[レポート]Modernizing Operational Technology for AI-power Manufacturingに参加してきました #IND370 #AWS #AWSreInvent

[レポート]Modernizing Operational Technology for AI-power Manufacturingに参加してきました #IND370 #AWS #AWSreInvent

2025.12.05

はじめに

こんにちは、おおはしりきたけです。3回目のre:Invent 2025に参加しております。
今回は、OTのデータを使ってどうやってエージェントを活用してるのかが気になったので、本セッションを受けてきました。セッション概要は以下になります。

セッション概要

Join us for this expert level talk where we will dive deep into implementing scalable multi-agent AI architectures. Learn from real world implementations by AWS partners as we showcase how to build and orchestrate intelligent systems using Amazon Bedrock, enhanced with MCP, Strands Agents SDK, and Amazon Bedrock AgentCore. This technical session will explore repeatable multi-agent patterns for process optimization and role specific task distribution, enabling you to enhance your software solutions or consulting practice. Discover architectural best practices and POC to production implementation strategies that you can apply to create sophisticated AI systems for your customers. Perfect for partners, architects and developers looking to leverage multi-agent frameworks in production environments.

日本語訳

このセッションでは、SCADA、ヒストリアン、MESといった製造アプリケーションの近代化と、運用技術(OT)データをインダストリアル・データ・ファブリックに統合するためのベストプラクティスをご紹介します。リファレンスアーキテクチャとライブデモンストレーションを通して、データの取り込みとコンテキスト化を加速し、幅広い分析機能とエージェント機能を活用して、プロセス品質、コスト生産性、機械の信頼性向上といった成果を実現する方法の例をご紹介します。

登壇者

  • Joseph Rosing.Head of Manufacturing & Supply Chain CoE, Amazon Web Services

セッション内容

1. 再工業化はAI主導でなければならない

セッションの冒頭、業界には、AIが製造やサプライチェーンを変革することへの「楽観論」がある一方で、現場では「短期的なROIと長期的な革新基盤の構築をどうバランスさせるか」という課題に直面していることが語られました。

現在、製造業はサプライチェーンの再構築、労働人口の高齢化、地政学的リスクといった課題の中にあり、まさに「再工業化」のタイミングを迎えています。

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Joe Rosen 氏は、これからの競争優位性は、変化する状況にいかに迅速に感知・反応・再適用できるかにかかっており、それは人間の能力を超えるスケールとスピードで行われる必要があるため、「再工業化はAI主導(AI-Driven)でなければならない」と強調しました。

2. 変わらない「3つの持続的なニーズ」

AIや技術が進化しても、製造業のオペレーションにおける「3つの本質的なニーズ」は変わりません。AI導入の目的も、これらに紐づく必要があります。

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  1. Reduce Variation
    • 重要なKPIにおいて「予測可能で退屈(predictably boring)」になること。
    • 人間のような推論で問題を解決し、機械のような一貫性で実行するという表現が非常に示唆に富んでいました。
  2. Empower Employees
    • AIによって意思決定を迅速化し、従業員の認知的負荷(Cognitive Load)を下げること。
  3. Execute at Speed
    • 変化する状況に合わせて、人間の手作業を超えたスピードで能力を再最適化すること。

3. データアーキテクチャの変革

現在、多くのリーダー(80%)が生成AIによるリアルタイムな生産調整やクローズドループの可能性を認識していますが、実際にそれを大規模に実装できるデータアーキテクチャを構築できているのはわずか30%に留まっています。

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その最大の障壁が、従来のピラミッド型です。この階層構造は各層でデータがサイロ化しており、AI時代の要件を満たせません。

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AWSが提唱するのは、ITとOTが融合し、Any-to-Any Communicationな状態です。これにより、単なる記録・トランザクションのシステムを超え、AIが判断してアクションを起こすSystem of Actionが可能になります。

4. モダナイゼーションのための3層フレームワーク

では、具体的にどう進めるべきか。セッションでは3つのレイヤー構造が提示されました。

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  1. Digitally Composed Outcomes
    • メンテナンス、生産管理、品質管理などのKPI向上。
  2. Industrial Data Fabric
    • OTデータのコンテキスト化
    • ナレッジグラフの構築
  3. Manufacturing App & Technology Modernization:
    • SCADA、MES、Historianなどのレガシーアプリのモダナイズ

これをさらにシンプルにしたアクションプランが以下のスライドです。

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特に最上層の Common User Interface for Integrated Workflowsが重要です。現場のオペレーターは日々、MES、ERP、EAMなど複数の画面を行き来しています。AIを統合した共通UIを提供することで、オペレーターの負荷を劇的に下げることができます。

5. AIシステムエンジニアリング:カオスを自動化しない

セッションの後半、最も強調されたのが AI Systems Engineeringという考え方です。 ここでAndrew Ng氏の言葉が引用されました。

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日本語訳

電気もそうだったように、古い工場にただ配線を繋げば電化されるわけではない。同様に、既存のワークフローにただAIをプラグインしてはいけない」

既存のプロセスが非効率で「カオス」な状態なら、それを自動化しても「自動化されたカオス」が生まれるだけです。白紙の状態からワークフローを再設計する必要があります。

ツールボックスとしてのAI

AI活用は「自動化」から「自律エージェント」への一本道の進化ではありません。タスクに応じて使い分ける「ツールボックス」です。

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  • Automated (Rule Based RPA):定型タスクの自動化。
  • Assist (GenAI Assistants):人間を支援し、トラブルシューティングなどをサポート。
  • Collaborate (Agents/Human-in-the-loop): 目標に向かって動くが、人間が承認などに関与。
  • Agentic AI Systems: 完全に自律的なシステム。

リスクと複雑性のマトリクス

では、どのツールをいつ使うべきか? その判断基準として複雑性とリスクの2軸マトリクスが提示されました。これは非常に実践的なフレームワークとのことです。

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  • 低リスク・低複雑性 → Automated:ルールベースで自動化(最も低コスト)
  • 低リスク・高複雑性 → Assist:人間が作業するが、AIアシスタントが標準作業やトラブルシューティングを支援(ばらつき削減)
  • 低リスク・中複雑性 → Collaborate (Delegation):エージェントにタスクを委任する(信頼度が高い場合)。
  • 高リスク → Collaborate (Human-in-the-Loop):AIやエージェントを使うが、実行前に必ず人間が確認・承認する。

このマトリクスは、このセッションのハイライトだと感じました。「すべてをエージェントにする必要はない。高リスクなタスクでもAIは使えるが、Human-in-the-loop(HITL)が必須」という整理は、現場導入の際の非常に明確なガイドラインになると思いました。

6. スピードはリーダーシップの決断である

セッションの締めくくりとして、Amazon CEO Andy Jassy氏の言葉が紹介されました。

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"Speed is a leadership decision." (スピードはリーダーシップの決断である)

技術的な準備を待つのではなく、まず改善が必要なワークフローを特定し、改善したいKPIを決め、そこから逆算してデータ戦略を立てる。とにかく「始めること」が重要だと結ばれました。

感想

単なるAWSサービスの紹介ではなく、「製造業の業務プロセスをAI前提でどう再構築するか」というシステム工学的なアプローチに主眼が置かれた、非常に良セッションでした。

特に「既存のワークフローにAIを足すだけではダメだ」という警鐘と、それを解決するための「リスク×複雑性」のマトリクスは、製造業のDX担当者にとって明日から使える指針になるはずです。「人間を排除するのではなく、AIで認知的負荷を下げてエンパワーする」というメッセージも、OT領域において非常に現実的かつ前向きなアプローチだなと思いました。

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