突撃!隣の東南アジア 【gecogeco編】
はじめに
こんにちは、knakayamaです。
私は現在フィリピン在住ということもあり、日本ではなかなかできないことをぜひやってみたいなと思っています。フィリピンを含む東南アジア地域の情報をこのブログを通して発信していくことで、読者の方々にその魅力、面白さを共有したいという思いがあるからです。
というわけで、「突撃!隣の東南アジア」というタイトルでフィリピンを含む東南アジア地域で頑張っていらっしゃる会社さんのインタビュー記事を記載したいと思います!
「突撃!隣の東南アジア」って何?
いろいろと案を考えた結果、東南アジア地域でビジネスを展開している会社さんにインタビューすると面白い記事が書けるのではないかと考えました。以前から「突撃!シリーズ」というフォーマットで「DevOps」や「開発環境」というキーワードをベースにし、さまざまな会社の方々にインタビューをさせていただきました。読者からの反響もよく、「うちにもインタビュー来てよ!」と企業の方からお願いされることもある人気のシリーズです。
このシリーズに「東南アジア」という切り口を加え、どういったことをやっているのか、東南アジア地域でビジネスを展開していく上で考慮すべきことはなにか、または実際にやってみてどういった課題が存在しそれをどう克服したのか、などなどのインタビュー記事を掲載すると面白い記事が書けそうだと思いました。
第一回目は、私と同じThe Company Cebuというコワーキングスペースを利用されているというご縁もあり、株式会社gecogecoさんにインタビューさせていただきました。詳細は後述しますが、gecogecoを立ち上げた御手洗さんは、前職でバングラデシュのオフショア開発拠点を立ち上げたご経験もある、日本 - アジア間でのソフトウェア/システム開発に精通されている方です。
gecogecoの紹介
どんなことをやっている?
おもにオフショアでのソフトウェア開発事業を行っています。パートナーを含めて日本・海外(フィリピン、バングラデシュ)で10名ほどの体制で事業運営をしており、設立1年強の会社です。
日本でやっていること
クライアントの業務変革や新規サービスの企画検討をIT観点で支援させてもらっています。オンサイトで担当部署の方々とできるだけ同じ目線で業務にあたっており、業務コンサルティング・ITコンサルティングのような立ち位置から入っています。 直近では、業務系システムの次期システム検討・ITソリューション選定・導入の推進支援と、関連システムの企画検討支援を担っています。
海外でやっていること
オンサイトで支援させていただく中で、開発や運用業務対象が発生することがあります。そういった際に、システムのアーキテクチャ設計やプロトタイピング、かく海外でいわゆるオフショア開発になるかと思います。
インタビューに答えていただいた方々
右から前田さん、エドさん、(モニターの中の御手洗さん、中島さん)、竹森さんです。インタビューは上述したThe Company Cebuで行いました。御手洗さん達は日本からGoogle Hangoutsを使っての参加です。中島さんはgecogecoのパートナーとしてお付き合いをしていらっしゃる方で、写真撮影に参加していただきました。
御手洗さん(gecogeco創業者、主に日本で働いている)
プレイングマネージャーとして組織運営から実案件の上流~下流まで幅広くカバーしている状態です。おもに時間を割いているのは、クライアントの業務分析や提案部分です。ここは日本側でないとできませんし、ここで関係性やスコープ、期待値等がまとまっていないと下流工程での不確実性がましてしまうため、最も注力しています。
逆に、アーキテクチャの設計等はエドや竹森さんをはじめ、他の海外パートナー企業のメンバーでも対応できるため、日本側で持ちすぎず、できるだけ早い段階で渡すようにしています。オフショア開発ではコーディングと単体テストだけを海外に出すところも多いかと思いますが、できるだけ上流段階から連携することを意識しています。理由としては、
- 海外要員のアサイン比率を高めることで競争力のあるコスト構造で対応できる
- 上流から参画することで、より根本的なプロジェクトゴールの認識を合わせやすい
- 早い段階で各ドキュメントを英語に統一することで翻訳作業を極力減らせる
などがあります。結果的に、品質や生産性の面で優れたサービスを提供できていると思っています。
前田さん(フィリピン側のコーポレートオフィスマネージャ)
現地責任者としてバックオフィス全般(登記、オフィス選定~人事採用・労務、経理、総務等々..)を担っています。特に、日々の採用活動が現在の最重要ミッションです。また、まだ現段階ではバックオフィスを担当するフィリピン人を雇用していないため、会計や税務、ビザ等、全ての行政手続きは自ら各関係政府機関等に赴き、対応しています。そのため、ローカルとの連携及びコミュニケーションが多くなっています。
エドさん(フィリピン側のエンジニアリングマネージャ)
今年8月にgecogecoにJOINしました。(インタビュー時点でgecogeco社唯一のフィリピン人エンジニア!)現在私が担当しているSPA案件では、バングラデシュのパートナー企業側がフロントエンドを担い、私はAWSを利用したバックエンドの開発を担当しています。前職が御手洗さん、前田さんと一緒だったということもあり、立ち上げ前から誘いを受けて、gecogeco社に入社しました。
竹森さん(フィリピン側のエンジニア)
今年7月にJOINしました。現在は主にプロダクトの品質を向上させるための業務を担当しています。例えばQAとしてシステムテストを推進・担当したり、監視向けの仕組みやツール開発を担っています。
フィリピンでの事業展開について
フィリピンの魅力とは?
御手洗さんはこれまでフィリピン・バングラデシュ・ベトナムでITプロジェクトを経験されたことがありますが、フィリピンが最も技術ドメインやコミュニケーションスタイルに合うと考えたとのこと。「プロジェクトは一体感が重要なので、共通言語(英語)でメンバー全員とスムースにコミュニケーションが取れることが必要」とおっしゃっていました。
他のアジアの国の場合、英語を扱える人材は限られますが、フィリピンでは幼稚園から英語教育が始まり(入園前に親からも教えられる)、大学ではすべての授業が英語になっているため基本的にほとんどのフィリピン人が英語に堪能です。さらにフィリピンの人口は約1億人ということもあり、コミュニケーション可能な人材の確保という観点から他国にはない魅力を持っていると言えます。
対して、他のアジアの国でオフショア開発をする場合、コミュニケータを立てて日本語と現地の言語を使ってプロジェクトを進めるやり方が一般的ですが、それだとチームとしての一体感が持たせずらいと思います。同じ言語を使って直接チームのメンバーとコミュニケーションをできた方が一体感を出せると思います。
その他、複数の要因があると御手洗さんは続けます。
まず日本との距離。成田から5時間程度で直行便の選択も豊富にあるため、時間的・経済的なコストを低く抑えることができます。時差も1時間しかないため、業務上ほとんど意識する必要もありません。
また、上述した英語を身につけやすい環境を通して日本人を採用しやすい というメリットもあります。私自身も数年前にセブに初めて訪れた理由は語学留学でしたし、フィリピン第二の都市としてIT企業も豊富にあるため、働きながら語学力を伸ばしたいエンジニアに対しては非常に魅力的な環境だと思っています。
最後に、フィリピンの給与水準とIT教育水準のバランスについても言及されていました。セブでのフィリピン人エンジニアの初任給は、一流の大学を出た人材でもおおよそ5~7万円程度であり、平均給与は日本市場と比べてまだまだ低い状態です。現地でトップレベルのエンジニアを採用しても、日本人エンジニアに比べて極めて高いコストパフォーマンスが期待できます。
上記のような点を挙げられていました。こういった複合的な利点がフィリピンの魅力になっていそうですね。
どのような理念、目的があって事業を展開しているのか
御手洗さんはgecogecoのベースにある理念として 日本の若者が海外で働くこと、また、海外の若者が日本で働くことを支援したい とおっしゃっていました。
今まで日本、バングラデシュ、そしてフィリピンに住んで働いた経験がありますが、そこでの同僚のスキルレベルやモチベーションを考慮すると、平均的な日本人PG・SEの単価とスキルセットは見合っていないと感じるようになりました。もちろん日本人ではないと難しい観点や領域も多くあるのは確かですが、適材適所で海外メンバーと柔軟に連携することで、IT投資効率はもっともっと高めることができると思っています。日本は欧米に比べるとドメスティックで日本語に閉じたSIの比率が格段に高いため、まだまだ効率化が図れる分野だと思っています。
ただ、これを行う上でキーとなるのは、日本特有の語学・文化の壁を良い感じに壊せる人材の存在だと思っています。 そのために、日本人でも他国の方でも良いですが、互いの文化を理解した上で国をまたいでプロジェクトを推進できる人材をもっと育てたいと思っています。
ベタですが、グローバリゼーション、フラット化する世界の中で、IT分野は真っ先に影響を受けて急速に変革していく業界だと思います。IT投資効率を考えれば、年々オフショア比率が高まっていく流れは変わらないと思いますし、それが日本がグローバルで生き残っていくためでもあると信じています。そういった中で生き残っていけるかどうか、私含めて日本人エンジニアは危機感を持つべきです。
knakayamaはこう思ったっス
オフショア事業を展開していくことで、海外エンジニアと共同でプロジェクトを進行させるということを一般化し、自分たちが海外のエンジニアと比較されているという状況を作りたい。その上で、海外に挑戦したい若者の支援を行いたいとおっしゃっていました。
私を含めた日本人にはちょっと耳の痛い問題ですが、こちらに住んでからフィリピン人エンジニアの方々と何度か交流し、そのレベルの高さを感じること多いです。先日たまたま現地エンジニアの勉強会に参加する機会がありました。発表内容はGraphQLとLarabelについてだったのですが、日本のそれと遜色ないレベルのものでした。
そういったエンジニアが日本人エンジニアの半分程度の単価でアサインできる状況がある、というのは日本人として意識しておく必要がある事態だと思いました。
優秀なフィリピン人を雇うためにやっていることは?
バックオフィスを担当されている前田さん中心に質問してみました。
gecogecoではMynimoを始めとするセブやフィリピンでよく使われている求人サイトに募集をかけているそうです。また、日本人学生がいる英語学校にも募集をかけたことがあるとおっしゃっていました。確かに募集は来るようですが、期待するレベルとマッチしないこともあるようです。ここは日本と同じ状況ですね。
そこで、 一番効果的なのはリファラルと呼ばれる採用方法 とおっしゃっていました。すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、リファラル採用とは紹介者がすでに人となりを知っている人材を紹介してもらう仕組みのことです。知人を紹介してもらうことで事前のスクリーニングを省けるメリットがあるとおっしゃっていました。
特にフィリピンの場合このリファラルが重要だとおっしゃっていました。レジュメ的にはマッチしそうな人材だったにも関わらず実際にあってみると期待感とギャップがあった、といった経験をされたこともあるようです。他の会社の方にも聞いたのですが、書類だけでは評価できないとみな口を揃えておっしゃっていました。
オフショアを進めていく上で重要な考え方とは何か?
続いて、オフショア(リモートで日本人以外と日々働くこと)で、どのような点が重要だと感じられているか、伺ってみました。
「会社によって視点は変わりますが、私は日本人とそれ以外で何事にもラインを設けないことが重要だと思っています。各種管理ドキュメント、会議体、経営上の数字、給与テーブルまで、海外の従業員に対して日本会社に使われているのではなく、日本のお客さんに対して1つの組織として、サービスを提供している状態を作ることが極めて重要」また、こういった状況を作り出すために、コミュニケーションが重要だと御手洗さんはおっしゃっていました。
例えば、gecogeco社ではミーティング含め社内のやり取りはすべて英語で行われているそうです。対お客さんには日本語でやり取りされていますが、それ以外はすべて英語。
こういった会社を耳にすると僕を含めまだ英語がそこまで得意ではないエンジニアは身構えてしまいますが、gecogeco社は入社時点で英語能力をそこまで求めているわけではありません。業務の中で自然と英語は身につくと考えているので出発時点では求めていない、とおっしゃっていました。また、英語が得意ではない日本人エンジニアに対するサポートも行われているようです。例えば、TOEICの目標点数を決めてその費用を捻出したり、場合によってはチューターや英語学校の費用の負担も行っていくそうです。
ただし、いくら使用する言語を統一したとしても、オフショア開発では文化背景が異なる人同士が協力して開発を進めていくことが重要です。その点についてどういった課題があるのかお聞きしてみました。
「文化背景というより、ソフトウェア産業の習熟レベルの要素が大きいと思います。工程の概念や完了基準、成果物の品質レベルなどに対して、そもそも乖離が大きい。(変に日本の会社の流儀を覚えるのではなく)新卒の方がおそらく馴染むのは早いのではないかと思います」。
ではそういった課題を克服するためにどういった取り組みをしているのか。「取り組みとしてはやってみせることが重要です。知らないこと、見たことないことは誰もできないので、できないが当たり前」。外国人だから、日本人とは違うからといった理由で相互理解を諦めるのではなく、実際にどういった考えの元に行動しているのかを見せていくのが重要だとおっしゃっていました。
このような取り組みを通じて、日本の会社だから日本人が特別扱いされて当たり前という状況をなくすことがオフショアビジネスをしていく上で長期的な観点から重要な要素だと感じました。
海外拠点間での開発について
国をまたいでどのように開発を進めているのか?
gecogecoの場合、基本的にフィリピンとバングラデシュが開発拠点という位置付けです。国をまたいでどのように開発を進めているかお聞きしてみたところ、日本の開発体制とそこまで違いはないなと感じました。すべてのやり取りは英語で行われるということを除いてです。例えば、バングラデシュ側と開発を進めていく場合、PRを使ったら英語でその意図を説明。もし不明点などがあった場合はSlackや、ときにミーティングを設けて話し合うこともあるそうです。
コードの管理にはGitLabを使われているそうです。開発フローは一般的なGitフローを採用されているとのこと。チケット単位でブランチを切ってPRを提出。レビュー、リリース用のブランチに順次マージしていくというフローになっているとおっしゃっていました。
プロジェクトで利用しているツールについてもお聞きしてみました。このあたりも日本の会社と同じようなツールを利用されているようです。
- 計画資料等 : PowerPoint
- ストック型情報 : Redmine wiki、Google Drive/SpreadSheet
- フロー型情報 : Slack、HangoutChat、Chatter
- 設計ツール : Excel, Cacoo
- タスク管理 : Redmine
どのような技術を使っているのか?
実際にこれまでに行った案件の概要や、利用技術について伺ってみました。一般的に小規模なオフショア企業はコーポレートサイトや簡易なECなどのWeb制作を行い、使われている技術はHTML/CSS/js + WordPress/PHP等が多いのではないか、という認識でした。しかし、まだ従業員がそこまでいないにも関わらず、gecogecoさんはAWSの各サービスやAngularJSなどモダンな技術を使い、システム開発をやられていました。
いくつか現在進めているプロジェクトのアーキテクチャ図をいただいたので、ここで1つご紹介したいと思います。
エドさんが関わっている案件の構成図です。Amazon API Gateway、AWS Lambdaを利用したサーバーレスアーキテクチャで実装されたそうです。フロントはAngularJSを利用したSPAになっています。サービスが利用される業務特性から、運用コスト・インフラコストを抑えられること、また、複数ロケーションでの開発を考えると、できるだけ開発単位を小さくおさえたいこと等を考慮されているとのことでした。 モダンな技術を利用したシステム設計/構築を扱えるエンジニアがそろっているという点は、他のオフショア会社にはない強みなのではないかという印象を持ちました。
また、他案件では、Java/SprintBootとNodeJSアプリケーションをそれぞれAWS Elastic Beanstalk上で動作させ、S3イベント通知とSQSを使って連携させるような構成も取られているとのことです。
最後に
目指すところはどこか?
社員の方々の成長できる機会を最大化できる組織にしたい と御手洗さんはおっしゃっていました。そのためには、会社の方向性と社員の思い/キャリアプランがずれていてはだめだと。そこがずれていては、組織として個人を支援できなくなってしまうからです。
そのためにはgecogecoと言えばこれ!といった強みをもっと出して会社をブランディングしていきたいと続けます。そのキーワードは技術力だとおっしゃっていました。エンジニアにとって快適な環境を作ることで、会社の成長も期待できるし、エンジニアに対しても成長できる可能性を提供できる。また、そのブランディングを通してよりおもしろい仕事を見つけてきて、その仕事を海外の開発拠点と一緒に進めていく。そういったことを通して、エンジニアにとって快適な会社にしていきたいとおっしゃっていました。
絶賛人材募集中です!
gecogeco社では絶賛人材募集中とのことです!社員のみなさん伸び伸びと仕事されながら、英語と技術を習得できる数少ない環境だと感じました。ご興味を持たれた方は是非一度お話を伺ってみてはいかがでしょうか。
上述したように、出発時点で高い英語力を求めているわけではありません。求めている技術レベル、プロジェクト推進能力は当然高いです。しかし、これから「プラスアルファの力を身につけたい」と考えている方、日本を飛び出して海外のエンジニアと一緒に開発してみたいと考えいているエンジニアにとって、とても魅力的な環境だと思います。
まとめ
今回貴重なお時間をいただきとても興味深いお話を聞くことができました。
特に、日本人エンジニアの単価と技術力のお話は私自身考えさせられる内容でした。私は数十年日本にずっと住んできましたが、どこかに海外のエンジニアは自分と関係のない話だという意識がありました。しかし、オフショアという形で日本の会社と海外のエンジニアが共同でプロジェクトを推進するという形式が一般化すると、自分自身の市場価値を日本という枠を外して意識しなければならなくなるでしょう。
これをポジティブに捉えるかどうかは本人の考え次第だと思います。ただ、私は前向きに捉えています。環境が厳しくなるということは自分の成長する余地を高められる可能性が増すと考えるからです。また、私は海外の人とコミュニケーションを取ること自体が楽しいと思うという点ももちろんあります。フィリピンという海外に暮らし、現地のエンジニアと触れることでこの思いがどんどん増していると感じています。
最後にみなさんと一緒に集合写真を取らせていただきました!御手洗さん、中島さんの変顔が決まってますね。一番左端が私です。