AIでAIを動かす ~BizDev編

AIでAIを動かす ~BizDev編

毎晩18時、翌日の商談ブリーフがSlackに届く。作っているのはAIエージェントで、その中には「舘野ならどこに賭けるか」という戦略提言まで入っている。書いたのは私ではなく、私のghoostだ。人がAIに聞くのではなく、エージェントがMCP経由で別のAI分身に相談する——その配線の実際と、運用して分かった設計のツボを書く。
2026.08.25

前回の記事で、毎晩の商談ブリーフをMCP経由で自動生成し、そこに"あの人ならこう準備する"という視点を差し込む仕組みを紹介した(ghoostで"あの人の判断"を業務に呼び出す)。何ができるか、なぜ「自動で出てくる」と効くのかは、そちらに書いた。

本記事はその続きで、中身の話をする。あのブリーフは実際どう組まれていて、AIエージェントはどうやって私のghoost(ゴースト)に相談しているのか。そして毎晩回し続けて分かった、設計のツボ5つ。読み終わる頃には、自分の業務フローに"特定の人の判断"を差し込む構成が、数十行のMarkdownで組めることが分かるはずだ。

全体の構成:スキル × MCP × ghoost

仕組みは3つの部品でできている。

1つ目はスキル。 Claudeに渡す業務手順書で、実体はMarkdownのテキストだ。「毎日18時台に翌日の予定を見て、外部商談があれば企業ごとに調査してブリーフを作り、SlackのDMに送る」という段取りを、判定基準や出力フォーマットまで含めて書いてある。

2つ目はMCP(Model Context Protocol)。 エージェントが外部ツールを呼ぶための共通規格で、この仕組みではカレンダー、CRM、チャット検索、そしてghoostが、すべてMCPのツールとしてエージェントから見えている。

3つ目がghoost。 私の判断パターンを再現するAIエージェントだ。ghoostはMCPサーバーとして公開されているので、エージェントから見れば相談できるツールの一つになる。ここが今回の核心で、分身が人間専用の対話相手ではなく、プログラムから呼べる部品になっている。

処理の流れはこうだ。

  1. カレンダーから翌稼働日の予定を取得
  2. タイトルや参加者ドメインから「外部商談」だけを判定(社内定例や移動は除外)
  3. 該当企業ごとに、公開情報の調査と業界ポジションの分析
  4. CRMの商談履歴・社内チャットの準備スレを突合
  5. ここまでの要点を事実ベースで整理し、MCP経由でghoostに渡して「あなたならどこに賭けるか」を聞く
  6. 返ってきた提言をそのまま引用としてブリーフに差し込む
  7. Slackへ、1商談=1スレッドで投稿(親=要点、スレッド=調査全文)

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前回書いたとおり、届いたブリーフを翌朝確認して直すだけでいい。ここから先は、この構成を実際に回して学んだことを書く。

運用して分かった設計のツボ5つ

失敗しやすい順に書く。

① 事実を渡して、視点を求める。 ghoostへの依頼は「この案件どう思う?」ではなく、調査で得た事実(業界ポジション・先方の状況・既存の接点)を整理して渡した上で、「この前提で、あなたならどこに賭けるか。刺し方の順番と、避けるべき罠を」と聞く。分身は調査ツールではなく判断の持ち主なので、事実集めはエージェント側の仕事、視点の提供が分身の仕事、と分担をはっきりさせる。

② 1往復で取り切る。 ghoostは対話の相手として作られているので、こちらの投げかけに逆に質問を返してくることがある。人間との壁打ちならそれが価値だが、自動フローの中では会話を続けない。目的は会話ではなく「本人ならどう考えるか」の取得なので、1往復で取り切り、返答に質問が付いていても答えずに先へ進む。

③ 要約せず、そのまま引用する。 返ってきた提言をエージェントに要約させると、言い回しに宿っている"本人らしさ"が消える。丸めた瞬間に、誰の判断でもない一般論に戻ってしまう。だから提言は改変せずに引用し、出所(ghoost生成であること)を明記する。

④ 「本人の発言ではない」と必ず書く。 ブリーフには「これは舘野本人ではなくghoostの出力。壁打ち材料であって確定方針ではない」と明記している。分身の提言は判断の"たたき台"として強力だが、確定方針として独り歩きさせない。この一行があるだけで、受け手(未来の自分を含む)の扱いが変わる。

⑤ 落ちても止めない。 ghoostへの接続が失敗したら、その工程だけ「取得できなかった」と一行記して、ブリーフ自体は届ける。分身への相談は品質を上げる工程であって、それが単一障害点になってフロー全体が止まるのは本末転倒だ。ついでに言うと、スケジューラも新設していない。既に毎晩動いていた「翌日予定の通知」に接ぎ木しただけで、新しい基盤はひとつも作っていない。

エージェントがエージェントに相談する、ということ

この構成を一般化すると、エージェントの処理パイプラインの中に、"特定の人の判断"を差し込むポイントを作るということになる。
勿論、自分でなくてもいいし、上役や別部署/別役職のスペシャリストでもいい。

汎用のLLMに「営業戦略を考えて」と頼めば、それらしい答えは返る。だが返ってくるのは平均的な最適解であって、「うちの状況で、あの人ならこう攻める」ではない。一方、調査・集計・整形のような手数はエージェントが得意で、分身に任せる必要がない。手数は汎用エージェント、判断の癖は本人のghoost——この分担は、MCPでghoostがツール化されているからこそ素直に書ける。

前回紹介した「会議に分身を呼ぶ」使い方が「人の場にAIを混ぜる」だとすれば、今回のは「AIの処理の中に人の判断を混ぜる」だ。矢印が逆向きになっている。そして後者は、スキルという数十行のMarkdownを書くだけで動く。

よくある疑問(FAQ)

Q. 自分の分身に相談して、意味があるのか?
A. ある。自分では「いつもの判断」すぎて言語化していない攻め筋が、事実を整理して分身に投げると明文化されて返ってくる。翌朝それを読むのは、前夜の自分の判断を他人の目で見直すのに近い。

Q. ghoostとは?
A. ベテランや"あの人"の、言語化されていない判断を、本人と一緒に引き出して組織に残す、本人の判断を再現するAIエージェントサービス。MCP経由で外部のエージェントやツールからも呼び出せる。

Q. 精度が微妙な提言が来たら?
A. 来ることもある。だからこそ「そのまま引用+ghoost出力と明記」で、確定方針ではなく壁打ち材料として扱う。ズレた提言は本人へのフィードバックとして分身の改善に回る。

まとめ

  • 構成はスキル(Markdownの手順書)× MCP × ghoostの3部品。ghoostはMCP経由で呼べるので、エージェントから見れば相談できるツールの一つになる。
  • 設計のツボは5つ:事実を渡して視点を求める/1往復で取り切る/要約せず引用する/本人の発言ではないと明記する/落ちても止めない。
  • 前回が「人の場にAIを混ぜる」なら、今回は「AIの処理の中に人の判断を混ぜる」。矢印の逆転が、この構成の本体だ。

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