
【BECKOFFブース訪問】ドイツの産業用制御機器メーカーで感じた確実な実用性と未来 #HM26
概要
こんにちは、クラスメソッド製造ビジネステクノロジー部の田中聖也です。
HANNOVER MESSE 2026でドイツの産業用制御機器メーカー「Beckhoff(ベッコフ)」のブースを訪問してきました。
日本ではあまり知名度が高くないかもしれませんが、実は三菱電機・オムロン・キーエンス・パナソニック・安川電機など日本の主要メーカーが採用している産業用ネットワーク規格を生み出した会社でもあります。
製造業×IT×AIが交差するめっちゃ濃い内容だったのでレポートします。
この記事では以下の内容に触れます。
- Beckhoffとはどんな会社か
- TwinCAT
- ビジョンシステム:PLC統合型の画像検査
- AIによる外観検査・MLモデル生成
- AIコード生成・HMI生成とIEC 61131標準
- 次世代:TwinCAT PLC++とTwinCAT CoAgent
- MCPサーバーを使ったTwinCAT Copilot(for Engineering / for Operations)
- Bluetooth対応の新型I/O
- XPlanar
Beckhoffとはどんな会社か
Beckhoff Automation(ベッコフ オートメーション) は、ドイツのFehrl(フェアル)に本社を置くFA(ファクトリーオートメーション)専業の産業用制御機器メーカーです。ハノーバーから車で約1時間半のところにあります。Siemensのようにコンシューマー向け製品は出しておらず、FAに特化している点が特徴です。1980年の創業以来、「オープンなオートメーションシステム」を一貫して追求しており、1996年にTwinCATの初期バージョンをリリースすることでPCベース制御技術の世界標準を確立しました。
- 全世界従業員:約5,000名
- 海外拠点:40カ国
- 日本法人:2011年から営業、現在約40名体制
日本では自動車・半導体関連のお客さんが多く、エンターテイメント施設のアトラクション制御など、ユニークな用途でも使われているとのことです。
今回のハノーバーメッセメインとなるホール27に出展しており、ブース面積は約1,500平米に拡大。
会場内でも最大級のブースの1つです。
4つの製品カテゴリとコアテクノロジー
Beckhoffの製品は大きく4つのカテゴリに分かれます。
| カテゴリ | 概要 |
|---|---|
| IPC(産業用コントローラ) | Windowsをリアルタイム化したPC制御アーキテクチャ |
| TwinCAT(ソフトウェア) | IPCにインストールするリアルタイム制御OS・開発環境 |
| モーション製品 | ロボット・モーター・ドライバなどアクチュエータ系 |
| I/O製品 | センサ接続用のI/Oターミナル類 |
その中でも個人的に面白かった以下4つを解説します。
- TwinCAT
- ビジョンシステム
- Bluetooth対応の新型I/O
- XPlanar
TwinCAT
TwinCAT(ツインキャット) は「The Windows Control and Automation Technology」の略で、汎用PCをリアルタイム制御システムへと変貌させるソフトウェアです。もともと「WinCAT」と名乗ろうとしたところ、Microsoftから商標上の問題を「優しく諭されて」、「T(The)」を付けてTwinCATになったという経緯があるそうです(笑)
TwinCATの最大の特長は、単一の産業用PC(IPC)上で、複数のPLC・NC・CNC・ロボティクスといった機能を同時に動かせる点です。従来は機能ごとに別々のハードウェアが必要でしたが、TwinCATはこれらすべてをソフトウェアモジュールとして統合します。
ビジョンシステム:PLC統合型の画像検査
ビジョン(画像検査)システムの展示コーナーで詳しく説明を受けました。外観検査などに使うビジョンシステムはどのメーカーも力を入れている領域ですが、Beckhoffならではの強みがしっかりあって面白かったです。
PLCと直接統合されているのが最大の強み
一般的なビジョンシステムはPLCとは別々のシステムとして動いており、撮影タイミングとマシン動作の時刻同期に大変な苦労が伴います。Beckhoffのビジョンシステム(TwinCAT Vision)はPLC内に直接統合されており、制御とビジョンが同一の時刻基準で動くのが最大の特徴です。
例えばラインを流れるワークを高速で撮影する場合、シャッター速度を合わせるのが難しいのですが、制御とビジョンが同じタイムベースで動いているのでこの同期が格段にやりやすくなります。また付属のスコープ(TwinCAT Measurement機能)上でマシンの各値とカメラ画像を同一タイムライン上で確認できるため、「あの瞬間の画像と機械の状態」をそのまま突き合わせられます。構成の約90%はソフトウェアで制御されており、ハードウェアは最小限に抑えられています。

サードパーティカメラにも対応
カメラの接続にはGigE Vision規格(Gigabit Ethernet上のビジョン規格)を採用しており、BeckhoffのカメラだけでなくGigE Vision対応のサードパーティカメラも接続できます。レンズはCマウント規格を採用しているため、Beckhoffのレンズを他社カメラに使ったり、逆に他社レンズをBeckhoffカメラで使うこともできます。
Beckhoff純正カメラの内部イメージセンサーはSony製CCDを採用しており、産業要件に合わせてネジの強化・防塵チューブの追加などの改良が施されています。「カメラ+レンズ+ライティングが1ユニットになったオールインワンモデル」も用意されており、取り付けスペースが限られる現場でも使いやすい設計になっていました。
製薬・食品など品質検査用途に強い
デモとして高速で回転するワークをカメラで撮影しながら制御するデモが動いていましたが、「すごい速さでパシャパシャ撮影しているのにブレがない」という印象でした。製薬のパッケージ検査など、ものすごい速さで流れてくるものを高速撮影しながら全数検査するような用途にも使われているとのことです。

AIを使った外観検査・MLモデル生成
「Machine Learning Creator」と呼ばれる機能を使うと、AIによる外観検査モデルをコーディングなしで作成できます。
従来の外観検査では、NG/OKを判定するアルゴリズムをエンジニアが自分で考えて実装する必要がありました。Machine Learning Creatorを使うと、その工程をAIが担ってくれるようになります。既に中国・アメリカ・ヨーロッパで実際の生産ラインへの導入実績があるとのことでした。
スタッフの方と「日本ではAIの導入が実証実験止まりのことが多い」という話をしたところ、欧米では量産ラインへの組み込みが確実に進んでいるという話があって、正直なところギャップを感じました。一方で「まず実証実験をやってみて経験を積むこと自体は大事で、その積み重ねが次のステップにつながる」とも話してくれて、なるほどと思いました。
また生成したMLモデルのコードはPLCopen形式で出力されるため、そのままTwinCATにインポートして使えます。ビジョン処理の結果をそのままPLCロジックに組み込めるのは、統合環境ならではの強みですね。
Githubにオープンに公開されているようです

AIコード生成・HMI生成とIEC 61131標準
PLCオープン標準(IEC 61131-3)へのこだわり
BeckhoffはIEC 61131-3というPLCプログラミングの国際標準規格に準拠しています。国内のFA現場でよく使われるラダー図も一応使えますが、デフォルトでは非表示になっており、Beckhoffとしては標準準拠のプログラミング言語を推奨しています。
このIEC準拠のコードはXMLベースの「PLCopen」形式で記述されており、インポート・エクスポートが可能です。IEC 61131-3ではラダープログラムなどを含む複数のプログラミング言語が定義されており、その第3部(Part 3)がPLCコーディングを規定しています。「特定ベンダーの環境に縛られず、標準に乗ることにこだわっている」という姿勢はFA業界では珍しく、Beckhoffの設計思想がよく表れているポイントだと感じました。
AIによるPLCコード自動生成
TwinCATではAIを使ったPLCコードの自動生成が既に実装されています。Machine Learning Creatorが自動的にPLCopen形式のXMLコードを生成してくれます。AIが生成したコードをそのままTwinCATにインポートして使えるため、ゼロからコーディングするコストが大幅に減ります。また、C++やSimulinkで書いたロジックもTwinCAT上で動かせるため、AI生成コード・既存資産・手書きコードを自由に組み合わせることができます。
AIによるHMI自動生成
コードだけでなく、HMI(Human Machine Interface)の自動生成も実装されています。
従来のHMI開発フローは「エンジニアが要件を伝える → 1〜2週間後にドラフトが上がってくる → 「これじゃないな」というやり取りが続く」というものでした。TwinCAT HMIはHTML5/JS/TypeScriptベースでプラットフォーム非依存ですが、それに加えてスケッチ画像とプロンプトをAIに渡すとミーティング中にその場でHMIが生成されるようになります。参加者全員がその場で確認・修正できるため、合意形成までの時間が劇的に短くなります。
このあたりのAI活用を「業界の先駆者として一番最初にやりたい」とスタッフの方がおっしゃっていたのが印象的でした。
次世代:TwinCAT PLC++とTwinCAT CoAgent
ブース訪問では最新のロードマップについても触れられていました。TwinCATは現在も急速な進化を続けており、次世代の2つの技術が特に気になりました。
TwinCAT CoAgent:自然言語でエンジニアリング
TwinCAT CoAgent(旧TwinCAT Chat)は、LLM技術をTwinCATのプロジェクト環境に直接組み込んだプログラミングアシスタントです。自然言語のプロンプトを受け取り、以下のようなタスクを自動実行します。
- 制御コードの生成・最適化・リファクタリング
- 複雑なロジックへのドキュメント・コメント自動生成
- HMIコントロールの設計・構成支援
- I/Oトポロジーの自動構築(ターミナル名変更・新規I/Oモジュールの構成など)
これらはDay3のブースで見たMCPサーバーによるTwinCAT Copilotの機能とも深く連動しており、「AIがエンジニアリング作業を支援する」方向への本気度を感じました。
MCPサーバーを使ったTwinCAT Copilot
Day1のブース訪問時点でも「MCPが入ってる!」と驚かされましたが、Day3でその詳細が説明されました。Beckhoffが提供するAIソリューションは「TwinCAT Copilot」という名称で、エージェント技術を軸にしています。

何がすごいかというと日本語等の自然言語から具体的な作業を実現できることなんです!
2つのターゲット
| ターゲット | 目的 |
|---|---|
| Copilot for Engineering | 開発者向け:短時間・複雑なプログラム生成、素人でもすぐ習得できる支援 |
| Copilot for Operations | オペレーター向け:現場のトラブルシュート・保全支援 |
MCPサーバーによる3層構成
システム構成は以下の3層になっています。
- UI / エンジニアリング環境層:ユーザーとのインターフェース
- MCPサーバー層(Beckhoff純正):今後順次リリース予定
- PLC関数のサンプルプログラム生成ツール
- I/Oスキャン・自動構成ツール
- ナレッジサーバー(メンテナンスマニュアル・不具合DB)
- LLM層:クラウド(AnthropicやOpenAIなど)・ローカルどちらも対応、LLMの選定はユーザーに委ねる
BeckhoffとしてLLM自体は提供しないというスタンスで、MCPゲートウェイを通じてどのLLMとも組み合わせられる設計です。「ローカルLLMも使えるし、クラウドLLMも使えるし、そこはもう好きなものをどうぞ」という姿勢は、製造業のセキュリティ・セーフティ要件を意識した非常に現実的なアプローチだと感じました。
新型I/O:Bluetooth対応でその場即診断
最後に紹介されたのが、Bluetooth対応の新型I/Oターミナルです。地味なんですが、個人的に一番刺さった製品でした。
できること
- スマホアプリをダウンロードし、Bluetooth経由でI/Oと通信(インターネット不要・Wi-Fi不要)
- 同一EtherCATネットワークに繋がっているI/O全局の状態をリアルタイム確認
- アナログ入出力の波形モニタリング
- 閾値アラートやメール通知の設定
- 配線はワンプッシュ型で、工具不要
なぜうれしいか
従来、現場でI/Oのトラブルシュートをするには、ラップトップを持参してベンダーツールをインストールし、Wi-Fiのセキュリティ設定を突破して……という手順が必要でした。これがアプリ1つで、その場でどのI/Oが何の値を出力しているかを波形で確認できるようになります。
「保全の方が赤いLEDが点いていて困っている状態」のトラブルシュートを、より多くの人が素早くできるようになる。製造現場の実態を踏まえた、地に足のついたソリューションだなと感じました。実際に参加者の中に設備保全担当の方がいて、「ラダーを持ってきてどこが反応しているか全部見るという作業を今まで全くそのままやっていた。これがあれば本当に楽になる」とおっしゃっていたのが印象的でした。
現時点ではモニタリングのみで書き込みには未対応ですが、日本でも近日中に発売予定とのことです。川野代表が「必ず日本からのお客さんには案内するようにしている」とおっしゃっていたくらい推しの製品です。
私も設備保全を経験していて何度もPLCとPCをつないでラダーを確認して、どのセンサーが反応しているのかを確認するという作業をしていました。これがあれば、事務所からわざわざPCを持ってくる手間が省けそうですね。
魔法の絨毯
正式名称は XPlanar です。
「魔法の絨毯」と解説されていて、本当にピッタリな言葉だなと私も思っています。

ざっくり説明
簡単にいうと磁力でプレートを浮かして動かしている製品のようです。
- 平面上をムーバー(可動子)が非接触・浮いた状態で自由に動き回る搬送システム
- タイルを並べて使用し、タイルの数を増やすことで搭載重量を増やせる(大きいもので1枚あたり4〜5kg、複数枚の同期制御で10kg・20kgも可能)
- 斜面や曲面での動作も対応
- ガラスやステンレスの隔壁を乗せることで真空中・クリーンルーム・衛生規格対応にもできる
- 製薬・食品・化粧品・自動車・半導体など幅広い業種で注目されている
まとめ
Beckhoffのブースを訪問してみました。
TwinCATは1996年から30年近くかけて磨き上げられてきた「ソフトウェア定義型のオートメーションOS」とも言えるプラットフォームで、PCベース制御・Visual Studio統合・EtherCAT・ビジョン統合・AI/MCPまで、IT×OTの融合を設計思想の根本から追求し続けているのが印象的でした。EtherCATという形で既に日本の製造業に深く入り込みながら、次世代のPLC++・CoAgent・MCPまで一気通貫でカバーしようとしている姿勢は、製造業×クラウドを推進するクラスメソッドとしても非常に参考になる視察でした。










