
設計データを1つに集約すると製造はこう変わる。bechtleが見せた3DEXPERIENCEのデジタル連続性 #HM26
ハノーバーメッセ2026で、bechtle(Bechtle AG)のブースツアーに参加してきました。bechtleはドイツ最大級のITシステムハウスで、ブースもAIoTからソフトウェア定義車両まで幅広い展示が並んでいたのですが、今回じっくり案内してもらったのはそのPLM部門の展示です。テーマは、設計・シミュレーション・製造を1つのプラットフォームでつなぐ「デジタル連続性」でした。

ブースの中心にあったのはダッソー・システムズ(Dassault Systèmes)の3DEXPERIENCEプラットフォームです。CAD設計、CNC加工、そしてシミュレーションといった一見バラバラに見える工程を、全社共通の「単一の真実の源(single source of truth)」につないでいくと何が起きるのか。本記事では、まずbechtleの位置づけを整理したうえで、ツアーで見てきた内容を順番に紹介していきます。

ブース案内していただいた、ナイスガイなお兄さん。
bechtleとは
まず、案内してくれた会社の位置づけを整理しておきます。基本的な公開情報は以下のとおりです。
- 公式サイト: https://www.bechtle.com/
- 設立: 1983年
- 従業員数: 約16,000名(112の国籍)
- 事業展開: 14のヨーロッパ諸国、120以上の拠点
- 上場: フランクフルト証券取引所(MDAX/TecDAX)
- 事業内容: ハードウェアからソフトウェア、クラウド、ITサービスまでを手がけるITシステムハウス兼リセラー
bechtleと聞くとIT機器の販売やSIのイメージが強いのですが、実はダッソー・システムズのSOLIDWORKSポートフォリオを長年扱ってきた、欧州有数のPLMパートナーでもあります。グループ内にCAD/CAM/PLM専門のリセラーを複数抱え、SOLIDWORKSや3DEXPERIENCEを軸にした設計・製造領域のソリューションを提供しています。
ブースの構成 — AIoTやSDVから、PLMまで

ブースは、ITシステムハウスらしく守備範囲の広い展示でした。上の写真のように複数のテーマが一画に並んでおり、たとえば、OT(制御)環境におけるAIoTの価値を訴求するデモや、

ソフトウェア定義車両(SDV、Software Defined Vehicle)をテーマにした展示も並んでいました。

そのなかで、私が今回詳しく案内してもらったのがPLM(製品ライフサイクル管理)のエンジニアリングエリアです。このエリアは、向かって右側がCAD設計(コンストラクション)、左側がCNC加工(オートメーション)、そして中央の青いゾーンがシミュレーションとバリデーションという構成になっていました。
ポイントは、これらを別々のツールとしてではなく、3DEXPERIENCEプラットフォームという1つの土台の上に載せていることです。設計も加工も検証も、同じデータを参照しながら進めていく。ここから先のセクションは、すべてこの「1つの土台」という発想につながっていきます。
単一の真実の源 — 3DEXPERIENCEを全社共通データベースに

担当の方が最初に強調していたのが、3DEXPERIENCEを全社共通のデータベース(コモンスペース)として使う、という考え方です。
通常、設計データはあちこちにコピーが散らばりがちです。誰かのPCにある古いファイル、メールに添付されたまま更新されないモデル——こうしたコピーが増えるほど、「どれが正しいのか」がわからなくなっていきます。3DEXPERIENCEでは、ある要素(部品やモデル)はデータベース上に単一のインスタンスとしてのみ存在し、コピーが作られません。全員が同じ1つの要素を見て作業するため、「必ず正しいものに対して作業している」という状態が担保されます。これがいわゆる 単一の真実の源(single source of truth) です。
もちろん、全員が何でも触れるわけではなく、社員ごとにアクセス権限を細かく管理できます。共有しつつも、安全に開発を進められる、というのが狙いでした。
トポロジー最適化×3Dプリント — 27部品を1部品に
シミュレーションエリアで具体例として見せてもらったのが、 トポロジー最適化(Topology Optimization) です。
トポロジー最適化とは、ざっくり言うと「その部品に求められる物理要件を満たしつつ、形状を最適化する」手法です。展示されていたのは、通常であれば27個の部品で構成される組立品を、たった1つの3Dプリント部品に集約した例でした。要件を満たすのに必要な最小限の材料だけを残す——いわば材料の最適化です。
これが効いてくるのは、製造の手間とコストです。27個の樹脂部品をそれぞれ成形しようとすれば、部品ごとに金型の設計と製作が必要になります。しかし少量であれば、3Dプリントで1つの部品として出力してしまえば、27個ぶんの金型がまるごと不要になります。設計の工夫が、そのまま製造工程の単純化につながっている好例でした。
シミュレーションを早く回す「レフトシフト」
担当の方が繰り返し使っていたのが「レフトシフト(left shifting)」という言葉です。開発プロセスを左から右への流れだと捉えたときに、シミュレーションをできるだけ左(=早い段階)で行う、という考え方を指します。
早い段階でシミュレーションをしておけば、最終段階になって「要件を満たさない試作品」が大量に出てくる事態を避けられます。試作の反復回数が減り、結果として開発コストを下げられる、というわけです。ただし、シミュレーション用のライセンスは決して安くないため、bechtleでは顧客のニーズを分析したうえで「そもそもシミュレーションをやる価値があるのか、どこにやれば効くのか」を見極める、という話も印象的でした。ツールを売るだけでなく、費用対効果まで踏み込んで提案する姿勢が、リセラーらしいところだと感じました。
一方で、試作が完全になくなるわけではない、という説明も率直でした。理由は2つあります。1つは、顧客が「手に取れる現物」を求めるケースです。動くものを見せないと信じてもらえない、という場面では、見せるための試作が1つは必要になります。
もう1つは、そもそも試作の実測が難しい事象があることです。たとえば配管の中を流れる流体は、測定器をパイプ内に差し込むと、その測定行為自体が流れに影響を与えてしまいます。電磁干渉(EMI、Electromagnetic Interference)の評価も、専用のテストラボが必要なうえ、そうしたラボは予約で埋まっていることが多い。こうした「測りにくい・測ると変わってしまう」領域こそ、シミュレーションが力を発揮するところだ、という整理でした。
ちなみにシミュレーションを回すために必要なのは、3Dモデル、何を検証したいかという要件、そして材料の挙動の3点です。材料は樹脂と金属で振る舞いが違いますし、力のかかり方や温度にも依存します。多くの材料は温度が高くなると強度が落ちるため、力と温度を組み合わせた条件まで考慮する必要がある、という話でした。
設計から生産ラインまでつながる — デジタル連続性の威力
そして、今回いちばん面白かったのがここです。3DEXPERIENCEがカバーするのはシミュレーションだけではありません。プロセスをさらに左に遡ればプロジェクト管理や要件管理があり、その先に設計があり、シミュレーションがあり、さらに右には生産ラインやロボットまで含まれます。ロボットの特性(動作範囲など)をプラットフォームに取り込めば、生産そのものをシミュレートできるのです。
担当の方が挙げてくれた例がわかりやすいものでした。ある製品の開発が終わったあと、別の顧客向けに少しだけ仕様を変えた派生版を作るとします。このとき、金属部品の溶接点を1つ動かしたとしましょう。生産ラインの情報まで同じプラットフォームに入っていれば、システムは 「旧製品のラインにいるロボットは、その新しい溶接点に届かない可能性がある」 ことを、開発のごく早い段階で警告してくれます。ロボットの作業エリアが、その点をカバーしていないからです。
これは「単一の真実の源」の大きな価値だと感じました。従来、生産部門は開発部門から切り離されていて、設計変更の影響が生産ラインに出てくるのは、かなり後の工程になってからです。そこで初めて「ラインが対応できない」と発覚すれば、手戻りは大きくなります。各部門がバラバラに動くのではなく、1つのプラットフォームを共有することで、部門の壁を越えた デジタル連続性(digital continuity) が生まれる——これが繰り返し語られていたメッセージでした。
こうした考え方は、すでに大手の製造業に採用が広がっているそうで、Volkswagen、Airbus、BMWといった企業名が挙げられていました。設計と製造の分断という、製造業に長く横たわってきた課題に対する一つの解として、説得力のある展示でした。
まとめ
bechtleのブースツアーは、ITシステムハウスという立場から、ダッソー・システムズの3DEXPERIENCEを軸に「設計→シミュレーション→製造(生産ライン)」を1つのプラットフォームでつなぐ姿を見せてくれるものでした。
通底していたのは、データのコピーを作らず単一の真実の源に集約し、その1つのデータを設計から生産まで一貫して使い回す、という思想です。トポロジー最適化で27部品を1部品にまとめる材料の最適化も、レフトシフトで試作を減らすシミュレーションも、最終的には「溶接点1つの変更が生産ラインのロボットに届くかどうかまで早期に見通せる」というデジタル連続性に行き着きます。
製造業のDXというと個別のツール導入に目が向きがちですが、設計と製造を分断したままでは、こうした早期の気づきは得られません。データを1つにつなぐことの価値を、具体的なユースケースで腹落ちさせてくれる展示でした。丁寧に案内してくださった担当の方に感謝しつつ、来年はどんな展示が見られるのか楽しみにしたいと思います。
それでは今日はこのへんで。濱田孝治(ハマコー)でした。
参考資料
- bechtle(Bechtle AG): https://www.bechtle.com/
- Bechtle PLM Deutschland(3DEXPERIENCEプラットフォーム): https://www.bechtle-plm.de/software/3dexperience/plattform/
- ダッソー・システムズ 3DEXPERIENCE platform: https://www.3ds.com/3dexperience









