
民間ロケット開発を支えるGrafana活用事例 #GrafanaMeetupJapan
「Grafanaと宇宙、相性抜群なのでは?」
2026年9月7日、Grafana Meetup Japan #10「ロケット技術の基礎に存在するGrafana」を開催しました。
会場を提供いただいたフューチャーアーキテクトさんのオフィスで、登壇者お二人のお話をじっくり聞いてきました。
セッション冒頭、登壇者の豊田さん談「Grafana Meetup Japanって、1回目が宇宙、5回目が宇宙、そして10回目の今回も宇宙なんです。だいたい30パーセントが宇宙関連なんですよ」と。確かに宇宙多いな!
このブログでは、メインセッションのインターステラテクノロジズ(IST)さんによる「ロケット活用におけるGrafana活用」の内容をまとめています。会社紹介パートは撮影OKだったものの、それ以降の技術パートは撮影NGとのことだったので、以下は当日聞いた内容をテキストでまとめています。
インターステラテクノロジズ様登壇内容概要

「民間ロケット開発を支えるGrafana」
インターステラテクノロジズは、観測ロケットMOMOで民間単独として国内初の宇宙空間到達を達成した、民間宇宙輸送のリーディング企業です。現在は、小型人工衛星専用の宇宙輸送サービスを提供するロケットZEROを開発しています。
ロケット開発の現場では、エンジン燃焼試験も打上げも一発勝負であり、やり直しが利きません。その一瞬を捉えるために、私たちはGrafanaを活用しています。本セッションでは、ロケット発射場の地上設備と、ロケットに搭載される電子機器(アビオニクス)という、性質の大きく異なる2つの領域におけるGrafanaの活用事例をご紹介します。
前半はエンジン試験設備と打上げ設備の開発において、PLCから収集できるデータを集約・可視化している構成と、その先に見据える「可視化にとどまらない設備活用」の構想について解説します。後半はアビオニクスの側面から、エンジン燃焼試験におけるテレメトリのリアルタイム可視化など、実運用の知見をお話しします。
監視する対象がサーバーやサービスではなく、圧力・温度・振動といった物理現象である場合、Grafanaはどのように使われるのか。クラウドやKubernetesとは異なる領域でのユースケースをお届けします。
登壇者
大村怜 氏

インターステラテクノロジズ株式会社 開発部 地上設備グループ 電気系設計主任
2020年、インターステラテクノロジズ株式会社に新卒入社。ロケット搭載電子機器の開発・製造に従事したのち、事業開発部での兼務を経て、現在は設備部門にてプラント装置制御やネットワークを担当。学生時代は人力飛行機の製作やバンド活動に打ち込む。
豊田哲也 氏

インターステラテクノロジズ株式会社 開発部 無線管制グループリーダー
2024年インターステラテクノロジズ(株)入社。管制システムおよび無線通信機器・設備の開発・運用取りまとめを担当。前職は(株)はてな、(株)アストロアーツ。ウェブサービス、天文ソフトウェア、プラネタリウムの開発・運用等を経験している。
pt.1 インターステラテクノロジズ会社概要「社会に使われる宇宙のインフラを提供する」
ISTは登壇した2026年9月時点でメンバー数360名を超え、北海道大樹町の本社のほか、東京都、福島県、北海道帯広市に支社を持ち、複数拠点で開発を進めている企業です。これまでに観測ロケットMOMOでは、計7回打上げを行い、3回宇宙に到達。民間企業単独として国内で初めて宇宙空間に到達したという実績を持っています。
そんなISTが現在開発しているのが、小型人工衛星向けの打ち上げロケット「ZERO」です。目指すのは、国際競争力を有する宇宙輸送サービス。一段目にエンジン9基をクラスタ化し、全長32メートル、直径2.3メートル(小学校のプールより長い、というたとえが分かりやすかったです)というサイズのロケットを、自社で開発しています。燃料には世界的なトレンドである液化メタンを採用しているとのことでした。
印象的だったのは、「自分たちはロケットを作ることが目的ではなく、輸送業をやっている」という説明です。ヤマト運輸のような物流業と同じで、ただしトラックにあたる部分(ロケット)を自分たちで作っている、というたとえでした。
エンジンや推進剤タンクなど主要なコンポーネントに加え、エンジン燃焼試験棟などの試験設備まで自社で構築するのは、開発サイクルを高速化するための選択とのことです。ちなみにZERO打上げに向けて、北海道スペースポートで新たに整備されているロケット発射場Launch Complex 1(LC1)は、JAXAの種子島宇宙センターに次ぐ国内2例目の液体ロケット発射場とのことでした。
pt.2 エンジン試験設備での Grafana 活用「エンジン試験設備を、遠隔から見える化する」
続いて大村さんから、エンジン試験設備でのGrafana活用について。
ISTのエンジン燃焼試験は、試験スタンドから8キロ離れた試験指令所から、光ファイバー経由で遠隔操作しています。液体酸素や液化メタンを扱う極低温・高圧のオペレーションで、週に1〜2回のペースで実施しているそうです。
課題になっていたのが、試験データそのものは専用の計測システムで取得できていた一方、設備の保守用データが取れていなかったこと。設備の状態把握は現地に行かないと分からず、大樹町は冬に雪で現場に入れなくなることもあるという地理的な事情も重なり、遠隔監視の整備が急務だったといいます。
そこで構築したのが、PLCのデータをOPC UA経由でTelegrafが収集し、InfluxDBに保存、Grafanaで可視化するという構成です。合わせて、Node-REDを使ってSlackへリアルタイムに警報を通知する仕組みも用意しました。「取れるデータは全部取っておいて、使い方は後から考える」 という方針で、PLC内のデータをまるごと格納しているとのことです。
この仕組みのおかげで、設備故障からの復旧時間(MTTR)を大きく短縮できたそうです。Slackの通知で異常に気づき、Grafanaで時系列データを確認して原因をある程度絞り込んでから現場に向かう、という流れが確立できたと話していました。専用ソフトが不要でブラウザだけで動く手軽さや、1つの画面で多角的な情報を見られる点も、Grafanaを選んだ理由として挙げられていました。
pt.3 ロケット開発現場での Grafana 活用「リアルタイム性を追求した活用事例」
後半は豊田さんから、ロケット開発現場側の話です。
まず面白かったのが自己紹介です。前職ははてな、そしてアストロアーツで天文シミュレーションソフトやプラネタリウムのソフトウェア開発に携わり、2024年にISTへ。現在は無線管制グループで、地上局(パラボラアンテナ設備)や、機体と地上をつなぐ管制システムの開発を担当しています。
ロケット開発の現場は、一般的な製造現場と似ている部分もありつつ、独特な難しさがあるといいます。試験や打ち上げには地域住民の協力が欠かせず、超高温と超低温、高圧力が同居する危険な環境を監視しなければなりません。しかも試験は簡単にやり直せないため、1回の試験からできるだけ多くのデータを得たい、というのが根本的な要求でした。
管制システムの中身は、Docker、Kubernetes、Goで書かれたバックエンド、Reactで作られたフロントエンドという、Web業界であれば馴染み深い構成です。豊田さんは 「宇宙業界の特殊な現場であっても、Web技術がそのまま使える部分がある」 ことを話されていました。
Grafanaを選んだ理由として語られていたのは、現場のエンジニアが自分でグラフを作れる点です。「このデータをグラフ化してほしい」という都度の依頼を減らせて、その場でリアルタイムに可視化できるのが利点だと話していました。社内利用率もおよそ30パーセントに上るとのことで、実績の豊富さも安心材料になっているそうです。
なかでも興味深かったのが、Grafana Liveの活用です。WebSocketでサーバーからブラウザへリアルタイムにデータを流す機能で、通常のポーリング(デフォルトで数秒間隔)ではエンジン試験のようなシビアなタイミングには間に合わないため採用したとのこと。クエリという概念がなくデータがそのままブラウザに届くため、負荷が低いというメリットも紹介されていました。
ただしGrafana Liveは仕組み上、バッファに収まる分(数千点程度)しかデータを保持できず、古いデータは消えていきます。そこでISTでは、Grafana Liveのリアルタイムストリームと、InfluxDBに保存した過去データを組み合わせて表示する「バックフィルデータソース」というプラグインを自作したそうです。Grafana標準機能には、リアルタイムストリームとデータベースクエリを混在させる仕組みがなく、必要に迫られて自作した、という裏話も語られていました。
質疑応答
各パートの終わりには質疑応答の時間があり、現場ならではの質問と回答が飛び交っていました。印象に残ったものをQ&A形式でまとめます。
エンジン試験設備パートへの質問(大村さん)
Q. センサーの数やデータの取得頻度はどれくらいですか?
データによってまちまちで、振動や加速度のデータは秒間数千(キロヘルツ級)で取得しているものもあります。高速系と低速系に分けていて、圧力や温度など変化がゆるやかなものは30ヘルツや100ヘルツ程度で取得するなど、対象に応じて使い分けているとのことでした。
Q. 学校のプールよりも大きいということですが、ロケットの中では小型なのでしょうか?
宇宙業界ではどうしても小型の部類になってしまいます、とのことでした。人工衛星でも、GPSや気象衛星クラスになるともっと大きなロケットが必要になります。ZEROは、小型の衛星を専用ロケットで高頻度に打ち上げる、というコンセプトです。
ロケット開発現場パートへの質問(豊田さん)
Q. 地上局(事業局)の開発と、管制システムでやっていることは結構違いますか?
実は管制システムの内側に地上局のシステムが含まれています。エンジン試験で紹介した画面と同じ画面の中で、地上局からのデータも合わせて見ることができます。今はそれぞれ別々に開発していますが、将来運用するときに「地上局が動いていないのにロケットを打ち上げた」という状況はあり得ませんし、その逆もあり得ません。両方を1つのシステムで一緒に見られるようにすることを意識して設計している、とのことでした。
Q. 地上での試験(有線)と、飛行中のテレメトリによる管制(無線)とでは違いがありますか?
地上の試験は有線ですべて繋がっているため、データのレートが非常に高く、先ほどの秒間千ヘルツのようなデータがそのままネットワークに流れていくそうです。一方、まだ実運用(打ち上げ)はしていないため確定的ではないものの、飛行中は電波の帯域がそれほど太くないため、地上のネットワーク通信とは比較にならないほど小さいデータレートでダウンロードすることになるとのこと。やっていること自体は同じでも、見えるデータの量はかなり厳選する必要がある、という説明でした。
Q. 利用しているデータベースは何ですか?
時系列データにはInfluxDBを使っているとのことです。データを保存・アーカイブしていく方法としてはNoSQLなども併用しており、いくつかの手段を組み合わせて使っているのが実情、と話していました。
Q. ロケット内部の限られたスペースに機器をどう組み込んでいますか。スケーリングできるように工夫していますか?
ロケットの中には、一般的なコンピューターはほぼ積んでいないそうです。非常に過酷な環境かつミスが許されない世界のため、汎用的なコンピューターは使えず、回路の中でできることをやる形で、実際にはFPGAなどに実装しているとのこと。そのため、スケーリングという考え方自体があまりない、という回答でした。
Q. 異常検知時の自動対応(オートメーション)は進んでいますか?
今のところはない、とのことでした。まだ開発段階のため、アラートは基本的に人間が目で見て判断しています。例えば地上局のシステムでは、風速が一定値(20メートル程度)を超えるとアラートが発令されますが、それを見た人間が判断して対応する運用とのこと。将来的には自動化の余地があるかもしれないが、現時点ではない、という回答でした。
Q. Grafana Liveでデータが流れて消えていくとのことでしたが、残っている古いデータは平均化されているのですか?
InfluxDBに通常のクエリを投げてデータを取り出すと、データベース側がデータの間隔を整えて返してくれるため、それをそのまま表示している分、データ自体は間引きされた状態になっている、という説明でした。
Q. 制御機器(PLCのようなもの)はロケットに積むのでしょうか?
積まない、とのことでした。ロケット内の電子機器はすべて「アビオニクス」と呼ばれる自社開発の機器です。既製品のPLCだと、通信仕様や耐振動性能、温度性能がロケットの要求性能とは比べ物にならないほど違うため、専用品を自社で開発・設計しているとのこと。地上設備側には、自社開発のPLC相当品を組み込んでいるという説明でした。
Q. できるだけ多くのデータを取るとのお話でしたが、データ取得自体の負荷(ハードディスク容量やネットワーク負荷)はどのように検討していますか?
設備側だけで言うと、10年以上運用してもテラバイト単位には達しないくらいのデータ量とのことでした。どんなデータが降りてくるかはあらかじめ設計段階でおおよそ決まるため、データ量は把握できるそうです。それを実際にテレメトリーパケットに変換して流し、現実のデータで負荷が足りるかを確認した上で動作させる設計にしている、と話していました。
まとめ「ロケット開発の現場を身近に感じられるセッション」
会社紹介、エンジン試験設備、ロケット開発現場と3部構成で語られた今回のセッションでは、「宇宙開発」という特殊な現場であっても、可視化の課題や解決の道筋に、Grafanaが非常に相性よく活用されている、という点が印象的でした。
特に、Grafana Liveと独自データソースを組み合わせてリアルタイム性と過去データ参照を両立させる工夫は、シビアなタイミングが求められる現場ならではの実装だと感じています。取れるデータはまず全部取る、現場のエンジニアが自分でダッシュボードを作れるようにする、といった考え方は、業種を問わず参考になる部分が多いのではないでしょうか。
ロケットが打ち上がる様子を想像しながらみるリアルタイムダッシュボード、めっちゃ面白かったです。なかなかああいうデータを業務システムで見ること無いので、我を忘れて楽しめた時間でした。改めて、大村さん、豊田さん、貴重なお話をありがとうございました。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。






