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[書評]シニアエンジニアから先のキャリアを考える「スタッフエンジニア マネジメントを超えたリーダーシップ」

「シニアエンジニアになったけど、この先何を目指すべきなのか?マネージャー?」のような悩みのある方に向けたマネージャー以外の選択肢に関する本「スタッフエンジニア マネジメントを超えたリーダーシップ」の書評です。
2023.05.06

はじめに

「シニアエンジニアになったけど、この先何を目指すべきなのか?マネージャー?」
「会社としてシニアエンジニアに今後どんなキャリアを提示できるだろうか?」

社内で一定以上のキャリアに到達すると、従来の大企業などの場合はマネージャーに昇進することが多かったかと思います。国内の先進的な企業ではエキスパート、ICなどの肩書きが生まれている印象です。海外ではシニアの上位でエンジニア寄りのポジションとしてスタッフエンジニアなどの役割を作っています。スタッフという言葉が日本では聞き馴染みなかったですが、「エンジニアのリーダー」や「幹部の補佐」に相当するポジションです。では、スタッフエンジニアは何をしていて、どうすればなれるのでしょうか?その疑問に答えるのが本書になります。

この本は、特に2種類の方へとても有用な知見を共有しています。1つ目はシニアエンジニア相当のポジションになった方がマネージャー以外の次のポジションを狙うための指針として使う。2つ目は、組織設計をしている側としてシニアエンジニアの次のステップとしてどんな役割を作るべきか考える際の参考となる一冊です。上記どちらかで悩んでいる方や以下の図にピンとくる方には非常に刺さる内容なので、本記事の内容を読んで気になったら是非買って読んでみてください!

書籍の概要

ソフトウェアエンジニアが、マネジャーやCTOといったマネジメント職に進むのではなく、技術力を武器にテクニカルリーダーシップを発揮して、エンジニアリング職のキャリアパスを登っていくための「指針」と「あり方」を示します。

「スタッフエンジニア(超上級エンジニア)」になるには
どんなスキルを身につければいいのだろうか? 
技術的な能力さえあればいいのだろうか? 
なった人は、具体的に何をしたのだろう? 
その仕事を楽しむには、どうしたらいいのだろうか?
これらの疑問に答えるのが本書の目的だ。

引用元:スタッフエンジニア-マネジメントを超えるリーダーシップ

著者はWill Larsonさん、解説は増井さん、翻訳は長谷川さん。

目次は以下になります。

  • 序文
  • 第1部 スタッフとして活躍するために
    • 第1章 全体像
    • 第2章 スタッフとしての役割
    • 第3章 スタッフプラスの肩書を得る
    • 第4章 転職を決断する
  • 第2部 スタッフたちの実像
    • 第5章 スタッフエンジニアのストーリー
    • 第6章 最後に
  • 補章 スタッフになるための情報源
  • 参考文献
  • 謝辞
  • 解説

1,2章ではスタッフエンジニアの全体像や役割を知り、3,4章では今いる場所でどのように昇進するかあるいは転職するか、5章ではStripe, Mailchimp, Fastly, Slackなどで活躍するスタッフエンジニアが役割や業務などを体験に合わせて紹介するような構成になっています。また日本語翻訳版向けに解説や日本人のスタッフエンジニアへのインタビューが追加されています。

全体を読んだ感想ですが、日本ではスタッフエンジニアという言葉に馴染みが薄いと思うので、まず解説を読んでから全体を読んでいくのも良さそうです。本記事では、1~5章をかいつまんで紹介します。

第1章 全体像

スタッフエンジニアの典型的なパターンや1週間の行動スケジュールなどにが書かれています。何人かのスタッフプラスエンジニア(スタッフ、プリンシパル、ディスティングイッシュトの総称)の体験をインタビューした結果から、テックリード/アーキテクト/ソルバー/右腕の大まかに4種類に分けてそれぞれの役割において普段行っていることやスケジュールを時間単位でも確認できます。ただ企業や人によって状況は異なるので、目指す際の参考として使うのが良さそうです。

またスタッフエンジニアの行動として技術的な方向性の設定やソフトウェアはどこまで書くのかなどから、肩書きはなぜあった方がよいのかを部屋(組織が意思決定をする場)へのアクセスや報酬面など様々な観点から記載しています。

単に1つのPJへの関わりだけを重視していると組織への貢献や部屋へのアクセスなど抜け落ちやすい観点が網羅されてます。スタッフプラスエンジニアを目指す際に何が期待されるのかなどが分かりやすくなりました。

第2章 スタッフとしての役割

冒頭の引用文書がスタッフエンジニアとして役割を表しているかと感じます。

スタッフエンジニアになれば自分の仕事を自分で管理でき、誰もがあなたに従い、あなたの望むことをするようになると考えたら大間違いだ、(中略)事実はまったくの逆なのです!

スタッフエンジニア-マネジメントを超えるリーダーシップ p.38

シニアエンジニアの上に位置しているスタッフエンジニアですが、役割はシニアのころとは全く異なっていきます。2章ではスタッフエンジニアはどんな役割に変わっていくのかを8つのトピックで紹介しています。もちろん本書では以下のトピックだけが役割の全てではないと記載されていますが、ポジションに対する期待を知る上で重要な指針になります。

  1. 重要なことに力を注ぐ
  2. エンジニアリングの戦略を立てる
  3. 技術品質を管理する
  4. 権威と歩調を合わせる
  5. リードするには従うことも必要
  6. 絶対に間違えない方法を学ぶ
  7. 他人のスペース(余地)を設ける
  8. ネットワークを構築する

各トピックについては、大まかにやることから一部かなり具体的な方策まで記載されています。特に気になったところとしては、「エンジニアリングの戦略を立てる」での2,3年先を見越したデザイン文書の作成や「技術品質を管理する」での「LeanとDevOpsの科学」などを参考にしたいくつかのプラクティスの推奨は非常に参考になりそうでした。

ここから完全に個人の感想ですがトピックからも分かるように、技術力を向上させて組織に貢献し続けるというイメージのある Individual Contributorとは少し違うキャリアになりそうです。

本書を読むまでにイメージしていたマネジメントに近い印象ですが、マネジメントと比べるとより組織全体の技術戦略に目を向けて取り組み、調和を取りながらエンジニアリングリーダーシップを発揮していく役割なのだと理解しました。事業会社でもマッチするポジションかと思いますが、受託開発の会社でも全社戦略に絡みにいくエンジニアとしてシニアの次に用意できるポジションだと感じます。

第3章 スタッフプラスの肩書を得る

シニアエンジニアまでたどり着く方法や独立するまでの方法は他の多くの書籍で書かれています。ただ「シニアから先」へ進む方法が書かれた本は少ないです。3章では昇進や転職などでどのようにシニアの先のポジションを掴むのかについて書かれています。

目指す際に悩みそうなマネジメントも試した方が良いのか?といった問いから、昇進に必要な書類(プロモーションパケット)の作成やスポンサーの探し方、重要なPJ(スタッフプロジェクト)への参画すべきか、重要な意思決定の部屋にとどまる方法、社内/社外認知の重要性について記載されています。

後半は社内政治的な感じがするので、若干抵抗感はありますが2章にもあるように全体の組織的な戦略を考えたり調和を取りながら仕事を進めていく上では必要なソフトスキルなのかと思います。

第4章 転職を決断する

一般的にはスタッフプラスエンジニアを目指す上では、長期的な信頼などが重要になるのですぐに転職していくのは、このキャリアを目指す上では好ましくなさそうです。しかしながら、会社の状況によってポジションを作るのが難しい場合もあります。どういう場合に転職の判断をすべきか、適した会社をどう探すべきかについて記載されています。

15ページ程度の短い章でコンパクトにまとまっています。スタッフエンジニア以外の職種での転職を考えている場合でも参考になりそうな内容でした。あんまり書きすぎるとネタバレになりそうなのでこのぐらいにしておきます。

第5章 スタッフエンジニアのストーリー

原著にも記載のあるStripeやMailChimps、Fastly、Slack、Auth0などの企業のスタッフプラスエンジニアによるインタビューとともに、日本語版限定で元Circle CIの方やVoicy、トレジャーデータ、サイボウズの方々によるインタビューも追加されています。

海外の方のインタビューも参考になりますが、日本の方のインタビューはより文体や内容も親しみやすいものだったのでこちらも非常におすすめです。他の章ではあくまで役割の概要を抽象的に記載していたので、5章と他の章を交互に読むことでスタッフプラスエンジニアに対して求められる役割がより深く理解できるような構成になっているかと感じました。

また個々のエンジニアの仕事の仕方や各サービスの設計を一部垣間見たり、上級職に対する考え方などを知ることができるので好奇心が刺激され単純に面白いです!

所感

私自身が最近マネージャーになり方向性について悩んでいた時に出会い、本の内容が一部最近の活動と重なる部分もあったので目指すべき方向性の1つだと思えたのでご紹介しました。自分と同じように今後のキャリアについて悩んでる方が本を読んで、参考になれば幸いです。また本を読んだ方と一緒に話せると嬉しいです!

もし何か気になるところがあればTwitterまで連絡いただけると幸いです。

CX事業本部アーキテクトチームの佐藤智樹でした。