
【Center Stage】「なぜ今、誰もがヒューマノイドロボットを語るのか?」DLR×Siemensのキーノートを聞いてきた #HM26
概要
こんにちは、クラスメソッド製造ビジネステクノロジー部の田中聖也です。
HANNOVER MESSE 2026のCenter Stageで、「Why is everyone talking about humanoid robotics?(なぜ今、誰もがヒューマノイドロボットを語るのか?)」というキーノートを聞いてきました!
Day3はロボット系の基調講演が多くて個人的にも非常に楽しみなセッションでもありました。
- 2025年にメディア露出が715%増えたヒューマノイドロボティクスの数字の裏側
- 「我々はマラソンの最初の5km地点にいる」という現在地の捉え方
- RFM(ロボット基盤モデル)が抱える4つの課題
- ヒューマノイドが活躍する領域の時間軸予測
セッション基本情報
- イベント名: HANNOVER MESSE 2026 / Center Stage(Hall 25, Convention Center)
- タイトル: Why is everyone talking about humanoid robotics?
- 日時: 2026年4月22日(水) 14:05–14:35
- 形式: Keynote(30分)
- 登壇者:
- Prof. Karsten Lemmer氏(DLR ドイツ航空宇宙センター 理事)
- Prof. Alin Albu-Schäffer氏(DLR ロボティクス・メカトロニクス研究所長)
- Siemens Research & Development担当の方
- 言語: ドイツ語 / 英語(同時通訳あり)
Day3午後のCenter Stageは「HUMANOID ROBOTS — The Future of Industrial Production」というブロックでヒューマノイドロボットの一連のセッションが組まれており、今回のキーノートはその先頭を飾るセッションでした。DLRというドイツの研究機関と、Siemensという産業界の代表が同じ舞台で「現在地」を語るという贅沢な構成だと感じました。
「2025年、ヒューマノイドの話題性が715%増えた」——でも本当に重要なのか?
ここで一気に話が定量分析モードに切り替わります。Lemmer教授が示したのは、ヒューマノイドロボットを巡る2025年のメディア露出が715%増加したという数字でした。
ただ、教授はここで踏みとどまります。「報道されているからといって、それが必ずしも重要なテーマであるとは限らない」という冷静な視点で、特許出願データを引用していました。ヒューマノイドロボット分野の特許出願は2022年まで微減傾向だったが、2023年以降は明確に増加トレンドに入っていて、これはTRL(Technology Readiness Level、技術成熟度)が一段上がってきていることを示しているという話でした。
メディアのハイプ(過熱した話題性)だけでなく、実際の技術成熟度も上がっている、というのが「なぜ今みんな語っているのか」の答えの一つだと感じました。
なぜ今、ヒューマノイドが必要なのか?——ヨーロッパの人口動態
Albu-Schäffer教授のパートで一番刺さったのは、人口動態の話でした。
ヨーロッパでは今後5年で1000万人、10年で2000万人の労働力が減少する見込みで、その半分が手作業を伴う職種だとすると、それだけで1000万台規模のロボット市場が存在することになる、という試算です。
現在の市場シェアもグラフで示されていて、↓のような構成でした。
- アジア太平洋地域: 42.6%(2025年時点)(うち大部分が中国)
- 米国: 2025年だけで28億ドルのベンチャーキャピタル投資
- ヒューマノイドロボティクスのトップ500組織は、米国118社、中国67社、ドイツ42社(SiemensとDLRを含む)、欧州全体で100社超

中国は2026年に5か年計画でロボティクスとAIを国家優先技術に位置づけており、米国は経済界が主導してリスクマネーを投下している。一方でドイツ・ヨーロッパも数だけ見れば全然戦えるポジションにある、というのが教授の主張で、確かに数字で見るとなるほどと感じました。
「我々はマラソンの最初の5km地点にいる」
ここで個人的に一番グッときたフレーズが出ました。
Albu-Schäffer教授は「ヒューマノイドロボティクスはマラソンの最初の5km地点にいる」と表現していました。教授自身が1995年に博士論文を始めてコボット(人と協働する産業用ロボット)の研究をスタートし、最初のプロトタイプから実用的なロボット製品が生まれるまで15年かかった。自動運転も同じく10〜15年スパンの話。
つまりヒューマノイドロボットの今のブームは、ようやくスタート地点を出たところであって、ゴールではない。ただ、最近の機械学習の進化でシミュレーション上で1万台のロボットを同時に学習させることができるようになり、AIが物体認識やグリッピング動作の生成までできるようになった、というのが追い風になっているという話でした。
ハイプの数字(715%)と地に足のついた現在地(5km地点)を同じステージで語ってくれるあたりが、現実感があって個人的には好きな表現でした。
Siemensから見た4つの課題:RFM(ロボット基盤モデル)
DLRパートが終わると、SiemensのResearch & Development担当の方にバトンが渡されます。Siemens側からは、ヒューマノイドロボットを「知能を持ち、見て、知覚し、推論し、行動できる存在」と定義した上で、現状の4つの大きな課題が提示されました。

↓のように整理されていて、めっちゃ分かりやすかったです。
1: モデル自体の改善 — RFM(Robotic Foundation Model、ロボット基盤モデル)の進化を加速させる方法。今は段階的にしか進化していない
2: モデルの信頼性向上 — デモなら70〜80%精度で良いが、産業で実運用するなら90%台後半の精度が必要
3: オートメーション全体への統合 — 1台のロボットを作るだけでは何も解決しない。既存の自動化パイプラインに組み込む方法が必要
4: 物理世界のデータ取得 — LLM(大規模言語モデル)はインターネットからデータを集められたが、ロボットの動作データは現実世界からしか取れない。動作データそのものをどう作るかが鍵
特に2番の「90%台後半が必要」というのは、製造業を相手にしている自分としても現実感があり納得しました。
「Siemens Research and Innovation Ecosystem」
Siemens側はこの4つの課題を1社で解こうとは思っていない、という姿勢でした。Siemens Research and Innovation Ecosystemという協業の仕組みを既に持っており、大学・研究機関・スタートアップとの連携で進めているとのことです。

DLRとSiemensがこのキーノートで一緒に登壇しているのもまさにその一環で、研究機関(DLR)が基礎研究と人材を、産業界(Siemens)が実装の場と需要を持ち寄ることで、ドイツ・EUがリードできる余地があるという主張でした。
研究機関は製品を作って売る組織ではないので、産業界とつながらないと社会実装まで行かない。逆に産業界は基礎研究の蓄積がないと差別化できない。両者を意図的につなぐエコシステムが必要という整理は腹落ちしましたね。
ヒューマノイドが活躍する領域の時間軸予測
最後にDLR側から、ヒューマノイドが普及していく順序について時間軸の予測が示されました。

スライドのイラストは左から順に、産業現場のロボット、介護やサービスのロボット、家庭での配膳ロボットという3段階で表現されていて、時間軸でまとめると↓のとおりです。
- 今後5年〜: 産業生産・物流(強い需要が見込まれる)
- 今後5〜15年: サービス・小売・介護
- 今後10〜20年: 家庭・スマートホーム
- (並行して): 救助ミッション・防衛・宇宙開発
産業・物流が真っ先に来るというのは、製造業に関わる人間としては腹落ちする順番でした。
家庭用は経済条件が整わないと厳しいので、当面はB2Bのユースケースで磨き込まれていく流れになりそうです。
まとめ
DLRとSiemensという、研究と産業のトップが一緒に「ヒューマノイドロボティクスの現在地」を語ってくれる超贅沢なセッションで、ハイプの数字(715%)と地に足のついた現在地(マラソンの5km地点)の両方が聞けたのが特に印象に残りました!









