自己流で英語に伸び悩んでいる人は『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』を読むべし

2023.10.31

学校・仕事・生活など様々な理由で英語を学びつつ、上達が今ひとつで今の勉強法を続けていいのかなぁと不安になっている人も多いのではないかと思います。 タイパが重視される昨今だと、無駄なことはできるだけ避けたいですしね

そんな人にピッタリの一冊が出版されたので紹介します。

第二言語(いわゆる外国語)習得、特に、語彙習得が専門の立教大学中田達也教授による『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』です。

本書の向いている読者層

  • 英語スキルを向上させたい
  • 英語を教えている
  • 子供の早期英語学習に頭を悩ませている

本書の特徴

現役の研究者が最新研究に基づいて納得感のある一般論を繰り返しており、安心して読めます。

個人体験談(N=1)をしたためた本では有りません。

本書の特徴は以下3点です

1. 対象読者は一般人

対象読者はあくまでも一般人です。

現役の研究者が書いてはいるものの、専門用語はなるだけ控え、柔らかい文体で書かれているので、頭に入ってきやすいです。 また、第二言語習得の最新研究が反映されており、再現性のある現実的な学習方法が具体的に書かれています。

2. 4技法のバランスが取れている

大昔の英語学習は、辞書を引きながら難しい文章を解読することに力を入れられていたと聞きますし、近年はリスニング・スピーキングの口頭コミュニケーションが重視されているようです。

著者は、目的によって必要とされるとされるスキルは異なる前提のもと、リスニング・リーディング・スピーキング・ライティングの4技法、更には文法や語彙等の英語スキル全般について個別に学習法がまとめています。

3. ウェブサービス・アプリ・AIのような便利なツールは積極的に活用

私の学生時代は物理辞書で単語を調べ、紙のテキストで勉強していましたが、現在は令和です。

最近はChatGPTやDeepLのような強力なツールも登場しました。

便利なツールは総動員しましょう。

忙しい人は「第1章 英語学習の原則」だけでも読むべし

本書は第1章で英語学習の原理・原則が整理され、2章以降は読者が読みたいトピックをつまみ食いできるようになっています。 何はともあれ、第1章だけでも読みましょう。

転移適切性処理説(transfer appropriate processing theory)」なんていう小難しい用語も出てきます。 目的に応じた学習が必要、例えば、リスニング力を上げたいのであればリスニングを学びなさい、単語を正しく綴りたいなら、スペルに気をつけて書く必要があるといった、当たり前のことです。 トレーニングで言うところの特異性の原理ですね。

「転移適切性処理説」以外にも、本書で繰り返される宣言的知識(名詞の複数系にはsをつけるといった知識)・手続き的知識(文法のような知識を正しく扱える)のような重要な概念が登場します。

  • 英語学習は年齢が若いほどいいの?
  • 日本人は英語が下手なの?

といった俗説に対しても、研究者の立場から冷静に解説されています。

第2章以降は以下の内容をつまみ食い出来ます。

  • 第2章 単語
  • 第3章 定型表現
  • 第4章 文法
  • 第5章 発音
  • 第6章 リーディング
  • 第7章 リスニング
  • 第8章 ライティング
  • 第9章 スピーキング

個人的に気になった点を順に紹介します。

第2章 単語

語彙力の強化は英語上達の上で基盤となる重要な能力です。

英単語の頻度も80:20でお馴染みZipfの法則が成り立つため、まずは少数の頻出単語を優先しましょう。 英語で最も頻度が高い3000ワードで約94-95%の英文をカバーできるそうです。

idempotentのような専門用語は、専門分野に関する文献で学べば大丈夫です。

和→英と英→和による語彙獲得の比較は述べられていますが、個人的には、英→英はどういう扱いになるのか、気になりました。

著者の専門分野だけあって、本書の中でダントツにテクニカルです。

第3章 定型表現

言葉の約5~8割はイディオムやコロケーションのような定形表現で構成されるので、単語単発だけでなく、定形表現も学びましょう。

詳細は同じ著者による『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』を参照ください。

第4章 文法

文法の記述は薄めです。

実際問題として、日本人は中学の頃から十二分に難しい文法を勉強しているので、実用面で文法力が不足することはないでしょう。

第5章 発音

母国語話者のような発音を身につけるのは現実的ではないため、理解しやすい発音を目指しましょう。

英語話者の大半は非母国語話者です。訛り上等です。

とは言え「rの発音の仕方」のような宣言的知識を身につけ、実際に発音できるように手続き的知識の習得も怠らないようにしましょう。

Googleドキュメントやスマホのspeech to text機能を使えば、発音能力を計測できます。 脳内の発話とAIの識別する単語に大きな乖離があっても、間違っているのはAIではなくあなた自身の発音です。 落ち込まないようにしましょう。

ありがたいことに、現代ではElsa Speakのような音声矯正アプリまであります。

第6章 リーディング

最近では、純粋な英文を読むだけでなく、機械翻訳で英訳した文章のチェックでもリーディングは活躍します。

リーディングは語彙と文法の基礎の上に成り立っているので、リーディングの正確性を高めるために、これらスキルをしっかり学びましょう。

リーディングの流暢性を向上させるには、馴染みのあるトピックについて未知の単語・文法があまり登場しない文章で多読しましょう。

第7章 リスニング

リーディングと同じく、リスニングでも、既知語の割合が低い(95%未満)と、理解が困難になります。

リスニングでも語彙力は大事です。

リスニングの正確性を高めるためには、後述する4技能同時学習法にあるように、短い英文を自力で聞き取れるようになるまで何度も聞き返して精聴するのが効果的です。

多読と同じく、多聴にはできるだけ簡単なコンテンツを選びましょう。

リスニング向上のためには、映画・ドラマを利用する人もいます。 音声と視覚のバイモーダルな情報のおかげで内容を理解しやすくなるメリットもある一方で、時間あたりの発話が極めて少ないために、タイパが劣るというデメリットもあります。

第8章 ライティング

個人的には、ライティングスキルは外国語能力のごまかしがきかず、能力が顕著に現れ、上達も難しい印象を持っています。

大量に英語を書き、適切なフィードバックが得られるような環境に身を置かないと、「英語書けます」と言い切れるレベルにはならないでしょう。

学生を終えた凡人はライティングスキルの向上を諦め、機械翻訳・生成AIの力を借りて英文作成するのが現実的です。

AIサービスに課金し、ニュアンスを伝えられる程度の英語力を身に着け、重要な文章の校正はネイティブにお願いしましょう。

茨の道を進みたい場合は、本書を参考にしましょう。

第9章 スピーキング

スピーキングは流暢性が大事です。

多読・多聴と同じく、簡単なことをスラスラ喋れるようにトレーニングを繰り返し、瞬発力を上げましょう。

難しいことはさておいて「4技能同時学習法」を実践するべし

第1章の「(6)明確な目標が無い方にお薦めの学習法」では、明確な目標(伸ばしたいスキル)の有無にかかわわずに英語の総合力を伸ばす学習法として4技能同時学習法が紹介されています。

NHKラジオ講座のように、音声・英語スクリプト・日本語訳のついた短いコンテンツを用意し

  • リスニング
  • リーディング
  • 文法・語彙の定着
  • スピーキング
  • ライティング

をお手軽かつ高密度に向上させる方法です。

具体的な手順は本書を参照ください。

最後に

英語の学習方法を体系的に知りたい人向けに、2023年9月に出版されたばかりの中田達也先生による「最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法」を紹介しました。

ソーシャルメディアや個人ブログで得られる情報は断片的であり、内容そのものの信頼性も疑わしいものが多い中、現役の研究者による本書は正確性・網羅性の観点から万人におすすめできます。

英語上達のためには、学習方法を学んだこと(宣言的知識)に満足せずに、しっかりと実践(手続き的知識)してくださいね。 本書の「はじめに」にあるように、言語習得には膨大な時間がかかります。

それでは。