Unitree Go2のライバル機 「DEEP Robotics Lite3」は開発検証機として耐えうるかを考察する

Unitree Go2のライバル機 「DEEP Robotics Lite3」は開発検証機として耐えうるかを考察する

Unitree Go2のライバル機、DEEP Robotics Lite3は開発検証機として使えるのか。二次開発・状態取得・シミュレーション・独自強化学習ポリシーの4要件を立て、公式リポジトリのコードとマニュアルをもとに検証しました。日本語では(多分)ほぼ初となる開発者目線のLite3紹介記事です。
2026.08.28

はじめに

開発検証用の四足歩行ロボットといえばUnitree Go2が有名で、(ロボットにしては)手頃な価格帯かつ高機能なのが人気の要因となっています。
似た価格帯・スペックでDEEP Robotics Lite3というロボットもありますが、日本語の開発者向け情報はかなり少なく(そもそもない!?)謎に満ちた機体になっています

今回はそんなLite3にスポットライトを当て、Go2と同じように開発検証用途に耐えうるかを調査していきたいと思います。

DEEP Robotics Lite3とは

DEEP Robotics(雲深処科技)は杭州のロボットメーカーで、四足歩行ロボットでは Unitree と並ぶ中国の主要プレイヤーです。Lite3 はその小型モデルで、2023 年発表と Go2 と同世代。位置づけとしても Go2 の直接のライバルにあたります。

グレードは 4 つあります。

グレード 重量 段差 稼働時間 知覚機能 開発向けの口
Basic 12kg 18cm 1.5〜2h 前後障害物停止・追従 記載なし
Venture 12.2kg 18cm 1.5〜2h 同上 Ethernet ×2、外部電源出力(24V/12V/5V)
Pro 12.9kg 18cm 1.5〜2h +前方障害物回避 USB3.0 / HDMI / Ethernet / 外部電源出力
LIDAR 13.5kg 18cm 1.5〜2h +自律ナビゲーション 同上

中位グレードの Venture から Ethernet と外部電源出力が付き、外部計算機やセンサーを載せて拡張することを最初から想定した作りになっています。国内ではエルザジャパンのオンラインショップから普通に購入でき、価格も公開されています(この手のロボットでは意外と貴重です)。筆者が購入したのもこの Venture で、価格は約 120 万円でした。
VentureだとLiDARがついていないですが既製品(Livox Mid360S)の後付けで対応予定です

開発検証機としての要件定義

1. 二次開発ができ、共通規格で制御ができること

専用アプリからしか操作できない場合、カスタムロジックが組めずに汎用性が減ってしまい開発に使うのは難しいです。
加えて関節などの低レイヤーを操作できると、より自由度が高いといえます。

2. 自律歩行・巡回に必要なロボットの状態を取得できること

移動指令が送れても、位置や姿勢などの状態が返ってこない機体では「目隠し運転」になってしまいます。自律歩行はもちろん、異常検知や安全停止のような監視ロジックも状態取得が前提です。

3. シミュレーション上で開発できる仕組みが整っていること

実機を複数台用意するのはコスト的にも厳しく、転倒すれば修理費もかかります。
パラメータ調整や失敗前提の試行錯誤はシミュレーションで回し、実機は最終確認に使うのが現実的です。

4. 独自の強化学習ポリシーが使用できること

フィジカルAIを語る以上これができないと大きく魅力減です

要件に対しての考察

要件1:二次開発ができ、共通規格で制御ができること

公式からはROSもしくはSDK(Motion SDK)を用いて制御する方法が用意されています。
ただ下記の通りLite3が受け取るのは結局UDP通信であり、ROS/SDKを使っても最終的にはクライアント側でUDPパケットに変換されて送信されます。

ROSトピックでは下記をPublishできます

トピック 効果
/cmd_vel geometry_msgs/Twist 前進・横移動・旋回の速度指令(歩行はメーカー歩容にお任せ)
/simple_cmd MotionSimpleCMD 引数なしコマンドの汎用口(立つ / 伏せ / モード切替など)
/complex_cmd MotionComplexCMD 引数付きコマンドの汎用口(/cmd_vel は内部でこれを3発送るラッパー)

ROSについては具象トピックは移動(/cmd_vel)のみと必要最低限という印象です。
/simple_cmd/complex_cmdはmsgをそのままUDPで送りつける抽象トピックになります。
コード番号をmsgに格納して送りつけることで対応する命令ができます。
コード番号についてはマニュアル・コードなど一覧で確認できる公式情報はなく、下記が実装から確認できます

コード 機能 出どころ
0x21010C03 自動モード切替 コミュニティ実装
0x21010130 前進停止 同上
0x21010135 旋回 同上
0x21040001 ハートビート 同上
320/325/321(10進) 前進/横/旋回速度 Lite3_ROS公式ソース

Motion SDK では ROS より一段低い、関節レベルの制御ができます。
12関節それぞれを制御でき、トルクTは目標角・目標角速度・kp・kd・フィードフォワードトルクのパラメータから下記の式で計算されます

T = kp*(pos_goal − pos_real) + kd*(vel_goal − vel_real) + t_ff

こちらの式は制御工学において一般的な式(PD制御)となっています。

要件2:自律歩行・巡回に必要なロボットの状態を取得できること

公式からはROSもしくはSDK(Motion SDK)を用いたデータ取得方法が用意されています。
ROSトピックとしては下記が取得できます。

トピック 中身
/leg_odom PoseWithCovarianceStamped 脚オドメトリ(位置+向き)
/leg_odom2 nav_msgs/Odometry 位置+機体速度(Nav2 にそのまま渡せる形)
/joint_states sensor_msgs/JointState 12関節の角度
/imu/data sensor_msgs/Imu 姿勢・角速度・加速度

Motion SDK ではさらに詳細な状態が RobotData 構造体として UDP で流れてきます。
こちらは指令を 1 バイトも送らなくても受信できます。

データ 中身
imu 姿勢角(roll/pitch/yaw)・3軸角速度・3軸加速度
joint_data[12] 12関節それぞれの角度・角速度・トルク・モーター温度
contact_force 4脚それぞれの接地力(3軸)
tick 動作周期カウンタ

一方でビジョンにも重要なカメラ映像は ROS トピックにも RobotData にも含まれておらず、ROS / SDK 経由では取得できません。
代わりに公式マニュアル(Perception Development Manual V2.2.2)では、カメラ映像を h264 エンコード・720p の RTSP ビデオストリームとして取得すると記載されており、公式の人追従サンプルもこのストリームを受けて動く構成になっています。RTSP であれば VLC や OpenCV などの標準的なツールでそのまま受けられるはずです。

ただし肝心のストリーム URL はマニュアルに記載がありません。ここは実機で確認する予定です。

要件3:シミュレーション上で開発できる仕組みが整っていること

シミュレーション対応は公式リポジトリ2本で構成されています。

  • rl_training: Isaac Lab(Isaac Sim)ベースの強化学習トレーニング環境。Lite3 のモデルと学習環境(Rough-Deeprobotics-Lite3-v0)が公式提供されています
  • Lite3_rl_deploy: 学習したポリシーの検証・デプロイ側。PyBullet / MuJoCo でのシミュレーション実行に対応しています

設計としては、ロボットへの入出力が「実機」と「シミュレーション」で同じ形に抽象化されており、ビルド設定の切り替えだけで同じ制御コードを両方で動かせます。つまり Isaac Lab で学習 → MuJoCo で sim2sim 検証 → 実機、という今どきの sim2real パイプラインが公式リポジトリだけで一通り通ります。

ただし注意点として、シミュレーションに載るのは関節レベルの制御だけです。/cmd_vel で使えるメーカーの歩容はロボット本体の中でしか動かないため、高レベル操作をシミュレーションで試すことはできません。

要件4:独自の強化学習ポリシーが使用できること

強化学習は「学習」と「実機デプロイ」の両方が公式リポジトリで揃っています。

  • rl_training: Isaac Lab ベースの公式トレーニング環境。Lite3 の学習環境(Rough-Deeprobotics-Lite3-v0)が提供されており、公式のチュートリアル動画まで用意されています
  • Lite3_rl_deploy: 学習済みポリシーを実機で動かすランタイム。ONNX 形式のネットワークを読み込み、ロボットの状態(姿勢・角速度・関節状態など)を入力して 12 関節の目標角を出力する推論ループが実装されています

デプロイ側はステートマシンとして組まれており、立ち上がり → ポリシー実行 → 異常時はダンピング(脱力保護)という遷移に加え、姿勢が閾値を超えたら自動でポリシーを止める転倒検知も入っています。自作ポリシーの差し替えは ONNX ファイルの置き換えと入出力の次元合わせで済む構造です。

つまり Isaac Lab で学習 → シミュレーションで検証 → 実機デプロイまで、公式リポジトリだけで一気通貫できます。フィジカル AI の実験台としては十分な足場です。

まとめ

要件 判定 ひとこと
1. 制御の汎用性 ROS / SDK 両対応
2. 状態取得 △~⭕ オドメトリ・IMU・関節角が ROS で流れる(トルク等は SDK 側)ただしカメラ画像は要検証
3. シミュレーション Isaac Lab公式対応。関節制御はsim可、高レイヤーは実機専用
4. 独自 RL ポリシー 公式リポで ONNX 方策の実機実行まで導線あり

開発検証に耐えうる要素は持ち合わせていることが検証できました。
しかしマニュアル・コードからは読み取れない情報も残っていて更なる深掘りが必要です。

次回予告

続いてはライバル機のGo2と比較検証を行います。
加えてマニュアル・コードからでは読み取れなかった命令セットやカメラストリーミングについては実機を使って深掘りしていきます。

参考リンク

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