ベストプラクティスを知ろう #サービスマネジメント

システムオペレーションからサービスマネジメントへ。実例を織り交ぜながらサブスク / DX 時代に求められる「Ops」のあり方について考えます。
2022.02.17

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prismatix事業部 の菊地です。

みなさま、日々の運用、お疲れさまです。

前回は「「Ops」をアップデートしよう」と題して、サービス視点や顧客視点を持って「Ops」を見直そうというお話をさせていただきました。

「Ops」をアップデートしよう #サービスマネジメント

しかしながら「Ops」を見直すとは言っても、ゼロから手探りで試行錯誤を繰り返していくのはとても大変です。

そこでデファクトスタンダードである「サービスマネジメント」という考え方を知り、またその「ベストプラクティス」を最大限活用しない手はありません。

今回はそのサービスマネジメントにおける「ベストプラクティス」について、具体的にご紹介したいと思います。

ITIL とは

その「サービスマネジメント」における「ベストプラクティス(成功事例)」を体系的にまとめた書籍群が「 ITIL (アイティル、Information Technology Infrastructure Library の略)」です。

ITIL の歴史

ITIL 自体は 1989 年に英国政府 商務庁(現在の商務省)の下部組織である CCTA(中央コンピュータ電気通信局)によってはじめて公表されました (1980 年代に IT サービスの管理方法について成功事例を集めて体系化しようという取り組みがなされていたこと自体に驚きを禁じ得ません...)

2007 年には ITIL Version3 がリリースされ、英国のみならず全世界において、長年に渡って IT サービスを中心にサービスマネジメントにおけるデファクトスタンダードとして活用されてきました。

2019 年には ITIL 4 (表記から「V」の文字が消えました) がリリースされ、また IT サービスのみならずサービス全般を対象として捉え、かつ「アジャイル」「DevOps」をはじめとした最新の技術や手法を取り込むなどにより、最新のトレンドを盛り込んだ上で大幅なバージョンアップを遂げています。

ITIL とその規格

なお ITIL 自体はあくまでもベストプラクティスですが、その要求事項を国際規格として制定したものが ISO/IEC 20000-1:2018 であり、またその国内規格が JIS-Q 20000-1:2020 です。

つまりこの規格を取得することで、認証機関から国際規格に適合していることが認められ、第三者より適切にサービスを管理しているというお墨付きが与えられたということを意味します。

ITIL のフレームワーク

それでは具体的に ITIL のフレームワークについて見ていきたいと思います。

少し取っ付きづらいと思われるかもしれませんが「ふーん、そういうものか」といった感じで、まずは基本的な考え方についての雰囲気を掴んでいただければよろしいかと思います。

まずはじめに長年活用されてきた ITIL Version3 について、その次に最新バージョンである ITIL 4 についてご紹介していきます。

新旧バージョンの両方についてご紹介することで、フレームワークの考え方を読み解きつつ、またその変更点から ITIL 4 の特徴についてもお伝えすることが出来ればと思います。

ITIL Version3

サービスライフサイクル

まずはじめに ITIL Version3 にはサービスライフサイクルという概念があり、IT サービス全体を4つのフェーズ(ストラテジ、デザイン、トランジション、オペレーション)に分解して捉え、そのフェーズが順番に遷移していくモデルとなっています。

そしてフェーズ毎に必要とされる要素について適切に管理すると共に、絶えず継続的サービス改善を行うことでブラッシュアップを図り、サービスをよりよい状態に維持/管理していくことを目指しています。

ITIL Version3 サービスライフサイクル

ITIL3

出典: 情報マネジメントシステム認定センター「as a Service時代の処方箋 ~ITサービスマネジメントシステムとは~」

上記のようにライフサイクルとして捉えることで IT サービス全体を包括的に捉える一方で、各フェーズが片方向に遷移しているため、どちらかというとウォーターフォール型に近いモデルであると言えるかもしれません。

4つのP

また ITIL Version3 では「4つのP」という考え方があり、人(People)、プロセス(Processes)、製品・技術(Products)、パートナー(Partners)の4つの要素を適切に組み合わせることにより IT サービスマネジメントをより良く実現することが推奨されています。

4つのP

  • 人(People)
  • プロセス(Processes)
  • 製品・技術(Products)
  • パートナー(Partners)

例えば過度に人(People)に依存した場合、一時的に上手くいったとしても、それが持続可能な形にならない恐れがあります(作業毎の品質のブレ、担当者の変更、など)

そうではなく、プロセス(Processes)や製品・技術(Products)といった他の3つのPの組み合わせにより、お互いを補完しながら持続可能な形で IT サービスマネジメントを実装することが望ましいとされています。

ITIL Version3 管理プロセス

最後に ITIL Version3 で管理されるプロセスについて、フェーズ毎にご紹介したいと思います。

ITIL Version3 ではこれらのプロセスを管理することで、サービス全体を適切に管理していくことを目指しています。

サービスストラテジ サービスデザイン サービストランジション サービスオペレーション 継続的サービス改善
・IT サービス戦略管理
・サービスポートフォリオ管理
・需要管理
・IT サービス財務管理
・事業関係管理
・デザインコーディネーション
・サービスカタログ管理
・サービスレベル管理
・可用性管理
・キャパシティ管理
・IT サービス継続性管理
・情報セキュリティ管理
・サプライヤ管理
・移行の計画立案およびサポート
・ナレッジ管理
・サービス資産管理および構成管理
・変更管理
・リリース管理および展開管理
・サービスの妥当性管理およびテスト
・変更評価
・サービスデスク
・イベント管理
・インシデント管理
・要求実現
・問題管理
・アクセス管理
・7ステップの改善プロセス

ITIL 4

一方で最新の ITIL 4 では「アジャイル」「DevOps」をはじめとした最新の技術や手法を取り込むため、フレームワークが大幅に変更されています。

サービスバリューシステム (SVS)

ITIL 4 ではサービスバリューシステム (SVS) という概念が生まれました。

具体的には「機会/需要」が「サービスバリュー・チェーン」を実施することで「価値」を創造することを概念化しており、その「サービスバリューチェーン」を実施するためには「従うべき原則」と「継続的改善」の枠組みの中で、開発や運用に関する具体的な「ガバナンス」と「プラクティス」を実行していくというモデルになっています。

サービスバリューシステム (SVS)

サービスバリュー・システム

出典: AXELOS 「ITIL®️ ファウンデーション ITIL 4 エディション」

サービスバリュー・チェーン (SVC)

サービスバリューシステム (SVS) の中心となる要素はサービスバリュー・チェーン (SVC) です。サービスバリュー・チェーン (SVC) は、「機会/需要」から「価値」を創造のに必要となる主要な活動を示しています。

サービスバリュー・チェーン (SVC)

サービスバリュー・チェーン

出典: AXELOS 「ITIL®️ ファウンデーション ITIL 4 エディション」

バリューチェーンの主要な活動は以下の6つです。

  • 計画
  • 改善
  • エンゲージ
  • 設計および移行
  • 取得/構築
  • 提供およびサポート

それぞれの活動によってインプットがアウトプットに変換され、それぞれの活動がトリガーを受け渡しすることで他の活動が実施されていき、その結果として価値が創造されていきます。

4つの側面モデル

サービスバリューチェーン (SVC) では、出来る限り効果的かつ効率的に価値を創造することを目指しますが、1つの領域にばかりに集中せず、複数の領域をバランスよく捉えることで、望ましい成果を達成することが重要とされています。

それが「4つの側面モデル」です。

4つの側面モデル

4つの側面

出典: AXELOS 「ITIL®️ ファウンデーション ITIL 4 エディション」

4つの側面をすべて考慮しないと、サービスが期待される品質で提供出来ない可能性も、そもそもサービス自体が提供出来なくなる可能性すらもありえます。

ITIL Version3 では「4つのP」という考え方がありましたが、これを ITIL 4 向けにバージョンアップした考え方が「4つの側面モデル」であると言えるかと思います。

サービス関係モデル

一般的にサービスを提供するときに、顧客との間で ITIL 4 にて「サービス関係」と呼ぶ関係性の中で、時には協力しあいながらそれぞれ役割を担います。

複数の顧客と「サービス関係」を結ぶ中で、新規顧客に対して新しいリソースを作らずに、既存のリソースに修正を加えてサービスとして提供することがあります。

このアプローチの繰り返しによって、結果としてサービスプロバイダに進化していく過程のことを「サービス関係モデル」と言います。

サービス関係モデル

サービス関係モデル

出典: AXELOS 「ITIL®️ ファウンデーション ITIL 4 エディション」

ITIL Version3 ではサービスライフサイクルという概念でフェーズの遷移を表現していましたが、ITIL 4 ではサービスバリューシステム(SVS)という概念で絶え間ない価値の創造を表現しつつ、サービス関係モデルによりサービスのライフサイクルを表現していると言えるかもしれません。

ITIL 4 管理プラクティス

以上により ITIL 4 は最新の技術や手法を取り込むことによって、組織がサイロ化されることを阻止しつつ、柔軟な価値志向のフレームワークとして大幅なバージョンアップを遂げています。

最後に ITIL 4 で管理されるプラクティスについて、プラクティスの種類毎にご紹介したいと思います。

ITIL 4 ではこれらのプラクティスを管理することで、サービス全体を適切に管理していくことを目指しています。

一般的マネジメントプラクティス サービスマネジメントプラクティス 技術的マネジメントプラクティス
・アーキテクチャ管理
・継続的改善
・情報セキュリティ管理
・ナレッジ管理
・測定および報告
・組織変更の管理
・ポートフォリオ管理
・プロジェクト管理
・関係管理
・リスク管理
・サービス財務管理
・戦略管理
・サプライヤ管理
・要員およびタレント管理
・可用性管理
・事業分析
・キャパシティおよびパフォーマンス管理
・変更管理
・インシデント管理
・IT 資産管理
・モニタリングおよびイベント管理
・問題管理
・リリース管理
・サービスカタログ管理
・サービス構成管理
・サービス継続性管理
・サービスデザイン
・サービスデスク
・サービスレベル管理
・サービス要求管理
・サービスの妥当性確認およびテスト
・展開管理
・インフラストラクチャおよびプラットフォーム管理
・ソフトウェア開発および管理

小さく始めてみよう

以上のように ITIL のフレームワークでは、サービス全体を包括的に捉えながら、個別のプラクティスを管理していくことにより、サービス全体を適切に管理していくことを目指しています。

一方で「最初からこんなに多くの管理プラクティスを管理することなんて出来ないよ〜」といった現場の声も多いかと思います。

もちろん出来るに越したことがないのですが、まずはそれぞれの組織毎に優先度をつけて、困っていることや出来ることから始めていき、少しずつ適用範囲を広げていくといったアプローチもありかと思います。

ITIL のフレームワークを意識しながら「小さく始めて大きく育てる」「スモールスタート・クイックウィン」といった「リーンスタートアップ」についても検討してみましょう。

経営陣の関与

最後に ITIL を導入するためには、経営陣のリーダーシップとコミットメントが非常に重要であるとされています。

みなさんが ITIL の導入について具体的に検討される際には、その意義について早期に経営陣にもご説明いただき、組織として積極的に後押ししていただけるよう働きかけてください。

経営陣による強力なリーダーシップとコミットメントのもと、みなさんが組織全体に対して ITIL の導入を推し進めることによって、顧客に提供されるサービスに与える効果はより大きなものとなるはずです。

次回の予告

このブログでは、実例を織り交ぜながらサブスク / DX 時代に求められる「Ops」のあり方について、複数回にわたって考えていきたいと思います。

今回は ITIL とそのフレームワークについてご紹介しました。

次回は最新バージョンである「ITIL 4」を対象にして、主に「Ops」に関連する主要な管理プラクティスについて具体的にご紹介したいと思います。

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