【セッションレポート】世界に普及可能なコンピュータやネットワーク技術の生産手段の確立 #CEDEC2026

【セッションレポート】世界に普及可能なコンピュータやネットワーク技術の生産手段の確立 #CEDEC2026

CEDEC2026 の基調講演のレポートです。SoftEther VPN やシン・テレワークシステムの開発で知られる登 大遊 氏が、日本がデジタル基盤技術の生産手段をどう確立すべきかについて論じました。その課題認識と解決の方向性を紹介します。
2026.07.24

はじめに

CEDEC2026 の基調講演のレポートです。SoftEther VPN やシン・テレワークシステムの開発で知られる登 大遊 氏が、日本がデジタル基盤技術の生産手段をどう確立すべきかについて論じました。ゲーム開発の技術ではなく、その土台となるソフトウェア技術を日本がどう生み出していくかという産業論の講演です。

セッションの概要は次の通りです。

  • タイトル: 世界に普及可能なコンピュータやネットワーク技術の生産手段の確立
  • 登壇者: 登 大遊 氏 (情報処理推進機構 (IPA) 産業サイバーセキュリティセンター シニアエキスパート。筑波大学 客員教授、NTT 東日本、ソフトイーサ株式会社 代表取締役を兼務)
  • 日時: 2026 年 7 月 24 日 09:30 から 10:50
  • 会場: 第 1 会場

なお講演は、一研究者として自己の責任で述べるものであり、所属組織の見解と一致するとは限らないとの前置きがありました。

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ソフトウェアが生む社会的価値

前半では、登 氏自身が手がけたソフトウェアの実績が紹介されました。2003 年に IPA の事業として開発を始めた SoftEther VPN は、オープンソースとして公開され、世界中の 1,000 万台を超えるサーバーに導入されています。利用者の 9 割以上が海外で、国別では中国や米国が上位を占め、日本の割合はごくわずかだといいます。

さらに、新型コロナウイルス対策として NTT 東日本と IPA が公開したシン・テレワークシステムは、延べ 64 万人が利用し、8 万人が日常的に使う規模に達しました。

登 氏はこれらの成果を、年間社会的便益額 (ASV) という指標で金額換算して示しました。自身が関わったソフトウェア群だけで年あたり 1,000 億円規模の価値を生んでいるとし、Ruby や TRON のような日本発、あるいは Python や Linux のような海外発のソフトウェアの価値とも比較していました。

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こうした成果を生んだ開発の進め方も紹介されました。自宅に置いたサーバーや、大学で廃棄される機材を拾い集めた開発環境から始め、既存の規則にとらわれずに手を動かせる場を自ら作ったことが語られました。

日本が直面するデジタル基盤の課題

後半では、日本の産業構造の課題が論じられました。登 氏は、デジタル産業を 3 つに分けて整理しました。OS やインターネット基盤、セキュリティ基盤といったデジタル基盤の製品・サービス、汎用アプリなどの応用製品・サービス、そして IT コンサルや受託開発といった活用支援サービスです。

このうち基盤と応用の領域は、働いた時間あたりの価値が大きく伸び、AI による代替も難しい一方、活用支援サービスの多くは AI に置き換わりうると述べました。世界市場を見ると、デジタル基盤の領域では米国が突出し、近年は中国が急速に伸びる一方、日本は低迷しているという分析です。

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背景として、米国でもデジタル基盤人材の不足が深刻になっていること、そして中国が 2016 年以降、国家戦略としてこの分野の人材育成に注力していることが、報道や公的資料とともに示されました。このままでは 2040 年ごろに中国が首位に立つ可能性が高く、日本も基盤人材の育成戦略を持つ必要がある、と登 氏は指摘しました。

若者が自由に試せる環境づくり

解決策として登 氏が挙げたのは、素質のある若者が自由に技術を試せる環境を用意することです。魅力的な場に優秀な人材が集まれば、世界に通用する技術が自然に生まれる、という考え方が示されました。

具体的には、各組織の中に自由に技術研究ができるガレージのような場を設け、それらを人材育成と技術形成のネットワークで結び、さらに既存の産業とビジネスでつなぐ構想が語られました。その土台として、自律的に使えるコンピュータ環境の自由度、小規模チームによる多様な試行への分散投資、共通的な資源を安価かつ即座に入手できること、そして外からの要求ではなく本人の内発的な動機が自然に生まれる仕組み、という 4 つの条件が挙げられました。

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最後に、地方の大学から人材や産業が生まれてきた米国の例を引き、日本でも地方にこうした文化を広げることの重要性が語られました。関東の各拠点を結んで人材育成と産業形成を進める、関東シリコンバレー化とも呼べる構想が、今回の実験で探求する狙いとして示されました。

感想

ゲーム開発の直接の技術ではないものの、その土台を誰がどう作るのかを考えさせられる講演でした。制約の多い環境で成果を出すよりも、自由に手を動かせる場を用意することが人材と技術を育てるという主張は、ゲーム開発の現場にも通じるところがあると感じました。


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