[レポート] AWS re:Invent 2019: [ENT224] Amazonのイノベーション文化 #reinvent
はじめに
Amazonの文化と言えば、有名な2ピザチーム(又は2ピザルール)とか、リーダーシップ・プリンシパルとか断片的な情報を拾っていて興味を持っていましたが、それをもっと詳しく知る機会になりました。 AWSやECサイトの成長から、何かヒントを得られるんじゃないかと思い、楽しみにしていたセッションです。本記事はre:Invent 2019のセッション「AWS re:Invent 2019: Amazon culture of innovation ENT224」のレポートです。(諸事情で、現地でライブセッションには参加できませんでした)
概要
どうやったらAmazonのようにイノベーションできるか、あらゆる規模の組織から尋ねられます。「世界最大の書店」として始まって以来、AmazonはECや、それに近いセグメントでイノベーションを起こしただけではなく、まったく新しいビジネスを組織に導入してきました。長年にわたりAmazonは、顧客のために困難な問題をうまく解決し、かつ簡単に実施できるようにしてきました。このセッションでは、組織全体でイノベーションについての基礎を向上させるために、Amazonがテクノロジーをどのように捉え、活用するかについてを説明します。
登壇者
Giulia Rossi - Innovation, Amazon Web Services
セッション内容
- Amazonは顧客中心の会社
- イノベーションについて話す時、まず顧客と共に始める、これがAmazonが顧客に適切なもの提供するための方法
- 他にも競合他社や新しいテクノロジー、新しいビジネスモデルから始めるなど、それとは異なる色々な方法でのイノベーションがある
- しかし、Amazonでは顧客のニーズを理解するところから始め、本当に顧客が喜ぶような体験ができるソリューションは何かを、まず理解する
- Amazonのミッションは顧客中心の会社であり、このミッションはとても幅が広い
- このミッションはクラウドやEC、書籍の販売に関連することは述べていなく、地域やテクノロジー、産業についても関連していない
- Amazonにとっての判断基準は顧客にとって最良かどうか
- 企業が成長し、意思決定の複雑さが増しても、キーとなるのは顧客中心であるということ
- アイデアを作成する時だけではなく、それを実行する時も、多くの場合、市場投入までの時間を短縮し、失敗のリスクを低減する必要がある
- そのため、スケールしつつも一貫性があり、反復的な方法でイノベーションすることが重要
- Amazonのリーダーはアイデアを生み出す時だけではなく、促進するために顧客中心のアプローチを利用している
- それは、顧客から始まり後方に流れる、ワーキングバックワード[working backwards]と呼ばれる仕組み
- ワーキングバックワードはAmazonやAWSの全ての個々の製品やサービスのために開発された顧客中心のアプローチであり、組織のあらゆる箇所で使用されている
- コンセプトは、顧客に実際に望むものを尋ねる事ではなく、顧客のイノベーションを可能にするために、彼らのニーズを理解すること
- それから実現可能性や性能ではなく、ソリューションが何かを理解する
- Amazonでは初期の製品を、最小の愛すべきプロダクト[minimum lovable products/MLP]と呼び、顧客の笑顔と驚き、そして本当に楽しい顧客体験を生み出す
- これは1997年Amazon.comから一貫しており、Amazonのコアなアプローチ
- 2016年のジェフ・ベゾスの株主への手紙 Jeff Bezos’ 2016 Letter to Amazon Shareholders で “顧客がハッピーになって、ビジネスもうまく行っていると言ってる時でさえ、顧客はいつも美しく驚くほど不満 [customer are always beautifully and wonderfully dissatisfied]と述べている
- Amazonが1995年に開始し、1998年にオンラインで書籍を販売し、CDとDVDの販売を開始し、その後Kindleやビデオを制作し、グロッサリー、Amazon Go、Alexa を提供している
- これらの共通点はワーキングバックワードの仕組みを適用しており、例えば顧客からAlexaを作って欲しい、という問い合わせから始まったのもではなく、顧客のニーズを理解し、彼らに代わって考案したもの
- しかし、チームを結成し、顧客のニーズに集中してブレストするようお願いするように、善意(精神論的な事かな)を求めてもうまくいかない
- 一貫した方法でイノベーションを確実に提供するために、Amazonでは構造化して、相互に作用する4本柱のアプローチを行っている
- Amazonのカルチャーは、14のリーダシップ・プリンシパルに基づいていて、顧客中心でイノベーションを起こすためのコアとなってる
- リーダシップ・プリンシパルを適用れば、自動的に顧客中心という結果になる
- リーダシップ・プリンシパルは、人々が権限を持ち、自由な方法でイノベーションを起こすためのガイドラインで、AmazonのDNAであり、共通言語のようなもので、人々を結びつけている
- 採用や昇進もリーダーシップ・プリンシパルに基づいている
- 壁に書かれた(形骸化した理想的な)ものではなく、実際にAmazonに根付いている
※ Amazonのリーダーシッププリンシプについては、こちらに日本語でまとまっています。 Amazon.jobs
- まずは、創造することに集中し、シンプルにしてみよう
- Kindleを発明した時に私達は理解したのは、読書が好きな人は、いつでも、どこでも、簡単な方法でお気に入りの本にアクセスしたいということ
- Kindleのミッションは世界中のどこにいても、60秒以内に本を読めること、達成する方法については何も言及しなかった
- Kindleを立ち上げた時にはオンラインで本を販売するマーケットに居た、つまり、メインのビジネスが危機にさらされるということ
- オンラインで本を販売しているので、人々は本当は本をダウンロードししたかった事がわかる
- ミッションがあると理解した時、顧客のニーズがあると理解した時、そして顧客のニーズを満たして、自分の役割を成し遂げた時、創造してシンプルにするというコンセプトは、長期にわたって誤解されるリスクを持っている
- 最初のKindleを出した時、顧客の熱意を築く方法を知らなかったが、顧客のニーズを満たしたかった
- まずは、マーケティングに強い人材を採用し、どんな広告を作成するかを理解した
- 今まで出た14のKindleの全てのバージョンは顧客のフィードバックを基に開発された
- このコンセプトはMLPを開発し、早期に市場の顧客から充分なフィードバックを得て、顧客が喜ぶプロダクトになるように調整すること、(イノベーションを起こすのは難しいため)
- AWSも”AmazonとECに集中すべき”と、市場に長期間、誤解されていたが、我々はテクノロジーとイノベーションの能力を備えた人々を後押しすることができる、と理解していた
- 多くの決定は可逆的である
- 90%のデータが集まるまで待つのは遅すぎる可能性があるので、70%のデータが集まった時点で判断を下す
- 予測したリスクと、その回避も重要
- 一方通行のドア:物流倉庫やデータセンターを建てるなど、これは非常に慎重に決める
- 双方向のドア:新しい製品やサービスの立ち上げなど、これはドアを出て市場のフィードバックを得て、うまく行けば早くスケールし、うまく行かなければ、戻って決定が全く筋違いだったか、修正すればよいかを判断すればよい
- 新しいサービスを立ち上げたい時は、MLPを開発し、市場のフィードバックを早期に充分に受け取ることで、素早くイノベーションを起こす事ができる
- ワーキングバックワードをどう構造化させてるか言うと、AmazonではPowerPointを利用しないで、最初にプレスリリースを作成し、よくある質問、ビジュアルを描く
- 多くの企業では、ソフトウェアを開発してから、マーケティング部門でプレスリリースを書くが、彼らは「顧客が望む製品ではなさそうだ」と言うかもしれないので、コードを一行書くより先にプレスリリースを書く
- Amazonでは新製品を作る時に静的なペルソナを作成しなく、顧客の状況や文脈、問題に共感する
- 新製品を作る時に5つの質問をする
- 誰が顧客か?
- 顧客の問題やオポチュニティは何か?
- 顧客の最も重要な利点はクリアか?
- 顧客のニーズが何かを知っているか?
- 顧客体験はどのようになるのか?
- この中でいちばん重要な単語は顧客
- これらの質問に5分で答えられることもあれば、5ヶ月かかることもある
- プレスリリースのコンセプトは、これらの質問に答えるのに非常に役立つ
プレスリリース
- 1ページのドキュメント
- 上記5つの質問に答える
- 数ヶ月後に顧客が製品を手にして、どう感じるかに基づいて書く
- 1ページに書く理由は、考えをクリアにするためで、まだクリアになってない時には6ページのドキュメントになる場合もあり、それを研ぎ澄まして1ページのドキュメントにする
FAQs
- FAQ はプレスリリースを共有した時の質問から主に作られる
- FAQは誰でも書くことができ、プレスリリースからどれだけフィードバックを得られるか、そして、それをどれだけまたプレスリリースに反映するかとなる、これは一人のソリューションではなく、異なる視点からのフィードバックを得て強化された、チームでのイノベーションとなる
- ビジネスモデルキャンバスのようなものは使用しない
ビジュアル
- ビジュアルはカスタマージャーニーのようなもの
- これら3つのツール(プレスリリース、FAQ、ビジュアル)は仕組みであり、顧客のニーズとカスタマージャーニーを理解することで成り立っている
- それをそれら読んで、議論して、修正して、質問する
- ワーキングバックワードは素晴らしいプロセスのように聞こえるが、沢山やることがある
- しかし、その後の更に多くの仕事を減らし、正しいものを構築していることを確認できるように設計されている
- 非常に多くの企業で、ソフトウェアの構築を行い、全てを完成させてから壁を超えてマーケティング部門に投げ込んで、プレスリリースを作成している
- Amazonがモノリシックなアーキテクチャからマイクロサービスアーキテクチャに移行した理由は、沢山のアイデアを市場に投入し、どのアイデアを追求するかを選択し、顧客のフィードバックを早く得るため
- マイクロサービスアーキテクチャはより早く実験でき、迅速にスケールできる
- 実装の古い部分を変更する必要がないため、迅速に対応でき、ビジネスに集中できる
- このAWSアーキテクチャが、 自由で素早い実験[free and fast experimentation] と呼ばれる概念を可能にしている
- テクノロジーではなく、ビジネスに集中する時、市場に効果的なイノベーションが起こる
- 顧客のフィードバックを得て、年間1億9400万件デプロイしてる
- これは自由で素早い実験というコンセプトをテクノロジーで表現している例
- 自由で素早い実験を小さな組織で行うのは簡単だが、会社が成長した時にどう維持しているのか
- Amazonは組織的なアプローチを行う
- コンセプトは7〜8人のチームで組織にスタートアップのようなものを作り、アイデアの最初から実行までを行う
- 能力の異なる人々が居て、マーケティングの人も含むので、他のチームに”投げる”ような事は起こらない
- チームはアイデアを出し、プレスリリースやFAQを作り市場に投入して管理するまで至る
- これは非常に強力で、オーナーシップを持ち、権限があり[centralize the authority/feels empowered ]、製品を自分ごととして扱う事ができる
- 製品に関して悪いことも、すぐに見つけて修正することができる
- アイデアやコンセプトを出すだけではなく、実際に構築して実行することができる
- ジェフ・ベゾスは株主への手紙でリーダーシップ・プリンシパルについて述べている
- プレスリリースは組織の中の誰でも書くことができ、レビューすると2ピザチームができる
- AWSはアンディ・ジェシーによって書かれたプレスリリースから生まれ、AWSを作成するまで45回改定された
- Amazonプライムは物流倉庫で働く男性がドラフトを書いたもの
- Fire Phoneを例とするように失敗する可能性も受け入れている事がわかる
- Amazonでも最大の失敗の一つだったが、学習の機会だった
- Fire Phoneのチームは目的もスコープも異なるAlexaのチームに再活用した
- 初期のオークション(1999年)も顧客のフィードバックから役に立たない事が分かり、amazon.comのアプローチに移行した
- これらが、失敗する可能性を受け入れる、という概念の例
- 顧客のフィードバックに基づいて、Amazonの文化を共有している
- そして、『デジタル・イノベーション・プログラム』と呼ばれるものを開発した
- 特定のビジネス領域へ挑戦し、顧客に集中したい時、イノベーションの4本柱が役立つ
- これは無料のプログラムのようなもので、お客様のイノベーションの力を上げる
- 開発フェーズはAWSプラットフォーム上で行われ、様々な方法や機会があり、構築し、テストして、素早くスケールできるようにする
- TCO/スタッフ・プロダクティビティ/オペレーショナル・レジリエンス/ビジネス・アジリティ のトレーニングと認定を用意している
- アイデアを実現のものにするために、単一のテクノロジーやパートナーが集まった、巨大なエコシステムになっている
- 巨大な会社だが、小さな会社のハートと精神を維持できる
- 2ピザチームを作り、ワーキングバックワードを使い、顧客のフィードバックに集中しよう
感想
リーダーシップ・プリンシパル、プレスリリース、FAQ、それとワーキングバックワードが、それぞれがどう作用しあうのか、何故これらがあるのかなどが、分かりました。また根底には顧客中心に考え、役立つイノベーションを生みだすという事が繰り返し伝えられ、本当に大事にして根付いている事なのだというのが伝わりました。
この思想の結果が現在のAmazonとAWSになっていると考えると、非常に実績のある考え方で、あらゆる新しい何かを実行する機会に、適用して、どうなるかのを実験してみたら面白いと思いました。
参考
- Amazon.jobs リーダーシッププリンシパル
- Geeking with Greg: Early Amazon: Auctions 1999年Amazonはオークションサイトをローンチ
- BPMの今後10年の方向性とは?~ビジネスの足枷とならないために情報システム担当者が考えるべきこと (1/4):EnterpriseZine(エンタープライズジン) オペレーショナル・レジリエンス
- TCOとは - 意味の解説|ITトレンドのIT用語集 TCO
- 【キーワード】「AWSのイノベーションカルチャーとは?社員の声」#AWSSummit | Developers.IO AWS Summitでも似たような内容のセッションレポートを書いてた