
Twilio CX Innovation Night レポート - Twilio Conversational Intelligence と Stytch で考える会話データと ID 基盤
はじめに
Twilio 主催のイベントである Twilio CX Innovation Night に参加しました。本記事では、 Twilio CX Innovation Night で紹介されたトピックのうち、 Twilio Conversational Intelligence と Stytch にフォーカスして解説します。
Twilio とは
Twilio は、音声通話やメッセージング、メール、コンタクトセンタなどの機能を API として提供するクラウドコミュニケーションプラットフォームです。開発者は Twilio の API を組み込むことで、自社サービスに通話やチャット、認証などの機能を柔軟に追加できます。
対象読者
- AI 音声ボットやチャットボットなど、会話系のソリューションに関心のある開発者やアーキテクト
- コンタクトセンタやカスタマーサポートの CX 改善を検討している技術担当者
参考
- Twilio Conversational Intelligence
- Introducing Conversational Intelligence: Unlock unified AI understanding across channels
- Twilio to acquire Stytch
- Stytch 公式サイト
Twilio Conversational Intelligence について
Conversational Intelligence の概要
Twilio Conversational Intelligence (以下、 Conversational Intelligence) は、音声通話やメッセージなどの会話を文字起こしし、 AI ベースの言語解析によって構造化データとして扱えるようにするサービスです。
Twilio の各種チャネルと統合されており、通話やチャットを単なる録音やログとして残すだけでなく、後から検索や分析に使いやすい会話データとして扱えます。
対応チャネルとデータフロー
Conversational Intelligence は、次のようなチャネルから会話データを取り込みます。
-
Voice
- Twilio Recordings: Twilio Programmable Voice で録音した通話
- External Recordings: サードパーティで録音した通話ファイル
- Calls: 進行中の通話のリアルタイム文字起こし
- ConversationRelay: AI エージェントとの通話ログ
-
Messaging
- Twilio Conversations: SMS、 WhatsApp、 WebChat など
- 現在は Private beta という位置付け
- Twilio Conversations: SMS、 WhatsApp、 WebChat など
データフローのイメージは次の通りです。
開発者は、自分のアプリケーションで Conversational Intelligence のサービスを作成し、対象となる通話やメッセージに Intelligence Service を紐付けることで、このフローに組み込めます。
どのような分析ができるか
Conversational Intelligence では、Language Operators と呼ばれる処理を適用し、さまざまな情報を抽出できます。代表的な分析内容は次の通りです。
-
文字起こし
複数の音声認識エンジンから選択でき、リアルタイムと通話終了後の両方に対応します。 -
感情分析
通話やチャット全体、あるいは発話単位でポジティブ / ネガティブなどの感情を推定します。 -
要約
会話の要点を短いテキストに自動でまとめられます。 -
トピック / キーワード抽出
よく話題に上がるテーマや製品名などを抽出できます。 -
エンティティ抽出
顧客名、企業名、金額などの重要情報を構造化して取り出せます。
また、 Generative Custom Operators を使うと、より柔軟な解析が可能になり、要約や分類、リスク判定などを行えます。
Stytch によるアイデンティティ基盤
Stytch の概要と Twilio における位置付け
Stytch は、パスワードレス認証を中心に、ログインや多要素認証、組織管理などを提供する開発者向けのアイデンティティプラットフォームです。
2025 年 11 月時点で、 Twilio は Stytch の買収に合意したことを発表しています。 Stytch は自らを、人間と AI エージェントのためのアイデンティティプラットフォームと位置付けています。Twilio は今回の買収によって、人間と AI の両方を横断的に扱う ID 基盤を構築する方針を示しています。
提供される主な機能
Stytch の機能は多岐にわたりますが、大きく分けて次の三つに整理できます。
認証 - パスワードレスを中心としたログイン手段
Stytch は、パスワードレス認証を得意としています。
- メールマジックリンク
- SMS / WhatsApp のワンタイムパスコード
- OAuth ログイン (各種ソーシャルログイン)
- Passkey / WebAuthn による生体認証連携
これらを API ベースで組み合わせられるため、アプリケーションに合わせたログインフローを柔軟に設計できます。
認可 - 組織やロールを前提としたアクセス制御
組織アカウントとユーザを紐付け、ロールベースでの認可を行える仕組みを提供します。
SAML、 OIDC、 OAuth2 といった標準プロトコルによる SSO や、 SCIM によるプロビジョニングもサポートしており、エンタープライズ向け SaaS アプリケーションの ID 基盤として利用できるよう設計されています。
不正検知とセキュリティ
単にログインを通すだけでなく、不正利用やボットを検知するための機能も備えています。
- Device fingerprinting によるデバイス識別
- 過去のログイン履歴や行動パターンを踏まえたリスクベース認証
- SMS / メール配信のフェイルオーバーによる安定した OTP 配信
これらを組み合わせることで、 UX を大きく損なわずにアカウント乗っ取りや不正アクセスのリスクを抑えられる点が特徴です。
人間と AI エージェントの両方を扱う ID 基盤
Twilio による Stytch 買収は、agentic AI の広がりと強く関係しています。今後は、多くの企業が AI エージェントを本番ワークフローに組み込むと予測されています。そうした前提のもとで、 Twilio は Stytch を用いた次のようなアイデンティティ基盤を構想しています。
- 人間のユーザと同様に、 AI エージェントにも ID を付与する。
- どのエージェントがどの顧客と、どのチャネルで、どの権限で会話しているかを一元的に管理する。
- 不審な挙動を示すエージェントや、なりすましエージェントをリアルタイムに検知してブロックする。
Conversational Intelligence や ConversationRelay が扱う会話ログと、 Stytch が管理するアイデンティティ情報を組み合わせて、「誰が何を話したか」を厳密に追跡するという狙いが見えてきます。
まとめ
本記事では、 Twilio CX Innovation Night で紹介されたトピックのうち、 Twilio Conversational Intelligence と Stytch にフォーカスして紹介しました。 Conversational Intelligence は、通話やメッセージを AI で解析して構造化データに変換し、顧客体験の改善や AI エージェントのオブザーバビリティ向上に役立つサービスです。一方、 Stytch は、人間と AI エージェントの両方を対象にした開発者向けアイデンティティプラットフォームとして、 Twilio プラットフォーム全体の信頼性とセキュリティを支えるレイヤになっていくと考えられます。
今後、 Twilio 上で AI エージェントや高度なコンタクトセンタソリューションを検討する際には、 Conversational Intelligence による会話分析と Stytch によるアイデンティティ管理をセットで捉えておくと、設計の選択肢が広がりそうです。







