[レポート]  ゲームならではの音楽演出! インタラクティブミュージック制作の裏側をブループロトコル等の事例を元に解説 #CEDEC2023 #classmethod_game

[レポート] ゲームならではの音楽演出! インタラクティブミュージック制作の裏側をブループロトコル等の事例を元に解説 #CEDEC2023 #classmethod_game

Clock Icon2023.08.31

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こんにちは、ゲームソリューション部の入井です。

この記事ではCEDEC 2023で発表されたセッション「聴いて分かる!インタラクティブミュージック作曲の舞台裏!!」について、内容のまとめとその所感を書いていきます。

セッションの概要

聴いて分かる!インタラクティブミュージック作曲の舞台裏!! | CEDEC2023

インタラクティブミュージックは昨今の様々なタイトルにおいて広く採用されています。今や特別な手法ではなく音楽演出の選択肢の一つとして常に考慮すべき普遍的な手法になってきていると感じています。

そんなインタラクティブミュージックの「作曲」面に今回は焦点を当ててみたいと考えています。通常の作曲とは異なりインタラクティブミュージックの作曲には様々なお作法・コツが存在します。どのようなお作法・コツがあるのか、直感的に分かりやすいように実際に音楽を鳴らしながら紹介致します。

また、インタラクティブミュージックのお作法は、時に作曲の幅を奪う制約と成り得ます。制約を踏まえた上で、効果的な音楽演出のためにインタラクティブミュージックをどう活かしていくのがよいか、考察を加えつつ解説致します。

講演者

北谷 光浩 氏

株式会社バンダイナムコスタジオ

制作部サウンドユニット

インタラクティブミュージックの基礎知識

インタラクティブミュージックとは、ゲームの状況に合わせて曲のテンポやメロディ、アレンジなどを変えることで、ゲームへの没入感を高めるための演出のことです。

セッションでは、最初にこのインタラクティブミュージックの基本的な部分について、北谷氏が制作に参加したブループロトコルなどの実際の映像を流しつつ解説が行われました。

インタラクティブミュージックの必要性

このような演出がゲームで必要になる理由として、映画などの映像メディアでは画面の状況に合わせた音楽の変化演出を付けやすいのに対し、常に状況が変わりうるゲームにおいてそのような演出を付けることは、通常の音楽では難しいという点が挙げられました。

また、曲の切り替わりをシームレスにすることで没入感を損ねることを防いだり、ゲームならではの音楽演出を行うためにも必要とのことです。

インタラクティブミュージックの実現に必要なミドルウェア

ゲームへの実装には、ゲーム開発に使用される専用のサウンドミドルウェアの活用が必要となります。これらは、音楽再生以外に効果音の制御など、ゲームの音に関わる多くの機能を持っています。

メジャーな製品としては、以下のようなソフトがあります。

統合型サウンドミドルウェアCRI ADX - CRIWARE for Games

Wwise | Audiokinetic

FMOD

このセッションの例では、Wwiseで実装されたものが紹介されました。

なお、Wwiseについては同じくCEDEC2023のレポートである以下の記事でも登場しました。

[レポート] ポケモン世界の おんきょうの しんか! 鳴き声や環境音で独自の世界を表現する方法 #CEDEC2023 #classmethod_game | DevelopersIO

様々な音楽の変化のきっかけ

インタラクティブミュージックでは、ゲームの様々な状況変化を起点に音楽が変化します。

探索と戦闘の切り替わりというポピュラーなものから、制限時間が近づくにつれてテンポアップするなど、これまでのゲームでも多くの例がありましたが、◯◯をきっかけに変化したからインタラクティブミュージック、というような定義はなく、何が適切かはゲームによって異なります。

開発対象のゲームについて理解を深めることで、どのような演出が有効かのアイディアが出て来やすくなるので、ゲームの仕様をよく知ることはインタラクティブミュージックの設計には重要とのことです。

変化の対象となる音楽要素とその手法

インタラクティブミュージックの演出によって変化する要素としては、まず音楽の3大要素と言われる以下のものが例に挙げられました。

  • メロディ
  • ハーモニー
  • リズム

他にも、以下の要素を変化させることで、様々な演出効果を生むことが可能になります。

  • テンポ
  • 拍子
  • 楽器の構成
  • 曲の展開
  • エフェクト

これらの要素を変化させる手法は、アレンジの変化を意味する縦の遷移と、曲の展開の変化を意味する横の遷移の2つに分けられるとのことです。縦と横という言葉は、楽譜からイメージされています。

楽曲に地続きで変化を加えられる縦の遷移

音楽を縦の遷移で変化させる例として、楽器構成をギター・ベース・ドラムによるバンドアレンジから、ストリングスによるアレンジに変えることで、雰囲気がガラッと変わるものが紹介されました。使用イメージとしては、オシャレな都会から美しい田園風景に変わった場面です。

この手法の特徴としては、全体的な雰囲気が変わってもメロディやコード進行は変わらないため、変化前と変化後で音楽の流れは地続きになっています。そのため、遷移のきっかけとなる命令が来てから、すぐに変化を適用することが可能です。

ドラマチックにゲームの進行を演出する横の遷移

音楽を横の遷移で変化させる例として、曲の展開がボスの登場から第1形態の戦闘→形態変化から第2形態の戦闘→戦闘終了と、戦闘の状況に応じて曲の展開が変わっていくものが紹介されました。

音楽の流れを一気に変えることができるため、映画のようにドラマチックにゲームを盛り上げる時に使用できます。

音楽の破綻や演出の遅延に悩まされる横の遷移の難しさ

縦の遷移は変更対象の要素に対して音量のクロスフェードを行うことで違和感なく実現できますが、横の遷移は最初からそういう曲であったかのように音楽的に自然な繋がりを実現する必要があります。

インタラクティブミュージックの演出を効果的にするには、ゲームからの遷移命令が来たらすぐに楽曲に変化を加えたいところですが、拍や小節といった音楽の時間的ルールを無視して横の遷移を行ってしまうと、曲の流れが破綻して違和感を生んでしまいます。

そのため、横の遷移を自然に行うには、音楽的にキリの良いタイミングを待ってから変化させるという制御が必要になります。これにより、聞き手に違和感を抱かせることなく横の遷移が可能になります。

しかし、キリの良いタイミングを待つということは、当然その分遷移命令から楽曲の変化までにタイムラグが生じてしまいます。例えば、BPMが120で8小節刻みでキリの良いタイミングが来る楽曲の場合、遷移命令のタイミングが悪いと楽曲の変化まで最大で16秒の遅延が発生する可能性があります。

遅延の発生を最小限にするために、最初から楽曲に1小節刻みで変化点を用意しておくという方法も考えられますが、この場合どうしても単調な曲になりやすいというデメリットがあります。

遅延を最小限にしつつ曲が単調にならない方法として紹介されたのが、変化への緩衝材となる部分(プリエンド)を用意しておく方法です。

例えば、戦闘の終了タイミングに合わせて曲の展開を変化させたいとします。この時、最後の展開へ1小節ごとに違和感なく変化できる緩衝材部分をあらかじめ用意しておきます。そして、戦闘の間は通常通り曲を流し、残りHPが少ない等最終的な遷移ポイントに近づいたタイミングで緩衝材部分へ遷移させます。その後、HPが無くなったと同時に最終的な変化を行います。

上記のような流れにしておくことで、残りHPが少ないという多少遅延が発生しても問題のないタイミングで変化の準備を整え、最後のできるだけピッタリ合わせたい変化の時は遅延を最小限にすることが可能です。緩衝材部分は短いタイミングでしか流れないため、多少楽曲が単調になってもあまり問題にはなりません。

縦の遷移と横の遷移は場面によって使い分ける

それぞれの遷移手法は、得意な点と不得意な点を持っています。1曲の中で複数の遷移手法を使っても良いので、これらの特徴を把握してケースバイケースで活用するのが大事とのことです。

インタラクティブミュージック作曲の舞台裏

インタラクティブミュージックの実例として、これまで北谷氏が参加した作品でどのように実装を行ったかが紹介されました。

ブループロトコルでの戦闘やフィールド音楽の変化

このゲームは、フィールドの探索中に敵に近づくとシームレスに戦闘へ移行する仕様となっています。BGMについても探索パートと戦闘パートで音楽が変化するようになっており、この時に敵とのレベル差によって流れる曲が変わる仕様になっています。

この仕様は、戦闘の緊張感の演出と同時に戦闘に移行したことの通知機能の役割も持っています。

敵のレベルがプレイヤーと同等以上だった場合は探索パートと全く違う曲にすることで、緊張感を高めつつ戦闘が始まったことをはっきりと知らせます。逆に、敵のレベルがプレイヤーよりもかなり低い場合、通知機能の意味があまりなく過剰な緊張感も持たせたくないため、曲の変化は縦の遷移によってさりげなく行うようになっています。具体的には、リズム楽器やピアノは疾走感や厚みがプラスされるように変化を付ける一方で、メロディと金管楽器は戦闘前と変えない、というような形でメリハリが付けられています。

ブループロトコルでは、他にも曲にランダム性を持たせるという手法が使われています。これは、滞在時間の長い広いフィールドなどで同じ楽曲を流すことによるマンネリの発生を防ぐためのものです。

具体的には、メロディや伴奏・ピアノについて複数のパターンを用意し、それらを組み合わせて楽曲を構成することで、聞き飽きにくいランダム性を実現したとのことです。

ACE COMBAT7での映像とピッタリ合わせるための工夫

このゲームでは、インゲームからカットシーンへの遷移時のBGM演出にインタラクティブミュージックが使用されました。

ゲームプレイ中に敵のライバルが登場した際にカットシーンが入るのですが、この時にインゲームの緊張感を維持しつつカットシーンでのライバル登場の盛り上がりを演出する必要がありました。

最初は、横の遷移に1小節区切りの緩衝材(プリエンド)を使用することで、インゲームからカットシーンへの変化と音楽を同期させようとしましたが、1~2秒程度に遅延を抑えても上手く映像に合わせることができませんでした。

そこで、プリエンドの1小節を更に8分割することで、遅延時間を最大0.15秒にまで抑えることができ、映像と音楽を綺麗に同期させることができました。通常、1小節の途中から違うパートへ変化させると破綻が発生するのですが、プリエンドの更にプリエンドとなる部分を作成することで、スムーズに変化させることが可能になりました。

インタラクティブミュージックの課題

変化に気付かれにくい

インタラクティブミュージックは、その作りが自然であればあるほど変化に気付かれにくくなります。そのような気づかれにくい演出は効果的なのか、というのが1つ目の課題点です。

しかし、インタラクティブミュージックを使わなかった場合、音楽の切れ目が目立って没入感の妨げになったり、ゲームと音楽のテンションが上手く合わなかったりなどの悪い結果に繋がる可能性があります。こういったものを防ぐことができるのであれば、例え気付かれなくてもインタラクティブミュージックを使用する意義はあると言えるとのことです。ただ、このような問題がないのであれば、採用には慎重になる必要があります。

また、ユーザーに音楽を通して何かを知らせたかったり、インタラクティブな仕組み自体が魅力を提供する場合は、気付いてもらえるようにした方が良いとのことです。

音楽的魅力との両立

インタラクティブミュージックとして使いやすいことと、曲自体の魅力の両立が難しいことも課題の1つです。

例えば、横の遷移がしやすい曲を作る場合はどうしても複雑な展開にはしづらいです。縦の遷移の場合は比較的音楽的魅力を維持しやすいですが、それでもアレンジ差分の意識など通常の曲作りよりも考えなければならない部分は多くなります。

両立のためには、プリエンドなどの手法を使いこなしてコストをかけるか、音楽的魅力を重視すべき場面ではそもそもインタラクティブミュージックを使わないという選択肢も持っておく必要があります。

コストの重さ

最後に挙げられたのは、インタラクティブミュージックを実現するためにかかるコストです。

縦の遷移、横の遷移のどちらの手法を使うにしても、どうしても通常の楽曲制作よりコストが多くかかってしまいます。また、コストをかけたとしても、必ずしもそれだけのリターンが得られるとも限りません。そのため、音楽的魅力との両立と同様、インタラクティブミュージックを使う場面は、それに見合う効果が得られるのかを意識して選択する必要があります。

また、今後の技術発展への期待として、AIを使って自動的に様々なアレンジやプリエンドを生成できるようになれば、コストや音楽的魅力との両立の課題は解決するかもしれないとのことです。

インタラクティブミュージックの作曲についてのアンケート

最後に、北谷氏が社内のサウンドチームのコンポーザーに対して実施したアンケートの結果が紹介されました。

インタラクティブミュージックを作曲する機会の割合についてのアンケートでは、半分以上が20%以下と回答したとのことです。近年、インタラクティブミュージックを作曲する機会が確実に増えていますが、全てのコンポーザーにそれが当てはまる訳ではないかもしれない、とのことでした。

作曲の上で困ることのアンケートでは、作曲に時間がかかることが最も多く、次に遷移の確認作業が大変、レコーディング・TDが大変、という回答が続きます。レコーディングについては、北谷氏からもACE COMBAT7で細かいプリエンドを作成した時に、演奏者に何度も同じフレーズを弾いてもらうことになり申し訳がなかったというエピソードが紹介されました。

作曲のモチベーションについてのアンケートでは、半数が積極的に作曲したいという回答になりました。消極的な回答については、1度インタラクティブミュージックの大変さを経験したことが理由の人もいるかもしれないとのことでした。

感想

個人的にゲーム音楽大好きな人間なので、全体的に非常に面白く聞くことができたセッションでした。

インタラクティブミュージックは自然であるほど気付きにくいという話や、音楽的魅力との両立が難しいという話はまさにその通りで、実際にゲームで使われているインタラクティブな音楽演出を体験して感じていることでした。

それでも、ゲームだからこそできる手法であり、上手くハマった時の演出効果は唯一無二と思いますし、まだまだ未開拓の領域も多くあると思うので、今後も引き続き注目していきたい技術だと思っています。

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