EUでWeb・アプリを提供する企業が知っておきたいアクセシビリティ法制 ― EAAだけではないB2C・B2B・公共調達

EUでWeb・アプリを提供する企業が知っておきたいアクセシビリティ法制 ― EAAだけではないB2C・B2B・公共調達

EUでWebサービスやスマホアプリを提供する企業にとって、アクセシビリティは法的なコンプライアンス要件にもなっています。本記事では、EAA、WAD、Employment Equality Directiveを中心に、B2C・B2B・公共部門向けサービスで確認すべき法制度と、WCAG・EN 301 549を踏まえた実際の開発方法、EU主要10カ国の国内法・罰則・執行事例までを整理します。
2026.09.02

そもそも「アクセシビリティ」とは何か

Webアプリやスマホアプリの画面をAIに指示して開発することも珍しくなくなり「AIで画面開発のハードルが下がった」と言われます。しかし、そうして開発された画面を、多様なエンドユーザーが実際に利用できるか確認したことはあるでしょうか。

例えばエンドユーザーの中には

  • 高齢者
  • 視覚や聴覚などになんらかの障害がある方
  • 認知や神経に関する障害のある方
  • けがや病気などにより、一時的に見る・聞く・操作するといった活動に制約がある方

など、さまざまな特性や状況にある人がサービスを利用します。

EU理事会がEurostatの統計をもとにまとめた資料によれば、2024年時点で16歳以上人口の24%(約9,000万人)が何らかの障害(日常活動における長期的な制限)を有しているとされています。日本の内閣府「障害者白書」 ベースでは障害者手帳所持者は総人口の約9.3%とされていますが、これは手帳取得ベースの数字であり、EUの調査のように軽度の困難や自己申告レベルの制限まで含めた集計方法とは異なる点に注意が必要です。

総務省の推計 によれば、2025年時点で日本の総人口の29.4%が65歳以上の高齢者です。総務省「通信利用動向調査」によれば、65歳以上のインターネット利用率は60.8%(2025年)に達しており、特に60代では78.8%、70代でも53.0%がスマートフォンでインターネットを利用しています(いずれも2024年時点)。これらの数字からも、高齢者によるインターネット利用が決して例外的なものではないことが分かります。

こうした利用者は、アプリの設計によっては、見る・聞く・操作するといった場面で利用上の障壁に直面することがあります。
アクセシビリティとは、簡単にいえば、こうした高齢者や障害のある人を含め、できるだけ多くの人が製品やサービスを利用できるようにすることです。

アクセシビリティは非機能要件の一つです。例えばシステム及びソフトウェアの品質要求事項及び評価(SQuaRE)を定めた国際規格である ISO/IEC 25010:2011 では、アクセシビリティは使用性(Usability)の副特性の一つとして定義されています。2023年版ISO/IEC 25010:2023では品質モデルが再編され、アクセシビリティに近い観点は Inclusivity として整理されています。

AI駆動画面開発とアクセシビリティ

もしかして「AIに指示して開発された画面なら、誰でも使えるような、ベストな画面ができているはず」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実はそうではありません。

アクセシビリティを要件として指定せずAIに画面を生成させると、アクセシビリティ上の問題が残る可能性が高いことを示す研究がいくつかあります。

  • 2025年に学術誌『Universal Access in the Information Society』に掲載された研究 によれば、ChatGPT 4o、Copilot Pro、Claude 3.7 Sonnet、Grok 3という主要な生成AIモデルで開発したWebコンポーネントについて調査したところ、すべてのモデルが意味的に妥当なコードを生成できる一方、追加の指示や人間の介入なしには完全なアクセシビリティ準拠を達成できないことが多いと報告されています。
  • 2025年にACM SIGACCESSの国際会議ASSETSで発表された研究では、ChatGPTとDeepSeekに一般的なECサイトを生成させ、そのアクセシビリティを調査した結果、生成された6つのWebサイトから、アクセシビリティに関する合計308件の問題が確認されました。
  • CHI 2026で発表された Measuring the Semantic Accessibility Gap in LLM-Generated Web UIs では、Claude、Gemini、GPTによって生成された300のWeb UIを調査し、541件の意味的なアクセシビリティ上の問題を確認しています。

私自身も日々の開発で、AIにアクセシビリティ要件を明示しなかった場合に、こうした問題が生じやすいことを実感しています。

重要なのは、AIを使うかどうかではなく、要件定義時点からアクセシビリティを明示的な要件とし、開発後にも検証することです。
開発後の検証は、AIと自動検証ツールで可能な範囲と、現時点では人が行うほかない検証の2種類があります。

具体的にどう対策すれば画面のアクセシビリティが向上するのか

では、画面のアクセシビリティを向上するための具体的なノウハウはあるのでしょうか。

具体的なノウハウはありますが、内容が多岐にわたります。
ここでは、これ以降、EUでのアクセシビリティ関連の法規制についてご紹介する内容を把握していただくための予備知識として簡単にご紹介します。

WebサイトやWebアプリの画面のアクセシビリティを向上させるガイドラインにはWCAGがあります。これは "Web Content Accessibility Guidelines" の略であり、現在はWCAG 2.2が最新版となっています。

モバイルアプリについては、Guidance on Applying WCAG 2 to Non-Web Information and Communications Technologies(WCAG2ICT) が、非Web環境への適用の読み替えとして有用です。加えて、AppleのHuman Interface Guidelinesのアクセシビリティに関するトピック、Androidに関しては誰にとっても使いやすいアプリを作成する などを参照していくことになります。

EUではアクセシビリティが法的な要件になっている

日本には、民間企業が提供する製品・サービス全般について、一定のアクセシビリティ要件への適合を一律に義務づける包括的な法律はありません。

これに対し、EU域内でWebサービスやアプリを提供する企業にとって、アクセシビリティはユーザビリティやCSRだけの問題ではなく、複数の法律・指令によって、一定の分野や主体に対して法的に求められています。

ここでは、いくつかの具体的な法律をご紹介します。

  • European Accessibility Act(EAA)
  • Web Accessibility Directive(Directive (EU) 2016/2102)
  • Employment Equality Directive(Directive 2000/78/EC)

European Accessibility Act(EAA) -- B2C

European Accessibility Act(EAA、Directive (EU) 2019/882) は、コンピューター、スマートフォン、ATMなどの製品に加えて、銀行、旅客輸送、電子書籍、電子通信、e-commerceなどのサービスについて共通のアクセシビリティ要件を設けるEU指令です。加盟国は国内法への移行を行い、その規定は2025年6月28日から適用されています。記事執筆時点で、EAAは「準備すべき将来規制」ではなく、対象企業にとって現行のコンプライアンス要件と言えます。

The Commission consulted stakeholders and experts on accessibility and took into account the obligations deriving from the UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities.

These products and services include:

  • computers and operating systems
  • ATMs, ticketing and check-in machines
  • smartphones
  • TV equipment related to digital television services
  • telephony services and related equipment
  • access to audio-visual media services such as television broadcast and related consumer equipment
  • services related to air, bus, rail and waterborne passenger transport
  • banking services
  • e-books
  • e-commerce

https://commission.europa.eu/strategy-and-policy/policies/justice-and-fundamental-rights/disability/european-accessibility-act-eaa_en#paragraph_50933

特にWeb・アプリを提供する企業にとって重要なのが e-commerce services です。

(g) E-Commerce services:

(i) providing the information concerning accessibility of the products and services being sold when this information is provided by the responsible economic operator;

(ii) ensuring the accessibility of the functionality for identification, security and payment when delivered as part of a service instead of a product by making it perceivable, operable, understandable and robust;

(iii) providing identification methods, electronic signatures, and payment services which are perceivable, operable, understandable and robust.

(30)

‘e-commerce services’ means services provided at a distance, through websites and mobile device-based services by electronic means and at the individual request of a consumer with a view to concluding a consumer contract;

ここでいう e-commerce は、いわゆるネット通販だけを意味するものではありません。EAAでは、Webサイトやモバイルサービスを通じて、消費者契約を締結することを目的として提供されるサービスを「e-commerce services」と定義しています。また、前文では「あらゆる商品またはサービスのオンライン販売」に適用されると説明されています。

そのため、物品を販売するECサイトに限らず、オンライン上で消費者契約が成立する仕組みであれば、サービスの予約やチケット販売、サブスクリプション、個人向けSaaSなどもe-commerce servicesに該当する可能性があります。

Web Accessibility Directive(Directive (EU) 2016/2102) ― 公共部門のWebサイト・モバイルアプリ

https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/web-accessibility-directive-standards-and-harmonisation

Web Accessibility Directive(WAD、Directive (EU) 2016/2102) は、EU加盟国の公共機関(public sector bodies)のWebサイトとモバイルアプリについて、アクセシビリティを確保することを求める指令です。

WAD Article 1 では、公共機関のWebサイトとモバイルアプリを対象とし、Article 4に定めるアクセシビリティ要件を満たすよう加盟国に求めています。
Article 4 では、そのアクセシビリティ要件として、Webサイトとモバイルアプリを知覚可能(perceivable)、操作可能(operable)、理解可能(understandable)、堅牢(robust)にするための必要な措置を講じることを求めています。

ここでWADが使用している用語は「Webアプリ」ではなく websites です。そのため、一般的な情報提供のためのWebサイトだけでなく、ブラウザ上で申請、検索、予約、各種手続きなどを行うWebアプリケーションも、それが公共機関のWebサイトとして提供されるものであれば対象に含まれると考えるのが適切です。アクセスに使用するデバイスの種類は問わないこともArticle 1(2)に明記されています。

また、ここでいう「公共機関」は、いわゆる政府機関や自治体だけではありません。Article 3(1)では、次のような組織を含むものとして定義されています。

  • 地域・地方自治体
  • 「公法上の機関(body governed by public law)」
  • これらの機関によって構成され、産業的・商業的性格を持たない一般利益のニーズを満たすことを目的として設立された団体

「公法上の機関」については 公共調達指令(Directive 2014/24/EU) の定義が参照されており、

  1. 産業的・商業的性格を持たない一般利益のために設立され
  2. 法人格を持ち
  3. 主として国や自治体などから資金提供を受けている、経営上の監督を受けている、または役員等の過半数を公的機関が任命している

といった条件を満たす組織が該当します。したがって、組織の名称や法人形態だけで「民間」「公共」と単純に区別できるものではありません。

モバイルアプリについてはさらに明確で、Article 3(2)で、公共機関自身またはそのために設計・開発され、一般公衆がスマートフォンやタブレットなどで利用するアプリケーションソフトウェアと定義されています。スマートフォンのOSやハードウェアそのものは、この定義には含まれません。

WADの適用除外について

一方で、WADにはいくつかの適用除外があります。

代表的なものとして、公共放送事業者のWebサイト・アプリや、公共に不可欠なサービスまたは障害者を特に対象としたサービスを提供していない一定のNGOは対象外です。また加盟国は、学校・幼稚園・保育施設のWebサイト・アプリについて、重要なオンライン行政機能を除いて適用対象外とすることができます。

コンテンツ単位でも、一定の古いOffice・PDFファイル、2020年9月23日より前に公開された録画済み音声・動画などが除外されています。もっとも、例えばナビゲーション用の地図では所在地などの重要な情報をアクセシブルなデジタル形式で提供することが求められるなど、除外にも条件があります。

さらに、これらの「適用除外」とは別に、Article 5には disproportionate burden(過度な負担) に関する例外があります。アクセシビリティ対応によって公共機関に過度な組織的・財政的負担が生じる場合には、個別の評価に基づいて一部の要求を満たさないことが認められることがあります。ただし、単に「優先度が低い」「時間がない」「知識がない」といった事情は正当な理由とはされていません。また、この例外を利用した場合には、アクセシビリティ・ステートメントで適合できない部分を説明し、必要に応じてアクセシブルな代替手段を提供する必要があります。

なお、WADの直接の義務主体は公共機関です。そのため、民間企業が自社のB2B SaaSをEUで販売しているというだけでWADの直接対象になるわけではありません。

しかし、公共機関のWebサイトやモバイルアプリを民間企業が受託開発する場合や、公共機関が民間企業のSaaSを利用して行政サービスを提供する場合には、発注者である公共機関がWADの要求を満たす必要があります。その結果、アクセシビリティが調達仕様や契約上の要件として民間の開発会社・SaaS事業者にも求められることがあります。

Employment Equality Directive(Directive 2000/78/EC) -- 雇用と合理的配慮

https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2000/78/oj/eng

Employment Equality Directive(Directive 2000/78/EC) は、雇用・職業における平等な待遇を実現するための一般的な枠組みを定めるEU指令です。宗教・信条、障害、年齢、性的指向を理由とする差別を対象としており、公共部門と民間部門の双方に適用されます。

この指令はEAAやWADとは異なり、Webサイトやモバイルアプリそのものに特定のアクセシビリティ基準への適合を求めるものではありません。しかし、Article 5で雇用主に対し、障害のある従業員への「reasonable accommodation(合理的配慮)」を求めている点が重要です。

ここでいう 合理的配慮 とは、障害のある人が雇用へのアクセス、就労、昇進、職業訓練などを行えるよう、個々の状況に応じて必要かつ適切な措置を講じることです。ただし、その措置が雇用主に過度な負担(disproportionate burden)を生じさせる場合は除かれます。

Webアプリ、モバイルアプリ開発との関係では、例えば、スクリーンリーダーを利用する従業員が社内の勤怠管理、経費精算、人事、研修などのWebシステムを操作できない場合が考えられます。Employment Equality Directiveがこうしたシステムに直接「WCAGに準拠すること」を要求しているわけではありませんが、障害のある従業員が他の従業員と同様に働けるようにするため、システムの改修や代替手段の提供などが合理的配慮として必要になる可能性があります。

また、この指令は採用や職業訓練にも適用されるため、従業員向けの社内システムだけでなく、オンライン採用プロセスや研修システムについても無関係とは言えません。

そのため、企業向けのB2B SaaSはEAAの直接の対象にならない場合でも、そのSaaSを利用するEU企業が雇用上の義務を果たすために、ベンダーにアクセシビリティ向上を求める可能性があります。つまり、EAAの適用対象外であることが、そのまま「アクセシビリティ向上が不要」ということにはなりません。

自社のWebサービス・アプリには、どの法制度が関係するのか

ここまで紹介したように、EUのアクセシビリティ法制は、すべてのWebサイトやアプリに一律に同じルールを適用するものではありません。
誰に提供するサービスなのか、何を提供するのか、誰が利用するのかによって、確認すべき法制度が変わります。
まずは、自社のサービスがどこに当てはまりそうかを判定する表を作成しました。

自社の製品・サービス/利用シーン EAA WAD 公共調達上のアクセシビリティ要件 Employment Equality Directive(雇用・合理的配慮)
消費者がWeb・アプリ上で商品やサービスを購入・契約する まず確認すべき 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない
消費者向けの銀行・交通・電子書籍・電子通信など、EAAが指定するサービスを提供する まず確認すべき 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない
EU加盟国の公共機関が提供するWebサイト・モバイルアプリ 条件により確認 まず確認すべき 条件により確認 条件により確認
EU加盟国の公共機関向けにWebシステム・SaaSを開発・販売する 条件により確認 間接的な影響を確認 まず確認すべき 条件により確認
一般企業のみを対象としたB2B SaaS 条件により確認 通常は主要な対象ではない 条件により確認 間接的な影響を確認
EU企業の従業員が利用する勤怠・経費精算・人事などのシステム 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない 条件により確認 まず確認すべき
採用応募・オンライン研修など、雇用や職業訓練に関係するシステム 通常は主要な対象ではない 通常は主要な対象ではない 条件により確認 まず確認すべき
B2BとB2Cの両方に提供するWebサービス・SaaS まず確認すべき 条件により確認 条件により確認 条件により確認

この表は、自社のWebサービスやアプリについて、最初にどの法制度を確認すべきかを整理するための目安です。実際の適用関係は、サービスの内容、利用者、契約形態、事業者の規模、提供先のEU加盟国における国内法などによって異なります。

この表を見ると、「B2CではないからEAAは関係ない=EUでアクセシビリティを考える必要はない」とは限らないことがわかります。

該当する企業は、Web・アプリ開発で何をする必要があるのか

ここまでの判定で自社のWebサービスやアプリに関係する法制度を確認し、自社が提供するサービスが該当することが分かったら、次は実際の開発でアクセシビリティを向上していく必要があります。

Webサイト・Webアプリであれば、まずWCAG 2.2のレベルAAを基本的な開発目標とし、設計・実装・テストに組み込むことをおすすめします。 モバイルアプリでは、前述のWCAG2ICTによる読み替えに加えて、iOSならApple、AndroidならGoogleが提供するアクセシビリティのガイドラインやテスト手段を利用します。

EUの法令への適合という観点では、さらにEN 301 549を確認します。EN 301 549はWebだけでなく、ソフトウェアやモバイルアプリ、ハードウェアなどを対象とするICTアクセシビリティの欧州規格です。

https://accessible-eu-centre.ec.europa.eu/content-corner/digital-library/en-3015492021-accessibility-requirements-ict-products-and-services_en

したがって実務上は

  1. WCAGをベースにアクセシブルに開発する
  2. EN 301 549で必要な追加要件を確認する
  3. 自動検査と実際の支援技術を使った手動テストを行う

という進め方が分かりやすいでしょう。

ただし、法的な意味で何を満たせば適合と推定されるかは、EAA、WAD、適用される国内法によって異なります。この点だけは、開発上の目標と法的な適合判断を分けて考える必要があります。

Web・iOS・Androidでは何を確認すればよいのか

ここまで、「何をする必要があるのか」について、煩雑さをさけるために抽象的な表現をしてきました。しかし、具体的な対応項目のイメージを持っていただくことも必要だと思いますので、ざっと全体像をつかんでいただく表を用意しました。

確認項目 Webサイト・Webアプリ iOSアプリ Androidアプリ
情報の構造・意味 見出し、ランドマーク、リスト、フォームなどを適切なHTMLで実装 UI要素のラベル、Role、Value、Stateなどを支援技術へ伝える Semantics、Role、State、ラベルなどを適切に提供
キーボード・代替操作 マウスなしで主要機能をすべて操作できること VoiceOver、Switch Controlなどでも操作可能にする TalkBack、Switch Accessなどでも操作可能にする
スクリーンリーダー NVDA、VoiceOverなどで読み上げ順・名前・状態・操作を確認 VoiceOverで実機確認 TalkBackで実機確認
フォーカス 見えるフォーカス、論理的な移動順、モーダル等のフォーカス管理 VoiceOver等のフォーカス順を確認 TalkBack等のフォーカス順を確認
文字サイズ・拡大 ズーム、文字拡大、リフローで情報や機能が失われない Dynamic Typeなどの文字サイズ設定に対応 システムのフォントサイズ・表示サイズ設定に対応
色・コントラスト WCAG等の基準を確認し、色だけで情報を伝えない コントラスト、色以外の手掛かりを確保 コントラスト、色以外の手掛かりを確保
フォーム・エラー ラベル、必須状態、入力エラー、修正方法を支援技術でも認識可能にする 入力項目・エラーをVoiceOverで理解可能にする 入力項目・エラーをTalkBackで理解可能にする
動画・音声 必要に応じ字幕、音声解説等を提供 OSのアクセシビリティ機能との連携も確認 OSのアクセシビリティ機能との連携も確認
動き・時間制限 動きを抑える設定、停止・延長手段などを検討 Reduce Motionなどの設定を尊重 Remove animations等のユーザー設定を考慮
認証・決済 CAPTCHA、本人確認、決済まで含めて操作可能か確認 SDKや外部決済画面も含めて確認 SDKや外部決済画面も含めて確認
テスト 自動検査+キーボード+スクリーンリーダー+手動評価 Accessibility Inspector+VoiceOver等 自動テスト+TalkBack等

Appleは ヒューマンインターフェイスガイドライン でVoiceOver、Dynamic Type、Switch Control、Reduce Motionなどを含むアクセシビリティ対応と、Accessibility Inspectorによる検査を推奨しています。Androidも、アプリのユーザー補助機能をテストする で自動テストだけでなくTalkBackを利用した手動テストやユーザーテストを推奨しています。

https://developer.apple.com/jp/design/human-interface-guidelines/accessibility/

https://developer.android.com/guide/topics/ui/accessibility/testing?hl=ja

「自社で開発した部分だけ」を確認すればよいわけではない

特に注意が必要なのが、認証、決済、予約、本人確認などに利用するサードパーティ製のコンポーネントやSDKです。

例えば自社で開発した画面がアクセシブルでも、決済画面がキーボードで操作できない、スクリーンリーダー利用者がCAPTCHAを突破できない、予約用のカレンダーがVoiceOverで操作できない、といった状態では、利用者は契約を完了できません。

EAAではe-commerce servicesについて、本人確認、セキュリティ、決済などの機能についても知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢であることを求めています。そのため、個々の画面ではなく、利用者がサービスを利用し終えるまでの一連のユーザーフローとして検証することが重要です。

開発プロセスとしては、自動アクセシビリティ検査だけで完了とせず、キーボードやスクリーンリーダーを使った手動テスト、必要に応じた障害のある利用者による評価を組み合わせる必要があります。また、アクセシビリティは一度対応すれば終わるものではありません。UIの変更やSDKの更新によって新しい問題が発生するため、リリース後も継続的に検証する仕組みが必要です。

対応しない場合にどんな法的リスクがあるのか

では、これらのアクセシビリティ要件に対応しなかった場合、企業には実際にどのようなリスクがあるのでしょうか。

注意したい点として、「EAA違反ならEU全域で一律○万ユーロの罰金」という仕組みではないことです。EAAはEU指令であり、具体的な執行方法や罰則は各加盟国の国内法によって定められています。そのため、企業はサービスを提供する国の国内法や監督当局も確認する必要があります。

EU加盟主要10か国におけるEAA国内実施法と主な罰則

2026年8月時点で、今回調査対象としたドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ポーランド、スウェーデン、フィンランド、ベルギー、チェコはいずれもEAAを国内制度へ実装し、2025年6月28日以降の適用・監督フェーズに入っています。ただ、一つの「EAA法」に集約した国と、銀行・通信・交通・消費者法など複数の既存法へ分散実装した国があるため、多国展開では国別のコンプライアンス台帳が必要になります。

2026年の状態・主要国内法 監督・国内ガイダンス 罰則 適用範囲・準拠基準の実務ポイント
ドイツ 施行済。 Barrierefreiheitsstärkungsgesetz(BFSG)とBFSGVが中心で、2025年6月28日から主要義務を適用 連邦アクセシビリティ機関がeコマース等のFAQを公開。Webサイト/モバイルアプリについてEN 301 549を参照した実務説明を提供している BFSG §37。主要違反は最大100,000ユーロ、その他の一定の違反は最大10,000ユーロ EAA対象をほぼ踏襲。eコマースではチェックアウトだけでなく消費者契約につながるサイト/アプリ全体を評価する前提が安全。連邦機関はW3C関連ツール、BITV Test、NVDA等もテスト手段として紹介している
フランス 施行済。 Loi n°2023-171 du 9 mars 2023、Décret n°2023-931 du 9 octobre 2023、同日のArrêté等により消費法典へEAA要求を実装。2025年6月28日適用。 DGCCRFが2025年6月から監督・検査を開始し、対象製品・サービスと国内規則を公式解説 Code de la consommationの違反について**第5級違警罪(contravention de 5e classe)**などが設定され、分野別法の制裁も関係する。 EAA指定製品・銀行・eコマース等。フランスのRGAAを知っていても、それだけをEAA適合証明とみなさず、EAA国内法と対象サービス要件を別に確認するの方が安全
イタリア 施行済。 Decreto Legislativo 27 maggio 2022, n.82がEAAを実装し、2025年6月28日から対象事業者に適用。 AgIDがデジタルサービスについて詳細なガイドラインを整備し、2026年にはD.Lgs.82/2022 §§21・24等に基づく監督・制裁手続の規則も採択。分野によりAgID、MIMIT、AGCOM、交通当局等が関与する。 D.Lgs.82/2022 Article 24等による行政制裁。監督当局・事業者類型によって制度が分かれるため単一の「EAA最大罰金」で管理しない方がよい。 AgIDは2026年に制裁権行使の具体的手続を整備した。 Web/モバイルを含むデジタルサービスについて、知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢、支援技術との相互運用等を詳細化
スペイン 施行済。 Ley 11/2023がDirective (EU) 2019/882を国内法化し、EAA要件を導入 各業種の所管当局が監督。EAA違反について既存の分野別制裁制度を優先する構造 分野別制裁がない場合、Real Decreto Legislativo 1/2013の障害者権利法制が補充的に適用され、違反区分に応じ301ユーロ~最大100万ユーロの範囲が設けられている EAA対象サービス/製品を基本的に踏襲。技術評価では欧州規格を利用しつつ、法的適合性はLey 11/2023の要求との対応で管理する
オランダ 施行済。 Implementatiewet toegankelijkheidsvoorschriften producten en dienstenを軸に、既存の消費者・金融・通信・交通等の法令へ分野別に実装。2025年6月28日から規則が効力を持つ RDI、ACM、AFM、Commissariaat voor de Media、ILT、Inspectie Justitie en Veiligheidなど複数の分野別監督機関 当局は警告や罰金を科すことができるが、上限は所管する分野別法制によって異なり、EAA共通の単一上限ではない。 Webショップ、通信契約サイト、オンライン銀行、融資・住宅ローン、動画アプリ、電子書籍などを政府が対象例として明示。サービスを提供するマイクロ企業についてもEU指令に沿った免除制度がある
ポーランド 施行済。 2024年4月26日の「一部の製品・サービスのアクセシビリティ要件適合確保法」、通称Polski Akt o Dostępności(PAD)。2025年6月28日に主要規定が施行 PFRONが制度の重要なハブとなり、eコマースはデジタル化担当当局、消費者銀行はFinancial Ombudsmanなど分野別監督。政府はeコマース向け専用ガイダンスも公開している 金銭的行政罰に加え、是正命令や、重大な場合にはサービス提供禁止が可能。罰則は違反内容と監督分野によって決まる eコマース、消費者銀行、ICT製品等。eコマースについて政府サイトが対象事業者、除外コンテンツ、監督制度を具体的に説明しているため、EU一般論だけでなくPADガイダンスを使うべき国
スウェーデン 施行済。 Lag (2023:254) om vissa produkters och tjänsters tillgänglighet、およびFörordning (2023:676)。2025年6月28日施行 PTS等の所管当局が監督。国内法に製品・サービス、移行、監督を明文化 制裁金は10,000~10,000,000 SEK。金額決定では違反の事情を考慮する 既存契約は最長2030年6月27日まで、サービス提供用既存製品は同時期まで、一定のセルフサービス端末には20年ルール
フィンランド 施行済。 EAA対応法令は2023年2月1日に発効し、2025年6月28日から適用。Act on the Provision of Digital Services 306/2019や電子通信法等に組み込まれている Traficomがデジタルサービス、通信、製品等を中心に監督。2025年からアクセシビリティ監督がTraficomへ集約された 非適合製品・サービスについて是正要求、命令、禁止、市場監視上の措置等が可能。単一のEAA罰金額ではなく、製品・通信・デジタルサービス等の国内法制で執行される TraficomはEN 301 549をICTの重要基準として説明し、EAA向け改訂がWCAG 2.2整合等を目指していることも明記している
ベルギー 施行済。 2025年6月28日からEAA国内制度を適用。連邦レベルでは銀行・eコマース等を含む分野別法制として実装されている FPS EconomyのEconomic Inspectionが特に消費者銀行・eコマースを監督し、企業向けガイドラインを公開。通信・メディア等では他当局も関係する FPS Economyによれば、重大な違反について行政制裁が**最大200,000ユーロまたは年間売上高の6%**に達する場合がある Webサイト、モバイルアプリ、セルフサービス/決済端末、識別・セキュリティシステム等について、支援技術との互換性、スクリーンリーダー対応、視覚情報の代替等を政府が実務例として示している
チェコ 施行済。 Zákon č. 424/2023 Sb., o požadavcích na přístupnost některých výrobků a služeb がEAAを実施し、2025年6月28日から主要要件を適用。2025年にも関連改正が行われている ICT・通信等ではČTÚなど所管当局が関与し、製品・サービス別の監督体系を採る 国内法は製造者、輸入者、流通事業者、サービス提供者等の違反に行政罰を設定しており、違反類型別に上限が異なる EAAが定める製品・サービス範囲を基本的に国内法へ移植。調和規格・技術仕様による適合推定制度を利用する構造

この表から分かる実務上の最大の特徴として、「EUで一度アクセシビリティ認証を取れば27カ国の罰則・執行まで完全に同じ」という制度ではないことがあると思います。EAAによってアクセシビリティ要件はEUレベルで調和されていますが、監督機関、行政手続、罰則などは加盟国ごとに異なります。そのため、複数国でサービスを提供する場合には、対象国ごとの国内実施法と監督制度を確認する必要があります。

そのため、多国向けSaaSやeコマースでは「EU EAA」という一行だけのコンプライアンス観点では不足します。最低でもサービス種別、提供国、法人、国内実施法、監督当局、適用除外、移行措置、技術基準、苦情窓口、証跡保管責任者を管理する方がよいと思われます。

EAA適用後には、ECサイト・アプリへの司法判断も出始めている

2026年6月、フランスのカーン司法裁判所は、Carrefour FranceのECサイトとモバイルアプリについて、アクセシビリティに関する国内法への適合を命じました。

EAA Digital Accessibility Compliance: What the Carrefour Ruling Teaches Every Business

https://www.barrierbreak.com/eaa-carrefour-penalty-france/

Carrefour Franceが公表していた自社サービスのアクセシビリティ評価は71.21%でしたが、裁判所はこれで十分とはせず、6か月以内に適合することを命じ、その後も適合しない場合には1日500ユーロの強制金を課すとしました。また、原告となった障害者関係団体に対し、暫定的に1万ユーロの損害賠償も認めています。なお、サイトとアプリ自体の提供停止を求める請求については、比例性を欠くとして認められませんでした。

この判断は最高裁判例ではなく仮処分手続きにおける第一審の判断ですが、EAAが適用開始後の「実際に執行される法律」であることを示す事例として注目できます。

行政当局による監視も始まっている

法的リスクは訴訟だけではありません。各国の監督当局による調査・是正要求も始まっています。

オランダの消費者・市場庁(The Netherlands Authority for Consumers and Markets; ACM)は2026年、国内最大規模のオンラインストアなど約100サイトを調査しました。その結果、61%のサイトで支援技術を利用して注文を完了できず、33%には重大な問題があったとしています。ACMは、改善が不十分な企業には執行措置を取る可能性があることも明らかにしています。

ACM: majority of large online stores are not accessible for customers with disabilities
https://www.acm.nl/en/publications/acm-majority-large-online-stores-are-not-accessible-customers-disabilities

フランスのDGCCRF(競争・消費・不正抑止総局)もEAA適用後に監視を開始しており、2025年4月から2026年3月に鉄道分野の38事業所を調査しました。2026年にはさらに、e-commerceのWebサイトとモバイルアプリを対象とする調査も開始しています。

Accessibilité : un an après l’entrée en vigueur de la directive européenne, bilan de l’action de la DGCCRF
https://www.economie.gouv.fr/dgccrf/actualites-dgccrf/accessibilite-un-apres-lentree-en-vigueur-de-la-directive-europeenne-bilan-de-laction-de-la-dgccrf

EAA以前からアクセシビリティ違反による制裁例はある

さらに、「アクセシビリティ違反による法的リスク」は、EAA以前からありました。

スペインでは、航空会社VuelingのWebサイトが障害者向けアクセシビリティ要件を満たしていなかったとして、行政当局から9万ユーロの制裁金と、6か月間公的助成の申請に参加できないという制裁を受けています。Vuelingはこれを争いましたが、2024年にAudiencia Nacional(全国管区裁判所)が制裁を維持しました。

La Audiencia Nacional confirma la multa de 90.000 euros a Vueling por incumplir en su web las condiciones de accesibilidad para personas con discapacidad

https://www.poderjudicial.es/cgpj/es/Poder-Judicial/Noticias-Judiciales/La-Audiencia-Nacional-confirma-la-multa-de-90-000-euros-a-Vueling-por-incumplir-en-su-web-las-condiciones-de-accesibilidad-para-personas-con-discapacidad

この事例の根拠法はEAAではなく、スペインの既存の障害者権利法です。つまり、EUでアクセシビリティに関する法的リスクを検討する際には、EAAだけでなく各国固有の法制度も確認する必要があります。

「罰金」だけがリスクではない

以上の事例からも分かるように、企業にとってのリスクは「罰金を科されるかどうか」だけではありません。

裁判所による改修命令や継続的な強制金、行政当局による調査・是正要求、損害賠償、公共調達への影響などが生じる可能性があります。また、自社が法律の直接の義務主体ではないB2Bサービスであっても、顧客企業のコンプライアンス要件としてアクセシビリティ対応を要求されることがあります。

そのためEU向けにWebサービスやスマートフォンアプリを提供する企業では、アクセシビリティを問題が発覚してから改修するものではなく、セキュリティやプライバシーと同様に、設計・開発段階から考慮する品質・コンプライアンス要件の一つとして扱うことが重要です。

この記事をシェアする

関連記事