Amazon Goの技術が小売店向けに「Just Walk Out」として提供開始。リテール事業者はいま、何をすべきか?
まとめ
「Just Walk Out」テクノロジーは、
- 仮想カートを実現するAPI群と、カメラやセンサー機器の提供、導入や運用を支援するサービスとなっていると予想。
- リテール事業者の既存システムとAPIで連携する自由度がかなりある(認証、決済、アプリなど)と予想。
- 認定コンサル、認定インテグレーター、認定MSPなどのパートナーエコシステムは必須になると予想。
- この仕組みを導入するだけではなく、横断的で良質な顧客体験の提供をする準備を今すぐ始めよう。
Amazon Goの技術を独自ブランドで利用できるようになる!
先日、いつものように学校に行ったら抜き打ちで期末試験が始まり、翌週から長い長い春休みが始まりました、あかりです。 今日、Amazon Go技術の外販が始まるというニュースが出ましたねー。筆者がシアトルやサンフランシスコに行った際に何度も体験をしたレジ無しコンビニ。「あーレジって無いほうが良いな」と感動したあとに、日本のスーパーで長時間レジに並ぶのが苦痛だったのを今でも憶えています。その後、感動を誰かに伝えたくて、エンジニアとしてワクワクしたくて、「これは作ってみるしか無い」って思い立って、もうすぐ2年となります。手探りながらも社内の優秀なエンジニアの手を借りて、ハードもソフトも何度も作っては壊して、気がついたらリアルな店舗もオープンしました。これから来るかもしれない未来を何となく眺めるんじゃなくて、自分もできればちょっと関わりたいなーって。
Amazonの文化やアプローチは昔から同じです。自社で研究開発した技術を独占せずに、外部に安価に使えるように公開して、マーケット自体を育てながら、自社の技術を洗練させていく。一見競合のように見える相手にも使ってもらう。このビジョンが大きくて、長く時間を掛けた取り組みで、地球全体に届けていきます。物流、マーケットプレイス、クラウド、音声、、、そして、店舗です。
2020年は、各種技術が成熟してきて、秋ぐらいには始まるかなぁと何となく思っていたのですが、思ったよりも早く情報が出てきましたね。この記事では、「Just Walk Out」テクノロジーがどの範囲を提供するのか、リテール事業者は何をすれば良いのか、全て妄想で考えて共有したいと思います。
Amazon Goの構成部品を考える
昨年のAmazon re:Marsでは、Amazon Goの構成要素が公開されていました。当時の映像から図を書きましたので共有しますね。
構成要素としては、こんな感じです。
- コンピュータビジョンによる商品や行動の認識
- 店内の機器から収集されるセンサーデータとクラウドを繋ぐゲートウェイ
- ゲートやカメラや什器などのデバイス管理
- 店内の行動(誰が、どこで、どの商品を取ったのか/戻したのか)を把握するセッション管理
- どこにどんな商品(名前、値段、画像、重さなど)が配置されているかレイアウト管理システム
- いつ、誰が、何を、いくつ買ったのか注文を管理する注文システム
- 決済方法の提供
- ユーザを認証するシステム
- 認証、決済、注文をインテグレーションするシステム全体
- 店内で発生する様々なデータを監視する運用センター
- 店舗設計、機器搬入、機器の運用保守、運用支援などのデジタル以外の支援センター
- 商品登録とか、在庫管理とか、商品発注とか、スタッフ管理などのバックエンドの業務システム
- 顧客向けに提供するモバイルアプリ
ちなみに、当社でノリと勢いでやっているDevelopers.IO CAFEの構成要素も共有しますね。
構成要素としては、Amazon Goと大体同じなんですがw、コンピュータビジョンによる精度向上は現在取り組んでいる最中です。私達は兼務スタッフを合わせると30人体制ぐらいになっています。趣味と呼ぶにはあまりにも多様で強力なメンバーで当社のカルチャーである「やってみる」を体現しています。そして、まじめに全力で遊ぶかのように研究開発し、どこかで未来づくりに寄与したいと思っています。
さて、上記に列挙した構成要素について、リテール事業者が独自に提供するべきもの、できないものに分類したいと思います。
リテール事業者が提供すべきもの (自社のシステムとか事業に合わせた価値提供したい部分)
- 決済方法の提供
- ユーザを認証するシステム
- 認証、決済、注文をインテグレーションするシステム全体
- 商品登録とか、在庫管理とか、商品発注とか、スタッフ管理などのバックエンドの業務システム
- 顧客向けに提供するモバイルアプリ
リテール事業者が提供できないもの (技術的に「Just Walk Out」が優れているため乗っかりたい)
- コンピュータビジョンによる商品や行動の認識
- 店内の機器から収集されるセンサーデータとクラウドを繋ぐゲートウェイ
- ゲートやカメラや什器などのデバイス管理
- 店内の行動(誰が、どこで、どの商品を取ったのか/戻したのか)を把握するセッション管理
- どこにどんな商品(名前、値段、画像、重さなど)が配置されているかレイアウト管理システム
- いつ、誰が、何を、いくつ買ったのか注文を管理する注文システム
- 店内で発生する様々なデータを監視する運用センター
- 店舗設計、機器搬入、機器の運用保守、運用支援などのデジタル以外の支援センター
「Just Walk Out」のよくある質問を読み解く
justwalkout.comに書いてあることを読んでみますと、いくつか気になることが書いてあります。
アプリのダウンロードやAmazonアカウントを作成する必要がない
いきなり大事なことが書いてありますね。これは、Amazonが顧客を囲い込むことはせずに、顧客は個人情報を登録しないでも良く、リテール事業者は何かを差し出す必要はなさそうです。Amazon Goではアプリが必要でした。レシートはアプリに通知で届きました。おそらく、この部分はAPIを提供することで、ある程度のカスタマイズができるようになるのではないでしょうか。店内のキオスクでメアドとクレカを紐付ければメール通知が来ると書いてありますが、これは、そのようにすることもできると読み取れます。この部分もAPIでカスタマイズ可能な気がしますね。
クレジットカードをかざして入店する
入店時にクレカをかざすのは良い方法ですね。おそらく、入店時にある程度の金額(1000円とか)をオーソリ(与信枠の確認)するのではと思います。99.9%の善意の人が心地よく使えて、0.1%の悪意を検知するためのシステムを提供すると書いてありますので、有効なクレカを持っていることである程度手続きを省略しています。ただし、行政ルールによってクレカの無い人にもサービスを提供する必要があるケースもあると思いますので、クレカをかざすだけで入店するある程度匿名な使い方も提示しているのかなと。ちなみに、Suicaで入店してSuicaで支払うのは難しいと思っています。Suicaは金額確定型の支払いです。Amazon Goは、レシート通知まで5分から90分程度掛かることがあります。金額が確定してからしか使えないSuicaでの体験は難しそうかなという筆者の認識です。ただし、レシート発行までの時間がとても高速になったり、事前チャージ型のプリペイドカードや、別の方法で与信を取るなどをすることで、その地域で最も普及している決済方法も導入できるのではと期待しています。
無人店舗ではありません
Amazon GoやAmazon Go Groceryでは、多数のスタッフが品出しや接客を行っていました。「Just Walk Out」サービスを導入するリテール事業者も同様に、スタッフが店舗に常駐する形でのサービス提供が期待されていると思います。タバコやお酒の販売、乳製品やお弁当の扱いなど、様々な法律や保健所や消防署の基準をクリアするためにも、また、この慣れない体験を多くの方に知っていただくためにも、スタッフは居たほうが良いかと思います。ここで気になるのは、人件費の削減のみを目的とした導入は難しいのではということです。リテール事業者の方々は、店舗広さ、家賃、人件費、商品数、日販、システム利用費などを皮算用して、いかに黒字を実現するのが難しいのか感じているかと思います。この技術を入れるだけでバラ色の事業計画にならないことは容易に想像できます。むしろ、これをきっかけに、店舗の内外での繋がったサービスを提供することが必要ではないでしょうか。
インストールに数週間掛かる
こちらは主にハードウェア周りのセットアップかと思います。既存店舗であれば、閉店時間中にセットアップする必要があります。店舗の設計図から必要な什器やカメラやセンサーなどを算出し、搬入されてくる機器を設置します。そして、大事なのはキャリブレーションです。AIやIoTが正確に動くためには、物理層が最も重要です。安定的な電源やネットワーク、カメラの角度、センサーの反応など、細かなチェック項目があるのではと予想しています。これらの導入支援は、当初はAmazon社内のコンサルタントが支援してくれるはずですが、広く外販する仕組みであることを考えますと、認定コンサルタントとか認定インテグレーターが必要になってくるのではと思っています。
電話とメールで24時間対応のサポートを提供
リテール事業者にとって、システムの運用監視は本業ではないため、できればやりたくないことです。そこで、「Just Walk Out」では、運用監視と24時間サポートを提供しています。おそらく英語のみだと思いますので、日本で展開する際には、認定MSP(マネージドサービスプロバイダー)が必要になってくるのではと思っています。
返品対応をリテール事業者が管理できる
これも重要な機能ですね。「Just Walk Out」は、顧客からの返品要求に対して、おそらくスタッフ用の管理コンソールか何かを通じて、返品とか、交換とか、数量変更などを行うことができるのではないでしょうか。ブラックボックスなシステムが勝手に返品するのではなく、リテール事業者の裁量で管理ができるのは良いですね。
Amazonが収集するデータは
「Just Walk Out」テクノロジーは、個人の顔とか性別とかは個人情報の類の収集は無いと思います。この方針はAWSにも似ていますね。データはお客様のものという考えです。個人の情報と関連付けるかどうかは、リテール事業者側のオプトインされた個別の仕組みとインテグレーションして実現する幅はあると良いかと思っています。
「Just Walk Out」のサービスとは何なのか
「Just Walk Out」のサービスを一言で表すと、「仮想カートのAPI提供」になるかと思います。そして、仮想カートを実現するための、導入コンサル、機器の提供、運用支援などを、各国のパートナーと協力しながら導入実績を増やしていくのではと思います。図で表すと以下のような感じです。
私たちは何をするべきか
「Just Walk Out」テクノロジーは、レジを無くすことができる、仮想カートを実現するテクノロジーだと思います。この魔法のような技術を使いこなすためには、自社のシステムに容易にアクセス可能なAPIとしてデータ連携できることが必須であると考えています。そして、より良い顧客体験は何なのかを店舗の現場スタッフを巻き込んで繰り返し検証し続ける必要があると思っています。ネットで買って店舗で受け取り、店舗で買って自宅に配送、店舗で買ってイートイン、帰り道にピックアップ、ロッカーで受け取り、車で受け取り、席を予約、サービスを予約、スタッフを予約、予約販売、同じものを買う、おすすめを買う、繰り返し買う、などなど、考え始めたらきりがありません。これら様々な顧客体験の部品として、「Just Walk Out」技術が広まることを期待しています。
最後に、本記事は、自社での日々の研究開発から考える妄想を中心に書いています。記事の内容を鵜呑みにしないでください。追加の公式情報が出ましたら記事を更新したいと思います。
追記:気になることとか質問の回答をします。(すべて妄想です)
センサーや什器はAmazon製?
まず最初に提供されるのはAmazon製またはOEMだと思いますが、彼らのカルチャーを考えると、早々にパートナーエコシステムを構築して、コモディティ化を推進すると思います。つまり、ある規格に沿った什器やセンサーが安価に大量に市場に流通し始めるのではと予想しています。Amazon Alexaがマイクやスピーカーの需要に大きく寄与したように、Just Walk Outも、様々な業界に良い影響を及ぼすかなと思います。
学習済みモデルだけ使うことはできそう?
まず最初に提供されるのはブラックボックスなエンジンだと思いますが、彼らのカルチャーを考えると、OSSまたは切り出したAPIサービスを出してくる可能性があります。また、精度を競うコンテストなども開催されるでしょう。MXNetやGluonCVなどが最初の候補ではないでしょうか。
サービスの価格は?
当初は、Amazonの社員と協働するプロジェクトになると思いますし、24/7の電話やメールサービスを考えますと、人件費部分はそんなに安くはないと思います。一方で、APIを使う部分は従量課金で、とってもお安くなるのではと期待しています。これは、競合の類似サービスが「をいをいまじかよ」と思う価格になるんだろうなと。 初期が数百万円、固定運用業務がベースが数十万円、従量課金で数万円といった感じを予想しています。そのうち、ハードがコモディティ化して、人間が動く時間が減り続けて、最終的には従量課金のAPI群がスケールしていくのかなと。
ビジネスモデルは?
Think Bigが大前提ですので、コンサルや構築で稼ごうとは思っていませんね。従量課金でスケールするクラウド型のサービスをベースにしつつ、本丸は、オフラインの人の行動データではないでしょうか。これは個人情報や販売データを流用するという意味ではなく、顧客をより深く理解するためのビッグデータを集めることかなと。この教師データをもとに学習モデルを作成し、オンラインとオフラインの顧客を深く理解することでき、物流や倉庫、ECなどの様々なサービスに繋げていくと思います。 もっというと、これらのノウハウ部分も含めて、広くパートナーに公開するのではと思っています。囲い込まないことが最大の成長戦略です。
日本にはいつ来るの?
今年か来年には来るのではないでしょうか。クラウドサービス自体はどのリージョンでも使えますよね。気になるのは法律関係ですね。Amazon製のセンサーに無線機能がある場合、技適を取る必要がありそうですし、什器の規格が日本と北米では違うかもしれません。日本の店舗は天井がとても低いので、既存店舗に入れるにはハードルが高いかもしれませんね。どちらにせよ、日本の事業者はノリノリだと思いますので、一斉に準備を始めているのではとw。ただし、収益向上のシナリオをどう作るか、そこが一番の課題ですね。
相性の良いサービスは?
ずばりモバイルオーダーです。店外のお客様の来店動機を作り、そしてついでにJust Walk Outが自然な流れかなと思っています。Developers.IOでもこの流れを作っています。
出店場所は?
まず考えられるのはオフィス街ですね。ランチ時のコンビニの行列を解消できるメリットは大きいです。後日、空港でオープンするとニュースがありました。たしかに空港は良いですね。施設としてセキュリティ万全で、概ね個人が特定できていて、乗り継ぎなどの限られた時間内に必要なものを買える。単価はあまり気にしない。この流れで考えると、新幹線の改札の中とかも良いですね。ある程度個人が特定できている流れで考えると、ホテル・病院・大学・テーパマークなどの敷地内もありかもしれませんね。
成功の秘訣は
プライベートブランド商品だと思います。あのお店に行けば、美味しくて、健康で、レジに並ばないで良いとう体験です。また、できたてのパンとか、お弁当とか、イートインできるスペースがあったら嬉しいです。Just Walk Outが中心にあるのではなく、お店の商品とサービスが中心になるのは言うまでもありません。
やっぱり無人店舗にしたい
最低でもクレジットカードという与信情報をもって入店しますし、アプリと連動することもできると思いますので、会員制ストアと考えると実現は可能だと思います。日本だと、夜間や早朝を無人にするという選択肢はあるかもしれません。APIの提供ですから、それをどう活用するのかは導入する事業者の自由なのかなと思っています。
どんな商品が向いている?
形が崩れないものが良いです。洋服は難しいですね。また、パッケージデザインが頻繁に変更されるものは扱いづらいと思います。さらに、重さが一定範囲ではないものも扱いづらいですね。商品が非常に軽いとか小さいとか重さや映像で判定しずらい商品も合わないと思います。
RFIDのほうが良いんじゃない?
RFIDが向いているのは、商品単価が高く、製造段階でRFIDタグを貼ることができる事業者に限られるかなと思っています。ナショナルブランド商品を多く扱う店舗では、RFIDを商品に貼ることのコストがとても高いです。また、水に濡れたら反応しないとか、レンジに入れたらダメとか、色々制約もあります。自社生産のアパレルブランドには最適な選択だと思います。
セルフレジのほうが良いんじゃない?
セルフレジが向いているのは、1回の購入点数が少なく、操作手順が単純であれば良いと思っています。また、オフィス内などのある程度身元がしっかりした人のみが利用するエリアであれば、貯金箱やQRコードを置いておくだけで良いと思います。
顧客導線の分析などに使えますか?
ショッピング体験そのものの提供ではなく、店舗を運営する事業者側の業務改善とかマーケティング分析ってことですよね。もしかしたら、拡張機能としてAPIが提供されるのではと期待していますが、最初は出てこないのではと思ったりしています。
在庫管理とかに使えるの?
ゆくゆくはオールインなシステムが出てくることを期待しつつも、コア機能では無いと思うので、あくまでもAPI連携の口を用意するだけだと思っています。
既存POSとの連携は?
どの商品をいくつ買ったというレシート明細データをAPI経由で取得できれば、既存のPOSシステムにデータを送信することができると思います。
個人商店に導入できますか?
合わないと思います。コストも仕組みも運用も合いません。ゲートなどを設置するので、ある程度の広さと、運用が発生しますので、大手企業から導入が進むと思います。十分にコモディティ化したあとに個人商店もチャレンジできるかもしれません。やるにしても、既にデジタル化された店舗でないと難しいはずです。