営業の「頭の中」をClaude Codeに渡してみたら、良い壁打ち相手になった

営業の「頭の中」をClaude Codeに渡してみたら、良い壁打ち相手になった

2026.04.02

はじめに——引き継ぎシートを作って気づいたこと

今年の初め、営業チームの「顧客引き継ぎ」を効率化しようと思って、HubSpotやLookerのデータを自動集約して顧客情報シートをワンクリックで生成する仕組みを作ってみました。GASとPythonで、請求推移・取引一覧・活動履歴をまとめてGoogleドキュメントに吐き出すやつです。

仕組みとしてはちゃんと動いたのですが、思ったより使われていない

ご自身で、完全に別で引き継ぎ情報をまとめられているケースもあり、そこにはシステムにはない情報もたくさんありました。たしかに、引き継ぎシートに載っているのは請求金額、取引ステージ、活動件数——つまりCRMに入っているデータのみです。

では、営業が引き継ぎのときに本当に伝えたい情報って何だろう?

  • この人は肩書き以上に社内で影響力がある
  • 前任が踏んだ地雷の経緯
  • 決裁ルートの本当のボトルネック
  • 「検討します」の温度感が、今回はガチ などなど

ストーリーや文脈、空気感。 これはCRMのどのフィールドにも入っていないなと。
結局、営業の頭の中にだけあるものです。故に、頭の中にしかないから引き継げないし、AIにも渡せない

引き継ぎシートを作ったことで、「CRMのデータを集めただけでは足りない」ということがはっきりしました。
もちろん、引き継ぎシート自体は、もちろんそれとして価値があると思っています。
ただ、実現したかったのはデータの集約だけではなく、CRMにない情報も構造化して、人にもAIにも渡せる形にすることができたら、より良いなを思いました。

CRMにあるもの、ないもの

主に使っているのはHubSpotとLookerです。引き継ぎシートを作ったときも、この2つからデータを引っ張りました。

CRMにあるもの(定量・ファクト):

HubSpot(商談・活動管理):

  • 取引金額・ステージ・クローズ予定日
  • コンタクト情報(名前・役職・メールアドレス)
  • 活動ログ(メール○通、ミーティング○回)

Looker(請求・売上管理):

  • 月次請求金額の推移
  • サービス別の利用実績

「2つのツールを横断したんだから、かなり揃ったはずだ」と最初は思っていました。でも実際に使ってみると、これだけで商談の解像度が上がるかというと、上がらない。

CRMにないもの(定性・文脈):

  • ステークホルダーの力関係と人柄
  • 「なぜこの案件が動いているか」のストーリー
  • 競合の動きと顧客の本音の反応
  • 過去にやらかしたこと、信頼を積んだ経緯
  • 次にやるべきことの優先順位と理由

営業が後任に引き継ぐときや上司に共有する時、本当に伝えたいのはこっちです。
でもCRMの「メモ」欄に書いても、埋もれて誰も読まない。かといって、毎回口頭で30分説明するわけにもいかない。

顧客カルテ——CRMのデータと「頭の中」を一つにする

ちょうどこの頃、Claude Codeを毎日の業務で使い始めていました。Claude Codeはローカルのファイルを読めるので、CRMにない情報も含めて、全部Markdownに書いてAIに渡せる形にしてしまえばいい

発想はシンプルで、CRMから取れるデータと、自分の頭の中にある文脈を、1ファイルに統合する。顧客ごとに README.md を作って、全部そこに書く。

実物の構造はこうです:

# A社(※実際は社名)

## 基本情報
- 業種: 流通・小売
- 主担当: 関
- 関係性: 既存・深耕中
- 備考: 大規模DX投資を公表。AI活用に積極的

## ステークホルダー
| 名前 | 役職 | 役割 | メモ |
|------|------|------|------|
| 佐藤様 | CDO | キーパーソン | DX投資の意思決定者 |
| 田中様 | 情シス | カウンター/チャンピオン | 日常窓口。社内推進もしてくれる |

## 請求サマリ
(← 請求データから自動生成)
| 月 | 金額 | 前月比 |
|...|...|...|
- 直近12ヶ月平均: 約○○万円/月
- トレンド: 上昇傾向

## アクティブ取引
(← HubSpot から自動取得)
| 取引名 | 金額 | ステージ | 備考 |
|...|...|...|...|

## 活動ハイライト
### 主要テーマ
1. AWSアカウント統合・ガバナンス整備
2. AI活用PoC: CDOと面談済み。検討中
3. セキュリティ製品導入: ほぼ確定

### 顧客側の課題・関心
- 基幹システムのリニューアル
- AI活用に積極的

## ソリューション検討
| 商材 | ステータス | 検討理由 |
|...|...|...|

注目してほしいのは、CRMから自動で取れる部分と、手動で書く部分が混在していることです。

セクション データソース 更新方法
請求サマリ Looker(請求データ) 半自動
アクティブ取引 HubSpot(MCP連携) 自動
ステークホルダー 営業の頭の中 手動
活動ハイライト HubSpot + 頭の中 半自動(ログは自動、解釈は手動)
ソリューション検討 Claudeとの壁打ち結果 手動

CRMとの連携(HubSpot MCPやGmail連携)の具体的な設定方法は、こちらの記事で紹介しています。

CRMデータだけでは「請求が上昇傾向」までしか分からない。でも顧客カルテには「なぜ上がっているか(DX投資の文脈)」「誰が推進しているか(CDO)」「次に何を提案すべきか」まで書いてある。

この「なぜ」と「誰」と「次」が、AIに渡す文脈として一番効く部分です。

これだけでも、Claude Codeに「このファイルを読んで、○○社の状況を教えて」と言えば、かなり精度の高い壁打ちができるようになりました。

でも使い込んでいくうちに、もう少し欲が出てきます。

日報から顧客カルテへ——更新を続ける仕組み

最初に挙げた問題3「更新が続かない」。これはカルテの構造だけでは解決しません。
僕がやっているのは、日報を経由して自然にカルテが育つ流れを作ることです。

毎日の日報(DAILY.md)に、その日の商談メモや気づきを雑に書いています:

## 2026-03-14
- A社: 田中さんとMTG。セキュリティ製品のPO返送がまだ。来週フォロー
- A社: CDOがAI活用にかなり前向き。次回掘り下げる

これが日々溜まっていく。月次のカスタマーレビューのタイミングで、Claude Codeに「DAILY.mdの○○社関連の記述を拾って、顧客カルテの活動ハイライトを更新して」と頼むと、散らばったメモが構造化されてカルテに反映されます。

商談・電話・メール

DAILY.md(その日のメモ。雑でいい)
    ↓ 月次レビュー時にClaudeが集約
顧客カルテ README.md(構造化された文脈)
    ↓ 顧客名を出すだけでClaudeが参照
日々の壁打ち・提案準備

「頭の中」→「雑メモ」→「構造化された文脈」→「AIが使える知識」。この変換パイプラインが回り始めると、情報が腐らなくなります。カルテを「書く」のではなく、日々の記録から「育てる」感覚です。

精度を上げる——CLAUDE.mdと商材ナレッジ

顧客カルテだけでも壁打ちはできます。ただ、使い込んでいくと2つの不便が出てきました。

不便1: 毎回「このファイルを読んで」と言うのが面倒

顧客の話をするたびにファイルパスを指定する。10社、20社になると地味にストレスです。

これを解決したのが CLAUDE.md(Claude Codeの設定ファイル)です。エンジニアの世界では、ここにプロジェクトのルールを書いておくとAIが文脈を持った状態で動いてくれる——という手法が広まっています。

僕はここに「仕事の進め方」を書いています:

## ワークフロー定義
- 顧客名が出たとき → 顧客カルテ(README.md)を読み込み、
  請求・取引・活動の文脈を踏まえた会話を行う
- 「〇〇の状況教えて」→ /customer スキルを発動
  (統合ビュー: カルテ + HubSpot + メール + カレンダー)
- 「ソリューション検討」→ 顧客の課題・環境を把握した上で
  商材ナレッジを照合し、候補商材を提示

これだけで、僕が「A社の件だけど」と言えばClaudeは自動的に顧客カルテを読みに行くし、「A社の状況教えて」と言えばHubSpot・Gmail・カレンダーまで横断して最新情報を集めてくれる。毎回指示しなくていい。

不便2: 壁打ちしていたら、商材の知識がないと話にならなかった

カルテのおかげで「この顧客の課題は何か」はClaudeも把握してくれるようになりました。でも「じゃあ何を提案すべきか?」と聞くと、返ってくるのは一般論ばかり。当たり前です。うちがどんなサービスを扱っているか、Claudeは知らないんだから。

クラスメソッドはAWSをはじめとするクラウドサービスのリセールをやっていて、取り扱い商材は数十種類。
正直、僕自身も全部の詳細は頭に入っていません。ましてやClaudeが知るはずがない。

結局、壁打ちの質を上げるには顧客の文脈だけでなく、自社のサービス仕様も渡す必要があったんです。

そこで 商材ナレッジproducts/*.md)を作りました。商材ごとに「概要」「想定課題」「ヒアリング質問」「売らない判断基準」を書いたファイルです。CLAUDE.mdに「ソリューション検討時はproducts/を参照」と書いてあるので、顧客の課題について話していると、Claudeが自分の知らない商材まで候補に挙げてくれます。

顧客カルテ(この会社は何に困っているか)× 商材ナレッジ(うちは何を提供できるか)。この掛け合わせが、壁打ちとして一番価値が出るところです。

まとめると三層構造

結果的に、こういう形になりました:

レイヤー 役割 ファイル
CLAUDE.md AIの動き方を定義。カルテを自動で読みに行く CLAUDE.md
顧客カルテ CRMデータ+文脈を1ファイルに統合。これが本体 顧客別 README.md
商材ナレッジ 提案の引き出しを広げる。課題→商材のマッチング products/*.md

最初から三層を設計したわけではなく、顧客カルテを運用する中で「もっとこうしたい」が出てきて、CLAUDE.mdと商材ナレッジが後から加わったという順番です。

実演:「/customer A社」から始まる壁打ち

三層が揃った状態で、実際にどんな会話になるかをお見せします。

僕がClaude Codeに /customer A社 と入力するだけで、Claudeはこう動きます:

  1. 顧客カルテ(README.md)を読み込み、請求推移・取引状況・活動履歴・ステークホルダー情報を把握
  2. HubSpotから最新の取引・活動を取得し、カルテとの差分を確認
  3. Gmailから直近のメールやりとりを取得
  4. Googleカレンダーから過去・今後のMTG予定を確認
  5. これらを統合して「今この顧客で何が起きているか」をサマリで返してくれる

ここからさらに「ソリューション検討したい」と続けると、products/のchallenge-map.mdを参照して、A社の課題に合う商材を候補として提示してくれます。既にカルテに記録済みの提案(提案済み・失注済み)は踏まえた上で、重複提案を避けてくれる。


顧客カルテ_sample

これが「CRMのデータをAIに渡す」のと決定的に違うのは、「なぜ」「誰に」「何を」が全部つながっていることです。CRMだけでは「月次請求が上昇傾向」としか分からない。カルテがあると「DX投資の文脈で伸びていて、CDOがAIに前向きで、セキュリティ製品は確定済みだから次はこの領域」まで踏み込める。

やってみてわかったこと

効いたこと

1. 「あの件どうなってたっけ」が圧倒的に減った

以前は、久しぶりに触る案件だとCRMの活動ログやメモを遡って記憶を復元していました。今は顧客名を出すだけで、Claudeが文脈込みでサマリを返してくれる。これだけで月に数時間は浮いています。

2. 引き継ぎコストが下がった

チームメンバーが僕の顧客を一時的に対応するとき、「カルテ読んどいて」で済む。口頭で30分説明する代わりに、構造化された文脈が共有できる。

3. 壁打ちの質が上がった

「この顧客に何を提案すべきか」を考えるとき、自分の頭だけで考えるより、カルテ+商材ナレッジを持ったClaudeと話す方が漏れが少ない。特に、自分が詳しくない商材を候補に挙げてくれるのがありがたい。

正直、大変なこと

1. それでも、頭の中の全部は共有できていない

これが一番の課題です。

仕組みはある。日報に書けばカルテに反映される流れもできた。でも結局、頭から出す作業そのものが漏れる。商談が終わって次のMTGに向かう移動中に「あ、あの話メモしとかないと」と思っても、PCを開くタイミングを逃してそのまま忘れる。

それに、いざ書こうとすると無意識に加工してしまう。「こう言ってたけど、どう書こうかな」と考えている時点で、生の情報からフィルターがかかっている。本当は「部長の顔が曇った」みたいな些細な観察こそ価値があるのに、テキストにする段階で落ちてしまう。

ここをもっとシームレスにできたらいいなと思っています。

2. まだすべての顧客には展開できていない

担当顧客のうちカルテがあるのは約40社。まだ一部です。
多くのお客様に関する対話を通して、カルテ作成→磨き込みをしていきたいです。

3. 組織としてスケールさせるのが課題

僕個人のワークフローとしては回っていますが、組織としてこれをやれるかというと、まだハードルが高い。
個人の業務を変えるには、それなりの仕掛けが必要なのだろうなと思います。

まとめ:「AIに仕事を任せる」ではなく「AIと文脈を共有する」

世の中的には「AIに○○を自動化させる」という話が多い。議事録の自動生成、レポートの自動作成、メールの自動返信など、営業もその恩恵を受けて効率化を重ねていきますが、顧客との関係構築、意思決定者の見極め、提案のタイミング判断などは、引き続き人が行う領域かなとも思っています。

その時に、AIに「文脈」を渡しておくと、壁打ち相手として機能することで、営業としての思考の精度・判断の質向上や、周囲の巻き込み力があがる→結果的に、成果につながるという未来につながると思っています。

「この案件どう思う?」「次のアクション何がいい?」「この顧客に何が刺さりそう?」といった、問いに対して、顧客の請求推移もキーパーソンの力関係も直近の動きも踏まえた上で返してくれる相手がいる。それは「自動化」ではなく「増幅」です。

そのためには、AIに渡す文脈を自分で設計する必要がある。CRMのデータだけではなく、頭の中にしかない情報を、構造化してAIが読める形にする。面倒だけど、一度仕組みを作れば日々の蓄積で回り始める。

そのストーリーをAIと共有する技術は、まだ誰も体系化していません。僕自身もまだ途中ですが、まずは「作業面」としてClaudeを活用し倒すことで、より深いやりとりができる様になるのではないかと思います。


この記事をシェアする

関連記事