[iOSDC Japan 2019 リポート]「iOSアプリに「意識」は宿るのか?ディープラーニングの先にある人工知能(AI)」を聞いてきた
こんにちは。きんくまです。iOSDC Japan 2019に参加しています。
これまでのレポート
day1
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iOSアプリに「意識」は宿るのか?ディープラーニングの先にある人工知能(AI)
発表:SAI-Lab株式会社 我妻幸長さん @yuky_az
人工知能技術の発展により、端末による物体の判別や自然言語処理など、iOSの様々な可能性が広がってきました。これらのうちほとんどは、現在隆盛のディープラーニング技術をベースにしています。しかしながら、このようなディープラーニングベースの人工知能はあくまで「ツール」としての人工知能です。ヒトの知能のもっとも高度な部分は大脳が担っていますが、大脳が扱う「意識」は、例えば夢を見ているときのように入力が出力が無くても自発的な活動を続けています。むしろ、大脳への入力や出力は、そのとてつもなく高度な機能の本質ではないのかもしれません。また、ディープラーニングは出力に対応する正解が必要な教師あり学習ですが、高度な自律性、汎用性を有する実際の大脳では正解データのない教師なし学習が行われています。より自律的、より汎用的な人工知能をiOSアプリが搭載するためには、このようなより天然の知能に近い仕組みをアプリが備える必要があります。
そのために、本発表ではアプリが「意識」を備えるためには何が必要なのか、様々な可能性を示していきます。脳科学と人工知能の関係性から始めて、単純なルールから一筋縄ではいかない複雑な因果関係が生まれるカオスや複雑系、さらに意識を扱う理論である統合情報理論、グローバル・ワークスペース理論などを解説していきます。その上で、自律的な動作をする「意識のようなもの」へつながるアルゴリズムを探っていきます。
果たして、スマートフォンはヒトにとって単なる「ツール」であり続けるのでしょうか、それとも、ドラえもんのようなヒトにとって大事な「パートナー」になるのでしょうか。本発表では、従来の「ツール」として有用なディープラーニングを離れて、生き物のような自律性を持つ「パートナー」としての人工知能の可能性を探求します。
スライド
今回のテーマ
iOSアプリに、「意識」は宿るのか?
- 脳と人工知能の違いは何か?
- 意識はアルゴリズムで再現できるのか?
- アプリに搭載可能か?
Sec.1 脳と人工知能の概要
- 脳とは?
- 脳の脅威
- 重量は体重の2%程度だが、消費カロリーの25%程度を占める
- 脳の構造
- 大脳 <- 今回話す
- 間脳
- 脳幹
- 小脳 <- 今回話す
- 人工知能(AI)とは?
- 強いAI(汎用人工知能)と弱いAI(特化型人工知能)
- 人工知能の用途(弱いAI)
- 人工知能の種類
- 機械学習 <- 注目
- 遺伝的アルゴリズム
- 群知能
- 機械学習のアルゴリズム
Sec.2 脳の構造
- 概要:脳の構造
- 神経細胞とグリア細胞
- 神経細胞の写真
- 神経細胞のネットワーク
- 大脳の構造
- 大脳皮質(灰白質)と白質 <- かいはくしつ
- 大脳皮質の層構造
- 脳葉 <- 前頭葉など
- 機能局在
- 機能局在の例
- 大脳辺縁系とは? <- 海馬、扁桃体など
- 海馬
- 扁桃体
- 側坐核 <- 強化学習との関連性
- 小脳とは? <- 教師あり学習
Sec.3 脳における記憶と演算
- 概要:脳における演算と記憶
- 神経細胞における演算
- シナプスの仕組み
- 神経伝達物質
- 興奮性(グルタミン酸、ドーパミン)
- 抑制性(GABA)
- 興奮性と抑制性
- 投射と介在
- 海馬と記憶
- ヘブ即と長期増強
Sec.4 脳と人工知能の関係
- 概要:脳と人工知能
- コンピュータ上における神経細胞のモデル化
- 人工ニューロン
- 人工ニューラルネットワーク
- 多数の層からなるニューラルネットワークによる学習を、ディープラーニング(深層学習)と呼ぶ
- バックプロパゲーションによる学習
- ディープラーニングと脳
- 強化学習とは?
- Cart Pole問題のデモ
- 強化学習と大脳辺縁系、大脳基底核
- 大脳皮質における処理の特徴
- 教師なし学習とは?
- オートエンコーダ
Sec.5 「意識」とは
- 概要:「意識」を扱う
- 意識と脳
- 大脳皮質の損傷と意識
- 分離脳
- 意識はどこにあるのか?
- 複雑系とは?
- 複雑ネットワーク
- スモールワールド性
- クラスター性
- 参考:線虫のコネクトーム
- 意識の創発
- 意識のハード・プロブレム
- 我々の意識は、単なる「信号の複雑な流れ」なのだろうか?
Sec.6 アルゴリズムによる意識の探求
- 脳を再現する試み
- もっと簡単に、大脳皮質をモデル化できないか?
- セル・オートマトン
- ライフゲームは、セル・オートマトンの一種
- トーラス上のニューラルネットワーク
- 投射と介在
- 興奮と抑制
- ヘブ則、アンチヘブ則の導入
- ネットワーク間のコミュニケーション
最後に
意識の存在を感じる + 意識のメカニズムを備える
両者を満たすアプリの開発
感想
序盤は脳の構造や機能を解説。そこから機械学習との関連性についても触れていき、最後は意識はどこに宿るのか?というテーマについて考察されていました。
現時点では現実の人間の意識はそもそもどこに宿るのか?ということがまだわかっておらず、神経細胞のシミュレートをすることでできるのではないか?と仮説を立てて最後のデモを制作されていました。
全体に面白く、非常に興味深い内容だったのですが、特に印象に残ったのは「意識の創発」という項目です。
スライドにあったのを引用します
- 創発とは各個体の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること
- 鳥の群れには特定のリーダーはいないが、各個体が単純なルールに従って飛行することで全体で一体の生き物のように振る舞う
- 個々の神経細胞が行う処理はシンプルだが、複雑なネットワークとなることで意識が創発すると考えることもできる
それぞれの個体は何らかの意志を持っているようにふるまっていないが、群れとなることで何らかの意志をもっているように見える。ってものすごくSFチックな感じで面白かったです。
Sec.6ではライフゲームのような模式でセルが活性化しているところと非活性化しているところを塗り分けるアニメーションデモを見せてくれました。パラメータを変えるとアニメーションの仕方が変わるのですが、「有機的な何か」を感じさせるものでこれも面白かったです。