
【登壇資料】初参加のハノーバーメッセで感じた世界最大級イベントの熱気とAI活用の未来
「動的需要応答型サプライチェーンとか夢のまた夢でしょ…え?そのうちできそう?」
先日、クラスメソッド日比谷オフィスで以下のイベントを開催しました。
【東京】ハノーバーメッセ2025ふりかえり〜製造業のデジタル革新最前線とAI活用〜 | クラスメソッド株式会社
合同会社アルファコンパスの福本さん、アマゾンウェブサービスジャパン 合同会社の山本さんをゲストに迎え、三者三様のハノーバーメッセについての情報をお伝えしました。
私は「初参加のハノーバーメッセで感じた世界最大級イベントの熱気とAI活用の未来」というタイトルで登壇したので、その内容をこちらでご報告。
最近追っていた、UNS(Unified Name space)や、IDF(Industrial Data Fabric)が、AI全盛の昨今にどのように製造業のユースケースの中で活用できるのかを自分なりの未来予想図と共にお話しました。興味あるかたは、是非ごらんくださいませ。
登壇資料
このブログでは、関連するURLや、スライドではかけなかった部分などを補足できればと思います。
はじめに
Xアカウントは@hamako9999なので、物好きな方はフォローしてください。
以下、Agenda。
- クラスメソッドの製造業における取組の紹介
- 現地のリアルな雰囲気と熱気
- 製造業におけるAI活用の最前線ユースケース
クラスメソッドの製造業における取組の紹介
クラスメソッドは2025年5月に「Consulting Partner of the Year - Japan」としてAWSの日本最優秀SIパートナーに選ばれました。製造業向けのソリューションも数多く提供しています。
製造業向けソリューション
製造業向け クラウド活用・ デジタル化支援 | クラスメソッド株式会社
あまりインダストリーの雰囲気がしないクラスメソッドという会社かと思いますが、製造業向けソリューションも展開しています。
製造業特化ソリューションとして代表的なものは、Classmethod PLC Data To Cloud。また、関連サービスとして、以下も展開しています。
その他の製造業向けサービス
- IoTアプリ開発
- ハードウェアからクラウドインフラ、ソフトウェア開発までを一貫して提供
- 製造業向けアジャイル支援サービス
- AWSの知見を活かして内製化の体制構築を支援
- 伴走型開発支援サービス
- 生成AIを活用してソフトウェア開発のプロセス全体を加速・最適化
関連顧客事例
日東工業、日建設計、京セラ、パイオニア、日立、LIXILなど多数の製造業のお客様のデジタル化を支援しています。
- LIXILの板金技術とIoTを融合メルカリポストの量産体制を構築
- 数百万台の日立の家電を常時クラウドへ接続する大規模IoTの基盤をAWSのマネージドサービスで実現
- 遠隔IoTデバイスへのデプロイを可能に。IoT Greengrassによるアプリ管理
- カーナビシステムをKubernetesが支える。OpenShiftからEKSに移行し安定稼働へ
- 京セラ様事例|「京セラロボティックサービス」におけるAWSマルチアカウントプラットフォームやGoogle Cloud機械学習基盤の構築に向けた3年間の開発ストーリー
- 日建設計様事例|AWSのマネージドサービスで実現。脱炭素社会に向けたオフィスビルと働き手の協調
現地のリアルな雰囲気と熱気
現地のリアルな雰囲気ですが、写真多数で、こちらに全部書いてしまってます。詳細はこちらを是非ごらんください。
会場マップです。各ホールの間は屋外になっています。会期中は晴天で暖かく非常に気持ちよかったですね。
ホールの大きさです。各ホールの大きさがこれでなんとなく伝われば。
全部で20以上のホールがあり、それぞれが異なるテーマ(SMART MANUFACTURING、DIGITAL ECOSYSTEMS、ENERGY FOR INDUSTRYなど)に分かれています。
会場内を歩くだけでも一日では足りないほどの広さと、世界中から集まった数多くの企業や来場者の熱気は圧巻でした。なんせ、扱っているテーマが幅広い。
OTからITまで全部網羅、さらに出展企業も製造業の老舗からパブリッククラウドなどデジタルを武器としている会社、スタートアップ、各国、Manufacturing-Xなどの業界団体など、製造業に関わるほぼ全ての情報が集まってます。
主要企業の展示
シーメンス
ドイツを代表する総合電機メーカーとして、巨大なブースを構えていました。デジタルツインを活用した製薬設備エンジニアリングの展示や、「50%の市場投入時間短縮」「80%の時間と労力削減」「80%の柔軟性向上」といった具体的な効果を示す展示が印象的でした。また、3Dマップを使った展示ナビゲーターも用意されており、来場者の利便性も追求していました。
SAP
ERPを中心としたデータ活用のブースでは、製造プロセスのデジタル化に焦点を当てた「Shop Floor」エリアが設けられていました。実際の生産ラインを模した展示で、データ連携の重要性を視覚的に伝えていました。
AWS
個人的に「実家のような安心感」のあるAWSブース。特に印象的だったのは、e-Bike工場による製品製造ライフサイクル全般のクラウド活用デモや、マルチベンダーで実現する自律移動ロボット(AMR)のデモです。製造業におけるクラウド活用の可能性を具体的に示す内容でした。
Microsoft
サービスに深く根ざしたIndustrial CopilotとAIの展示が目を引きました。ロールス・ロイスのエンジンのインパクトはものすごかったですね。AIの工場における活用事例を紹介していました。
Manufacturing Data Engineを中心としたブースでは、IT&OT Convergenceをテーマに、企業データとGoogleのAI機能を統合したソリューションを展示していました。
製造業におけるAI活用の最前線ユースケース
いろいろ見て回った中で感じたのは、以下のような製造業における革新的なユースケースが、もはや夢物語ではなく現実のものになりつつあるなという感触です。
- 自己修復型生産ライン
- 動的需要応答型サプライチェーン
- 知識継承型スマートファクトリー
製造業におけるデータ活用の潮流と課題感
製造業に関わるデータは非常に幅広く、それらの統合が課題になっています。CRM、PLM、ERP、MESなど、多くのシステムがそれぞれ独自のデータ形式で情報を管理しており、横断的な活用が困難な状況です。
製造業における典型的な課題として、以下のようなものが挙げられます。
- 設計エンジニア:「コンセプトから詳細設計段階に移行するために、主要な材料供給の課題を知る必要があります」
- サプライチェーン:「パーツが遅延しています。調達の問題はありますか?同様の品質スコアを持つ代替サプライヤーを検討できますか?」
- 事業開発:「新しいRFQが来ています。類似点を特定するために、過去のRFQ回答や仕様書にアクセスできますか?」
- 計画/購買:「部品のリリース状況と変更記録を入手して、調達計画を立てられますか?」
これらの課題解決のキーとなるのが、以下で紹介するUNS(Unified Name Space)とIDF(Industrial Data Fabric)です。
UNS(Unified Name Space)とIDF(Industrial Data Fabric)
製造環境のデータ活用において解決策となり得るのが、UNS(Unified Name Space)とIDF(Industrial Data Fabric)です。UNSは製造環境における「単一の信頼できる情報源」として機能するイベント駆動型のデータアーキテクチャ。
主要コンポーネントは以下の通り。
- MQTTブローカー:発行/購読型メッセージングの中心ハブ
- Sparkplug:MQTTプロトコル上で動作し、メタデータを追加し自動検出や例外報告を実現
- データモデリング:ISA-95標準に基づく階層的なデータ構造
- エッジオペレーション:エッジに配置されたソフトウェアが機器に接続し、生データを変換・標準化
ハノーバーメッセでは、HighByteやLITMUSといったUNSの実装プレイヤーが存在感を示していました。特にオープンソースIIoTプラットフォームのFREEZONEXは、UNSをOSSとして提供しているのが目を引きましたね。どこで儲けているのか正直謎だったのですが、ブースの方は親切にそのコンセプトを話してくれました。
AIの新潮流:MCPとA2A
ハノーバーメッセの会期前後に、AI界隈で非常に大きなパラダイムシフトが発生しました。特に注目すべきキーワードが「MCP」と「A2A」です。
MCP(Model Context Protocol)
- AIモデルやエージェントが外部データソース・ツールと接続するためのオープンスタンダード
- 「AIのUSBポート」とも呼ばれる標準化されたインターフェース
- AIとツール・データ間の接続を単純化し、M×N統合問題を解決
A2A(Agent2Agent Protocol)
- 異なるAIエージェント間の通信・協調を可能にするオープンスタンダード
- Googleが提唱した、ベンダーに依存しない相互運用可能なプロトコル
- エージェント間の自律的な協調をサポート
ハノーバーメッセの会期が終了した1週間後ぐらいに、興味深いポッドキャストが投稿されました。MCPとA2Aが、製造業の現場活用にどうつながるのか?という内容です。
面白い内容なので、是非聞いてもらえればと思うのですが、ここではUNSがMCPとA2Aと組み合わさることで、次世代の製造業におけるデータ活用の未来が提示されています。
- UNS:OPC UAの上に構築され、工場内の機械とその能力を整理するレイヤー
- MCP:AIエージェントがUNSに簡単に接続できるようにするプロトコル
- A2A:複数のAIエージェントが互いに通信し、タスクを調整するための拡張機能
無理やり図式化するとこんな感じになるかと。
UNSの統一されたデータ構造が、MCPによってAIエージェントから統一的にアクセスさせることで、製造業に関わる様々なユースケースに対応するAIエージェントが自律的に協調動作するイメージです。
未来の製造業のユースケース
これらの技術の組み合わせにより、以下のようなユースケースが見えてきているのかなと。
1. 自己修復型生産ライン
従来の課題: 設備故障は事後対応が基本で、早期発見できても人間の判断と介入が必要でした。
新たな可能性:
- UNS: 全ての機器からのセンサーデータを統合し、リアルタイムで異常パターンを検出
- MCP: AIエージェントが過去の故障履歴と現在のデータを分析し、問題を診断
- A2A: 保守エージェントが部品調達エージェントと連携、自動的に部品発注・ロボット修理指示
具体例: 自動車組立ラインの溶接ロボットが振動異常を示した場合、AIが原因を特定(ベアリング劣化)し、部品在庫を確認、最適なメンテナンス時間を計算、必要に応じて代替生産ルートを確保しながら、次のシフト変更時に自動修理ロボットが対応する一連の流れが人間の介入なく実行されます。
2. 動的需要応答型サプライチェーン
従来の課題: 需要変動への対応は遅く、在庫過多や欠品リスクが高い状況でした。
新たな可能性:
- UNS: ERPデータ、市場データ、生産能力データを統合
- MCP: AI需要予測エージェントが外部データ(天候、イベント、SNS)にアクセスして需要の急変を予測
- A2A: 需要予測エージェントが生産計画エージェント、サプライヤーエージェント、物流エージェントと連携
具体例: 食品メーカーでは、大型スポーツイベント前のSNS分析から特定商品の需要急増を予測。AIが自動的に原材料発注を調整し、サプライヤーAIと納期交渉、生産ラインのスケジュール再構成、物流ルートの最適化を実施。これにより売上機会損失を防ぎつつ、過剰在庫リスクを軽減します。
3. 知識継承型スマートファクトリー
従来の課題: 熟練作業者の退職によるノウハウ喪失、新人教育の長期化が課題でした。
新たな可能性:
- UNS: 作業手順、センサーデータ、品質結果の関連付けと蓄積
- MCP: AIが熟練者の作業パターンを学習し、データから暗黙知を形式化
- A2A: 知識エージェント、トレーニングエージェント、支援ロボットエージェントが連携
具体例: 精密機械メーカーでは、熟練技術者の動作を複数のセンサーで捉え、その判断と手技をAIが学習。新人作業者がARグラスを装着すると、AIが作業をリアルタイムで分析し、熟練者レベルの指導を提供。さらに協働ロボットが自動的に補助し、作業効率と品質を向上。蓄積された知識は継続的に更新され、組織全体で共有されます。
まとめ
製造業におけるデジタル活用は業界全体の長年の課題ではありますが、AIの進化によりその進化は非常に加速しているように感じた、ハノーバーメッセの滞在でした。自分は今回初参加だったのですが、様々なところでAI活用についての展示やセッションが開催されていて、今回のMCPの登場により、その波はさらに加速しそうな感触です。
ハノーバーメッセ2025の詳細な現地レポートは、こちらのブログ記事も参考にしてください。45枚の写真とともに、世界最大の製造業イベントの様子をお伝えしています。
この進化の波が、来年のハノーバーメッセでどうなっているか、今から楽しみですね!今会場におられる方(そして、今この記事を読んでいるそこのあなた!)、是非来年はハノーバー現地でご一緒できればと思います。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。