[レポート]健常者と障がい者の協業によるテクニカルデザインの推進 #WPT201 #reinvent

2019.12.05

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AWS事業本部インテグレーション部のいわほりです。

本記事はAWS re:Invent 2019のセッションレポートです。

概要

  • セッションタイトル
    • (WPT201)We Power Tech Designing cities with inclusion in mind
  • スピーカー(パネラー)
    • Michael Jackson - Leader, Public Health & US Elections, Amazon Web Services
    • Joanna Peña-Bickley - Head of Research & Design Alexa Devices, Amazon Web Services
    • Robin Spinks - Senior Innovation and Technology Relationships Manager, Royal National Insitute of the Blind
    • Spencer Montan - Chief Operations Officer, Wavio
    • KR Liu - Principal Accessibility Marketing Lead, Amazon Web Services
  • 形式
    • 5人のパネラーによるパネルディスカッション
  • 内容
    • テクノロジー開発現場における障がい者の重要性に関する議論
    • 事前のセッション内容説明は以下のとおり

Inclusive design involves considering the needs of the widest number of people across age, race, gender, and other classifications in the design of our tech products and services. What are the ways in which technology enables us to be inclusive of people with cognitive and physical disabilities? Join us to discuss this question and other important aspects of inclusive design.

ディスカッション内容

障がいを抱えているからこそできること

Joanna Peña-Bickley

私は10年のキャリアを積んだのちに、聴力を失いました。それにより昇進や職場での日常のコミュニティから除外されてしまうのでは?と悲観しました。

しかし、聴力を失ったことは最終的には強みになりました。

なぜなら、読唇術やボディランゲージの解釈を行うことによって相手が発言しない真意を把握できるようになったからです。それは取引を成立させるために本当に必要なことを知ることにつながりました。

Michael Jackson

それは重要なポイントですね。「そもそも何が障がいなのだろうか?」と見方を変えることにつながりますね。

Robin Spinks

私は生まれてから視力が弱いため、short term memoryを活用するための方法を考えだしました。それは、健常者では思いつかないものです。

例えば、視力が弱い人が混雑した場で有人と会う場合、友人を見つけようとするのではなく、友人にみつけてもらいやすい場所に行こうとします。

人と話す時もshort term memoryで認識する様々な情報を総合的に組み合わせることによって、物事の本質にたどり着くようにしています。

Spencer Montan

私はこう考えます。障がいのある人は無意識のうちに問題解決者になることができる、と。

例えば、カフェに行った時に、店員にスムーズに欲しいモノを伝えるためにはどうしたらいいのだろうか?と考える。これは、健常者は考えないことです。

私の職場にいる聴覚障がい者は、お客様である一般の聴覚障がい者と経験を共有しています。彼らは仕事として、お客様(=一般の聴覚障がい者)とエンジニアがコミュニケーションをとれるようにしています。

Joanna Peña-Bickley

デザイナーでもある自分にとって、障がい者が設計チームの一員であることは非常に興味深いことです。

新製品やイノベーションの設計を行う際、多くのデザイナーは一般的なユーザを想定しますが、障がい者が設計チームに参画することで、より高い目標を目指すことができます。

アメリカ国民の4人に1人は何らかの障がいを持っていて、市場の規模は80憶ドルともいわれています。よって、障がい者のユーザー向けの設計は重要なのです。

Spencer Montan

私のチームは4億1600万人の耳が不自由な方々と一緒に多くの研究を行っています。また、耳が不自由な方の人数は年々増加しています。

私たちは、そんな人たちが水の流れる音、火災報知器の音、赤ちゃんの泣き声といった環境音を捉えることができるような製品や技術を開発しています。

Joanna Peña-Bickley

聴覚の障がいの予備軍とも言える若者は11億人いると言われています。毎日何時間も音楽を聴いたことによる影響です。そんな人たちに向けたサービスを提供しようとする際は、チームに同様の障がいを持つ人がいることで、それらの状況についてより正しく考えることができます。

また、障がいを持つ人向けに開発された技術の一部は、一時的に障がいを抱える健常者(※)にもメリットをもたらすことがあります。(※:腕の骨折などの一時的な怪我)

Robin Spinks

2050年には、目の不自由な人は今の2倍以上になるとも言われています。その理由の一つは人類の平均寿命が伸びるからです。その方たちは目の不自由な状態で長い間生活することになるのです。

また、この分野は今日まで顧客でなかった人が明日突然顧客になることがありえます。よって、未来の顧客のニーズを考えるビジネス感覚が必要となります。

包括的な設計の推進方法

Michael Jackson

誰もが将来恩恵を受ける可能性があるのであれば、障がいを持つ人も想定した包括的な設計を最初から実装することは良いビジネスモデルだと思いますが、いかがでしょうか。

KR Liu

良いことです。例えば一見健常者にとっては不要とも考えられる、TVの字幕やメッセージングサービスは日々進化しています。

Joanna Peña-Bickley

同感です。

Alexaの新しい機能の1つに、弱視の人向けの「Show and Tell」機能があります。

私たちは顧客分析の結果、全体的な高齢化に伴い、高齢の両親を持つ若い人も増えていることを把握しました。そして、実際に「Show and Tell」機能を持つAlexaは難聴の両親への贈り物として購入されました。

Michael Jackson

それは(障がいを持つ人を想定した)包括的なデザインが幅広い年代に受け入れられたということですね。

Robin Spinks

字幕サービスは進化し、今では音声を表示するだけでなく、PCやスマートフォンに内容を転送することもできるようになったため、健常者にとっても大変有益なものになっています。

Joanna Peña-Bickley

一時的な障がいの例を紹介します。

私はアマゾン入社2日目に階段で転倒し、足を骨折し、8週間車いすで過ごすことになりました。それ以降、特に車椅子の身体障がい者が車を乗り降りする様子を興味深く見るようになりました。

障がい者が活躍できるようになるためのカルチャーチェンジ

Michael Jackson

社会のカルチャーが変われば、包括的なデザインが受け入れられることはわかりました。それでは、デフォルトでこれらのものが開発されるようなカルチャーチェンジはどのように起こせばよいのでしょうか。

KR Liu

一番重要なことは、障がいのある人のためのデザインをしようと試みることではなく、設計チームに障がいのある人が参画しているかどうかをチェックすることです。

Joanna Peña-Bickley

同感です。私もそう思います。

Robin Spinks

歴史的な観点で考えると、これは企業の人事部門の課題かもしれません。だから、トップ企業は今こそ、障がいのある人々を採用し、そのことを世の中に紹介すべきです。

Michael Jackson

このセッションの準備をしている時に、私も同様のことを考えていました。

Robin Spinks

そして、チームにいる障がいのあるメンバーに何で困っているのかという点について積極的に質問することも重要です。「この質問をしたら、相手は不愉快な気分になってしまうのでは?」といった気遣いで質問することを躊躇しないでください。なぜなら、質問をして、その回答を共有することによって、問題の核心にたどり着くことができるからです。

Michael Jackson

Spencer、あなたは実際に会社を立ち上げ、成功を収めていますが、積極的に質問をするというこの意見をどう思いますか。

Spencer Montan

私の会社ではそのような質問は非常にオープンに行われています。

私たちの会社は人々の苦労があることが大前提となるクールな会社です。ですから、なんらかの問題を抱えている人が必要です。私自身もその一人です。

Joanna Peña-Bickley

開発においては、障がいのあるメンバーに積極的なリスニングを行うことによって、生きた経験を得ることができます。また、設計後のレビューやユーザーテストにおいても彼らは活躍することができます。

Michael Jackson

健常者と障がい者の協業による開発が有効な施策であるということがわかりました。

皆さん、本日はありがとうございました。

運営方法

ディスカッション参加者の中には耳の不自由なパネラーもいましたが、ステージ前の最前列の席に

  • 彼らの手話による発言をマイクで会場に伝える方
  • 他の参加者の発言を手話で伝える方

がサポートする形で進められていました。

感想

re:InventはKeynoteやWorkshopなどに見られるように技術色の濃いイベントですが、今回のような社会問題にも関連するセッションも行われていることを初めて知りました。

また、「開発の大元には経験がある」というのはクラスメソッドのカルチャーにも通じるところがあるようにも感じました。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。