UXってなんだろう番外編〜「理想のお客さん」と「実際のお客さん」は違う。リサーチなしで陥った罠〜

UXってなんだろう番外編〜「理想のお客さん」と「実際のお客さん」は違う。リサーチなしで陥った罠〜

2026.03.27

今回は「UXって何だろう?」シリーズの番外編として、現場で実際に起きた悩みや葛藤を共有するお話です。教科書には載っていない、泥臭い調整や判断の連続。そんなリアルな現場の話を通じて、一緒に考えるきっかけになれば嬉しいです。

「ユーザーのことを考えてデザインしよう」と言うとき、多くの場合まず「ペルソナ」を作ることから始めます。

でも、ちょっと待ってください。そのペルソナ、どこから来ましたか?

「30代女性、キャリア志向、エビデンス重視…」それは実際のユーザーを観察して得た事実でしょうか?あるいは、「こういう人に来てほしい」という願望から生まれた人物像ではないでしょうか?

実は、会議室で作られたペルソナが「作り手の理想」にすぎず、現実のユーザーとズレていたというケースは珍しくありません。そしてそのズレは、リサーチをしなければ気づけないと考えます。

今回は、そんな「理想と現実のズレ」に直面したデザイナーの話を通じて、リサーチなしでペルソナを作ることの危うさを考えてみます。

(※これは実際の案件をもとにした創作です。特定の企業・サービスを示すものではありません。)

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1. オーナーの熱い想い

とあるUXデザイナーAさんは、新規オープンする美容サロンのLP制作を依頼されました。初回のヒアリングで、オーナーはこのようにおっしゃいます。

「最新の美容技術を取り入れた、科学的アプローチのサロンなんです。だから、リテラシーが高くて、エビデンスを重視する層に来てほしい。ターゲットは30〜40代のキャリア女性。『成分』とか『作用機序』とか、そういう話をちゃんと理解してくれる人たちです」

なるほど、Aさんはスタイリッシュで知的な印象のデザインだな、と考え始めました。

● クリーンで洗練されたデザイン
● 科学的根拠を並べた、理論重視の構成

を画面に落とし込むことに決めました。

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2. でも、深夜に気づいてしまった

ラフを作りながら、ふと疑問が浮かびました。

「いや、待って。本当にそういうユーザーが、サロンに通うだろうか…?」

「エビデンス重視の人なら、自分で成分を調べて、自分で製品を買って、自宅でケアしそうな気がする。サロンに「わざわざ行く」人って、何を求めているんだろう?」

Aさんは不安になって、競合サロンや類似サービスのSNS、口コミサイトを深夜に漁り始めました。

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3. そこには、想定と真逆の世界が広がっていた

実際のお客さんのSNS投稿はというと…

「先生の雰囲気が最高で、行くだけで癒やされます」

「施術中、なんか気持ちがスーッと楽になった」

「数字とかよりも、あの空間にいるだけで整う感じがする」

「また行きたい!というか、もう行かないと無理かも」

Aさんは驚きました。
エビデンスよりも、体験や感覚を重視した書き込みが圧倒的に多かったのです。
科学的な数値や技術説明よりも、「癒やし」「気持ちの変化」「居心地の良さ」「感覚的な満足」といったキーワードに反応している層を発見しました。

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4. 「納得の仕方」が違う

ここで重要なことに気づきました。

オーナーが来てほしい層:

● データやエビデンスで納得したい
● 「なぜ効果があるのか」を理解してから選びたい
● 論理的な説明を求める

→ でも、そういう人はそもそもサロンに来にくい(自分でケアする可能性が高い)

実際に来ている層:

● 体験や実感で納得したい
● 「どう変われるのか」「どう感じられるか」を重視
● 癒やしや居心地の良さといった言葉に反応する

→ サロンという「場」や「人」に価値を感じている

「どちらが正しい・間違っている」ではなく、「何を求めているか」が根本的に違うのでは、という仮説を立てました。

人が何かを「良い」と感じるとき、その判断の根拠は大きく2種類あります。

● 論理で納得するタイプは、成分・数値・メカニズムといった「なぜ効くのか」の説明があって初めて信頼します。このタイプに刺さるのは、エビデンスや比較データ、専門用語を使った丁寧な説明です。

● 感覚で納得するタイプは、「良い印象を受ける」「あの人が言うなら信じられる」「行ったら気持ちよかった」という体験や感情が判断の軸になります。このタイプに刺さるのは、雰囲気の伝わる写真、お客さんの生の声、「どう変われるか」のイメージです。

もちろんこの2種類ではっきり分かれるわけではなく、グラデーションになっています。しかし、どちらをより強く意味づけするか、の判断は必要です。

そして、調査の結果「サロンというビジネスの構造上、「わざわざ足を運ぶ」という行動を取る人は、後者である可能性が高いのでは」と意味づけしました。なぜなら、前者は自分で調べて、自分で解決しようとするからです。

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5. 「これは、誰にも刺さらないのでは…?」

Aさんは焦りました。オーナーの理想通りに「クールなデザイン」「エビデンス羅列」で作ったら…

● エビデンス重視層 → 「サロン?大丈夫です。自分でやります」
● 実際に来る層 → 「なんだか、難しそう…癒やされなさそう…」

誰にも刺さらないLPができあってしまいます。
しかし、「オーナーさん、ターゲット間違ってます!」とは言えません。オーナーさんの情熱は本物ですし、関係が壊れるかもしれない。Aさんは頭を抱えました。

「お客様の想いを否定せずに、でも現実も伝えたい。どうすればいいんだろう…」

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6. 選んだ方法:「仮説として試す」提案

翌日、こんな風に提案しました。

「オーナーさんの想い、すごくよくわかります。まずはその方向で作らせてください。

「ただ、競合をリサーチしていて気づいたことがあって。実際にサロンに通っている方々は、『科学的根拠』よりも『体験や癒やし』を重視している傾向が強いようなんです」

「もしリリース後に反応が薄かった場合に備えて、『体験重視バージョン』も用意しておきませんか?数字を見ながらどちらが響くか確かめられたら、より確実だと思うんです」

この提案のポイントは、

● オーナーの想いを否定しない(「まず、その方向で作る」)
● リサーチの結果を客観的に共有する(「こういう傾向が見えました」)
● 「数字で判断しましょう」と導く

すると、オーナーさんも、「それなら納得できる」と言ってくれました。

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7. 自分の中の「モヤモヤ」とも向き合う

実はこの案件、Aさん自身も内心ずっとモヤモヤしていました。

「自分はどちらかというと、データで納得したいタイプだ。成分表を読んで、口コミの数字を見て、コスパを計算してから買う。自分がピンとこないものを、本当に良いデザインにできるのだろうか」

でも、SNSを見ると、お客さんは本当に満足している。

「久しぶりにリラックスできた」
「気持ちが楽になった」
「また行きたい」

そこに嘘はありません。ユーザーはちゃんと満足している。

「自分が信じる価値観だけが正しいわけじゃない。感覚で選んで、ちゃんと満足しているお客さんがたくさんいる。それって、自分にはない豊かさだ」

UXデザイナーの仕事は、「自分が納得できるものを作ること」ではありません。「ユーザーが何を求めているかを理解して、それをクライアントのビジネスとつなげること」です。

自分とは違う価値観を持つ人のニーズを理解しようとすること。それもUXデザインの大事な部分なんだと、この案件で初めて腹落ちした気がしました。

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8. この案件から学んだこと

「理想のお客さん」と「実際のお客さん」は、ズレることがある

これがこの案件の一番の学びです。そしてそのズレは、リサーチをしなければ気づけなかったでしょう。

人の「納得の仕方」は違います。Aという理由で動くユーザーもいれば、Bという理由で動くユーザーもいます。どちらが優れているわけでもなく、ただニーズが違うだけ。その違いを理解せずにデザインすると、誰にも届かないものができあがります。

UXデザインの文脈では、ユーザーを理解するための調査を「ユーザーリサーチ」と呼びます。インタビュー、行動観察、口コミ分析など、手法はさまざまですが、共通しているのは「作り手の思い込みではなく、事実を見に行く」という姿勢だと考えます。

今回は創作のお話を書きましたが、会議室で「こういうお客さんが来てくれたら嬉しいな」と願望を書き連ねてしまい、それをユーザーとして定義してしまうことは、実際におこりえます。

実際のユーザーの声や行動を観察することで初めて、本当に届くデザインの土台ができると思います。

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