[レポート] LayerXのプロダクト開発と組織 #pmconf2021
2021年10月26日(火)、プロダクトマネジメントに携わる人たちが共に学び、切磋琢磨するイベント『プロダクトマネージャーカンファレンス2021』がオンライン形式で開催されました。
当エントリでは、ブレイクアウトセッション『LayerXのプロダクト開発と組織』の参加(視聴)レポートをお届けします。
目次
セッション概要
セッション概要は以下の通りです。
LayerXのプロダクト開発と組織
[登壇者]
・福島 良典氏(株式会社LayerX / 代表取締役 CEO)
[セッション概要]
LayerXのSaaSプロダクト「LayerX インボイス」の開発組織立ち上げと今後の展開の話を中心に、ブロックチェーン事業からの事業ピボット、それに伴う人と組織の変化についてお話します。また、自身が経験してきた2度の起業経験を踏まえた「プロダクト開発と組織」について失敗談も含めお伝えします。
(※以上、公式サイトより引用)
セッションレポート
はじめに
- 本日のコンセプト
- "ダサい"失敗を語ろう
- かっこいい情報は書籍に書いてある。正論はそっちを読もう
- 実際のところは事業アングルや人的資源の制約、「僕たちは特別」という奢りなどからダサい失敗をいっぱいするもの。それを語ります
- スタートアップの"リアル"を語ろう
- 不確実な情報の中で走りながら決めなくてはいけない、という状況での「やらかし」
- "ダサい"失敗を語ろう
- 自己紹介
- 企業(LayarX)紹介
- 上場企業の創業経験者達で固める経験豊富なチーム
- 経営のエンジニア比率が高いテックカンパニー
- SaaS事業/FIntech事業/Privacy Tech事業
LayerXがしてきた"ダサい"失敗
- 前提とする「組織の理想像」
- 意思決定がヘルシーになされる構造
- 顧客の課題が正しく吸い上げられ、顧客と開発の距離が近い
- 課題に対するソリューションのデリバリーが速い
- 実験の結果が素早くフィードバックされ、改善が回ること
- LayerXがやってしまった、4つの『ダサい失敗』
- ポジショントークの罠
- 売上の罠(提供価値とのギャップ)
- PMFの罠
- 阿吽の呼吸の罠
- LayerXの組織変遷:コンサル・PJ型の組織からプロダクト型の組織にピボットしている
- コンサル・PJ型の組織の場合、案件が増える毎にメンバーをアサイン
- 現在はプロダクトを作って売る形にシフトしている
コンサル事業時代に陥った「罠」
ポジショントークの罠
- コンサル・PJ型の組織時代、ブロックチェーンコンサル(ベンダー)立ち上げ期の話
- どういう諸条件、商流で入るのかが大事、という内容
- ポジショニングが意思決定を規定してしまう
- "ブロックチェーンに強いLayeyX"というポジショニング。この条件で入ると、色々厳しい状況があった
- LayeyXがやりたいのは事業、先方はベンダー的な役割を求めていた
- ブロックチェーンコンサル的な立場で入ると『初期段階ではブロックチェーン要らないですよね』という提案になるケースも:お客様のためにはなってもLayerXの売上にはならない
- 先方の意向(ブロックチェーンに強いLayeyXさんに発注する理由が欲しい)もあり、コードを書くよりも説得資料をつくる時間が長くなってしまった
- 結果「ブロックチェーンコンサルやめよう」となった
売上の罠
- コンサル・PJ型の組織時代、ブロックチェーンコンサル(ベンダー)拡大期の話
- 売上≠提供価値
- 世の中のブロックチェーンPoCブームに乗る形で売上は絶好調
- 単体で使うと単なる高価なトランザクションDBに過ぎない
- 結果PoC止まりに
- 開発需要は旺盛、案件はどんどん来るのでやめられない
- 売上の質
- 単に需給の関係で、開発資源が希少だから上がっている売上
- 一方、プロダクトが提供してくれる提供価値に付く売上(こっちが本質的な売上)
- こっちは急には作れない、提供価値は少しずつ上がっていくもの
- 短期では「需給の売上」の方が早く作れてしまうが、いずれも同じ「売上」として計上されてしまう
- 前述の「ポジショントークの罠」と組み合わせていくと、状況によっては「地獄」となる
教訓
- 「ポジショントークの罠」から得られたこと
- プロダクト型組織でリスクを取る
- 「売上の罠」から得られたこと
- 売上≠提供価値
- 売上が伸びているとそのビジネスは正しいと正当化されがち
- 売上の質を追う
- 売上≠提供価値
教訓からのLayerXの決断
- 「売上を捨てて、プロダクト型組織へ」
- 課題を変えず、リスクのとり方を変更
- ブロックチェーンコンサルから、現在の3事業へPivot
- コンサルを得て経た「リアルな課題」にフォーカス
- 技術選定にとらわれないポジションに
- 業界をむやみに広げない
- プロダクトを中心に課題を深堀り、徹底的に強みを作る
- 売上を捨ててプロダクト型組織へと転換
- プロダクト型の本質
- 課題や技術選定に対する自由度の高さ
- 「ヘルシーな意思決定」が可能に
- 売上の質:メンバーが優秀(希少)だから売上が付くのでは無く、提供価値に売上が付く。提供価値として開発したものがプロダクトに蓄積されていく
- プロダクト型の本質
- ブロックチェーンコンサルから、現在の3事業へPivot
プロダクト型組織移行後に陥った「罠」
PMFの罠
- PMF = Product Market Fit
Product Market Fit(以下PMF)とは、「プロダクト(製品やサービス)がマーケットにフィット(適合)し、受け入れられている状態」を指す。 平たく言えば、「プロダクトに満足して、継続利用してくれるユーザーが右肩上がりで増加している状態」のことだ。 投資家が投資するかどうか判断する場合も「PMFを達成しているか」を基準にする場合も多い。
- プロダクト型組織への移行後の話
- PMFが終わったらアクセルを踏もう → アクセルを踏んで初めてPMFに到達する
- 本が語る理想的なPMFと現実
- 理想:こういうのは実際あるのか?
- 「なくなると困る」が7割
- 100人聞いたら15人が「お金を払う」
- LTV/CPA > 3
- 現実:
- 紙芝居では真の課題は引き出せない
- リップサービスの「使いますよ」「お金払いますよ」
- アクセルを踏まないと、新しい未知の顧客に出会えない
- 理想:こういうのは実際あるのか?
- 理想的PMFに達していない不安
- 何度も「撤退」のワードが頭をよぎる
- 「アクセルを踏んでみて初めてPMFに到達」が正しい
- 「鶏と卵」な問題はあるが、氏は「アクセルを踏む」が卵だと考えている
- 1年は踏ん張らないとダメだ、と思い頑張る→競合環境の変化などもあり、全くPMFしてないのにアクセルを踏まないといけなくなった(ベンチャーあるある)→踏んだ→何となくの自信が芽生え「PMFしたかも?」と思う事も多くなってきた
- 躊躇わずにアクセルは踏んでいこう
- 本が語る理想的なPMFと現実
阿吽の呼吸の罠
- プロダクト型組織への移行後の話/まだ解決していない問題でもある
- 文脈を知るゆえの速さ、知るゆえのスケールのしなさ
- PMF以前から見ているメンバーとそうでないメンバーの文脈差、ドメイン知識の差
- 「俺たちは特別」という奢り
- 「情報を記録している」という奢り
- 「優秀な人を採用しているから」という奢り
- セオリーに従う
- 暗黙知の徹底排除
LayarXのプロダクト開発の組織文化
組織概要
- 組織としてブレないために、組織のミッションを決めた
- 阿吽の呼吸で支えられてきた部分を解く、暗黙知であった部分を新しいメンバーにとって自明となるようにミッションレベルで落とし込んだ
- メンバー比率
- メンバーのバックグラウンド
- 採用計画
カスタマーサクセスにこだわる
- 「カスタマーサクセス」に徹底的にこだわる
- 「契約したが利用していない状態」は最悪
- 業務フローに乗り、効果が出ることに徹底的にこだわる形とした
- カスタマーサクセスは職種では無く、チーム全員で取り組むべき概念であり達成すべき状態
- 定量・定性の両面からモニタリングを行い、お客様の成功に向き合う
- 【定量】プロダクトKPI
- 契約前からKPIを設定し、理想のユーザー像定義、定量的にモニタリングを実施
- 【定量&定性】モニタリング&ヒアリング
- エンジニア職、ビジネス職を問わず、自律的に分析とモニタリングを実施。異常があれば課題のヒアリングも行った
- 【定性】お客様のリアルな声を聞き、プロダクトを改善する
- 商談や月次フィードバックは動画(※要許諾)でチームに共有
- エンジニアが同席するケースも
- 【定量】プロダクトKPI
- 解約率と幽霊解約
- 共にゼロで確かな価値提供、高い満足度を実感
- 幽霊解約=契約はしているものの、請求書を全くアップしていない状態
- 共にゼロで確かな価値提供、高い満足度を実感
開発文化
- 「爆速開発」=高速な顧客課題、事業の検証と組織的学習
- 爆速を生む開発スタイル:基本は王道のスクラム開発(2週間1スプリント)+爆速開発のための工夫を実施
- 「自律的で、背中を預け合う並列開発」
- 「デモ駆動開発」
- 動くモノが正義、動くモノがあってはじめて議論出来る
- コンサルをやっていた時に資料ばっかり作っていたことを反省
- 「使われないものを作らない」
- 技術スタックの今:合理的な意思決定を行った結果
改めて、こうやって書いてみると変わった部分は少ない気がする。もちろんR&DではRustやIntel SGXなども登場するけど。SaaSや金融事業においては丁寧に普通の技術を普通に使い、巨人の肩に上手く乗ることで技術で悩む部分を減らして、とにかく顧客への価値とはなんぞやを突き詰めている。
— 松本 勇気 | LayerXはSaaSとFintechの会社です (@y_matsuwitter) August 7, 2021
- 技術面でのこだわり
- 爆速開発≠雑。こだわるポイントと、やりすぎないポイントに強弱を付ける
- アーキテクチャはシンプルに、PMFが見えたら作り込む
- マネージドサービスの徹底活用
- コアとノンコアの意識
- スケールと開発速度の両立のため、設計には初期からこだわる。一方やりすぎない部分も決める
- サービス特性上、セキュリティは初期段階から手を抜かずにきっちり設計・実装
- スキーマ駆動開発
- DBとAPIスキーマをベースにコードを生成し、実装の土台として開発スピードを底上げ
- 資産化
- インフラ、フロントパーツ、各種コードは徹底的に資産化して次のレバレッジを効かせる。
- 「LayerXワークフロー」は資産を活かし、2ヶ月でリリース
- アーキテクチャはシンプルに、PMFが見えたら作り込む
- 爆速開発≠雑。こだわるポイントと、やりすぎないポイントに強弱を付ける
- エンジニアの気質
- お客様にとって価値を届け続ける事にこだわる気質
- 「事業を作る」
- マーケティング、セールス、CS、全てのプロセスを含めて1つの「プロダクト」
- ビジネス職と垣根を作らず議論に参加
- 「お客様の声に応える」
- 「新領域にチャレンジ」
- 「ファクトベースで議論」
- 「事業を作る」
- お客様にとって価値を届け続ける事にこだわる気質
- 情報の透明性へのこだわり
- アウトプット=スキルx情報のアクセス性x組織リソースのアクセス性
- 経営会議の議事録はフルオープン
- 商談、フィードバック動画も全部アクセス可能
- 各チームがオンボード資料を作成
- 両代表が入社時オンボードにコミット
- アウトプット=スキルx情報のアクセス性x組織リソースのアクセス性
総括
- (再掲)前提とする「組織の理想像」
- 意思決定がヘルシーになされる構造
- 顧客の課題が正しく吸い上げられ、顧客と開発の距離が近い
- 課題に対するソリューションのデリバリーが速い
- 実験の結果が素早くフィードバックされ、改善が回ること
まとめ
という訳で、プロダクトマネージャーカンファレンス2021のセッション『LayerXのプロダクト開発と組織』の視聴レポートでした。