2024年4月1日に民間企業にも義務化される「合理的配慮」とアクセシビリティの関係を障害者差別解消法から解説します

全世界でアクセシビリティについて考えるGAADに、今後日本でアクセシビリティに取り組む大きな背景となる「民間企業に対する合理的配慮の義務化」について考えました。 受託開発であっても、B2B向けシステムであっても、その重要性は変わらないと考えます。
2023.05.18

今日はGAAD(Global Accessibility Awareness Day)です!

毎年、5月の第3木曜日はGAAD(Global Accessibility Awareness Day)と呼ばれる日で、全世界でアクセシビリティについて考える日になっています。

この日の目的は、デジタル(Web、ソフトウェア、モバイルなど)のアクセシビリティとさまざまな障害のあるユーザーについて、みんなで話したり、考えたり、学んだりする機会を持つことです。GAADの対象になるのは、デザイン、開発、ユーザビリティ、その他の関連するコミュニティなど、テクノロジーとその利用機会を創出したり、提供したり、影響を与えたりする皆さんです。

GAADのサイトでは、この日に合わせて開催されるイベントがリストアップされていますが、今年は222のイベントがあるようです。

この日に合わせて、さまざまな企業がアクセシビリティに関連する発表を行うことも多いです。今年は、主だったところで、Apple と Microsoft、Gogle、SONY、Slack から発表がありました。

このGAADに、今後日本でアクセシビリティに取り組む大きな背景となる「民間企業に対する合理的配慮の義務化」について、詳しくご説明します。

障害者差別解消法とは

「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」いわゆる「障害者差別解消法」は「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的」として制定・施行されました。

この法律は「障害を理由とする差別の解消を推進する」ために、以下の3つを行うこととしています。

1. 不当な差別的取扱いの禁止

企業や店舗などの事業者や国・都道府県・市町村などの行政機関等が、障害当事者に対して、正当な理由なく障害を理由として差別することを禁止しています。

2. 「合理的配慮」の提供

企業や店舗などの事業者や国・都道府県・市町村などの行政機関等は、障害当事者から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられた場合、負担が重すぎない範囲(=「過重な負担」のない範囲)で対応すること(「合理的配慮の提供」)としています。

この項目が、2024年4月1日から民間企業にも義務化されることになりました。

3. 環境の整備

企業や店舗などの事業者や国・都道府県・市町村などの行政機関等は、個別の場面において、個々の障害者に対する合理的配慮が的確に行えるよう、事前の改善措置として施設のバリアフリー化などに努めることを求めています。

合理的配慮の例

「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」にある具体例を見てます。

  • 聴覚・言語障害のある方から「病院の待合室で診察順を待っている時、呼び込まれても分からない」という申し出があったので、申出への対応(合理的配慮の提供)として、通常は、診察室から次の受診者の名前を呼んでいるが、待合室の座席まで呼びに行くようにした。
  • 視覚障害のある方から「弱視のため商品をタブレットで撮影・拡大して確認したいのだが、店内での撮影は禁止されている」という申し出があったので、申出への対応(合理的配慮の提供)として、視覚障害を補うための撮影は認めることとした。
  • 内部障害のある方から「光に対して感覚過敏があるので、レストランの座席に合理的配慮をしてほしい」という申し出があったので、申出への対応(合理的配慮の提供)として、日の当たらない座席を用意した。日の当たらない座席が用意できない場合はカーテンやブラインドを閉めることとした。

では、Webサイトやアプリケーションの分野では、どのような申し出がありそうでしょうか?

  • 飲食店の割引クーポンがWebサイトで提供されていた。利用しようとすると、アクセシビリティ上の問題で利用できないと視覚障害当事者から申し出があった。
  • 入店したレストランでは、タブレットのタッチパネルで注文することになっているが、視覚に障害があって操作することができない
  • 肢体不自由があり外出が困難なので、買い物のためオンラインショッピングを利用したいが、細かいマウス操作を求められて購入することができない

こうした個別の申し出に対して、果たしてどのような対応(=合理的配慮の提供)が可能でしょうか?

環境の整備について

「環境の整備」は、「合理的配慮」でご説明したような、個別の障害者からの申し出をあらかじめ見越して、合理的配慮が的確に行えるように、不特定多数の障害者を主な対象として行う事前の改善措置のことです。

例えば公共施設や交通機関であれば、あらかじめバリアフリーにしておく、飲食店等であればスタッフに対する研修やマニュアルの整備なども含まれます。

前述のWebサイトやアプリケーションの分野であれば、UIにおける情報の取得や操作などに対する情報アクセシビリティの向上が環境の整備の一例となります。

合理的配慮と環境の整備

「障害者の差別解消に向けた理解促進ポータルサイト」にある図を見てます。

合理的配慮と環境整備の説明図。画像下部に、四角い図形の中に「環境の整備。事業者、行政機関等による事前的改善措置」と書かれている。その「環境の整備」の四角い図形の右には、この「環境の整備」は「合理的配慮を的確に行うための環境の整備」と書かれている。その「環境の整備」の四角い図形を土台のようにして、4つの楕円形が描かれており、それぞれ「Aさんへの合理的配慮」、「Bさんへの合理的配慮」、「Cさんへの合理的配慮」、「Dさんへの合理的配慮」と書かれている。これらの合理的配慮は、その右に「個々の場面での合理的配慮。過重な負担のない範囲で必要かつ合理的は配慮」と書かれている。

同じくポータルサイトの説明によれば次のような役割です。

環境の整備
不特定多数向けに、設備や組織・人員等の確保など対応体制面の事前の改善措置を行うもの
合理的配慮
環境の整備を基礎として、個々の障害者に対して、その状況に応じて個別に実施される措置
→ 各場面における「環境の整備」の状況により、「合理的配慮」の提供の内容が異なることとなる。

障害者差別解消法の個別規定について

障害者差別解消法に規定される個別規定をまとめると、表のようになります。

不当な差別的取扱いの禁止 合理的配慮の提供 環境の整備
行政機関等 してはいけない(義務) しなければならない(義務) するように努力(努力義務)
事業者 してはいけない(義務) するように努力(努力義務) するように努力(努力義務)

この表の、事業者の合理的配慮の提供の部分で、現時点では「対応に努めること」とされていますが、2024年4月1日から事業者に対しても義務化されることが決まっています。

内閣府のパフレットの表紙画像。「障害者差別解消法が変わります!令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!内閣府 令和3 年に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。障害のある人もない人も、互いにその人らしさを認め合いながら共に生きる社会の実現に向け、事業者の皆さまもどのような取組ができるか、このリーフレットを通じて考えていきましょう!」と書かれている

なお、東京都障害者差別解消条例では、都内で事業を行う民間事業者における「合理的配慮の提供」は、2018年から義務になっています。

また、注意が必要な点として、民間事業者において近い将来義務化されることが決まっているのは「合理的配慮の提供」であって「環境の整備」ではありません。障害者差別解消法における「環境の整備」は、引き続き努力義務のままです。「法改正でWebサイトのアクセシビリティが義務化!」という文言が見受けられますが、これは正確ではない表現となります。

B2Bの受託開発において合理的配慮の提供義務化が与える影響

ここで、企業の業務システムとして利用されるアプリケーションを受託開発する立場として、合理的配慮の義務化がどのような影響を与えるか考えてみましょう。

前提として、障害者雇用促進法では、全ての事業主に、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。現状、民間企業の法定雇用率は2.3%であり、従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。

企業は、そこに雇用されている方にとっては「職場」となります。

さて、受託開発によって開発・納品されたアプリケーションが、ある企業(職場)に導入されました。 そのアプリケーションが、例えば勤怠管理や経費精算などの、その企業に勤務する方が、必ず利用しなければならない業務アプリケーションだとします。

その職場に障害当事者が雇用され、その方が導入されたアプリケーションを利用しようにも、アクセシビリティの問題で、合理的配慮の提供を受けなければ、雇用された障害当事者の方が利用できないとします。

他方で、東京都内で事業を行う民間企業において、合理的配慮は義務です。それ以外の地域においても、2024年4月1日以降は同様に義務となります。

ここでは、合理的配慮が義務である前提で考えてみましょう。例えば、受託開発されて企業に導入された勤怠管理システムが、雇用された障害当事者にとっては単独で利用できず、合理的配慮の申し出があったとします。合理的配慮は義務ですので、職場において、合理的配慮を提供しない選択肢はありません。

仮に、その方の上司が代理でシステムを操作すれば、出勤や退勤ボタンが押せるとします。1度や2度の利用であれば、それで乗り切れることもあるでしょうが、これが出勤日ごととなれば、代理で操作する方の負担も重くなります。

障害者差別解消法では、こうした場合に「過重な負担の判断」や「建設的対話」などのオプションを用意しています。

それらを考慮しても、ここで取れる選択肢としては

  • 導入されたばかりのシステムのリプレイス
  • 既存システムの改修
  • RPAなどの別システムの導入
  • その方の出勤簿を、紙などの、その方が対応可能な形式にする

などがあります。また、法解釈によっては「当該従業員の解雇」のような選択をする職場もあるかもしれません。

これらは全て、受託開発された勤怠管理システムがアクセシブルであれば表面化しない問題です。

アクセシビリティ向上を行わない理由として「B2Cシステムではない」「自社提供サービスではない」などを挙げる意見がありますが、B2Bの受託開発においても、アクセシビリティの重要性は全く変わりません。

まとめ

全世界でアクセシビリティについて考えるGAADに、今後日本でアクセシビリティに取り組む大きな背景となる「民間企業に対する合理的配慮の義務化」について考えました。

受託開発であっても、B2B向けシステムであっても、その重要性は変わらないと考えます。