UXって何だろう?② 〜「直感的」の正体と、メンタルモデル・シグニファイア〜

UXって何だろう?② 〜「直感的」の正体と、メンタルモデル・シグニファイア〜

「直感的で使いやすい」と感じるデザインには、ちゃんと理由があります。ユーザーの頭の中にある「メンタルモデル」を利用し、適切な「合図(シグニファイア)」を出すこと。斬新さより、ユーザーが知っているルールに従うことが、一番の優しさかもしれません。
2026.02.27

前回は、UI(道具)とUX(体験)の違いについて整理しました。今回は、UXデザインを考える上で欠かせない「ユーザーの心理」について掘り下げてみます。

「このアプリ、直感的で使いやすいね!」

私たちは良いデザインを褒めるとき、よく「直感的」という言葉を使います。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんがスマホを操作できないように、人間は生まれつきデジタル画面の操作を知っているわけではありません。では、初めて見る画面なのに「直感的に使える」のはなぜでしょうか?

1.メンタルモデル:ユーザーの頭の中にある「思い込み」

直感的な操作の正体は、ユーザーの頭の中にある「メンタルモデル(Mental Model)」です。メンタルモデルとは、ユーザーが過去の経験から構築した「システムはこう動くはずだ」という期待やイメージのことです。

● 現実世界の例:ドアノブに平たいプレートが付いていれば「押すはず」、取っ手が付いていれば「引くはず」と無意識に判断します。

● デジタルの例 :左上のロゴを押せば「トップに戻るはず」、青い文字や下線のある文字は「リンク(押せる)」のはず、虫眼鏡のアイコンは「検索」のはずと判断します。

ユーザーはこの「はず(思い込み)」通りに動いたとき、「直感的で使いやすい!」と感じます。逆に裏切られると、大きなストレスを感じてしまいます。

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2.ヤコブの法則:「斬新なデザイン」に潜むリスク

このメンタルモデルを理解する上で、強力な指針となるのが「ヤコブの法則(Jakob's Law)」です。

参考:https://lawsofux.com/jakobs-law/

ユーザーはあなたのアプリを触る前に、GoogleやLINEなど、すでに他のサービスで「操作のルール」を学習済みです。これはUXの世界では広く知られた考え方です。

したがって、あなたのアプリも、それらと同じように動くことを期待しています。

ここで「他社と差別化したいから」と、独自の操作ルール(斬新なデザイン)を持ち込むとどうなるでしょうか?

❌ NG:メンタルモデルを裏切る悪い例

● 削除アイコン(ゴミ箱)を、独自性を出して「ハート」にする

→ユーザーは削除ではなく「お気に入り」と誤解し、直感的に操作できなくなるかも

● Webサイトのような自由なレイアウトを、アプリにそのまま持ち込む

→アプリユーザーはOSごとの操作感に慣れているため、それに沿わない独自の挙動は違和感を与えるかも

独自性は「操作」ではなく「コンテンツ(中身)」で出すほうがユーザーに寄り添っていると言えるでしょう。操作方法における安易な斬新さは、ユーザーに新しいルールを覚えさせる「学習コスト」になってしまいます。

3.シグニファイア:メンタルモデルを起動する「合図」

ここで一つ問題があります。

ユーザーが頭の中に知識(メンタルモデル)を持っていても、それだけでは不十分です。

たとえば「ボタンは押せる」という知識があっても、画面を見たときに「これがボタンだ」と気づけなければ、知識は使われないまま終わります。

メンタルモデルは「鍵」、そしてデザイン側が用意すべきなのが「鍵穴」です。ユーザーが鍵を持っていても、鍵穴がなければ開けられません。

「ここはあなたが知っている『あの操作』が使えますよ」と教えてあげる、画面上の視覚的な手がかり。これを「シグニファイア(Signifier)」と呼びます。

sign

❌ NG:シグニファイアがない例
ただのテキストで「送信」と書いてあるだけ。
→ ユーザーは「ボタンは押せる」という知識を持っていても、それがボタンだと気づけずスルーしてしまいます。

✅ OK:シグニファイアがある例
「送信」の文字が枠で囲まれ、影がついている。
→「これは押せそうだ」と瞬時に伝わります。

このように、デザインをスッキリさせたい、カッコよくさせたいという目的でボタンの枠や影を安易になくしてしまうと、ユーザーの知識を呼び覚ますための大切な「合図」を奪うケースがあります。

button

4.UIのルールは「メンタルモデル」を守るためにある

これまでの連載(UIシリーズ)で解説してきた数々のルールも、実はすべてこの「メンタルモデル」を守るためのものでした。

●アイコンのメタファー(第2回の記事):一般的なアイコンを使うのは、ユーザーが他のアプリでその意味を学習しているからです。

●色の役割(第3回の記事):エラーを赤にするのは、社会的に「赤=危険・警告」というメンタルモデルが定着しているからです。

●プラットフォームの作法(第7回の記事):Webとアプリでデザインを変えるのは、ユーザーがそれぞれのデバイスに対して異なる期待を持っているからです。

5. おわりに

「直感的なデザイン」を作るとは、新しい何かを発明することではありません。

●ユーザーがすでに知っているルール(メンタルモデル)を利用すること

●適切な「合図(シグニファイア)」を出して、知識を発動させること

●「他のサイトと同じ作法」にすること

「普通のデザイン」は手抜きではなく、ユーザーへの一番の優しさかもしれません。

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