【レポート】【re:MARS 2019】M26 – Amazon Go: Origins and a Peek Under the Hood #reMARS
2019年6月にラスベガスで開催されたAmazonが主催するAIカンファレンス"re:MARS"において、"Amazon Go: Origins and a Peek Under the Hood"というタイトルでAmazon Goの中の人がAmazon Goのビジョンとコア技術ついて概説したセッションが行われました。この動画がYouTubeに公開されていたので、以下に要点をまとめます。
セッション概要
- 登壇者:Dilip Kumar
- Amazon Goバイスプレジデント
- Amazon Goプロジェクト開始時からのメンバー
Why did Amazon build Amazon Go's Just Walk Out Technology? This session will outline Amazon's customer-centric motivation to build Amazon Go, cover the evolution of the concept, and detail the core technology components that make up the Just Walk Out Technology system including computer vision, sensor fusion, and deep learning.
AmazonはなぜAmazon Goの"Just Walk Out"テクノロジーを作ったのか?このセッションでは、Amazon Goを作るにいたったAmazonの顧客中心主義の概説し、コンセプトの進化を取り上げ、そしてコンピュータビジョン、センサーフュージョン、ディープラーニングを含む"Just Walk Out"テクノロジーシステムを構成するコア技術の要素の詳述する。
ビジョンから実店舗にいたるまでの試行錯誤
Amazon Goのビジョン "Just Walk Out"
- "Just Walk Out"、つまりレジ待ちをなくす
- 入店したら、買いたいものを手にとって退店するだけ
- どんなにサービスの行き届いた店で買い物するとしても、入店ー>買うものを選ぶー>レジ待ちの列に並ぶー>支払ー>退店、という基本的なプロセスに大きな違いは無い
- レジ待ちで行列に並ぶのが好きな人はいない
"Just Walk Out"実現のためにやる必要があること
- 店舗で買い物をする客のアカウント情報を特定する
- アカウントに紐づく形で、客が入店してから退店するまでの間に、どの商品を取ったか・戻したか、ということを特定する
- 客が退店したあとに上記を集計して、決済をかけ、レシートを発行する
- 開発チームには、顧客体験に寄与しそうであれば、ある手法やテクノロジーがどれくらいの期間有効か(長持ちするのか、それとも短命に終わるのか)にかかわらずそれを試すことが許されていて("license to experiment/license to fail"、つまり「実験していい・失敗してもいい」免許)、特定のアイデアや手法に固執することなくさまざまなチャレンジが行われた
-
初期には、店内のいたるところに大量の情報を表示したスクリーンが設置され、顧客にスマホアプリをなんども操作させるような案も検討されたが、誰もそのような体験は望んでいないことがわかり却下された
-
「レジ待ちを無くす」ことは買い物における顧客体験として五年、十年経っても色褪せない挑戦しがいのある課題だと結論づけた
入店(チェックイン)体験の検討
- レジ待ちを無くすために、だれがお店にきたのか、ということを入り口で特定する必要がある(チェックイン)
- この特定のために時間がかかってしまい、客を待たせてしまうようでははレジ待ちを無くす意味が薄れてしまうので、可能な限り客を足止めしたくない
- 店舗への入店という行為は一見シンプルに思えるが、実際にはさまざまな組み合わせがありうる
- 一人で買い物にくるケース
- グループで買い物にくるケース
- 友達と買い物にくるケース
- 家族と買い物にくるケース
- 客の来店パターンや入店ゲートのレイアウトはまずブロックをつかってシミュレーションを繰り返し、最適な入店体験のための構成を検討した
- 入店ゲートのチェックイン端末は、最初はそれぞれ機能や形態の異なる雑なモックアップをいくつも作り、どれを使ったチェックインが顧客にとって最も直感的な体験を提供できるかを比較した
- 店舗の天井にカメラを設置することは決まっていたので、そのカメラを使って顧客のスマートフォンの画面をスキャンすることでチェックインさせるような案も出たが、直感的ではないということで却下された
- "Just Walk Out"な買い物ができる店舗への入店は、誰にとっても初めての体験になるので、正しくチェックインできた時と、チェックインに失敗した時それぞれで明確な視覚・聴覚へのフィードバックが必要
- フィードバックが適切で無いと、客はチェックインできたと思って入店したのに、スタッフに呼び止められてもう一度チェックインをやり直すようなことになってしまう。このような、間違った行動をしてしまったことで呼び止められるような状況になることは誰も好まない
- 最終的にチェックイン端末は写真のような、顧客がどのように行動すればいいのかが明快で、一人で入店してもグループで入店してもすばやくチェックインができるようなデザインになった
マイクロ・ラボからモックアップストアへ
- 売り場のデザインは、Amazonの倉庫に大量にある本棚にAmazonで扱っている商品を並べたマイクロ・ラボからスタートした
- ラボは徐々に規模が大きくなり、開発チーム以外の人間もオープンにラボを訪れてもらい、買い物の疑似体験をしてもらった
- チーム外の人間の行動を観察することで、"Just Walk Out"という概念をどのように理解し、売り場でどのような行動をとるのかについて理解が深まった
- 最終的に、マイクロ・ラボはモックアップストアにまで進化した
- モックアップストアで現実のお店に近い環境でハードウェア・ソフトウェアが期待通りの顧客体験と"精度"を達成できているのかを確かめた
- どの顧客がどの商品を取ったのか、ということは確率的にしかわからないが、決済を行うためにはどの客がなにを取ったのかを確定させる必要があって、その確定の"精度"が極めて高くないと使い物にならない
- さらに、顧客に難しい・面倒な作業をさせないことが大事
- 顧客に商品一つ一つをスキャンさせれば、精度を簡単に高めることができるが、そのような作業は顧客にとってとても面倒で楽しくない
- このような試行錯誤を経て、実店舗のオープンにいたった
Amazon Go の舞台裏では何が行われているのか
舞台上で行われていること:顧客体験
- スマホアプリを使ってお店に入店
- 客が手にとった商品はすべてバーチャルカートに追加され
- 棚に戻した商品はバーチャルカートから取り除かれ
- 買い物が済んだら、お店から出るだけで決済が行われ、スマホにレシートが届く
舞台裏のできごと1:買い物セッションの管理
- 買い物のセッションー>お客が入店してから退店するまでの一連の流れ
- 店内にいるすべての客の動きをリアルタイムで追跡する
- 客がグループで買い物に来た場合は、グループの最後の一人が退店するまでセッションを維持する必要がある
舞台裏のできごと2:決済
- Amazon.comのコアシステムを利用しているが、ECと違って小売では即時に決済を行う必要がある
- 返品対応は"returnless refund"とした
- つまり返品不要で、アプリ上で申請を行えば返金がされる(濫用するとアカウントがBANされるとのこと)
舞台裏のできごと3:機械学習
- 店舗内の人の動きや商品を取った・戻したなどのイベントをすべてデータとして収集して機械学習のモデルのトレーニングを行っている
- データを収集して、モデルをトレーニングして、トレーニングしたモデルを店舗にデプロイするサイクルを常に回し続けている
舞台裏のできごと4:センサー
- 天井に設置されたカメラだけでは十分な精度を出すことができないため、Amazon Go専用のカメラも独自に開発した
まとめ
Amazon Goが、"Just Walk Out"というビジョンのもと、小さくて粗いプロトタイプから始まり、様々な手法やテクノロジーを試行錯誤しながら徐々に作り上げられていった過程と、直感的な顧客体験を実現するために複雑さをとにかく舞台裏に隠そうという努力が行われていることがわかりました。
参考
- Amazon Go
- (M26-L) Amazon Go: Origins and a Peek Under the Hood - YouTube