
UXって何だろう?⑤ 〜「私」と「ユーザー」のズレをなくす、ユーザーリサーチ〜
前回の第4回の記事では、システムには「一次ユーザー(直接操作する人)」や「間接ユーザー(出力を受け取る人)」など、さまざまな人が関わっているとお話ししました。
「なるほど、私たちが考えるべきユーザーはこういう人たちなんだな」と見えてきたところで、次に行うべきなのがHCD(人間中心設計)サイクルのステップ①、「利用状況の把握(調査)」です。
今回は、UXデザインの土台となる「ユーザーリサーチ」について、なぜ必要なのか、そしてどのような種類があるのかを整理していきます。
1. なぜリサーチが必要なのか?
第1回の記事「UIとUXの違い」で、「私(作り手)≠ユーザー(使い手)」というお話をしました。システムを作る開発者やデザイナーは、そのサービスについて熟知していますが、初めて使うユーザーは何も知りません。
ここで恐ろしいのが、作り手が会議室に集まって「私たちのユーザーは、きっとこういう風に使うはずだ」と想像だけで話を進めてしまうことです。作り手の想像(思い込み)だけで画面を作ってしまうと、実際にリリースした時に「全然使われない」「思っていたのと違うところでつまずいている」という悲劇が起こります。
番外編「「理想のお客さん」と「実際のお客さん」は違う」では、美容サロンのオーナーが「うちのお客さんはきっとこういう人だ」と思い込んでペルソナを作ってしまった事例をご紹介しました。あの失敗の根本にあったのも、リサーチをせずに想像だけで進めてしまったことでした。
この「作り手の想像」と「実際のユーザーの姿」のズレをなくすために、現場の「事実」を集める活動。それがユーザーリサーチです。

2. リサーチの2つのアプローチ(定量と定性)
「リサーチ」といっても、その方法は目的によってさまざまです。大きく分けると、以下の2つのアプローチがあります。
① 定量リサーチ(数字で「何が」起きているかを知る)
多くのデータを集め、全体的な傾向を数値で把握するための調査です。
● アクセス解析(Google Analyticsなど)
● A/Bテスト
● アンケート調査 など
👉️ わかること:「トップページから70%の人が離脱している」「AのボタンよりBのボタンの方がクリック率が高い」といった事実がわかります。
② 定性リサーチ(言葉や行動で「なぜ」起きているかを知る)
数字には現れない、ユーザーの心理や行動の文脈(コンテキスト)を深く理解するための調査です。
● ユーザーインタビュー
● ユーザビリティテスト(実際に操作している様子を観察する) など
👉️ わかること: 「なぜそのページで離脱したのか(文字が小さくて読めなかった、専門用語がわからなかった等)」という、数字の裏にある理由がわかります。
UXデザインにおいては、定量データで「問題の場所」を見つけ、定性データで「問題の原因」を探る、といったように両方を組み合わせて使うのが理想的です。

3. まずはここから始めてみる
「インタビューやアクセス解析なんて、今のプロジェクトでは予算も時間もなくて無理だ…」といった状況もよくあります。
でも大丈夫です。リサーチは本格的な調査でなくても始められます。 身近なところにも「事実」は転がっています。
SNSやレビューを検索する
自社のサービス名や、競合のアプリ名で検索してみます。ユーザーがどんな不満を抱えているか、どんな言葉を使っているかがリアルにわかります。
カスタマーサポートの問い合わせ履歴を見る
「どこでつまずいたか」の事実が詰まった宝の山です。
営業担当や現場のスタッフに話を聞く
BtoBシステムなどで直接ユーザーに会えない場合、日常的に顧客と接しているメンバーにヒアリングするだけでも、自分たちの「想像」を「事実」に近づけることができます。
社内でユーザーに近い人に話を聞く
医療や不動産など、ユーザーが限定されている場合、同じような経験のある人に話を聞くことも有効なケースがあります。
大掛かりな準備がなくても、「想像」を「事実」に少しずつ近づけていくことがリサーチの第一歩だと考えます。

4. おわりに
以上のような方法で事実を集めることができたら、次はその事実を整理して「私たちのターゲットは具体的にどんな人物像なのか」をチームで共通認識として定義するステップに進みます。
ユーザーリサーチの目的は、立派なレポートを作ることではありません。「自分たちの思い込みを捨てて、事実を受け入れること」だと考えます。そういった試みの一つ一つが、良い体験へと繋がっていくと信じています。
参考
・翔泳社「はじめてのUXリサーチ ユーザーとともに価値あるサービスを作り続けるために」
・Nielsen Norman Group:Quantitative vs. Qualitative Usability Testing
・HCDサイクルについては「UXって何だろう?③ 〜ユーザーを中心に回し続ける「HCDサイクル」〜」をご参照ください










