一で阪大に行ってる。
- 根来:量子のドクターを出したい。大学側も整備していかねばならない。
ここで、会場から某ITの会社から中居さんの紹介。
- 量子コンピュータ勉強会を企画中という話
- 2年前くらいにめっちゃいい本(ニールセンチャン著)を読んだ
- これを説明しても、CSが分かっている人でもポカンとしちゃう
- 基礎がないとなかなか理解が進まない
- ブログを書いてます
- 会場からもこんな勉強会に参加したい、と多数の手が上がりました
-
根来:中居さんのブログ面白い。ニールセンチャンいきなり渡されてくらいついた。ゼロ知識でもいける(失笑)
- Quantum Native Dojo もオススメ
- 藤井:反省から阪大は量子力学は必修に。もぐるのも歓迎!
- 久保:ソフトウェア的な整備はまだまだ。そういった貢献を期待。
- 後藤:ニールセンチャンは素晴らしい本。ただ20年前。アップデートが必要。藤井先生に書いて欲しい。
- 湊:異分野から入った。興味あるところを深堀でやりたい。
この分野をやることになって、ニールセンチャンの本から入ったという声が何人も上がりました。
感想
パネルディスカッションは多くの質問や、率直なコメントが多数出て大変盛り上がりました。司会進行のAWS宇都宮さんは、もともとこの分野の研究者ということもあって素晴らしいファシリテーションでした。 ニッチな分野と思いきや、こんなにもたくさんの人が集まって活発な議論がされることに正直驚きました。少し認識を改めました。