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N中等部が注力する「探求学習」の意義 〜 学園生活の様子や学習カリキュラムについて、まるまるっと先生方に聞いてみた【角川ドワンゴ学園N中等部】

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こんにちは。DI部の春田です。

先日、角川ドワンゴ学園N中等部第1期生へのインタビューをまとめたドキュメンタリー記事を投稿いたしました。

さて、この角川ドワンゴ学園について一般的には、「ニコニコ動画やクリエイティブ系が関係した学校」であったり「プログラミングやIT技術の学校」といったイメージをお持ちかと思います。個人的には「プログラミング教育に力を入れている学校」という印象が強くありました。

しかし実際に取材を進めていくと、同学園の校風からは「未来」よりかは「地に足のついた」ようなキーワードが感じ取れ、「現実的」や「効率的」「きっかけと過程と結果」といった言葉が角川ドワンゴ学園を表現するのにピッタリではないかと感じました。それも、「よく考えたら当たり前のことなのに、なんで今までやってこなかったんだろう?」というような基本的なことばかりです。

また、新しい「会社」を立ち上げたという話はよくありますが、新しい「学校」を立ち上げたという話はあまり耳にしないかと思います。教育を開発するためにはどんなプロセスが必要なのか、興味が湧いてきませんか?

今回は、角川ドワンゴ学園N中等部の取り組みや目的についてより深く知るために、N中等部の新宿キャンパスにお邪魔して3人の先生方にインタビューしてきました。学園内のディープな話を対話形式でご紹介しつつ、改めてN中等部についての概要も説明していきたいと思います。


(N中等部新宿キャンパスの入口)

もくじ

プロフィールと立場 (本文では敬称略)

  • 奥平博一 氏
    • 学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校 専務理事 学校長
    • 学園全体のビジョンについて
  • 為野圭祐 氏
    • 学校法人角川ドワンゴ学園 N中等部事業部 部長代理
    • N中等部の具体的なカリキュラムについて
  • 村田喜直 氏
    • 角川ドワンゴ学園 N高等学校 プロモーション部 広報制作課長
    • インタビュー全体の補足

第1部 生徒と先生

N中等部設立の経緯

−− 本日はお時間いただきありがとうございます。まずは、N中等部が設立された経緯についてお聞きしてもよろしいでしょうか?

奥平「もともとN中等部の前にN高等学校というものを運営してまして、そちらが今年で4年目になるのですが、認知度が上がるにつれて小学校3年生4年生ぐらいのご家庭からもN高等学校の資料請求をいただくことが増えてきたんですよね。保護者の方からも『もっと早くから入学できないのか?』という声が出てきたので、まずは中学生年代の子供たちにN高の教育を提供できないかということで、為野を中心に企画していきました。」

村田「中等部を作る時は、まだ住所も言ってない状態で定員40名で一校だけ開校します、って9月に発表したんですね。でもN高の知名度もあってか想定以上にたくさんの声をいただいて、急遽秋葉原と大阪にも追加で開校することになったんです。」

生徒について

-- 全体的に見て、N中等部生にどんな印象を持っていますか?

奥平「まだ何か特技や価値観を完成させてはいないけど、『これをやってみたい!』っていう気持ちを持っている子たちが、うちに来てくれていると思っています。本当にやりたいのか明確でなくても、そのために何をしたらいいのかわかっていなくても、生徒たちにはまずその気持ちを大事にして欲しいですね。」

為野「クラスは今のところ全学年が混在しています。体の大きさだけで学年がわかってしまう年代ですが、生徒たちは学年関係なく話してますね。ライフスキル学習の授業を通して、まずは相手の話を聞く、相手を認めるということが、生徒の間でも学年を超えて少しずつ始まっているのかと。プログラミングが得意な子は中1にもいたりするので、中1が中3にプログラミングを教えたり、あるいは普段の勉強の方は中3が中1に教えたりと、生徒間の教えあいも少しづつ生まれ始めているので、全体の雰囲気も良い傾向にありますね。」

-- 入学するためには適正テストがあるそうですが、何のために行っているのですか?

為野「二つ理由があるのですが、一つはN中等部が自学自習を基本としているからです。映像授業で勉強しますので、九九がまだ覚えられていない生徒さんが、中学生の数学に取り組むのは非常に苦しいと思っているんですね。なので、小学生の基礎のところをできているか、自学自習をちゃんとできそうか、というところを見せていただいています。もう一つは、作文と面接で自分がやってみたいことを表現してもらうためですね。どちらかができていればOKです。生徒本人の意志はしっかりと確認しないといけませんから。」

-- N高には有名人の生徒さんとかが通われているとも聞いたのですが、スカウトされてたりするんですか?

奥平「スカウトはないですね(笑)。」

村田「それこそフィギュアスケートの紀平梨花さんだって、ご自身から資料請求をいただいて、説明会に来てくれてという感じでした。アーティストのSASUKEくんとかもそうですね。」

奥平「『自分にとってはここなんだ』って本人が思って来てくれるんですよね。本当にありがたいことです。」

先生について

−− N中の先生にはどんな役割が求められていますか? 先日の川原さんの話で、「N中には話しやすい先生が多い」とお聞きしたのですが、生徒とコミュニケーションを取るとき、とりわけ意識していることがあるんじゃないかなと思います。

奥平「そもそも、我々教師が教えられることって何ですかね?今や知識なんて、インターネットで検索すれば誰もが取ってこれるはずです。昔みたいに教師が生徒の前に立って、何かを教えるという必要性が薄れてきているんですよね。だから、我々は横に立って一緒にやるか、もしくは後ろから押してあげることを意識して生徒と接しています。生徒さんが話しかけやすい先生が多いと言ってくれていることは、非常に嬉しいことですね。それと、インターネットには誰もが情報を発信できてしまうわけですから、情報の真偽の見極めであるとか、情報をどう編集していくかとかに関しては、大人の手助けが必要だと思うんです。教師の役割は変わってきているのではないでしょうか。」

-- 川原さんから、『自動販売機に飲みたい飲み物がないって先生に言ったら、学年主任との交渉を促された』みたいな話も聞いたのですが、これ本当ですか?

為野「そのエピソードについては、当事者の先生から話を聞いております。その先生が伝えたのは、『飲み物を変えたいの?じゃあ、今のジュースにどこが不満とか、変えてくれたら自分だけじゃなくて他の生徒にもいいことがあるよってことを、学年主任の先生に伝えて説得してみたら?』ということらしいです。自販機の中身を変えたいなという意思が、生徒の成長や学びに繋がるんじゃないかなと思ったようですね。そういった生徒の要望の中にはもちろん、予算や業者さんとの都合があるので叶えてあげられないこともあるのですが、できないってなった時は『ごめんね。できなかったよ。』ということもちゃんと伝えています。我々教師はちゃんと生徒の話を受け止めますが、ただ全部受け入れるわけじゃなくて、受け止めた上でそれができるかできないかを生徒と相談しながら作っていく、というふうにしております。キャンパスの中にはなんでも、生徒にとっての学びの場はたくさんあると思いますので、それを作るのが我々の役割だと思っております。」

-- なるほど、自動販売機を教材にしてしまったということですね。

村田「実はN高にも似た話があって、N高生の場合は先生もあまり介入せずに、納品業者さんに直接提案したそうです(笑)。それも、事前に他の生徒に何が飲みたいのかアンケートをとって、『この商品なら買う頻度と確度が上がるから、業者さんたちにとってもWin-Winでしょ?』みたいな提案の仕方をしているんですね。さらに、毎月商品の入れ替え戦を行っているそうなんで、欲しい飲み物も飲めるし売上も上がる、生徒も業者もハッピーになるようなプロジェクト学習を勝手に作ってしまったんです。N中もN高も、どの教員も生徒からそういう話が来たら、そんな対応をするかと思いますね。マニュアルにはないのですが、教師はみんな同じマインドを持っているので。」

奥平「別に子供が学校を変えたってええかなと思いますよ。学校って子供にとっては変えられない、子供が物申してはいけないというイメージが残っていると思います。我々としては子供でも変えられるところは変えたっていいと思いますし、結局こういう交渉事も大人になったらやりますよね。社会に出て必要なことは、教育を受けられる期間にも経験させておくべきだと考えています。」

-- ちなみに先生が生徒に厳しくしたりすることはありますか?

奥平「全体の中ではあると思うんですね。『私にはこんな目標がある』『僕はこんな力をつけたい』といったことを、生徒としっかり共有しながら進めていくので、基本的に優しいですが、時には跳びつけるくらいのハードルを与えることもあるかと。教師間でもマインドはしっかりと共有してますから、あとはそれぞれの指導法によると思います。」

ITツール・SNSを使ったコミュニケーション

-- 角川ドワンゴ学園はITツールやSNSを使いこなせているという印象があるのですが、実際生徒間のコミュニケーションはどうなっているのですか?

奥平「ものすごく活性化しているという言葉がいいんでしょうか。N高だとSlackのチャンネルってどれだけあるの?」

村田「今や1000以上はあるかと(笑)。チャンネルも生徒が作れるんですよ。猫好きが集まるチャンネル名『ネコ』とか。」

奥平「実は話したいこと一杯持っているんですよね。今の子供たちなら、オンライン上でもっと簡単に自己表現できることがありますから。」

-- そもそも学校側がSNSのプラットフォームを生徒に用意していることが斬新ですよね。

奥平「これもなんですが、世の中に出たらそれって必要なことですよね?大人になって社会に出た瞬間に、ITツールを使って業務報告をするじゃないですか。社会で必要なことは、教育を受ける期間にもやらせてあげるべきだと思うんです。『ネットは悪で、リアルは善』という風潮も、ちょっと時代遅れだと思うんですね。」

為野「ちなみになんですが、中等部は年齢制限のためSlackを使ってないです。代わりにGoogleのClassroomを使って、授業に関するやり取りを行っています。その中でも交流はもちろんできるのですが、結局生徒がDiscordを開いてしまいましたね(笑)。本当にデジタルネイティブな子達なんだなってのを実感しています。」

-- さすがですね(笑)。ITリテラシーの授業とかはどうしていますか?

為野「リテラシーの授業では、ネット上の情報の扱い方やITツールの有効活用についてのワークショップをやりつつ、最後の方で『こういうところでトラブルにつながる可能性があるから気をつけてね』と加えてます。ITリテラシーの授業だとよく、『LINEってこんなに危険なんですよ』とか、『デジタルタトゥーってこんなに恐ろしいんですよ』というような話が多いと思うのですが、子供からしたら『大人はそうやってダメって言うけど、お前らLINE使ってんじゃん』って思うのが普通です。なので、危険性については頭の片隅に残してもらうような授業にしています。」

奥平「学校が活用しているITツールは、ある種生徒にとって訓練の場です。失敗するのはもちろんですが、その時に大人が言ってかないと、生徒は気づかないままなんですよね。問題を問題だと言うだけでなく、それを解決する行動を起こさないと。それが我々教師、大人の役目だと思います。」

(新宿キャンパス内の様子。生徒と先生のある意味境目となっている職員室がない)

【解説】角川ドワンゴ学園N中等部とは?

角川ドワンゴ学園N中等部は、教育機会確保法 *1の趣旨を鑑みた新しいコンセプトのスクール、 プログレッシブスクール です。N中等部は一条校 *2ではないため、ここで中卒の資格を得ることはできません。生徒は、現在の中学校に在籍したままN中等部に通学する必要があります。

N中の教育方針の一つに、「N高等学校」への一貫教育が挙げられます。N高等学校は今年で開校から4年目となり、在校生徒数10,339人(2019年4月末時点)と順調にその規模を拡大してきました。N中等部のカリキュラムは、そのN高の教育ノウハウを受け継いだものとなっています。


(出典:N中等部とN高等学校 による一貫教育 | N中等部「3つの一貫教育」より)

一貫教育を通して特に力を入れている分野は、上の学習モデル図にある 探求学習・学力向上・プログラミング の3つです。「学力向上」の分野では、国数英の基本固めから大学入試対策まで、映像授業で個々のペースに合わせて学習を進めていくことができます。また、「プログラミング」の分野においては、パソコン・ICTツールの使い方から、プログラミングの基礎・応用の習得、論理的思考力の育成を目的としながら、生徒にものづくりの楽しさを気づかせています。

そして、その中でもN中等部が最も力を入れている分野が上図の一番上、 「探求学習」 です。

「探求学習」は、「ライフスキル学習」「プロジェクト学習」「コーチング」を柱として、①自己認識・他者理解から、②他者と協働し、③価値創造や課題解決を達成していくことを目指しています。簡単に言うと「自分も他人もしっかりと理解し、コミュニケーション能力を身につけて、チームで成果を出す」というような意味合いですね。この学習は世界保健機構(WHO)が定義した10のライフスキルが基本となっています。


(出典:ライフスキル学習 | N中等部より、世界保健機構(WHO)が定義する「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」)

下図はコース別の時間割表です。学生年代においての最優先事項である「学力向上」、すなわち「基礎学習」に一番多くの時間を割いているものの、次いでどのコースも「ライフスキル学習」や「プロジェクト学習」の時間の割合が多く、中等部全体としてこの「探求学習」の分野に力を入れていることがわかります。




(出典:タイムテーブル | N中等部より)

この他にも、「英会話」や「クリエイティブ授業」、「職業体験・フィールドワーク」といった授業も展開されており、今後も生徒のためになることであれば、どんどん新しいカリキュラムを導入していくとのことです。

第2部 教育の開発とカリキュラム

「教育」を開発する

−− N中等部教育の開発に共同開発者アドバイザリーボードとして、社会学や心理・精神学、ワークショップデザイン等の有識者が参画していることが印象的ですね。

為野「生徒たちが頑張って授業についてきてくれる中、我々も『なんとなく良さそうな授業』というのだけで終わりにしたくないですし、中学生という貴重な時間に対して責任を持ってやるためにも、学術的・科学的に実証されているコンテンツを中学生向けにカスタマイズした授業を展開しております。正解のないものなら何でも作れますけど、適当に作ってるわけじゃありません(笑)。小難しい話をベースにしていますが、楽しくないと彼らはやらないので、中学生向けにカスタムをすることが私たち教職員の仕事です。元ネタがある授業ということなので、教職員たちも自信を持って生徒に授業を展開できている、というのはあると思います。」

−− ライフスキル学習はいわゆる「正解のない教育」であり、「正解のない教育」はその教育自体にも正解がないため、効果があるかどうかの測定に苦慮されているかと思います。生徒の成長を図るために、どういった指標を用いているのですか?

為野「中等部の場合は、ライフスキル・アセスメントというものをご用意しております。共同開発者である相川先生と高本先生にお願いして、既存の心理尺度の中から、中学生と高校生が使えるようなライフスキル尺度を作っていただきました。『自分は今どんな状態なのか』、『得意なこと・苦手なことはなにか』といったことを、生徒自身で評価してもらうのですが、これを毎月とっていくので、指標としてもかなり有効ではないかと考えてます。自身がどう変化しているのかを把握できれば、自信にも繋がりますしね。やり方としては先生が書く、生徒が書く、両方が書くという手もあるのですが、感情トレーニングの一貫として、生徒自身が自分を客観視して文章化することが有効ではないかと考え、生徒の方でアセスメントを記入してもらっています。」

(出典:ライフスキル学習 | N中等部「ライフスキル診断」より)

N中等部のカリキュラムについて

−− N中等部が展開しているカリキュラムには様々なものがありますが、一番力を入れているものはどれですか?

為野「N中等部は3本柱でやっておりまして、まずは教科の勉強をしっかりとやらせております。義務教育課程で国数英の勉強が不十分だと、中学を卒業した時に困るじゃないですか。そういった 基礎学習 と、全ての基本である コミュニケーションスキル 、そして将来使える専門的なスキルにもなり、中学生年代の子にとって興味関心の高い プログラミング を3本柱にしています。ただバランス的には、『話す・聞く』ためのコミュニケーションスキルがまずは大事だと考えていますので、分野で言えば「探求学習」に力を入れております。」

−− その「話す・聞く」ということについて、探求学習のうちのライフスキル学習では具体的にどういったことをしているのですか?

為野「N中等部では 感情トレーニング・思考トレーニング・コラボレーショントレーニング という3つの授業を用意しており、『話し方・聞き方の授業』は、コラボレーションの授業の中で行なっています。とくに生徒は、『友達をつくりたい』『上手に話せるようになりたい』と思っている子が多いので、まずは『話をとにかく聞く』トレーニングから始めています。例えば、『頷きやジェスチャーを入れた会話だと相手はどんな気持ちになるのか』とか、『同じ "そうですね" という言葉でも、高い声か低い声かでどう感じ方が違うのか』といったことですね。会話するときの態度やテンションといった、コミュニケーションの土台の部分がしっかりできていると、お互い相手が自分を受け止めてくれてると実感できて嬉しくなるんですよ。このように、まずは『聞く』ことを身につけ、次に「話す」ことを身につける。その後に、人数を3人・4人に増やしていって、あるテーマに対して自分たちでどう考えるのか『合意形成』をするというように、難易度の高いコミュニケーションにもチャレンジしていきます。」

−− 中学生年代には少しハードルの高い授業のように思えますが、生徒は授業についていけているのですか?

為野「N中等部のライフスキル学習は、中学生年代でも一つずつステップアップで学べるようにとりわけ丁寧に開発しています。思春期の時って、異性と話すのが苦手だったりとか、部活の先輩と怖くて話せないとか、安心して話せる環境を整えることに関しては、生徒頼みにできないんですね。なのでそこの仕掛けに関しては、先生の方で用意しています。授業の初日は生徒たちも緊張気味だったのですが、思ってた以上に頑張ってくれていて、結構早いペースで進んでいます。」

奥平「私は今日、入学式以来に新宿キャンパスの生徒たちと会ったのですが、生徒たちの表情が大分違いましたね。」

為野「そうですね。緊張もあったと思うのですが、めちゃくちゃ表情が硬かったんです。授業を始めてからたった1ヶ月ですが、『あ、校長だ!』って生徒がちょっと笑顔になれたんですよね。私たち教職員が実感できるくらい、生徒の表情が柔らかくなった思います。」

−− 一方で、プロジェクト学習ではどんなことをしているのですか?

為野「より主体性が重視される プロジェクト学習 の方は、かなりハードルを下げました。高校生向けですと、PBL(Project Based Learning; 問題解決型学習)を自分たちで考えて、ちゃんと成果を出すまで一貫することが『主体性』だと考えています。ただ中学生向けですと、そのやり方がまだわからないので、主体性を生む一番最初のところ、『自分がどんなことをやりたいのか?何に興味があるのか?』という部分を非常に大切にしています。こういった最初の部分でさえ言語化が難しい場合は、先生の方で何パターンかの写真とフレーズを用意した上で、一番共感できるものを選んでもらうというように、簡単にできるところから掘り下げていきます。その上で、そのために必要なやるべきことを具体的にいくつか提案して、やってみたいものから実行計画を組んでもらいます。実際にやるべきことがわかると、『じゃあそのためにもこの時間は勉強しなきゃね』という具体的な話に自然と繋がるので、生徒の行動も結構スムーズですね。」

−− 学校の作文でよくある「将来の夢」みたいな授業とは正反対ですね。

為野「良い作文が書けたとしても、実際に明日から行動する生徒さんって少ないと思うんです。抽象的でふわっとした夢ではなく、一歩一歩しっかりと行動して、ちっちゃな成功体験を積み重ねて、自分の成長が実感できる形にもっていくことで、自己肯定感を育んでもらいたいなと思っています。」

プログラミング教育について

−− 3本柱の一つである、プログラミング教育についてもお伺いしたいです。

奥平「プログラミング自体は、どういう企業・業態であっても絶対に必要になるだろうという予測をしております。未来がそうなるのであれば、学生の年代からプログラミングを知っておけば、若くして最も早く得られるスキル・経験になるだろうと思い、そういった授業を用意しております。社会で使える力を生徒に与えることは、我々教師がやるべきことだと考えていますので。」

為野「中等部も高校と同じですが、プログラミングを学ぶこと自体は目的ではないです。プログラミングは『ものづくり』をするための一個の手段ですし、本格的にパソコンを触ったことがない子もいるので、生徒には『自分はこれを作りたいんだ!』という気持ちがあれば大切に育ててくれと伝えています。もしかしたらそれが、プログラマーになるためのきっかけになるかもしれませんしね。」

−− 最近は世間一般でも、プログラミングが学べる教室やオンライン教材が流行ってきていますが、奥平校長はプログラミング教育についてどう捉えていますか?

奥平「我々がプログラミングの授業を取り入れているのは、世の中に出て行った時に役立つスキルを身につけさせてあげたいというのが、一つの大きな目的でもあります。プログラミング教育で何をするべきかは、子どもの年代にもよると思うんですね。例えば、高校生は社会に出る直前なので、一つのスキルとして身につけていくのが良いと思いますし、中学生はプログラミングを題材として、物事を深く考えさせていくのが良いかと考えております。また、流行り廃りというのは決して悪いものではなく、彼らがその世の中に生きていくわけですから、教師側もある程度把握しておく必要があると思います。」

おわりに

-- 本日はありがとうございました。興味深い話ばかりでしたが、なかなかボリュームが凄かったですね(笑)。N中等部を理解するのに、一番手取り早い方法ってありますか?

村田「説明会はN中のコンセプトを体現させていますので、一番簡単にN中を感じられるかと思いますよ。中等部については川原さんのように、説明会や相談会を通してウチに入学することを決めてくれた子が多いかと思います。『良い友達できますよ』って口で言うのは簡単ですけど、親も混じ入れてワークショップをされたら、『あ、本当にこういうことが待ってるんだ』っていうワクワクを生徒も実感できると思うんですよ。」

-- 言葉で伝えるよりかは、本当に体験してもらって、という感じですね。

為野・村田「あーもう、ぜひ一度遊びに来てください(笑)。」

-- 奥平校長、最後に一言お願いします。

奥平「教師の役割は、もう知識の伝達ではなく、人としての器をつくっていくことに変わってきていると思います。うちには、様々なプログラムやツールがありますが、それを活かすのも殺すのも、我々それを扱う指導者の問題だと思ってるんですね。N中等部もまだまだスタートしたばかりですが、生徒にはこれから変化する色々な情報や価値観、ツールといったものを受け入れて活用していくための、 自分の器作りの場 としてN中等部を活用して欲しいです。高校生にはよく言うのですが、学校とはそこを足場にして何かをする場所であって、学校の中だけで完結させるものではないです。N中生にも、『N中は俺たちが作るぞ!』っていう気持ちを持っていて欲しいですね。」

-- ありがとうございました。

まとめ

今回のインタビューを通して、やりたいことを見つけ実行し達成する行動力しかり、ITツール導入による教育の効率化・最適化もしかり、将来使える専門的なスキルを身につけさせるための授業もしかり、角川ドワンゴ学園は 至極現実的な価値観を持った学園 であるという印象を持ちました。

N中が持つカリキュラムや教育観はここでは紹介しきれないくらい多様で、今後もさらに進化していくと思います。こういった稀有な環境にいる生徒たちは、どんな成長をしていくのかについては、ぜひN中等部1期生の川原明日奈さんの成長記録も追ってみてください。

また、よくわからないところや他に知りたいことがあれば、コメントいただけると幸いです。次回11月までに調査してきます!

脚注

  1. 不登校の子どもたちの支援を進めることを目的にした、2017年2月に施行された比較的新しい法律。(参照:「教育機会確保法 不登校対策は」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室
  2. 学校教育法第一条で定められた中学校、すなわち正規の義務教育学校のこと。非一条校にはインターナショナルスクールやフリースクールなどが挙げられる。(参照:一条校 - Wikipedia)