ロボット版の共通プラットフォームを目指す「AgileCore」 — 他社ロボットもセンサーも束ねるAgile Robotsブース訪問 #HM26

ロボット版の共通プラットフォームを目指す「AgileCore」 — 他社ロボットもセンサーも束ねるAgile Robotsブース訪問 #HM26

ハノーバーメッセ2026のAgile Robots / Franka Roboticsブースを訪問。未公開の最新Geminiモデルを載せたロボットのデモ、AIエンボディメント向けプラットフォーム、マルチベンダーを束ねるAgileCoreまで、AIとロボットの「身体」をつなぐ最前線を紹介します。
2026.06.09

「ここまで真正面からヒューマノイド含めたロボットが多数展示されているブースも珍しいな…規模が凄い」

ハノーバーメッセ2026で、Agile Robots(アジャイルロボッツ)とそのグループのFranka Robotics(フランカロボティクス)のブースを訪問してきました。

ブースでは、ロボットアームやモバイルマニピュレータに最新のAIモデルを統合したデモが動いており、説明員の方に「AIとロボットをどうつなぐのか」「なぜヒューマノイドなのか」といったあたりを聞いてきました。本記事では、まず会社の位置づけを整理したうえで、ブースで見聞きした内容を紹介していきます。

「Driving industries forward」を掲げるAgile Robotsのブース全景

Agile Robotsとは

Agile Robotsは、ドイツ・ミュンヘンに本社を置くロボティクス企業です。基本的な公開情報を整理しておきます。

  • 公式サイト: https://www.agile-robots.com/en/
  • 本社: ドイツ・ミュンヘン
  • 設立: 2018年(ドイツ航空宇宙センター=DLR出身の研究者らが創業)
  • 共同創業者兼CEO: Dr. Zhaopeng Chen
  • 従業員数: 約2,500名(60カ国以上から集まる)
  • 主要製品: ヒューマノイド「Agile ONE」、ロボットアーム(Diana 7など)、AMR/AGV、ソフトウェア基盤「AgileCore」

AIとロボティクス、そして製造の知見を組み合わせて、自動車・電子機器・ヘルスケアなどの現場向けにソリューションを提供しているメーカーです。

「AGILE ROBOTS」のサインと、ロボットハンド・ヒューマノイド・アームの製品パネル

今回のブースで少しややこしかったのが、Agile RobotsとFranka Roboticsという2つの社名が出てきた点です。説明員の方によると、Franka Roboticsは「別会社だが子会社(daughter company)」という関係。これは、Agile Robotsが2023年にロボットアームメーカーのFranka Emikaを買収し、現在のFranka Roboticsとしてグループに収めた経緯によるものでした。今回のブースでは、Franka RoboticsのAIデモを担当する方と、Agile Robots全体を説明してくれる方の双方から話を聞くことができました。

最新Geminiモデル×ロボットのデモ(Franka Robotics)

最初に目を引いたのが、Franka Roboticsが見せていたAI統合のデモです。

AIモデルを統合したロボットアームのデモと、映像・操作画面を映すモニター

ロボットが少し「考える」間を置きながら、指示された物体を掴んで黄色いボックスに入れていきます。動作の前にときどき止まるので「これは何をしているんだろう」と思って聞いてみると、載せているのはまだ一般公開されていない最新のGeminiモデルとのこと。再学習などはしておらず、汎用のモデルをそのまま動かしているため、推論に少し時間がかかることがある、という説明でした。

ここで興味深かったのが、「このデモはあくまで統合できることを示すもので、モデルは何でも載せ替えられる」という点です。特定の用途に最適化した専用AIを作るのが目的ではなく、汎用モデルでもこうして動かせますよ、というショーケースなのだと。

では、会社としてAIをどうビジネスに活かしているのか。説明員の方いわく、Franka RoboticsはAIエンボディメント(AIに身体を与える)向けのリファレンスプラットフォームを提供しているそうです。GoogleやMeta、OpenAIといったAI研究機関にそのプラットフォームを提供し、各社が自社のAIモデルを載せて動かす——という座組みです。実際、Google DeepMindとのパートナーシップのもとで、ロボットにAIを統合する取り組みを進めているとのことでした。汎用のロボットアームという「身体」が、各社のAIモデルを物理世界で検証するための共通基盤になっている、というわけです。

なぜヒューマノイド・モバイルマニピュレータなのか

組み立てステーションで作業する2体のヒューマノイドAgile ONE

もう一つ聞いてみたかったのが、「なぜヒューマノイドやモバイルマニピュレータなのか」という点です。

説明員の方が挙げていたのは、工場での働き方でした。固定された場所で決まったピッキング作業を繰り返すだけなら、据え置き型のロボットで十分です。しかし実際の工場では、複数のワークステーションや工程を渡り歩いて作業する必要がある。場所が決まった作業だけではないからこそ、自分で移動でき、階段の上り下りまでこなせるヒューマノイドやモバイルマニピュレータが役に立つ、という話でした。

技術的な中身についても少し踏み込んで教えてもらいました。掴む対象はこのロボット専用の部品に限らず、ギアボックスやネジといった一般的な部品も対象になります。そこで使われているのが AIベースの姿勢推定(pose estimation) で、推定した情報をモーションプランニングのパイプラインに渡すことで、ロボットが「部品のどこをどう掴めばいいか」を正確に判断できるようになる、という流れでした。

さらに、別の形のAIとしてdiffusion policyにも触れていました。これは画像から直接ターゲットとなる関節位置を出力する、エンドツーエンドのAIネットワークです。画像を入力すると、ロボットがどう動けばよいかをモデルが直接導き出す——姿勢推定とはまた違う角度で、ロボットの動作そのものにAIが効いている例として紹介してくれました。

ロボットのカメラに映る人体検知の様子

Agile ONEの前に立つ筆者と、ロボットのカメラ映像に人体検知が映るモニター

ヒューマノイドのAgile ONEの前に立つと、青く光る目がこちらを向きます。隣に置かれたモニターには、ロボットが見ている映像がリアルタイムに映し出されていました。私が手をかざすと、画面の中の私や周囲の来場者がしっかり捉えられ、人の姿が検知・骨格推定(ポーズ)されている様子が分かります。

これは、前のセクションで触れた AIベースの姿勢推定 が、部品ではなく「人」に向けられたものと言えます。ロボットがカメラで周囲を理解し、そこに誰がいて、どんな姿勢でいるのかをリアルタイムに把握する——これは、人と並んで安全に働くヒューマノイドにとって欠かせない知覚(perception)の土台です。実際、Agile ONEは「ほかのロボットや人と並んで安全かつ効率的に働く」ことを掲げており、その前提として、まず周囲の人をきちんと検知できることが必要になります。

背景には「Data collection(データ収集)」の表示も見えました。こうして現実の環境を捉えた知覚データそのものが、フィジカルAIを賢くしていく学習の材料になっていくのだろう、と感じさせる展示でした。

Agile ONE — NVIDIA Isaac GR00Tとの協働

「How we use NVIDIA technology」を説明するAgile ONEのパネル

ブースの一角に展示されていたのが、Agile Robotsの産業向けヒューマノイド「Agile ONE」です。ドイツで開発・製造されているモデルで、器用なロボットハンド、移動するためのモバイルプラットフォーム、そして前述のソフトウェア基盤AgileCoreを組み合わせたモジュラー構成になっています。会期中のデモでは、来場者向けにミニチュアのロボットアームを組み立ててみせていたそうです。Agile Robotsはこれを「単体の製品ではなく、ほかのロボットや人と並んで働く、統合された生産システムの一部」と位置づけていました。

そのAgile ONEのそばには、「How we use NVIDIA technology(NVIDIAの技術をどう使っているか)」と題したパネルが置かれていました。そこに整理されていたのが、次の3つです。

  • Nvblox — 大規模な3D環境の再構成、ステレオ深度の計算、SLAMによる自己位置推定・ナビゲーション
  • NVIDIA Jetson — GPUで高速化したAI処理を、リアルタイムのロボットワークロード向けに提供するプラットフォーム
  • Isaac SIM / Isaac Lab — きめ細かなマニピュレーション(操作)タスクを学習させるためのシミュレーション・学習環境

要は、周囲を3Dで把握して移動し(Nvblox)、本体上でAI推論をリアルタイムに回し(Jetson)、難しい手作業はシミュレーションで学習させる(Isaac SIM / Isaac Lab)——という役割分担です。さらにNVIDIAのブログによれば、Agile Robotsはヒューマノイド向けのオープンな基盤モデル NVIDIA Isaac GR00T N1 をIsaac Lab上で追加学習(post-training)し、双腕マニピュレータに産業現場のタスクを覚えさせているとのことでした。

面白いのは、先ほどのFranka RoboticsのデモがGoogle DeepMindのGeminiモデルを軸にしていたのに対し、ヒューマノイドのAgile ONEではNVIDIAの技術スタックが土台になっている点です。同じグループのなかで、用途や「身体」に応じて複数のAIスタックを使い分けている——というより、自社のロボットを各社のフィジカルAIが動く共通の土台として開けている、という姿勢が見えてきます。実際、Agile RobotsはGoogle DeepMindやNVIDIAに加え、ドイツテレコムが手がける「Industrial AI Cloud」(産業AI向けに構築された欧州初のクラウド基盤とされる)とも連携し、実際の生産データを使ってロボットの賢さを継続的に高めていく、と打ち出していました。展示の通底テーマである「フィジカルAI」を、まさに体現するヒューマノイドでした。

AgileCore — ヘテロなロボットを束ねるソフトウェア基盤

Agile Robots全体としては何をやっているのか、という質問には、「ハードウェアとソフトウェアの両方を売っている」という答えが返ってきました。

ハードウェアは各種のロボットアームやヒューマノイド。そしてソフトウェアの中核が、AgileCoreと呼ばれる基盤です。

AgileCoreの面白いところは、自社ロボットだけでなく、KUKAやABBといった他社のロボット、さらにはカメラや力覚(フォーストルク)センサまで、すでに数多くのハードウェアを統合している点です。基本的なプログラミングの知識があれば、自分の作業現場をシンプルに設計・プログラムできるユーザーフレンドリーなインターフェースも備えている、とのことでした。マルチベンダーのロボットや周辺機器を、ひとつのソフトウェア基盤の上で扱えるようにする——いわばロボット版の共通プラットフォームを目指している印象を受けました。

加えて、生産ラインを自動化したい顧客向けには、ハードウェアを含めたソリューション一式を提供することもできるそうです。

グローバルな体制についても聞きました。本社はドイツ・ミュンヘンで、中国・インド・米国などにも拠点を持ち、工場はドイツと中国にあるとのこと。AIについてはクラウドを活用しており、前述のとおりGoogle DeepMindとの協業のなかで動かしている部分がある、という話でした。

社名「Agile」の由来

最後に、個人的に気になっていた社名の由来も聞いてみました。私たちのようにソフトウェア寄りの仕事をしていると、「Agile」と聞くとつい開発手法のアジャイルを連想してしまいます。ロボティクスの会社が「Agile」を名乗っているのが、ソフトとハードの融合のようで面白いな、と。

説明員の方は「正確な由来は親会社の人に聞いたほうがいい」と前置きしつつ、約7年前の創業時に付けた名前で、中国人の創業者にちなんで「Agile」には別の意味合いもあるらしい、と教えてくれました。ちょうどその頃によく使われていた言葉でもあり、響きの良い名前だと。ロゴも小文字の「a」と「R」を掛け合わせたデザインになっていて、ブランディングがとても綺麗にまとまっていたのが印象的でした。

小文字のaとRを組み合わせたAgile Robotsのロゴ

まとめ

Agile RobotsとFranka Roboticsのブースで見たのは、AIとロボットの「身体」をどうつなぐか、という最前線でした。印象に残ったポイントを整理しておきます。

  • 汎用AIモデルをそのまま載せて動かす——専用に最適化したAIではなく、未公開の最新Geminiモデルのような汎用モデルを載せて動かせること自体をデモで見せていた。ロボットがAIモデルを物理世界で試すための「共通の身体」になりつつある
  • AIエンボディメントのリファレンスプラットフォーム——Franka RoboticsがGoogle・Meta・OpenAIといったAI研究機関に提供し、各社が自社モデルを載せる。Google DeepMindとの協業もその一例
  • マルチベンダーを束ねるAgileCore——自社ロボットに加えKUKAやABB、カメラ、力覚センサまで統合し、簡単にプログラムできる。ハードからソフト、ソリューション一式までを一社で提供する厚み

姿勢推定やdiffusion policyといったAI技術が、ヒューマノイドやモバイルマニピュレータの「掴む・動く」を支えている——フィジカルAIの潮流を、実際に動くデモとして体感できたブースでした。丁寧に案内してくださった説明員の方々に感謝しつつ、来年はどんな進化が見られるのか楽しみにしたいと思います。

それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。

参考資料


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