[書評]『コールセンターのすべて』コールセンターについて基礎から学びたい方にお勧めな一冊でした
普段、Amazon Connectなど音声系のサービスを触っていますが、コールセンターそのものを深く知りたいなと思い読んでみました。
本のタイトル通り、コールセンターの導入から運用までをかなり丁寧に解説されている本でしたのでご紹介します。
本自体はそこまで分厚くなく、全部で200ページほどでうまく纏められておりスラスラ読めました。
著者
菱沼 千明 著
(Amazonの著者ページです)
目次
第1章 躍進するコールセンター
- 1 コールセンターとは
- 2 コールセンターの運営形態
- 3 顧客志向経営拠点としてのコールセンターの運営形態
- 4 インターネットを活用したコンタクトセンター
- 5 成長するコールセンター/CRM産業
第2章 コールセンターのプラニング
- 1 マスタープラン策定
- 2 業務設計のプロセス
- 3 管理指標(KPI)の設定
- 4 人材の確保と配置
- 5 オペレーション環境の設計
- 6 予算見積もり
第3章 コールセンターシステムの設計
- 1 システム要件を定義する
- 2 通信系システムの設計
- 3 コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション(CTI)の役割とメリット
第4章 より良いコールセンターにために
- 1 生産性を向上させる
- 2 品質を向上させる
- 3 コールセンターのナレッジマネジメント
- 4 セキュリティの確保
- 5 回線数と座席数を最適に用意する
- 6 つながりやすさ を理論的に追求する
第5章 ブロードバンド時代の顧客コンタクト
- 1 爆発的に広がるブロードバンド利用
- 2 IP電話導入を検証する
- 3 ブロードバンドネットワークで変わる顧客コンタクト
対象読者
- コールセンターに従事しているが、部分的な知識しか知らないので体系的に学びたい人
- これからコールセンターを立ち上げるがどのようにしたらいいか悩んでいる人
- 既にコールセンターを導入しているが、うまく機能していないと思っている人
(「まえがき」より抜粋)
上記に加えて、私のようなコールセンターシステムを提案する立場の人にもおすすめです。
章ごとの概要と感想
ここからはそれぞれの章について、勉強になった点や感想を書いていきます。
第1章 躍進するコールセンター
この章はコールセンターの役割から業種形態まで幅広く紹介されていました。
コールセンターといえばカスタマーサポート(顧客からの問い合わせ)の業務を思い浮かぶ方が多いと思いますが、他の活用例(ヘルプデスク等)もいくつか挙げられていました。
どういった業種の利用が多いかについては、通信事業者や金融・クレジットカード業・製造業などが挙げられていました。
製造業については製造物責任(PL)法が施行されたのを機に、消費者に対する相談窓口が一般化された背景があるとのことでした。
製造業もコールセンターが多いことは認識しているのですが、PL法が施行されたのがきっかけなのは把握していませんでした。
製造物責任(PL)法は、製品の欠陥によって人の生命、身体又は財産に被害を被ったことを証明した場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができるとする法律であり、平成6年7月1日に公布され、平成7年7月1日に施行されました。
※消費者庁のページより抜粋
有事の際は急ぎコールセンターを立ち上げる必要があると思うので、いざとなったらすぐコールセンターを開設するための事前準備が重要だなと感じます。
システムもそうですが、その時の人材の確保やオペレーションの内容等も事前に決めておいた方がよさそうです。
コールセンター立ち上げの戦略として、「インハウス」と「アウトソーシング」が挙げられます。自社で立ち上げを行わない場合は「アウトソーシング」を検討することが多いと思います。
アウトソーシングのメリットとしては外部に委託できて効率的な部分がありますが、かといって「丸投げ」になってしまうと、品質の低下や、柔軟な対応ができないなどの解説がありました。
アウトソーシングは自社で管理する必要がないといったメリットがありますが、利用を検討する際は依頼する業務の内容がアウトソーシングの会社とマッチするか・品質に問題ないかなどを考えた方がよさそうです。
顧客データにおける活用方法のご紹介もありました。
CRMを活用して顧客一人一人のニーズを把握し対応することで、顧客のロイヤリティを高めたり、顧客ニーズを予測してキャンペーンを打った時の効果測定を行う等の解説がありました。
顧客データと問い合わせ内容から顧客のニーズを分析できるのはコールセンターならではだなと感じます。
第2章 コールセンターのプラニング
優れたコールセンターを立ち上げるために考えるべき内容の話でした。
業務設計として、コールセンターの業務内容や管理指標(KPI)の設定、オペレーション環境の設計・人材の確保・システムの設計などの解説がありました。
システムの設計においては、コールフローをどう設計するかと、顧客と対話するオペレーターのためのワークフローをどう決めるかが重要視されます。
コールフローは顧客目線でイメージしやすいと思いますが、オペレーター目線のワークフローはあまり意識することはなかったです。
顧客から電話がきた時に必要な事項を漏れなく確認するワークフローがあれば、品質の向上やオペレーターの負荷も下げることができるので、現場としては必須のように感じます。
コールセンターか優れているかどうかについては管理指標(KPI)を用いることが一般的です。
このKPIをどう決めるかですが、この書の中では途中放棄呼・平均応答時間・設定時間内応答率(例:20秒以内に応答する)・一時対応完了率などが挙げられていました。
この辺りはコールセンターシステムのレポート機能の仕様と関わる部分だと思うので、システム導入の際の要件定義のタイミングで確認しておきたいポイントです。
人材の確保について、センター長や・スーパーバイザー、コンプライアンス担当やシステム部門等、各役割を持った人を用意することが必要です。
人的配置、出勤計画はアウトバウンドの方が業務量を調整できるので設定しやすいと紹介があり、確かにと思いました。
インバウンドはサービスレベルから要員量を計算する方法が良さそうです。
個人的に面白かったポイントとして、ローケーション(コールセンターの場所)についても紹介がありました。
コールセンターは地方に拠点があることが多いですが、それは自治体の誘致が関係してそうです。
日本コンタクトセンター協会のページでも、今だと全205自治体で誘致を行なっていました。(2023/6時点)
対象の市町村をみると、北海道・東北・中部・四国・九州辺りが多そうです。
電話は顧客との距離は関係なく、どこでも顧客対応ができるので、助成金などを上手く活用して立ち上げできると良さそうです。
一方、対象の自治体の条件や、その土地で人の採用がしやすそうか等も考慮するようにしましょう。
第3章 コールセンターシステムの設計
この章ではコンタクトセンターシステムの導入における解説がメインでした。
他のシステム導入でも挙げられるような、プロジェクト管理とV字モデル(要件定義・外部設計・内部設計・単体テスト・結合テスト・システムテスト・運用テスト)の説明もありました。
あとはコールセンターならではの電話回線の種類や、専用線(帯域、LAN網)も決める必要があります。
PBXの設定ではここら辺の考慮が必要です。
- 代表番号・内線番号・ダイヤルイン番号・フリーダイヤル・ナビダイヤル・ボイスワープ
- 自動着信呼分配機能(ACD)
- 対話型音声自動応答機能(IVR)
- コールマネジメントシステム(CMS)、いわゆるレポート機能
- 着信ポップアップ、プレビュー・ダイヤリング(クリック発信)、プレディクティブ・ダイヤリング(予測発信、顧客が応答したら空いているオペレーターに繋ぐ)
- コールバック
機能としてできる・できないだけでなく、利用者側の目線も含めて、どういった機能なのかを押さえておきたいところです。
コールセンターシステムならではの用語説明は過去にブログを書いておりますので必要に応じて参照ください。
第4章 より良いコールセンターにために
この章は、コールセンター導入の応用編のお話でした。
コールセンターの生産性や品質をどう向上させるかといった紹介がありました。
品質については通話録音の説明がありましたが、いまだと録音再生は聞き起こすのに時間がかかるので、状況に応じて、音声のテキスト化あたりができると効率もよさそうです。
また、コールセンターで大事だと思う部分として、セキュリティの話がありました。
コールセンターは個人情報が集まる場所なので、ほとんどの現場で重要視されるのではないでしょうか。
物理的セキュリティとして、アクセス権限や指紋認証、アクセスログ等、人的セキュリティとして、研修、理解度テストがあげられていました。
会社の信用度を図るものとして、第3者認定(プライバシーマークなど)も取っておくとよさそうです。
第5章 ブロードバンド時代の顧客コンタクト
最後の章では、電話×IT活用の話です。
この本は2006年に発売されていますが、すでにIP電話機の導入などの紹介もありました。
いまはクラウドサービスも普及してきているので、珍しくはなくなってきていると思います。
裏側の通信の仕組みなどを知りたい場合はここの章もぜひ読むこともお勧めします。
音声がどうIPパケットに変換されるのかを知っておくだけで、有識者になれます。
気になる方は
Amazonで電子書籍も出ているので、ぜひ買って読んでみてください。
コールセンターのすべて―導入から運用まで
最後に
この1冊だけでコールセンターの企画書とか作るのにも参考になるのではと感じました。
読んでおいてタメになるので、いつでも横に置いておきたい1冊です。
ぜひ、コールセンターに関わることがあれば一度読んでみてください。
ではまた!コンサルティング部の洲崎でした。