[レポート] 最先端事例に見るクラウド時代の動画ワークロードの現在と未来 #AWSSummit
はじめに
清水です。2016/6/1(水) ~ 6/3(金)に開催された AWS Summit Tokyo 2016 General Conference Media & Entertainment Track Day2 「最先端事例に見るクラウド時代の動画ワークロードの現在と未来」を聴講しましたので、そのレポートになります。
セッション紹介文
Amazon ビデオ、Netflix など海外動画配信サービスが昨年末から日本でも本格的に始めり、ネット動画の視聴が急激に増加しています。高品質・高解像度映像の制作ワークフロー、4K 配信、動画視聴分析など、ユーザー企業様による活用事例を通じて各社がどのように AWS を活用し、今後を見据えているのかについてご紹介します。
セッションスピーカー
- ホスト
- 北迫 清訓様(アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 技術本部 メディア・エンターテインメント部 部長/ソリューションアーキテクト)
- ゲストスピーカー
- 里見 宗律様(東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 映像サービス担当 マネージャ)
- 石津 慎弥様(株式会社フォアキャスト・コミュニケーションズ チーフテクニカルディレクター)
- 常川 倫生様(株式会社バンダイナムコライツマーケティング アーキテクト)
- 柿元 崇利様(株式会社U-NEXT 事業戦略室 マネジャー)
アジェンダ
- 動画ワークフローの現状と課題(北迫様)
- Amazon Videoの事例でAWSの動画配信プラットフォームの紹介(北迫様)
- 登壇各社の動画配信サービスのAWS活用事例の紹介(ゲストスピーカー)
- まとめ(北迫様)
動画ワークフローの現状と課題
現状
動画サービスのトレンド
- 日本でもオンデマンド視聴環境が整いつつある
- NetflixやAmazon Prime Videoなど、定額動画配信サービス
- 民法局がTVer開始。見逃し番組キャッチアップサービス
- Netflixボタン、FireTVやChromeCastなど、テレビで視聴できるデバイスの充実
プレミアムコンテンツ
- サービス種類
- SVOD: 見放題
- TVOD: 都度課金
- EST: 買い切り
- AVOD: 広告
- 動画配信利用者の推移
- 2011年はインターネット利用者の5.6%
- 2015年はインターネット利用者の11.1%
- 増えている
- SVODが多い
- プレミアムコンテンツの市場が今後拡大の予感
- パソコン、スマホ、タブレットなどのほか、テレビでの視聴も増えている
- 有料コンテンツも増加している
課題
- マルチスクリーン対応
- 配信側で1つのコンテンツからデバイスごとに最適化したものを複数準備
- 配信方式、MPEG-DASH, HLS, HDS, RTMP, Smooth Streaming
- DRM方式、PalyReady, FairPlay, AES, etc
- コンテンツラインアップの増強
- ロングテールコンテンツの増加
- 高画質化(HD、4K)、HDR化によるファイルサイズの増強
課題をまとめると
- 配信ストレージ容量、変換、配信に必要なサーバ、ネットワークリソースは増加の一途
- より簡単にコンテンツに接触できるUIの改善
- プレミアムコンテンツが増える中で、課題解決のための銀の弾丸はない
- しかし動画ワークロードを品質保持しながら、柔軟、スケーラブルする動画配信基盤が必要
AWSでの動画ワークロードプラットフォーム
メディアパイプラインとして、以下に分かれる
- アップロード : S3
- トランスコード : ElasticTranscoder
- パッケージング(DRMなどもここで処理) : EC2(スポットインスタンス)
- デリバリ(CDNなどを利用) : CloudFront
ユーザの視聴データから
- レコメンデーション : Elasticsearch, QuickSight
- 視聴分析 : EMR, Redshift
- 再生品質分析 : S3, Kinesis
ワークロードで挙げられる課題点
トランスコードとパッケージングの際、種類が多くなる(配信方式、DRM方式等の違い)
- ストレージ容量増加
- CDNののキャッシュヒット率が下がる
Amazon Videoの事例でAWSの動画配信プラットフォームの紹介
AmazonVideoの概要
- 数百万のカスタマー
- 500+ の再生デバイス
- 60万+ のタイトル
- 540万+ のエンコード
- 1つのコンテンツあたり、9種類のコンテンツファイルがある
Amazon Videoを支えるメディアパイプライン
- AWSで構成
- 全てが自動化されている
- コンテンツ量によりサーバがスケールする。AutoScaling使用
- コンテンツプロバイダはいつコンテンツをアップロードするかわからない
Amazon VideoのCDN
- ロングテールコンテンツが多い
- キャシュに乗りにくい
- 再生品質低下 − ユーザエクスペリエンス低下
Amazon Video専用CDN
- Amazon CloudFront Metrosite (オンデマンドビデオ専用CDN)
- 仮想的に複数のデータセンターを束ねて、1つのエッジロケーションとしている
- アメリカ、ヨーロッパ中心に展開
- 高速ネットワーク、大容量キャッシュ、コスト効率化
登壇各社様の動画配信サービスのAWS活用事例の紹介
石津様(株式会社フォアキャスト・コミュニケーションズ)
日テレ無料!(TADA)でのメディアパイプライン事例の紹介
日テレ無料!(TADA)の紹介
- 日テレ無料!(TADA) (読み方:にってれただ)
- 見逃し配信、いつでもどこでも無料で視聴できるビデオオンデマンドサービス
- 日テレ無料!(TADA)の数値の話
- 再生数
- 全体として伸びているが、クールごとに違う。
- 配信する番組による
- 一番コンテンツ力があるのは、ドラマ
- アクセスシェア
- PC 28%
- Android 26%
- iOS 46%
- 配信番組数
- 右肩上がりで伸びている
- サービス開始当初から8倍
- 地上波からBS、Webオリジナル番組もある
- 再生数
日テレ無料!(TADA)でのパイプライン
- これまでは撮影、編集後に完パケ、放送、という流れ
- 日テレ無料!(TADA)対応として、完パケの後にVOD作成のフロー
- VOD用メディアパイプラインのポイント
- S3がの拡張制でストレージの維持運用コストに悩まされることがない
- IAMとS3のセキュリティ機能で、外部とのコンテンツ連携も高いセキュリティ
- S3がメディアワークフローのハブとなる
- VIDEO CLOUD連携等で業界標準のS3のインタフェースが使用できる
柿元様(株式会社U-NEXT)
U-NEXTでのトランスコード事例の紹介
U-NEXTの紹介
- オンラインレンタルサイト U-NEXT
- 12万本の映像コンテンツ
- 200万冊の電子書籍
- 133万の契約者数
- 月2桁PBクラスの転送量
- FireTVスティックのベストアプリに選出
- ファミリー & TV ファースト
- TVを通じてサービスを楽しんでもらっている
- 動画配システムとして
- 自社データセンターでトランスコード、パッケージングを行っている
U-NEXTの全面刷新と課題解決
- 2015/10 全面刷新
- 再トランスコード(12万ファイル、8万時間)
- トランスコードが課題となる
- 全面刷新までの時間を伸ばす、品質を妥協する、等はしたくなかった
- マシンリソースを増やすことを検討
- AWSでトランスコード向上を作成
- 自社データセンターとDXで接続
- EC2でもともとの環境を再現
- ElasticTranscoderは使わず(もとの環境の再現を優先)
- スポットインスタンスを使用
- トランスコードはミッションクリティカルではなく、ミスしたらやり直せばよい
- 完成
- 最大 561インスタンス/日、平均319インスタンス/日
- 最大 1245コンテンツ/日、平均554コンテンツ/日 − いろいろなインスタンスを使った
- c3.4xlarge, c3.2xlarge, r3.4xlarge, c4.4xlarge, etc
- まとめ
- AWSインスタンスをオンプレ同等環境として構築、利用
- トータルコストは71.4%削減(物理サーバ購入の場合と比較)
- 締め切りに間に合った
- 次のステップ、再生品質向上
- アダプティブ配信(ビットレート配分調整、ビットレート切り替えルール)
- マルチCDN(アダプティブCDN切り替え)
- いずれもデータをフィールドから集めて、分析して反映させる
常川様(株式会社バンダイナムコライツマーケティング)
バンダイチャンネル等での視聴分析事例の紹介
サービス紹介
- 自社配信サービス www.b-ch.com
- PC向け都度課金、レンタルモデルから、スマートフォン対応、さらに見放題へ
- ファンクラブ(映像配信だけでなく、情報発信なども)
- ガンダムファンクラブ
- 東映特撮ファンクラブ
- 配信プラットフォームのBtoBサービス
- アニメイトチャンネル
[視聴時間]を取得する基盤の遍歴
- TVoD(都度課金)からSVoD(見放題)への遍歴
- 何本売れた?何本見られた?からどのように再生価値を捉えればよいか?
- 見放題では30分の映像と90分の映像の1回の再生価値は同じ?
- 見た時間(視聴時間)をとりたい
- バンダイチャンネルではコンプリートでエンブレムゲット
- コンプリートって何?
- TVoDなら全話購入
- SVoDは全話視聴
- 何分見たら視聴したと言える?
- (現在は70%見たら、視聴したことにしている)
- コンプリートって何?
- 第1世代
- 要求仕様
- 各映像が何分再生されたかを、1ヶ月ごとにレポート
- 解像度は30秒。これは以降も共通の仕様
- 実装
- オンプレミス
- データストアはKVS
- KVSで保存したデータを日次バッチでRDBに取り込み
- 要求仕様
- 第2世代
- 要求仕様
- 視聴履歴が参照できること
- 続きから見ることができること
- 直前のデータをすぐに参照できること
- ポーズ、シーク時の位置を保有(→さらなるアクセス増加)
- 実装
- AWS(以降はAWS上に構築)
- データストアはRDS(Multi-AZ)
- 続きからみるための位置をリアルタイムに記録・参照できる
- 要求仕様
- 第3世代
- 要求仕様
- BtoB利用のための視聴時間計測ができること
- 対障害性、高可用性
- 1再生1レコードではなく、ビーコンデータを全て保持
- 実装
- 生データはDynamo
- 集計はRDS
- 要求仕様
- 第4世代
- 要求仕様
- BtoB利用に続きを見る機能の提供
- 実装
- DynamoDB StreamでRDSへ書き出し − API Gateway + LambdaでRDSを参照
- 要求仕様
- AWSを使ってみて
- サービスを適材適所に利用でシームレスにニーズ対応できた
- フルマネーじドサービスで開発に専念
- Dynamoでコストメリット、パフォーマンスをいかせなかった
- クラウドのメリットをまだ活かせていない
- 次のステップ
- データ収集基盤のコスト削減
- データ活用、分析でサービス向上、付加価値の提供
里見様(東日本電信電話株式会社)
フレッツ・キャストを利用した4K映像配信の紹介
4K VODのデモ映像
- 会場での4Kの映像の上映デモ
- ビットレート 30Mbps
- コーデック H.265
- プロトコル DASH
- 解像度 3840x2160
- フレームレート 60fps
- AWSからフレッツキャストを利用してVODで配信している
- 基調講演、C会場(Basic Tech Track)の講演は期間中、会場5箇所で4Kライブ配信している
- 4Kライブ配信の構成
- カメラ、TBSさん協力でで撮影
- エレメンタルエンコーダでアップロード
- BussinessEtherワイドでAWSにアップロード
- フレッツキャストでフレッツ光に配信
- モニタは東芝さんの4Kモニタ
- 4Kライブ配信の構成
4K配信の課題と解決
- コスト面が商用サービスの障壁
- 4K対応の高価な映像配信サーバ
- インターネットで4K流すのはネットワーク的に困難
- AWSとフレッツ・キャストの組み合わせで4K配信の提案
- サーバ構築は半日、EC2インスタンスは1台
- フレッツ・キャスト+フレッツ光
- 以下の3つだけで簡単に4K配信ができる
- AWSアカウント
- フレッツ・キャスト(AWS専用線アクセス体験ラボを利用)
- フレッツ光回線、またはコラボ回線
AWSでの4K映像配信の検証結果
4K配信(VOD, DASH, 30Mbps, 60fps)での検証結果を3点紹介
1. 配信の際にストレージについて
- EC2内でS3をマウントして使用
- 数十秒
- S3をHTTPで使用
- 0秒台後半
- EC2でEBSを使用
- 0秒台前半
EBSを使わないと現実的ではないという考えだったが、コストも考慮すれば、S3 HTTP方式が有利
2. 配信の際のインスタンスタイプについて
- m4.large 16人 → ネットワーク帯域 中
- m4.2xlarge 33人 → ネットワーク帯域 高
- c4.4xlarge 33人 → ネットワーク帯域 高
CPUコア数よりも、ネットワーク帯域が重要
3. 配信の際にCloudFrontのキャッシュヒットについて
- キャッシュヒット率は97%だった
- 4Kだとチャンクファイルが大きなものになるが、それでも高いキャッシュヒット率となった
フレッツ・キャストについて
- 通常のインターネット接続は「サーバ、インターネットプロバイダ、NTT東日本ネットワーク」とつながる
- フレッツ・キャストを使うことでインターネットを経由せずに、サーバとNTT東日本ネットワークを直接接続
- 1本の光回線で、インターネット接続とフレッツキャスト接続が可能
- フレッツ・キャストの利用事例
- ひかりTVでの4K映像配信
- アクトビラのハイブリットキャストでの4K配信
- U-NEXTもフレッツ・キャストを利用
- フレッツ・キャストのメリット
- 4K配信可能な広帯域ネットワーク
- インターネット経由せずに直接配信できる
まとめ
今後、プレミアムコンテンツの配信が拡大していく中で、映像品質、再生品質の継続的な向上は重要な取り組み。 メディアワークロードにおけるクラウド活用は、重要な選択肢。
- 柔軟に対応できるプラットフォーム
- スケーラブルなインフラ
- ビッグデータ分析で品質向上フィードバックループ
感想
北迫様による最新の動画ワークフローとAmazon Video事例の紹介、また各社様の様々な事例紹介と、とても盛りだくさんで充実したセッションでした。動画配信事例に関しても既に様々なところでAWSが導入されており、高品質な動画配信が行われています。ただ配信を行なうのではなく、プレミアムコンテンツ化や視聴データの分析、そして4Kによるライブ配信など、AWSを使った動画配信もどんどん進化していっています。私もこの進化に乗り遅れないように引き続き情報のキャッチアップを続けたいと思います。