
【CenterStage】NVIDIA × Microsoft × BMW × Hexagonが語る「ヒューマノイドロボットの量産」 #HM26
概要
こんにちは、クラスメソッド製造ビジネステクノロジー部の田中聖也です。
HANNOVER MESSE 2026のDay3 Center Stageで、Hexagon Robotics主催のパネルディスカッション「Bringing Humanoids to Production」を聞いてきました!
ヒューマノイドロボットが「サイエンスフィクションから現実へ」進んでいる空気感がガッツリ伝わってきて、特にBMWの量産事例の生々しさがめっちゃ印象に残りました!!
- セッションの基本情報と登壇者
- 過去18ヶ月で最もエキサイティングだった進展
- データの役割 — Microsoftの新基盤モデルとNVIDIAのシミュレーション戦略
- BMWの量産ユースケース — Spartanburgとライプツィヒ
- パイロットから量産へ — 信頼性・標準化・ボディの課題
- 安全性 — フルスタックで考えるべきもの
- 人間×ロボット — 現場の受け入れと文化差
- まとめ
セッションの基本情報と登壇者
セッションは「Bringing Humanoids to Production(ヒューマノイドを生産現場へ)」というタイトルで、Hexagon Robotics主催のパネルディスカッション形式で行われました。
登壇者は↓の4名です。
- Arnaud Robert(President of Robotics, Hexagon AB) — モデレーター
- Dr. Michael Nikolaides(SVP Production Network, BMW Group / グローバル物流・生産システム責任者)
- Rev Lebaredian(VP, NVIDIA / Omniverse・シミュレーション技術グループ統括)
- Ulrich Homann(Microsoft Cloud AIエンジニアリングチーム)
ヒューマノイドロボットを「作る側(Hexagon)」「頭脳を担う側(NVIDIA・Microsoft)」「現場に入れる側(BMW)」が一堂に会するという、めっちゃ豪華な顔ぶれでした。
Hexagonは2025年6月に「Aeon」というヒューマノイドを発表していて、BMWとはすでにパイロット導入のパートナーシップを組んでいるとのこと。Hall 17のHexagonブースで実機展示もされていました。
過去18ヶ月で最もエキサイティングだった進展
冒頭でモデレーターから「過去18ヶ月で最もエキサイティングだった進展は?」という問いがありました。各社の答えが3者3様で面白かったです。
NVIDIA Rev: エージェント型AIへのシフト
NVIDIAのRev氏は**エージェント型AI(自律的にタスクを実行するAI)**へのシフトを挙げていました。
完全自律で長時間動作するエージェントがソフトウェアを構築できるようになったことが、フィジカルAI(物理世界を理解・操作するAI)にも大きく影響するとのことです。具体的には、フィジカルAIに必須なデジタルツイン(現実世界の3D仮想再現)の構築を自動化できるようになる、というのがポイントでした。
これまでデジタルツインの構築はシミュレーション能力における最大のボトルネックだったので、これが自動化されるとフィジカルAIの開発スピードが一気に上がる、という主張です。
Microsoft Uli: GPUクラウドの高密度化
MicrosoftのUli氏はGPUクラウドの高密度化を挙げていました。
アトランタのFair Waterデータセンターでは数十万GPUが相互通信しながら動作していて、これがAIスタックの原動力になっているそうです。
そしてこの能力が、↓のように降りていく流れになるという話でした。
- クラウド(大規模システム) → 工場・プラント単位 → 個別の資産(ロボット)
- それぞれが継続的に学習・改善し続けるエコシステムを構築
「これは前例のないペースだ」と強調していて、「我々がこの話をしている1時間の間にも、世界を変えるイノベーションが起きているかもしれない」と語っていたのが印象的でした。
BMW Nikolaides: Star Warsが現実に
BMWのNikolaides氏は、自分が子供の頃に観たStar Warsの世界が現実になりつつあることを挙げていました。
そして具体的な数字としてこんな発言がありました↓
「Spartanburg(米国サウスカロライナ)工場で、ヒューマノイドの支援によって年内3万台の押出成形品を生産する見込みです」
すでにパイロットを超えた規模で実装が進んでいることに「ソフトウェアの世界から物理世界へのブレイクスルーが起きている」と評していました。
データの役割 — Microsoftの新基盤モデルとNVIDIAのシミュレーション戦略
Microsoft Core Alpha / RFA
Microsoftは評価研究用のロボティクス基盤モデルCore Alpha(視覚・3D理解・アクチュエーター制御を1つのモデルに統合したもの)を発表したとのこと。
これがあれば、Hexagonの**ポイントクラウド(3D空間を点の集合で表現したデータ)**のような3Dデータを入力するだけで、ロボットがプログラムなしに空間を動的に理解できるようになる、という説明でした。
「3D空間や3Dデータを理解できる」という点が従来の言語モデルとの大きな違いで、ロボティクスには新しいモダリティ(データの種類)に対応した基盤モデルが必要だという主張です。
NVIDIA: シミュレーションは「再生可能データの無限ソース」
Rev氏が出した比喩がめっちゃ分かりやすかったので紹介します。
「ジェット機の操縦を教えるとき、いきなり実機に乗せたりはしない。シミュレーターで安全に練習させて、現実には起こってほしくない極端な状況も経験させる。ロボットも同じだ」
ここで問題になるのが、物理的に正確な3Dシミュレーションを構築できる人が世界中で非常に少ないという点でした。Rev氏はここを「アートフォーム(職人芸)」と表現していて、これまでずっとボトルネックだったそうです。
ところが、ここでもエージェント型AIが活きてくる。コーディングエージェントが3D環境構築を自動化することで、物理的に正確な仮想世界を大量に生成できるようになる、と。
「シミュレーション世界を作れれば、物理世界に関する無限の再生可能データソースを手に入れたことになる」
これがフィジカルAIの増幅器になる、という解説が個人的には好きでしたし納得感がありました。
BMW: 「AIをやる前にデータの宿題をやれ」
そして個人的に一番響いたのがBMW Nikolaides氏のこの発言です。
「物理AIにすら行く必要はない。AIをプロセスやデータに適用したいなら、基礎的な宿題をやらなきゃいけない。データをクリーンアップして、利用可能にして、一貫性を持たせる。さもなければAIのポテンシャルは引き出せない」
BMWはこれまで↓のような状態だったそうです。
- 設備が単一のオンプレミスコンピューターと通信
- データはその周辺にしか存在しない(データサイロ)
- プロセス全体をエンドツーエンドで分析するのは非常に困難
そこで全データをデータウェアハウスに集約して標準化したとのこと。「何十年もかけて成長した業界にとっては、かなり痛みを伴うプロセスだった」と率直に語っていたのが妙にリアルでした。
ヒューマノイドロボットの話なのにデータ基盤の話になる、というのがフィジカルAIの本質を象徴している気がしました。
BMWの量産ユースケース — Spartanburgとライプツィヒ
Nikolaides氏がパイロット中のユースケースを具体的に共有してくれました。
1: 米国Body in White(ボディ・イン・ホワイト=塗装前車体)生産
Spartanburg工場で、ヒューマノイドがシートメタル(板金)を機械にセットする工程を担当しているそうです。
ポイントは「箱の向きが変わっても理解できる」こと↓
- 箱が回転していても「向きが変わった」と認識する
- 自分で反対側に回り込んでシートメタルを取りに行く
従来の産業ロボットなら、箱の位置が少しでもズレたら止まってしまうところを、状況を理解して適応的に動けるのがヒューマノイドの強みだ、と。
2: ライプツィヒ工場のバッテリー組立
Hexagonとのパイロットで、冷却プレートを治具に正確にセットする工程を担当しているそうです。
3: 物流系のユースケース
- 材料の仕分け(ソーティング)
- シーケンシング(順序付け)
ここから複雑な組立工程に拡張していく構想とのことでした。
そして強調していたのが「ロボットモデルは忘れない」という点。どのユースケースからも学習が積み上がっていくので指数関数的に賢くなっていく、という説明でした。
パイロットから量産へ — 信頼性・標準化・ボディの課題
「パイロット → 量産」で何が課題か、についても各社が答えていました。
BMW: 信頼性と経済性
- 信頼性: 1シフト=8時間を人間と同じレベルで稼働できるか
- 経済性: コストが見合うか(適用範囲が広がれば下がる傾向あり、と)
「ライトハウス事例(模範的な単発事例)はたくさん見るけど、自動車工場のような複雑な環境で本格的な生産に耐えられるかどうかが本番」というのは現場の人らしい発言でした。
Microsoft: オープン標準とソフトウェア管理
Uli氏が挙げたのは↓の2点でした。
- オープン標準: アイデンティティ(誰がアクセスしているかの識別)・可観測性(挙動の監視)・ガバナンス(統制)を業界横断で揃える必要がある
- ソフトウェア管理の知見適用: CI/CD(継続的インテグレーション・デリバリ)、GitOps(Gitを介した運用)、フリート管理など、既存のソフトウェア管理ノウハウをロボットにも持ち込む
「結局のところ、ロボットは少しのハードウェアがついたソフトウェアに過ぎない。ソフトウェアの扱い方は知っている」
これが地味にめっちゃ重要なポイントだと感じました!!
NVIDIA: 「脳はもう問題じゃない、ボディが問題だ」
Rev氏のこの発言が一番刺さりました↓
「AIと脳の開発には数兆ドルが投資されていて、これは間違いなく実現する。最大の課題は、ロボティクス産業がボディを大量生産できるかどうかだ」
これまで産業用ロボットがニッチに留まっていた理由は「賢くプログラムするコストが高すぎて、低ミックス・高ボリュームの製品(BMWのような高付加価値品)でしか採算が合わなかった」からだ、と。でも今は脳の側が解決しつつあるので、ボディ側がボトルネックになっている。
そして解決策として出てきたのが「ロボットでロボットを作る」というアイデアでした。鶏と卵問題ではあるけれど、今作り始めているロボットを使って次世代のロボットをより効率的・高速・安価に作る、と。
「AIがAIを作る」のロボティクス版、ということになります。
安全性 — フルスタックで考えるべきもの
安全性についても各社が答えていました。
NVIDIA: 自動運転で培ったHalos
NVIDIAは自動運転で10年積み上げてきた**Halos(自動運転向け安全スタック・イニシアチブ)**をロボティクスに展開しているそうです。
ポイントは「フルスタック」で考えること↓
- チップレベル
- システムレベル(冗長性・多様性)
- アプリケーション層・ソフトウェアスタック
「安全性をスタックの1つのレイヤーだけに入れることはできない」というのは、ロボティクスに限らずあらゆる安全クリティカルなシステムに通じる考え方ですね。
そして、Halosはオープンで、業界標準化を推進しているとのこと。欧州で最も安全な自動運転スタックとして賞も受賞したそうです。
Microsoft: ライフサイクル安全性
Microsoftが付け加えていたのがランタイム安全性以外の側面でした。
- 設計時の安全性: シミュレーションが活きてくる
- ランタイム安全性: 稼働中の挙動
- ライフサイクル安全性: ソフトウェア更新・寿命管理
特に重要なのが「稼働中のロボットはアップデートできない」という点。安全な状態で人がいない時にしか更新できないので、ライフサイクル全体での安全管理が必要、と。
「3D空間で動くロボットにおいては『自分の想像ではなく現実をそのまま正確に認識する』ためのビジュアライゼーション標準もまだ存在しない」というのも、地味だけど重要な指摘でした。
BMW: ヒューマノイドは産業ロボットより安全
Nikolaides氏の指摘は逆説的でした↓
「出てきているヒューマノイドは従来の産業用ロボットほど重くも強くもない。物理的安全性の観点では状況はむしろ簡単になっている」
巨大な産業ロボットを安全柵で囲っていた時代と比べると、人間サイズのヒューマノイドの方が物理的脅威は小さい、というのは現場感覚に照らすと納得感がありました。
人間×ロボット — 現場の受け入れと文化差
最後のテーマは「人間×ロボット」の関係性についてでした。
BMW現場: 「みんな一緒に働きたがる」
Nikolaides氏のSpartanburgでの経験談がリアルでした。
「最初は、スタッフがどう反応するか心配していた。でも逆だった。みんなこのロボットと一緒に働きたがるんだ。ライプツィヒでも応募が殺到している」
製造現場というと「ロボット導入=雇用への脅威」みたいな構図で語られることが多いですが、実際の現場では好奇心と協働の方が勝っているという話は新鮮でした。スタッフがロボットに「今日の調子はどう?」と話しかけている、という未来予感も含めて、こんな日が日本の工場でも実現すればいいなと思いました。
個人的に面白かったロボットに対する文化の差
Rev氏が興味深い視点を出していました↓
- 東アジア(日本・韓国)はSF作品でロボットが人類の味方として描かれてきたので、受容が早いだろう
- 米国・ドイツはもう少し悲観的かもしれない
- ベイエリアのWaymoのように、実際に触れれば適応は早い
日本のアニメには多くのロボットが出てきますが、人間の敵ではなく距離感の近い仲間という描かれかたをしているのが、産業現場でのロボット受容を後押しする可能性があるかもしれない、というのは個人的にめっちゃ面白い視点でした。
Microsoft: 社会的対話の必要性
Uli氏が最後にまとめた論点はこんな感じでした。
- 西洋圏は人口減少でロボットが必須
- でも「人間にしかできない仕事 / ロボットにしかできない仕事 / 両者の協働領域」をどう線引きするかの社会的対話が不足している
- 安全性・危険な環境はロボット投入の「ノーブレイナー(議論の余地なし)」
- それ以外の領域で人間とロボットが競合する場面については、社会・産業レベルでもっと対話が必要
ここはヒューマノイドロボットの技術的な議論を超えて、産業全体の構造的な問いとして残されたテーマでした。
まとめ
「Bringing Humanoids to Production」というタイトル通り、ヒューマノイドロボットがパイロットから量産に入りつつある現在地を、4社の異なる視点で立体的に聞ける濃いセッションでした!
特に印象に残ったのは、**「データの宿題をやらないとAIは始まらない」というBMWの発言と、「脳はもう問題じゃない、ボディが問題だ」**というNVIDIAの発言で、製造業のAI活用の本質的な順序を改めて考えさせられました。










