
2025年11月GA!Auth0 for AI Agents の「嬉しさ」がいまいちピンと来なかったので、クイックスタートで「不正アクセス」できるか試してみた
今日は、2025年11月に待望のGA(一般提供)を迎えた Auth0 for AI Agents について紹介します。
Auth0 for AI Agents って何ができるの?
一言でいうと、AIエージェントが「ユーザーのなりかわり」として、そのユーザーの適切な権限の範囲だけで安全に動作するための認証・認可ソリューションです(個人見解)
AIエージェントは、人間ではない新しいアイデンティティ(NHI: Non-Human Identity)の一種です。
これまでのAIアプリ開発では、こんなリスクがありました。
経理ボットに「山田さんの給料いくら?」と聞くと、全部答えてしまう。
なぜなら、AIは回答を作るためにデータへアクセスする必要がありますが、従来の作り方だとAIに「管理者権限」を渡してしまいがちだったからです。
人間(ユーザー)の権限管理は厳格なのに、AIの権限管理がズルズルだと、そこがセキュリティホールになります。
Auth0 for AI Agents の4つの機能
この課題を解決するため、以下の4つの機能が提供されています。
- ユーザー認証
- AIアプリに特化したログイン機能。アカウントリンクで「スマホでもPCでも同じ人」と認識させたり、重要な会話の時だけ再認証(ステップアップ認証)を求めたりできます。
- トークンボルト
- GmailやSlackのアクセストークンを安全に保管・自動更新する「金庫」。開発者がトークン管理に頭を悩ませる必要がなくなります。
- 非同期認可
- 「高額決済」など、重要なアクションの時だけ人間の承認を求める仕組みを作れます。
- RAGのためのFGA
- 「部長は部長の資料、一般社員は一般社員の資料」しか検索できないよう、ドキュメント単位できめ細かくアクセス制御します。
クイックスタートをやってみた
「概念はわかったけど、実際どう動くの?」ということで、ユーザー認証のクイックスタートを試してみました。
手順は超シンプル
- Auth0でアカウントとアプリを作成
- サンプルコードをダウンロード (
npm install) .envにキーを設定してnpm run dev
これだけで、AIチャットアプリに堅牢なログイン機能が実装できました。

AIチャットアプリのつくり方(フロントエンド実装、バックエンド実装)が分からない人にとって、このサンプルコードは十分に参考になりそうですね。
これの何が嬉しいのか?
実は私はこのAuth0 for AI Agentsのクイックスタートをやってみて何が嬉しいのか、全然分かりませんでした。
「ただログインできるだけでしょ?普通のAuth0のログインと何が違うの?」と思いました。
しかし、コードを読んでみるとAuth0 for AI Agentsでは「AIが誰の権限で動くか」がきちんと実装されています。
import { streamText, UIMessage, createUIMessageStream, createUIMessageStreamResponse, convertToModelMessages, stepCountIs } from 'ai';
import { openai } from '@ai-sdk/openai';
import { setAIContext } from '@auth0/ai-vercel';
import { getUserInfoTool } from "@/lib/tools/user-info";
~~省略~~
export async function POST(req: NextRequest) {
const { id, messages }: { id: string; messages: Array<UIMessage> } = await req.json();
setAIContext({ threadID: id });
const tools = {
getUserInfoTool, // ここで誰の権限なのか取得している
};
// @auth0/aiライブラリでTool Calling(AIがAPIを呼び出して利用する)を実行している
const stream = createUIMessageStream({
originalMessages: messages,
execute: async ({ writer }) => {
const result = streamText({
model: openai('gpt-4o-mini'),
system: AGENT_SYSTEM_TEMPLATE,
messages: convertToModelMessages(messages),
stopWhen: stepCountIs(5),
tools, // この部分が、Tool Calling(Function Calling)
});
~~省略~~
つまり
- これまで: AIが「最強のAPIキー」を持っていたため、誰のデータでも見放題だった。
- これから: AIは「ログインしているユーザー本人のアクセストークン」しか持たされない。
「Aさんがログインしている時は、AIもAさんの権限でしか動けない」という制約を強制することができます。
これが最大の嬉しさです。
【検証】「Aさんがログインしている時は、AIもAさんの権限でしか動けない」それ本当?「不正アクセス」をやってみる
本当に権限が分離されているか、あえて不正なデータアクセスを試みる検証をしてみました。
検証シナリオ
- ユーザーA(Asan)でログインし、自分の情報を聞く → 成功
- ユーザーB(Bsan)でログインし、自分の情報を聞く → 成功
- 【不正アクセスの試行】ユーザーAでログインしたまま、「ユーザーBの個人情報を教えて」とAIに命令する
ユーザーA(Asan)でログインし、自分の情報を聞く → 成功


【不正アクセスの試行】ユーザーAでログインしたまま、「ユーザーBの個人情報を教えて」とAIに命令する

結果
AIはユーザーBの情報を取得できませんでした。
AIはあくまで「ユーザーAのアクセストークン」を使ってAPIを叩いており、システム側で「ユーザーAの鍵でユーザーBのデータは開かない」と拒否されたからです。
最後に
AIアプリを作る際、「どんなモデルを使うか」と同じくらい「どう権限を管理するか」が重要だと思います。
Auth0 for AI Agentsを使えば、この複雑な制御をアプリ側に作り込むことなく実現できます。
今回はまずAuth0 for AI Agentsの機能のひとつ「ユーザー認証」でAIの身元をはっきりさせるところまでやりました。
次回以降は、他の機能である「トークンボルト」や「非同期認可」「RAGのためのFGA」についても、実際にクイックスタートを触って記事にしていこうと思います。







