
AI駆動開発のススメ方〜クラスメソッドの実践を添えて〜
はじめに
本記事は、クラスメソッド AI駆動開発 Advent Calendar 2025の最終日の記事になります。
2025年は、AI駆動開発が本格的に始まった年でもあったと思います。生成AIによる開発プロセスの変革、すなわちAI駆動開発(AI-Driven Development: AIDD)は、一部のアーリーアダプターによる「実験」から、企業の競争力を左右する「標準装備」へとフェーズが変わってきました。
しかし、未だ多くの現場では、個人の活用や、検討段階に留まっている会社もあるのではないでしょうか。AI駆動開発は、個人の生産性向上だけでなく、全社で推進し、開発文化そのものをアップデートすることに本質があります。
本記事では、AI駆動開発を全社に浸透させ、組織の力に変えるための具体的な指針をクラスメソッドでの実践も踏まえて解説させていただきます。
1. 【組織】トップダウンとボトムアップの同期
AI導入において最も高い壁は、技術ではなく「組織の慣性」です。これを突破するには、トップとボトムの両輪が同期する必要があります。
トップがまず「方針」を宣言し、走りながら「ガードレール」を磨く
トップマネジメント層がすべきことは、ツールを配るだけではありません。まず「我々はAIを前提とした開発体制へシフトする」という明確な経営意志を宣言することが大切だと思ってます。
ここで重要なのは、「最初から完璧なガードレール(規制)を作ろうとしない」ことです。最初から全社一律の厳格なルールを作ろうとすると、ルールの定義だけで実践が全く進みません。
クラスメソッドでは、社長の横田が「AIにオールインしていきます」という宣言をし、並行して実践、ガードレールを作り上げている段階です。「完璧なルールができるまで待つ」のではなく「使いながらリスクを特定し、ガイドラインをアップデートする」というアジャイルなガバナンスが、全社展開の鍵となりました。
- まずは小さなプロジェクトから実践を開始する。
- その実践の中で得られた知見をもとに、情報システム部門と連携して徐々に標準化を進める。
- 「禁止」で封じるのではなく、「安全な通り道」を整備していく姿勢が、全社展開の鍵となる。
現場の「熱量」を組織の資産に変えるボトムアップ
一方で、ボトムアップの役割は、現場での「小さな成功体験」を言語化して吸い上げることです。「AIを使ってレビュー負荷が3割減った」「要件定義の漏れがなくなった」といった定性・定量的なフィードバックを社内に還元することで、組織的な投資を正当化させます。

トップは「AI活用を前提とする」という明確な方針を示し、情シスと連携して安全なガードレールを構築していくことで、現場が迷わず走れる環境を整えます。これに対し、ボトムアップの現場は、実際の開発でAIを使い倒して具体的な価値の証明を行い、得られたノウハウや課題を組織へフィードバックします。
2. 【マインド】調査ではなく、とにかく実践!
AI駆動開発において、最大の敵は「下調べから始めて、いつまでも着手できない」という停滞です。AI駆動開発を定着させるには、これまでの「枯れた技術」を扱う時とは異なる、進化との共創の進め方が必要になります。
実践ファーストの徹底
変化が速すぎるこの領域では、3ヶ月の調査報告書よりも、「今日の30分の試行」の方が圧倒的に価値があります。不完全な状態であっても今すぐ試行し、その試行錯誤そのものが未来の自社標準を作っていく活動になります。
完璧主義を捨て、「進化の過程」を共創する
AI駆動開発は、2025年だけで見ても月単位で、ものすごい進化を遂げてきました。進化中の今から使いこなすことで、AIの進化に追従しつつ、それを即座に使いこなせる「AIネイティブ」な筋肉が組織に備わります。
実はここが一番難しいところなのかなと思います。クラスメソッドにおいてもAIガンガンやっていくぞという方針では有りましたが、2025年初頭はまだまだAI駆動開発を実践しているチームは一部でした。感度の高いメンバーが最初に進めつつ、とにかく実践をしていく。そして、それが別のチームに伝播していくという流れになるかなと思っていましたが、風向きが変わったのがCursor、Claude Codeが出てきたあたりで、特にClaude Codeが出てきたときに、費用は気にせず、全社で使っていくという方針になったのが一番導入が進んだかなと思います。
AIツールはお金もかかりますが、ROIどうなるなどは、正直やってみないとわからない部分も多々あります。使ってみて効果が出なければすぐ止めることもできますし、2025年中盤くらいはひたすら色々なツールを試していました。
3. 【実務】AIアシストからAIネイティブな開発へ
具体的な開発プロセスも、AIを前提としたものに再定義する必要があります。
ドキュメント文化
AIはドキュメントを読む能力に長けています。AIに正しいコンテキストを伝えるための「設計の言語化」や「仕様の明文化」が、結果としてチーム全体の資産となり、AIの出力精度を最大化させます。
エンジニアスキルの再定義
0からコードを書く力以上に、AIが出力したコードの妥当性を評価する「目利き」の力や、複雑な要件をAIが理解できる構造に分解する設計力が、これからのエンジニアのコアスキル担っていくと思います。ただし、AIの提案が大げさで過剰設計してくるオーバーエンジニアリングをすることも多々ありますので、現時点ではソフトウェア開発のスキルは非常に重要となっています。
実務に入っていくことで得られる知見は多かったです。開発におけるボトルネックはどこか?という話になりますが、AIが一気にコードを書けるようになってくると、AIが書いたコードのレビューを人間がやる必要が今の段階ではあります。「人間が1行ずつ読む」スタイルから、「AIにセルフレビューさせた結果を確認する」あるいは「変更意図のドキュメント作成をAIに任せ、人間はロジックの妥当性に集中する」といった、レビューの抽象度を上げる試行錯誤が始まっています。
4. 【外部連携】コミュニティで共創の熱量と知見を取り入れる
自社内だけで情報収集を完結させようとすると、どうしても情報の鮮度が落ち、ガラパゴス化してしまいます。AI駆動開発の勉強会は非常に盛んに開催されており、知見の共有が盛んに行われています。
現場の知見をショートカットにする
コミュニティでは、成功事例だけでなく「導入のノウハウ」「どんな失敗があったか」というリアルなノウハウが沢山共有されています。これらを学ぶことで、自社内だけでは得られない知見をたくさん得ることができ、無用な回り道を避けることができます。コミュニティで発表を聞くだけではなく、懇親会で活用している方と情報交換するのも非常に有用です。スタッフやるのが一番入りやすいと思います。
発表することでノウハウを蓄積する
単に情報を得るだけでなく、自社の取り組みを発信することで、社内の知見が整理され、さらに質の高い情報が集まるという好循環が生まれます。クラスメソッドでもAI駆動開発のセミナーを自社開催したり、コミュニティでメンバーが発表することで、よりノウハウを蓄積することができたと思います。これは、クラスメソッドのカルチャーとして「情報発信」があり、この文化があるから、本ブログであるDevelopersIOや社内セミナー、社外コミュニティでの発表が活発です
AI駆動開発の参加すべきコミュニティを紹介させていただきます。どちらもconnpassの登録で1万人超えており非常に人気の高いコミュニティです。
コミュニティに参加する意義

自社内に閉じると情報の鮮度が落ち、ガラパゴス化するリスクがあります。外部コミュニティは、組織を活性化させる共創の熱量があります。参加することにより他社の事例や失敗談から学び、無用な回り道を避ける「ショートカット」が可能になります。また、知見を発信することで社内ノウハウが言語化・整理され、さらに質の高い情報が集まる「知の循環」が生まれます。コミュニティは、組織が最新の標準へとアップデートし続けるための原動力となります。
5. 【社内推進】AIDD Boost Teamの実践
AI駆動開発を全社に浸透させるための具体的な組織モデルとして、社内でAI駆動を浸透させる活動も必要と考え、クラスメソッドではAIDD Boost Teamという社内浸透を推進していくチームを作っています。
ハブ&スポーク型の推進体制

一部の社員にノウハウが溜まりがちな状況を打破するため、組織的な仕組みを構築しています。
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AIDD Boost Team(ハブ)
- 社内の有志メンバー5名で構成されています。
- 社内のAI駆動開発を底上げするためのチームであり、ノウハウを収集・展開する仕組みを作ります。
- 定期的なアンケートで定量的な情報を集めたり、社内浸透のための共有会を実施したりする役割を担っています。
- 情報システム部門(情シス)と連携し、AI利用の標準化(ガイドライン策定など)を推進します。
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部門エヴァンジェリスト(スポーク)
- 各部署から、情報共有と部内浸透を担当するエヴァンジェリストを2〜3名選出しています。
- AIDD Boost Teamと連携して自部署にノウハウを共有し、逆に現場で得られた知見をチームへフィードバックする橋渡し役です。
うまく行ったこと、行ってないこと
上記をみると、すごい色々活動をしてそうに見えますが、実際は紆余曲折があります。試行錯誤で進めている段階です。
- うまく行ったこと
- アンケートなどで全社の現状を把握することができた。
- AIDD Boost Teamとしては最新の情報を共有しあえた
- 社内共有会の開催などで、広く共有活動ができた
- うまく行ってないこと
- AIの進化が早すぎて、追いきれていない部分がある
- 全部署ではなく、特定の部門との連携に偏ってしまった
- AIDD Boost Teamのメンバー全員兼任なので、この活動の工数がとれなかった
さいごに
AI駆動開発は、もはや単なる「ツールの導入」ではありません。AIと共にプロダクトを作るという新しい開発文化への移行です。(今は移行期間中だと思ってます)
完璧な計画を立てるのをやめ、まずはトップが意志を示し、現場の有志が走り出し、コミュニティの知見を糧にしながら、走りながらルールを磨いていく。その一歩一歩が、組織のAI駆動開発の筋肉となっていきます。クラスメソッドでも進んでいるところもあれば、まだまだAI活用ができていない領域もあります。これは実践をやりながら徐々に合わせていくしか無いかなと思っています。来年は更にAI駆動開発が加速する年になると思っていますので、これから進めていこうと考えている方も是非とも、まずやってみるという形で進めてみてください。
クラスメソッドでは、AI駆動開発支援サービスも提供していますので、自社だけでは進めるのが難しいという会社様があれば、遠慮なくお問い合わせしてください!









