塩野義製薬の事例から見るCCoEの立ち上げとDX推進 #devio_showcase

塩野義製薬株式会社(シオノギ)様が登壇されたセッション「AWS上のHPC環境で創薬サイクル高速化を実現! CCoEの取り組みとSumo Logicを使ったセキュリティ情報の可視化の事例紹介」の模様をレポートします。

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グローバル企業への対抗や労働者の減少などの理由から、デジタルを使ったビジネス改革であるDX(デジタルトランスフォーメーション)に関心を持つ企業は少なくありません。そのDXの肝となる技術の一つがクラウドです。そして社内の技術領域や部門の壁を越えて全社的なクラウド技術の推進を図る組織をCCoEといいます。DXの成功を目指すのであれば、CCoEの編成と円滑な活動の成功は見逃せないポイントとなります。

今回はクラスメソッドがCCoEの創設とログ管理・分析ツール「Sumo Logic」の導入をサポートした塩野義製薬株式会社様(以下、シオノギ)によるDevelopers.IO Showcaseのセッション「AWS上のHPC環境で創薬サイクル高速化を実現! CCoEの取り組みとSumo Logicを使ったセキュリティ情報の可視化の事例紹介」の模様をレポート。新型コロナウィルス感染症の影響で一度も対面での打ち合わせが行えない中のご支援でしたが、無事にスタートを切り舵取りを始めた同社の、CCoEの立ち上げの経緯から現在までの軌跡・そしてクラウド導入による成果をご紹介いたします。

なお、レポート内容の詳細、技術支援に関するご相談がございましたらクラスメソッドの担当者が承ります。下記のフォームにてご入力ください。

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製薬会社とクラウドコンピューティング

ご登壇いただきましたのは、経営戦略本部 経営企画部の髙市 伸宏氏。同本部のデジタルインテリジェンス部在籍時にCCoEの立ち上げ・主宰となり、今もCCoEメンバーとして全社のクラウド技術の浸透を進めています。

デジタルインテリジェンス部では、

・デジタル技術でシオノギの創薬を加速させる ・デジタル技術で新たなヘルスケアを作り出す

をミッションとした部門で、全社でのDXを推進させることが求められています。

シオノギは製薬会社の中でも、研究開発を行って国の承認を受けて発売する医薬品(新薬・先発医薬品)を開発する製薬企業です。ジェネリック医薬品は新薬の特許が切れた後に発売される、同じ有効成分・効能のある薬品で、その元となっている新薬を開発しています。

従って、シオノギでは新薬の開発のためにシミュレーションを行うなど、コンピューティングリソースを使う必要があります。そこで、全社的なクラウド導入を決意することに。

髙市氏は

・CCoEの立ち上げに関する話、クラウド推進の話 ・創薬研究でのHPC(High Performance Computing)活用に関する話 ・ログデータ監視・分析サービス”Sumo Logic”の活用に関する話

の3テーマで、変革の様子を語りました。

CCoEの立ち上げとクラウド推進

現在はCCoEが自走しているシオノギですが、もちろん、オンプレミスの開発環境時代に課題を抱え、全社の理解を頂くことで軌道に乗せるという苦労をしています。

オンプレミスでの課題

オンプレミスの研究開発環境の時代を振り返り、髙市氏は次のように振り返ります。

「購入したサーバーでしたのでスペックが限定されていました。計算がなかなか終わらないんです。そして、オンプレミスのクラスタ管理タスクは本来ユーザーであるはずの研究開発の人員が行っていました。本来行うべき研究開発に時間を割けなかったのです」

創薬研究は一つに固定できず、場面に応じて様々な計算を行わなければなりません。しかし、サーバー調達はスペック選定も難しくリードタイムも出てきます。そこでクラウドの活用に目を向けることになりました。

CCoEの創設と成長

クラウドは、最初は部門単独で使い始め、今は社内のR&Dに限定して開発環境として使えるまで浸透しています。

当初はデジタルインテリジェンス部内のメンバー5人でCCoEを立ち上げました。部署を横断した組織であるCCoEとはメンバー構成が異なりますが、将来はそうなりたいという想いからこの名称をあえて使用。

・ガイドライン作成などの「ガバナンス」 ・技術支援やトレーニングなどの「ヒト・組織」 ・共通インフラやナレッジ知識の「基盤」 ・脅威検出や対応、監視などの「セキュリティ」

の4項目を役割として定義しました。

創設時は、AWS関連資格は1人がSAA(ソリューションアーキテクト)を所持しているのみ。週二回、朝に1時間の部門内勉強回を開催し、8ヶ月でメンバーの大半がSAA以上の資格を取得するに至りました。

「教科書や問題集に加え、Black Belt(AWS Black Belt Online Seminar=アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社によるオンライセミナーシリーズ https://aws.amazon.com/jp/about-aws/events/webinars/ )を持ち回りで読みました。最も学習効果が得られるのは人に教えることだと考え、それぞれが人に教えたり、クイズを作ったりすることで楽しみながら学習できるようにしました」

と、結果を残した勉強会のコツを解説します。

ガバナンスと自由度のバランスを考える

社内でクラウドを使用する際に、部門の自主性をできるだけ尊重しながら、締める部分を締めるようにしています。そのため、クラウドの推進については慎重に基本方針を考えていきました。

「自分たちで開発サイクルを回してこそクラウドの価値を最大限に活かせます。そこで、外部ベンダーに丸投げをしないようにと考えました。セキュリティ設定のような専門性が必要な部分や基本的なテンプレートの構成を作るところは外部ベンダーと協働し、自社で開発サイクルを回すのに必要なところは自社で行い、クラウドの価値を最大限活かして高いレベルで開発できるようにしていきたいと考えました」

その考えを活かすためのキーワードは「縛るセキュリティから許すセキュリティ」でした。

安全は最優先ですが、全てが100%守られるわけではないという認識を元にセキュリティ基準を作成し、クラウドの活用はそれぞれの部門に任せることに。

部門のリテラシーと業務内容に応じた、ガバナンスと自由度のバランスを重視してCCoEを進めています。

クラスメソッドへ依頼

インフラの経験者が不在で何を検討してよいかわらかなかったシオノギでは、二つの企業からサポートを受けました。

一つ目はAWSです。

クラウド利用のガイドラインを作成するにあたり、AWS Professional Servicesの支援を受けました。

自社の課題に対してどのような環境を構築すれば良いか、ヒヤリングと意見交換を進めるのが目的でした。

二つ目はクラスメソッドでした。

AWS最大のカンファレンスイベント「Re:Invent」で、弊社スタッフが大勢参加していることと、弊社ブログ「Developers.IO」(https://dev.classmethod.jp/)で関連情報の収集をしていたことがきっかけでサポート企業の候補となりました。

「我々の『内製化したい』という気持ちを汲んでもらえ、対等なパートナーとして手伝ってもらえる・支援してもらえるという形が採れました。その成果もあり、スピーディーに展開できただけでなく、CCoEメンバーが大幅にレベルアップできました」

こうしてシオノギでは、CCoEの体制を整え、自走できる環境を構築していきました。

創薬研究でのHPC活用

創薬型の製薬会社であるシオノギの研究開発は高いコンピューティングリソースを使ったシミュレーションが欠かせません。

シオノギではゲノム分析(遺伝子情報の解析)やタンパク質立体構造解析に活用しています。

AWS Batchを活用したゲノム分析ではオンプレミスに比べて数倍速く計算を終えられました。クラウドの特徴でもある従量課金による無駄の排除と、クラウド内の使用されていないEC2キャパシティーを使えるAmazon EC2 スポットインスタンスを活用し、EC2のコストを50%節約できました。

また、AWS ParallelCluster(https://aws.amazon.com/jp/hpc/parallelcluster/)を使った分子動力学計算ではオンプレミス環境のGPUクラスタと比べて2倍以上高速に計算が終了しています。

Sumo Logicを使ってどのようなログデータを監視・分析しているのか

シオノギのDXを推進するにあたり、セキュリティを第一優先としていたCCoEが進めたのはログの監視分析でした。

CCoEを立ち上げ、クラウドベースの開発環境を整えても、それらの環境が今もこれからもセキュアであることを証明できないと、事業では使い続けられません。

その上で、

「ログ監視を一生懸命やっても、それは競争優位性や利益を産むものではありません。力を注ぐべき他の領域に人のリソースは向かうべきです」

という理由から、外部サービス導入を検討することになりました。

検討するにあたって第一候補となったのがSumo Logic(https://www.sumologic.jp/)です。

・AWS CloudTrail ・VPC Flow Logs ・Amazon S3 Server access log ・AWS Security Hub ・Amazon GuardDuty

を監視対象としていますが、Sumo Logic内にすべてのApp Catalogがありました。その恩恵もあり、ダッシュボードは8割の完成度から構築し始められました。

ダッシュボードではセキュリティだけでなく、クラウド環境のActive Userをカウントすることで、環境がどれだけ活用されているかもモニタリングしています。

「多くの人に使ってもらえることで民主化できているかどうかも確認していました。ログ監視はセキュリティで見ていくものですが、攻めの観点でも活用しています」

と活用しています。

なお、ログをSumo Logicに取り込む際にどのログをどのカテゴリに取り込むかなどの設計において、弊社がサポートしています。

「設計のおかげで分離やマージが綺麗に行えます。たたき台を作っていただき、設計を手厚く支援してもらえました」

社内調整は地道な交渉が必要

DXに向けてスタートダッシュを切ったシオノギでは、デジタルヘルスケアアプリの開発企業や中国の保険グループと協創を始めています。

「もっと多くの仲間がほしいです」

と締めくくり講演は終わりました。

講演後にはQ&Aの時間が設けられました。応答は以下の通りです。

--社内調整は大変だと思うが調整の工夫は?

特にありません。泥臭い作業です。やりたいことを明確に述べ、交渉し、地道に切り開いていくものです。

--通常業務を行いながらAWSの勉強をするモチベーションを維持する秘訣は?

私としては楽しく厳しくやりたいと考えていました。勉強会の際にクイズを出し合うことをしましたが、面白おかしく、を意識していました。「あいつを負かせてやろう」と考えることもまた、楽しく行う工夫に繋がったのかもしれません。

--Sumo Logicは一択でしたか?他のツールとの比較は?

複数ありましたが横並びにはなりませんでした。ログ監視システムを調べていたらDevelopers.IOがヒットし、その通りに試してみたらやりたいことにフィットしコストも妥当でした。

クラスメソッドにご相談ください

今回ご紹介した内容について、CCoE支援やAWSのトレーニング、技術サポートの詳細またはご質問などありましたらフォームにお問合せください。担当者から折り返しご連絡いたします。

※個人およびフリーランスの方、弊社が競合と判断した企業様からのお申し込みはお断りをさせていただく場合がございます。あらかじめご了承ください。