
UXって何だろう?⑥ 〜そもそもペルソナとは? AI時代にも変わらない、ユーザーと向き合う意味〜
こんにちは。デザイナーのスギヤマです。
今回はUXデザインにおける「ペルソナ」について整理します。
最近では「生成AIを使えば10秒でペルソナが作れる」といった声も聞かれますが、本当にAIに丸投げしてしまって良いのでしょうか?AI時代だからこそ再確認しておきたい、ペルソナの本来の役割と作り方について整理してみます。
そもそも「ペルソナ」とは何か?
ペルソナとは、自分たちのサービスを使ってくれる典型的なユーザー像を、年齢・職業・家族構成・価値観などを細かく設定し、「実在する1人の人物」のように具体化して描いたものです。
なぜ、わざわざ1人の人物像を作り上げる必要があるのか。それは、プロジェクトに関わるチーム全員(エンジニア、デザイナー、PM、営業など)が、「この人(ペルソナ)ならどう使うかな?」「この機能は喜んでくれるかな?」と同じ目線で判断するための「共通の羅針盤」にするためです。
「30代の女性向け」というふんわりしたターゲット設定では、メンバーそれぞれの頭の中に違う女性像が浮かんでしまい、意見がまとまりません。1人の具体的な「ペルソナ」をチームの中央に置くことで、認識のブレを防ぐことができます。

会議室で生まれる「妄想ペルソナ」の罠
しかし、ここで注意が必要です。ペルソナは、作り手が会議室で「こういう人に使ってほしいな」と想像(妄想)して作るものではありません。
番外編の記事「『理想のお客さん』と『実際のお客さん』は違う」では、美容サロンのオーナーが「科学的エビデンスを重視するキャリア女性」という理想のペルソナを描いたものの、実際の顧客は「雰囲気や癒やし」を求めていた、というストーリーをご紹介しました。
作り手の「願望」だけでペルソナを作ってしまうと、現実のユーザー層とズレてしまい、結果的に誰にも刺さらないシステムやUIができあがってしまいます。
妄想を防ぐための「リサーチ」
この「妄想」を防ぐために必要だったのが、前回の第5回でご紹介した「ユーザーリサーチ(調査)」です。
アンケートやアクセス解析(定量データ)、そしてユーザーインタビューや行動観察(定性データ)を通して、現場の「事実」を泥臭く集める。そして、その集めた事実の共通項をひとつにまとめ上げたものこそが、本当にプロジェクトで使える「意味のあるペルソナ」になります。
リサーチという土台がないペルソナは、いくら綺麗に作られていても役に立ちません。
リサーチから人物像へ「ペルソナの作り方」
リサーチで事実が集まったら、いよいよペルソナを作るステップに入ります。進め方はプロジェクトによってさまざまですが、以下のような流れで進めることが多いです。
① 事実を整理して、パターンを見つける
インタビューやアンケートで集めたデータを並べて、「複数の人に共通している行動や悩み」を探します。
② チームで持ち寄り、議論しながら絞り込む
集めた事実をチームで共有し、「どのユーザー像を中心に据えるか」を議論します。投票で候補を絞ることもありますが、投票はあくまできっかけ。「なぜそのペルソナを選んだのか」という理由をチームで言語化することが肝要と思います。多数決で決まった意見がそのまま正解とは限りません。
③ 1人の人物像として言語化する
絞り込んだユーザー像を「実在する1人の人物」として描きます。このとき大切なのは、ペルソナの素は「実在する特定の人物」ではないということです。リサーチで見えてきたパターンを骨格として、インタビューや観察で得られた事実を肉付けして作り上げる、いわば「合成人間」を作っていきます。
④ チームで共有して、使い続ける
作ったペルソナはドキュメントに残し、チーム全員がいつでも参照できる状態にします。「この機能、ペルソナのAさんは使うかな?」と日常的に立ち返れることが大切です。

シンプルなペルソナのイメージ
ペルソナに含める項目
ペルソナに含める項目はプロジェクトによって異なりますが、最低限以下の3つは定義しておくと良いでしょう。
● 性別
● 年齢
● 職業
その他、ライフスタイル・趣味・よく使うデバイス・抱えている悩みなど、サービスの性質に合わせて項目を追加していきます。
ひとつ重要な注意点があります。ペルソナのベースに実在する特定の人物のデータを使う場合、個人を特定できないよう情報を加工することが非常に重要です。
インタビューで得た生のデータをそのまま使うのではなく、複数人のパターンを合成・脚色した、前述の「合成人間」として仕上げることが、個人情報保護の観点からも、より良いペルソナを作る観点からも大切です。
ペルソナ作りを「AIに丸投げ」してはいけない理由
近年では生成AIが普及し「ペルソナを作って」とプロンプトを打てば、10秒で立派なペルソナシートが出力されるようになりました。
しかし、ペルソナ作りを完全にAIに丸投げするのは非常に危険です。過去にこのブログで、「ChatGPT上で性格の違うキャラクターを設定し、擬似的にインタビューしてみる」という検証を行ったことがあります。その結果わかったのは、AIが出力する回答は、世の中のデータの平均値をとった「中庸的で無難な回答(ステレオタイプ)」になりがちだということでした。
実際の人間にインタビューをすると、固有名詞が飛び出したり、生活感のある独特な行動パターンが見えたりと、非常に詳細で生々しい情報が得られます。実際のユーザーが抱える「現場の泥臭い悩み」や「独自の価値観」は、AIの想像からは出てきません。
リサーチをせずにAIにペルソナを作らせて満足するのは、「会議室での人間の妄想」を「AIの妄想」にすり替えただけになってしまうのではないでしょうか。

AIにサポートしてもらいながらユーザーに直接向き合う
もちろん、AIを使ってはいけないというわけではありません。
自分で泥臭く集めたリサーチデータ(事実)をAIに読み込ませて情報を整理してもらったり、作成したペルソナを壁打ち相手として活用したりする「サポートツール」としては、AIは非常に優秀です。
しかし、UXの正解はAIの中にはないと考えます。実際に対面で会話をすることで得られる情報は非常に豊富で、貴重なものです。
生身のユーザーに直接向き合い、事実を集める泥臭さこそが、本当に使いやすいデザインを生み出す土台になると信じています。いつでもユーザーと事実に寄り添うペルソナを作りたいものです。
参考:オーム社「ユーザビリティエンジニアリング(1-4-2)」











